心房細動のモヤモヤ、その4はカテーテルアブレーションです。
と同時に脳梗塞・血栓症予防の抗凝固薬の解説もされています。
ワーファリンに取って代わったDOACですが、
どうも日本の医師はその副作用を心配して腰が引けているのか、
「不適切な低用量」処方が多いと報告されています。
また、現在“飛ぶ鳥を落とす勢い”のカテーテルアブレーションですが、
今後も技術は進歩し続け、その適応も変化していくことでしょう。
<ポイント>
・代表的なDOAC
✓ アピキサバン(エリキュース®)
✓ リバーロキサバン(イグザレルト®他)
✓ エドキサバン(リクシアナ®)
✓ ダビガトラン(プラザキサ®)
・日本のカテーテルアブレーションの実態は、2022年の実施件数は約9万件、うち75.9%が心房細動患者。
・心房細動アブレーションを受けた患者の平均年齢は68.3歳、男性が68.6%で、55.4%が発作性、37.3%では高周波アブレーション単体のみではなく、バルーンアブレーションなどが実施。
・合併症発生率は2.4%(大出血0.9%、心タンポナーデ0.5%、塞栓症0.2%、心血管死0.03%)。年齢と合併症発生率は相関する。60歳未満と比べて、75〜79歳で1.63倍、80〜84歳で1.90倍、85歳以上では2.86倍まで上昇。
・心房細動アブレーション後の非再発率は、75歳以上でも若年患者と差がない。
・薬物療法と比較したアブレーションの優位性は一貫しており、有症候性心房細動では年齢にかかわらず、カテーテルアブレーションによってQOL改善を期待できる。
あれ?
カテーテルアブレーションの有効率の記載がないことに気づきました。
1回で成功率〇〇%、2回で〇〇%、という数字を知りたいですよねえ。
▢ 増える高齢者の心房細動、アブレーションに意味はある?
佐藤宏行(東北大学病院循環器内科)
Case
84歳女性。1年前に動悸発作があり、かかりつけ医を受診。心房細動と診断され、内服を開始した。1カ月前から頻回に動悸発作を生じ、かかりつけ医への臨時受診を繰り返すようになった。今回も動悸を主訴に受診した。身長148cm、体重62kg、BMI 28.3kg/m2。
バイタルサイン:意識清明、血圧148/88mmHg、脈拍数123回/分、呼吸数18回/分、SpO2 98%(室内気)、体温36.2℃
既往歴:高血圧、2型糖尿病、慢性腎臓病、大腸癌(術後)
服薬歴:アピキサバン(商品名エリキュース)1回2.5mg・1日2回、エンパグリフロジン(ジャディアンス) 1回10mg・1日1回、オルメサルタン(オルメテック他) 1回20mg・1日1回、ビソプロロール(メインテート他) 1回2.5mg・1日1回、ベラパミル(ワソラン他)1回240mg・頓用
血液検査:Hb 11.0g/dL、Cr 1.0mg/dL、eGFR 40mL/分/1.73m2、HbA1c 6.8%、BNP 340pg/mL
内科外来では、今回のCaseのような高齢の心房細動患者を頻繁に見掛けると思います。まずは現在の治療がきちんと適切になされているか、詳しく確認してみましょう。
高齢者に対するDOACは「不適切な低用量」になりやすい
本Caseは80歳代で、高血圧と2型糖尿病の既往があり、BNP高値を呈しているため、「心不全併存あり」との前提で対応すべきです。塞栓症リスクを評価するCHADS2スコア(心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病は各1点、脳梗塞/一過性脳虚血発作[TIA]の既往は2点)は4点と高く、抗凝固薬をしっかりと継続する必要があります。
現在内服しているのは、DOACであるアピキサバン(1回2.5mg、1日2回)ですね。アピキサバンをはじめ、DOACの減量基準はやや煩雑です。例えば、アピキサバンは通常、成人には1回5mgを1日2回経口投与しますが、「80歳以上」「体重60kg以下」「血清Cr 1.5mg/dL以上」のうち、2項目以上に該当する場合は1回2.5mgに減量するとされています。しかし、本Caseは「80歳以上」の1項目しか満たさないため、本来は「1回5mg、1日2回」が至適用量となります。高齢のみを理由に減量されるケースも多く、DOACは「不適切な低用量(inappropriate underdose)」になりやすい薬剤です1)。
本邦の高齢心房細動患者の状況を把握する上で有用な、ANAFIEレジストリの主解析の結果をご紹介します2)。2016〜2018年に登録された、75歳以上の外来受診可能な心房細動患者3万2275人を前向きに調査した国内多施設共同観察研究です。患者の平均年齢は81.5歳(85歳以上26.1%)、CHADS2スコア 2.9点、クレアチニンクリアランス48.6mL/分というコホートであり、心房細動パンデミックを迎えたといえる我が国の現状を反映した研究となっています。
全体の92.4%が抗凝固薬を内服しており、DOAC(アピキサバン、リバーロキサバン[イグザレルト他]、エドキサバン[リクシアナ]、ダビガトラン[プラザキサ])が66.9%と3分の2以上を占めました。DOACの4種の薬剤全てにおいて、最も頻度が高かった処方は低用量で、そのうち減量基準を満たさない「不適切な低用量」がアピキサバン25.1%、リバーロキサバン26.3%、エドキサバン13.7%に上ったとする、驚くべきサブ解析の結果も出ています1)。ワルファリン(ワーファリン他)を服用している群では、登録前6カ月間の75.5%の期間で至適PT-INRを維持しており、良好なコントロールを得られていましたが、ワルファリン群よりもDOAC群の方が脳梗塞、全身性塞栓症、大出血、全死亡のリスクが有意に低く(p<0.001)、高齢の日本人心房細動患者に対するDOAC導入、継続の重要性を再認識できます。
DOACは「不適切な低用量」になりやすいからこそ特に、至適用量を意識した処方が欠かせません。GARFIELD-AFという国際レジストリを用いた研究(DOAC群1万426人、うち日本人2217人)では、「不適切な低用量」が全死亡を25%上昇させるとしています3)。「不適切な低用量」のリスク因子としては、高齢、女性、アジア諸国、抗血小板薬併用などが挙げられているため、我が国の高齢者に対する心房細動治療では特に気を付けた方がよいといえるでしょう。
Gem of Advice
高齢者の心房細動では、まず至適な薬物療法がしっかり行われているかを見直そう。
高齢者に対する心房細動アブレーションの有効性と安全性
続いて、心拍数のコントロールに話題を移します。心房細動では、安静時心拍数110回/分以下を目指したいところですが、冒頭のCaseでは、洞調律時の心電図を見返してみると50回/分の洞徐脈を認めました。このような場合、副作用として徐脈の起こり得るβ遮断薬は増量しづらくなります。
リズムコントロールを導入するにしても、頻用されるフレカイニド(タンボコール他)、ピルシカイニド(サンリズム他)、シベンゾリン(シベノール他)などの抗不整脈薬は腎排泄型のため、腎障害(eGFR<50mL/分/1.73m2)を伴うケースでは慎重な減量が求められ、無理に導入すると中毒のリスクとなります。肝代謝型のプロパフェノン(プロノン他)、アミオダロン(アンカロン他)が候補に挙がるものの、本Caseは徐脈を伴うので、β遮断薬を減量しながらこれらを導入すべきかについては、専門医でも判断が難しいところです。
仮に、しばらく発作が見られず安定していたとしても、発作が再発した場合、洞調律へ復帰した際に長時間の洞停止(徐脈頻脈症候群)が起きることも容易に予想され、失神発作や転倒、外傷につながる恐れもあります。そうなる前にカテーテルアブレーションを検討した方がよいのでしょうか。本Caseは悩みの尽きない例だといえます。
本邦のカテーテルアブレーション全例登録プロジェクトであるJ-ABレジストリによると、2022年の実施件数は約9万件で、うち75.9%を心房細動患者が占めており、心房細動はアブレーション治療の需要が高い疾患です4)。心房細動アブレーションを受けた患者の平均年齢は68.3歳、男性が68.6%で、55.4%が発作性、37.3%では高周波アブレーション単体のみではなく、バルーンアブレーションなどが実施されていました。入院中の合併症発生率は2.4%(大出血0.9%、心タンポナーデ0.5%、塞栓症0.2%、心血管死0.03%)と、心房細動アブレーションは非常に安全性の高い手技となっています。
心房細動アブレーションを受けた患者のうち、75歳以上の割合は、2011年には8.5%(J-CARAFレジストリ)だった一方、2021年には28.3%(J-ABレジストリ)へと大きく増加しています。本邦のDPCデータベースを用いた研究によると、年齢と合併症発生率は相関するとされています5)。60歳未満と比べて、75〜79歳で1.63倍、80〜84歳で1.90倍、85歳以上では2.86倍まで上昇します。安全性の観点から、やはり高齢者ではより慎重に心房細動アブレーションの可否を検討すべきです。
一方で、心房細動アブレーション後の非再発率は、75歳以上でも若年患者と差がないというメタ解析の結果が出ており、しっかりと適応を吟味すれば、治療成績はそこまで変わらない可能性が示唆されています6)。また、心房細動に対する治療のQOL改善効果を検証したCABANA試験の年齢別サブ解析では、薬物療法と比較したアブレーションの優位性は一貫しており、有症候性心房細動では年齢にかかわらず、カテーテルアブレーションによってQOL改善を期待できます7)。
Gem of Advice
高齢者の心房細動のリズムコントロールにおいて、薬物療法の強化など、少しでも悩ましいと感じたら、カテーテルアブレーションの要否も含めて、早めに専門医に相談しよう。
Caseの経過
今後も発作や受診を繰り返す可能性があるため、専門外来へ紹介しました。自覚症状の強さやQOL、治療希望も含めて、本人、家族と協議した結果、カテーテルアブレーションを行う方針になりました。高齢者でも負担の少ない冷凍バルーンアブレーションを実施し、大きな合併症も起こらず、無事に退院することができました。心房期外収縮が少し残存していますが、本人としては気にならず、臨時受診を繰り返す原因となっていた心房細動発作は見られなくなりました。
また、ビソプロロールを半量にしたところ、心拍数は50回/分から60回/分へと正常化し、労作時息切れも改善しました。術後再発リスク因子への介入として、朝一の家庭血圧を130/80mmHg以下にコントロールすべく家庭血圧測定や自己検脈を徹底するとともに、減量を目的に毎朝のウォーキングを指導。アブレーションという“手術”を受けたことで本人の健康意識が高まった影響もあり、習慣として定着した様子です。
まとめ
高齢者の心房細動は、無症状であれば、かかりつけ医の先生方でも特に困らずに管理できると思います。一方で、有症状の場合は高次医療機関でのアブレーションを検討したいケースもあるでしょう。
「高齢者にアブレーションして本当に効果はあるの? 安全にできるの?」と心配する声が上がるかもしれませんが、実臨床では心・腎機能の影響で抗不整脈薬を使用できなかったり、内服しても発作の再発を繰り返したりする高齢患者は少なくありません。年齢が高くなるほど、洞不全症候群の併存率も上昇するので、薬物療法の強化が難しくなり、変時性不全や失神・転倒による外傷へとつながる恐れもあります。
患者のQOLを維持、向上させるため、年齢だけでアブレーションを受けるかどうかを判断しないでいただければと考えています。お困りの際には、「高齢者にアブレーションの適応はない」と決め付けず、専門医へ一度相談してみてください。
編集幹事からの一言
最終回であるその4は、高齢者の心房細動に対するDOACとカテーテルアブレーションがテーマです。佐藤先⽣は、参照すべき日本のレジストリも紹介した上で、多くの先生方が実際に悩ましいと感じている点をデータで参照できるようにしつつ、分かりやすくまとめてくださいました。・・・
[参考文献]
1)Akao M, et al. Circ Rep. 2020;2:552-9.
2)Yamashita T, et al. Eur Heart J Qual Care Clin Outcomes. 2022;8:202-13.
3)Camm AJ, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;76:1425-36.
4)Kusano K, et al. J Arrhythm. 2024;40:1053-8.
5)Yokoyama Y, et al. J Am Heart Assoc. 2021;10:e019701.
6)Prasitlumkum N, et al. J Cardiovasc Electrophysiol. 2022;33:1435-49.
7)Mark DB, et al. JAMA. 2019;321:1275-85.