漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「漢方的スローライフ」

2008年08月25日 23時10分25秒 | 漢方
幸井俊高著、2005年、筑摩書房発行.

著者は日本の薬学部を卒業後中国へ留学し、日本人で18人目の「中医師(中国政府から正式に認定された医師)」となった方です.

「この病気にはこの漢方」というハウツー本ではなく、ふだんの生活にも取り入れられる漢方医学の考え方をわかりやすく説明した読みやすい本です.
その内容は「うん、うん」と頷けることばかり.
印象に残る文言を挙げてみます.

「西洋でも中国でも2000年前には薬草(生薬)を使い始めた.その後、西洋では生薬の有効成分を抽出・分析しそれを単体で治療に用いる方向で発達した.一方中国では生薬を組み合わせて薬効を得る方向へ発達した.」
・・・その通り! 言い得て妙です.これは文化の違いとしか言いようがありません.

「全体を捉える漢方の視点、部分を見据える西洋医学の視点」
「病人を治す漢方、病気を治す西洋医学」
・・・感染症や救急医学の分野では大きな進歩を遂げた西洋医学、しかし「こころ」と「からだ」を切り離してしまったため現代の心身症を中心とする病態には十分な成果が上げられない.「心身一如」として心と体は連動していると捉え続けた漢方医学の方が現代の難病には馴染むような気がします.
 
 余談ですが、西洋医学でも漢方医学では腹部の診察法が異なります.
 西洋医学では膝を立て、お腹の緊張を解いて内臓を触知してその位置や大きさを評価します.
 一方漢方医学では膝を伸ばした状態でお腹の筋肉の緊張の程度を細かく評価し、冷えを指先・手のひらで感じ取ります.
 このお腹の緊張の程度がその人の体質・その時の体調で微妙に異なって来るのです.
 漢方の診察の方が「体の声を聞く」という感じがありますね.
 実際、私自身漢方医学を知ってから腹部の診察が丁寧になったことを自覚しています.

 最初のうちは漢方セミナーや講演で聴いても「ホンマかいな?」と疑っていた私ですが、慣れてくると体調のみならずその人の受けているストレスの強ささえもわかるような気がします.
 「朝になるとお腹を痛がり幼稚園へ行けない」と相談に来た男の子.
 おなかを触るとピンと腹直筋が緊張し硬くなっています.
 「ストレスに身をこわばらせて毎日を過ごしているんだなあ」と感じて涙が出そうになりました.

 食養生の項目では、「粗食のすすめ」の幕内さんとほとんど同じ内容が記されていることに驚きました.
彼の提唱する食事は「伝統食へ戻れ」ということですから、共通するのでしょう.
「からだは食べ物でできている」
「スナック菓子、清涼飲料水は病気を作り、日本人には牛乳は合わない」
「食材はおいしい部分だけ食べるのではなく、そのすべてを丸ごといただくのがよい」
「庭に玄米と白米を蒔くとスズメはまず玄米からついばむという.玄米はそのまま土にまいて水をやると芽が出てくる.白米は腐るのみ.」
・・・日々の食生活で心がけたいものです.

 日々子どもの風邪の診療をしている私ですが、将来の目標は「未病を治す」予防医学です.
 最終的には食養生、究極は薬膳へ進みそうな予感.


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