・・・心房細動は、日常診療で遭遇する不整脈の中でも頻度の高い病態で、国内の患者数は約100万人と推定されています。心房細動といえば、「脳梗塞予防のために抗凝固療法を開始して、あとは脈が速くならなければそれでいいよね」と思われている方も少なくないかもしれません。しかし、本当にそれで十分なのでしょうか。本稿では、心房細動マネジメントの基本である「AF-CARE pathway」についてご紹介します。

心房細動管理の基本理念「AF-CARE pathway」

 AF-CARE pathwayは2024年に改訂された欧州心臓病学会(ESC)の心房細動ガイドラインで初めて言及された疾患管理の基本理念です 1)。以前のガイドラインでは「ABC pathway」とされていましたが、違いを確認してみましょう。

 ABC pathwayのABCはそれぞれ「A:avoid stroke(脳梗塞の予防)」「B:better symptom control(症状の改善)」「C:cardiovascular risk factors and comorbid conditions management(心血管リスク因子と併存疾患の管理)」を意味します。一方、AF-CARE pathwayのCAREは「C:comorbidity and risk factor management(併存疾患とリスク因子の管理)」「A:avoid stroke and thromboembolism(脳梗塞と血栓塞栓症の予防)」「R:reduce symptoms by rate and rhythm control(レート・リズムコントロールによる症状の改善)」「E:evaluation and dynamic reassessment(効果判定と定期的な再評価)」を指します。

 両者の最も大きな差は、AF-CARE pathway では「評価」に関する項目が追加されている点です。つい心房細動そのものへの介入ばかりに注目しがちですが、増悪因子となり得る併存疾患にも目を向けるだけでなく、さらに「治療介入がどんな効果をもたらしたか」「併存疾患の管理がどのように変化したか」などを評価しつづける重要性が強調されています。

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心房細動の治療では、より包括的な管理、評価が求められるようになった。

「C」「A」「R」「E」を押さえた多角的な介入が重要!

 それでは、CAREの各要素について確認していきましょう。

◆C:併存疾患とリスク因子の管理

 心房細動の要因になり得る併存疾患(高血圧、糖尿病、心不全、睡眠時無呼吸症候群)や生活習慣(肥満、アルコール多飲、低身体活動)などの修正可能な因子への介入は、心房細動の発症や再発抑制に効果的であることが分かっています2)。これらの併存疾患やリスク因子への介入は、心房細動のタイプ(初発、発作性、持続性、永続性)にかかわらず推奨されます。それぞれの管理目標を表1に示します 1)

表1 併存疾患とリスク因子の管理目標(文献1を基に筆者作成)

◆A:脳梗塞と血栓塞栓症の予防

 脳梗塞予防は、「血栓塞栓症リスクの評価」→「抗凝固薬選択」→「出血リスク評価」→「出血予防」の順に検討します。血栓塞栓症リスクの評価について、2024年のESCガイドラインでは、CHA2DS2-VAScスコアから女性(Sc)を除いたCHA2DS2-VAスコア(心不全1点、高血圧1点、75歳以上2点、糖尿病1点、脳梗塞/一過性脳虚血発作[TIA]/血栓塞栓症の既往2点、血管疾患1点、65~74歳1点)の使用が推奨されています。

 また、各地域で検証されたリスクスコアを用いることも認められており、日本のガイドラインではCHADS2スコア(心不全1点、高血圧1点、75歳以上1点、糖尿病1点、脳梗塞/TIAの既往2点)1点以上の場合に抗凝固療法の開始を推奨しています3) 。CHADS2スコア0点のケースは「持続性・永続性心房細動」「低体重(50kg以下)」「腎機能障害」「左房拡大」「心筋症」といった、我が国で独自に見いだされたリスク因子の有無に基づいて、抗凝固療法を考慮します。

 抗凝固薬の選択に関して、直接経口抗凝固薬(DOAC)が使用可能であればDOACを選択することが、日本、ESC、いずれのガイドラインでもクラスⅠで推奨されています。一方、僧帽弁狭窄症、機械弁を有する患者や、DOACが禁忌となるクレアチニンクリアランス15mL/分未満の患者ではワルファリン(ワーファリン他)を選択します。

 出血リスクはHAS-BLEDスコア(高血圧[収縮期血圧>160mmHg]1点、腎機能/肝機能障害各1点、脳梗塞1点、出血1点、不安定なINR 1点、65歳超1点、薬剤[抗血小板薬、抗炎症薬]/アルコール各1点)を用いて評価します。HAS-BLEDスコアとCHADS2スコアは共通している因子も多く、「血栓塞栓症高リスク=出血高リスク」となりやすい傾向があります。とはいえ、「出血高リスクだから抗凝固療法を開始しない」と安易に判断するのではなく、介入可能な出血リスクに漏れなく対応することが重要です。HAS-BLEDスコアのうち、介入しやすいリスク因子としては、「収縮期血圧>160mmHg」「不安定なINR」「抗血小板薬、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の併用」「アルコール多飲」が挙げられます。

◆R:レート・リズムコントロールによる症状の改善

 心房細動患者では、一般的に心拍数が110回/分を超えないようにレートコントロールを行います。以前は、レートコントロールとリズムコントロールのどちらを行っても、患者の生命予後はあまり変わらないと考えられていた時期もありました・・・。しかし、発症1年以内の心房細動を対象にしたEAST-AFNET 4試験で、リズムコントロールの方が、レートコントロールと比べて複合イベントを抑制することが示されて以降、より積極的にリズムコントロールを実施する流れに変化しました4)

 リズムコントロールに関しては、抗不整脈薬とカテーテルアブレーションのいずれを選択すべきか、悩むことも少なくないでしょう。カテーテルアブレーションの方が抗不整脈薬よりも洞調律維持効果には優れているものの、「手術に抵抗感がある」「手術に踏み切るほど日常生活で困っていない」「費用面が心配」など、患者の捉え方は様々です。私は、患者の意向を踏まえて検討しています。なお、カテーテルアブレーションの有効性や安全性については「心房細動のモヤモヤに答えます」その4(4月3日公開)をご参照ください。

◆E:効果判定と定期的な再評価

 心房細動患者のリスクや状況は、治療介入前後で経時的に変化します。例えば、狭心症に対して経皮的冠動脈形成術(PCI)を行った患者で、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった併存疾患や喫煙歴があれば、併存疾患の管理状況や禁煙を継続できているかを確認すると思います。同様に、心房細動患者でも定期的に再評価し、状態の変化に応じて治療を最適化しつづける必要があるのです。

 心房細動患者で特に重要になるのが、「新たに発生したリスク因子、併存疾患の有無」「既存のリスク因子、併存疾患の管理状況」「血栓塞栓症リスクの再評価および抗凝固薬の用量調整」「介入可能な出血リスクの評価と管理」「治療介入前後での心房細動による症状の変化」「症状悪化時のレート・リズムコントロール戦略の見直し」です。すなわち、AF-CAREの各構成要素である「C」「A」「R」の達成状況を総合的に検討した上での治療計画の最適化が求められているといえます。また、フォローアップ時に生活指導の順守状況や症状をチェックし、患者教育を継続することで、患者自身が治療に積極的に関与しやすくなるというメリットも得られます。

Gem of Advice

心房細動管理では、患者ごとのリスク評価に基づいて、「C」「A」「R」「E」の各ポイントを押さえた個別の治療目標を設定し、多角的に介入しよう。・・・

まとめ

 AF-CARE pathwayの概要について説明しました。心房細動そのものに対する介入のみではなく、併存疾患にも着目しながら、定期的な再評価を行いましょう。

編集幹事からの一言

 西崎先生には、AF-CARE pathwayについて、非常に分かりやすく解説していただきました。「経験からなんとなく」ではなく、表1に挙がっている併存疾患やリスク因子を包括的にチェックすることが重要です。救急外来などで頻脈性の心房細動に遭遇した際、「ワソランを処方しておしまい」という時代は終了しました(さすがに最近は、脳梗塞予防として抗凝固薬を処方したり、翌日の外来を受診するよう指示したりといった対応がなされているとは思いますが)。ジェネラルな視点を持った先生方にこそ、AF-CARE pathway──特にA(脳梗塞と血栓塞栓症の予防)はしっかりと押さえていただく必要があると感じています。一度、AF-CARE pathwayに関する部分だけでも、ESCガイドラインに目を通しておくとよいかもしれません。また、循環器専門医にとってはアブレーション一辺倒からの脱却──この流れに大きな意味があるでしょう。・・・

[参考文献]
1)Van Gelder IC, et al. Eur Heart J. 2024;45:3314-414.
2)Pathak RK, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;64:2222-31.
3)日本循環器学会 他「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン
4)Kirchhof P, et al. N Engl J Med. 2020;383:1305-16.