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一病息災〜心房細動とその周辺

心房細動の治療は日進月歩。目に留まった記事の備忘録です。
他に、生活習慣病や自分に関係ありそうな健康問題も。

心房細動のモヤモヤ、その4「カテーテルアブレーション」

2025年04月07日 15時37分33秒 | 心房細動

心房細動のモヤモヤ、その4はカテーテルアブレーションです。

と同時に脳梗塞・血栓症予防の抗凝固薬の解説もされています。

ワーファリンに取って代わったDOACですが、

どうも日本の医師はその副作用を心配して腰が引けているのか、

「不適切な低用量」処方が多いと報告されています。

また、現在“飛ぶ鳥を落とす勢い”のカテーテルアブレーションですが、

今後も技術は進歩し続け、その適応も変化していくことでしょう。

 

<ポイント>

・代表的なDOAC

 ✓ アピキサバン(エリキュース®)

 ✓ リバーロキサバン(イグザレルト®他)

 ✓ エドキサバン(リクシアナ®)

 ✓ ダビガトラン(プラザキサ®)

・日本のカテーテルアブレーションの実態は、2022年の実施件数は約9万件、うち75.9%が心房細動患者。

・心房細動アブレーションを受けた患者の平均年齢は68.3歳、男性が68.6%で、55.4%が発作性、37.3%では高周波アブレーション単体のみではなく、バルーンアブレーションなどが実施。

・合併症発生率は2.4%(大出血0.9%、心タンポナーデ0.5%、塞栓症0.2%、心血管死0.03%)。年齢と合併症発生率は相関する。60歳未満と比べて、75〜79歳で1.63倍、80〜84歳で1.90倍、85歳以上では2.86倍まで上昇。

・心房細動アブレーション後の非再発率は、75歳以上でも若年患者と差がない。

・薬物療法と比較したアブレーションの優位性は一貫しており、有症候性心房細動では年齢にかかわらず、カテーテルアブレーションによってQOL改善を期待できる。

 

あれ? 

カテーテルアブレーションの有効率の記載がないことに気づきました。

1回で成功率〇〇%、2回で〇〇%、という数字を知りたいですよねえ。

 

 

▢ 増える高齢者の心房細動、アブレーションに意味はある?

佐藤宏行(東北大学病院循環器内科)

2025/04/03:日経メディカルより一部抜粋(下線は私が引きました);
 

Case

 84歳女性。1年前に動悸発作があり、かかりつけ医を受診。心房細動と診断され、内服を開始した。1カ月前から頻回に動悸発作を生じ、かかりつけ医への臨時受診を繰り返すようになった。今回も動悸を主訴に受診した。身長148cm、体重62kg、BMI 28.3kg/m2
バイタルサイン:意識清明、血圧148/88mmHg、脈拍数123回/分、呼吸数18回/分、SpO2 98%(室内気)、体温36.2℃
既往歴:高血圧、2型糖尿病、慢性腎臓病、大腸癌(術後)
服薬歴アピキサバン(商品名エリキュース)1回2.5mg・1日2回、エンパグリフロジン(ジャディアンス) 1回10mg・1日1回、オルメサルタン(オルメテック他) 1回20mg・1日1回、ビソプロロール(メインテート他) 1回2.5mg・1日1回、ベラパミル(ワソラン他)1回240mg・頓用
血液検査:Hb 11.0g/dL、Cr 1.0mg/dL、eGFR 40mL/分/1.73m2、HbA1c 6.8%、BNP 340pg/mL

 内科外来では、今回のCaseのような高齢の心房細動患者を頻繁に見掛けると思います。まずは現在の治療がきちんと適切になされているか、詳しく確認してみましょう。

高齢者に対するDOACは「不適切な低用量」になりやすい

 本Caseは80歳代で、高血圧と2型糖尿病の既往があり、BNP高値を呈しているため、「心不全併存あり」との前提で対応すべきです。塞栓症リスクを評価するCHADS2スコア(心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病は各1点、脳梗塞/一過性脳虚血発作[TIA]の既往は2点)は4点と高く、抗凝固薬をしっかりと継続する必要があります。

 現在内服しているのは、DOACであるアピキサバン(1回2.5mg、1日2回)ですね。アピキサバンをはじめ、DOACの減量基準はやや煩雑です。例えば、アピキサバンは通常、成人には1回5mgを1日2回経口投与しますが、「80歳以上」「体重60kg以下」「血清Cr 1.5mg/dL以上」のうち、2項目以上に該当する場合は1回2.5mgに減量するとされています。しかし、本Caseは「80歳以上」の1項目しか満たさないため、本来は「1回5mg、1日2回」が至適用量となります。高齢のみを理由に減量されるケースも多く、DOACは「不適切な低用量(inappropriate underdose)」になりやすい薬剤です1)

 本邦の高齢心房細動患者の状況を把握する上で有用な、ANAFIEレジストリの主解析の結果をご紹介します2)。2016〜2018年に登録された、75歳以上の外来受診可能な心房細動患者3万2275人を前向きに調査した国内多施設共同観察研究です。患者の平均年齢は81.5歳(85歳以上26.1%)、CHADS2スコア 2.9点、クレアチニンクリアランス48.6mL/分というコホートであり、心房細動パンデミックを迎えたといえる我が国の現状を反映した研究となっています。

 全体の92.4%が抗凝固薬を内服しており、DOAC(アピキサバン、リバーロキサバン[イグザレルト他]、エドキサバン[リクシアナ]、ダビガトラン[プラザキサ])が66.9%と3分の2以上を占めました。DOACの4種の薬剤全てにおいて、最も頻度が高かった処方は低用量で、そのうち減量基準を満たさない「不適切な低用量」がアピキサバン25.1%、リバーロキサバン26.3%、エドキサバン13.7%に上ったとする、驚くべきサブ解析の結果も出ています1)ワルファリン(ワーファリン他)を服用している群では、登録前6カ月間の75.5%の期間で至適PT-INRを維持しており、良好なコントロールを得られていましたが、ワルファリン群よりもDOAC群の方が脳梗塞、全身性塞栓症、大出血、全死亡のリスクが有意に低く(p<0.001)、高齢の日本人心房細動患者に対するDOAC導入、継続の重要性を再認識できます。

 DOACは「不適切な低用量」になりやすいからこそ特に、至適用量を意識した処方が欠かせません。GARFIELD-AFという国際レジストリを用いた研究(DOAC群1万426人、うち日本人2217人)では、「不適切な低用量」が全死亡を25%上昇させるとしています3)。「不適切な低用量」のリスク因子としては、高齢、女性、アジア諸国、抗血小板薬併用などが挙げられているため、我が国の高齢者に対する心房細動治療では特に気を付けた方がよいといえるでしょう。

Gem of Advice

高齢者の心房細動では、まず至適な薬物療法がしっかり行われているかを見直そう。

高齢者に対する心房細動アブレーションの有効性と安全性

 続いて、心拍数のコントロールに話題を移します。心房細動では、安静時心拍数110回/分以下を目指したいところですが、冒頭のCaseでは、洞調律時の心電図を見返してみると50回/分の洞徐脈を認めました。このような場合、副作用として徐脈の起こり得るβ遮断薬は増量しづらくなります。

 リズムコントロールを導入するにしても、頻用されるフレカイニド(タンボコール他)、ピルシカイニド(サンリズム他)、シベンゾリン(シベノール他)などの抗不整脈薬は腎排泄型のため、腎障害(eGFR<50mL/分/1.73m2)を伴うケースでは慎重な減量が求められ、無理に導入すると中毒のリスクとなります。肝代謝型のプロパフェノン(プロノン他)、アミオダロン(アンカロン他)が候補に挙がるものの、本Caseは徐脈を伴うので、β遮断薬を減量しながらこれらを導入すべきかについては、専門医でも判断が難しいところです。

 仮に、しばらく発作が見られず安定していたとしても、発作が再発した場合、洞調律へ復帰した際に長時間の洞停止(徐脈頻脈症候群)が起きることも容易に予想され、失神発作や転倒、外傷につながる恐れもあります。そうなる前にカテーテルアブレーションを検討した方がよいのでしょうか。本Caseは悩みの尽きない例だといえます。

 本邦のカテーテルアブレーション全例登録プロジェクトであるJ-ABレジストリによると、2022年の実施件数は約9万件で、うち75.9%を心房細動患者が占めており、心房細動はアブレーション治療の需要が高い疾患です4)心房細動アブレーションを受けた患者の平均年齢は68.3歳、男性が68.6%で、55.4%が発作性、37.3%では高周波アブレーション単体のみではなく、バルーンアブレーションなどが実施されていました。入院中の合併症発生率は2.4%(大出血0.9%、心タンポナーデ0.5%、塞栓症0.2%、心血管死0.03%)と、心房細動アブレーションは非常に安全性の高い手技となっています。

 心房細動アブレーションを受けた患者のうち、75歳以上の割合は、2011年には8.5%(J-CARAFレジストリ)だった一方、2021年には28.3%(J-ABレジストリ)へと大きく増加しています。本邦のDPCデータベースを用いた研究によると、年齢と合併症発生率は相関するとされています5)。60歳未満と比べて、75〜79歳で1.63倍、80〜84歳で1.90倍、85歳以上では2.86倍まで上昇します。安全性の観点から、やはり高齢者ではより慎重に心房細動アブレーションの可否を検討すべきです。

 一方で、心房細動アブレーション後の非再発率は、75歳以上でも若年患者と差がないというメタ解析の結果が出ており、しっかりと適応を吟味すれば、治療成績はそこまで変わらない可能性が示唆されています6)。また、心房細動に対する治療のQOL改善効果を検証したCABANA試験の年齢別サブ解析では、薬物療法と比較したアブレーションの優位性は一貫しており、有症候性心房細動では年齢にかかわらず、カテーテルアブレーションによってQOL改善を期待できます7)

Gem of Advice

高齢者の心房細動のリズムコントロールにおいて、薬物療法の強化など、少しでも悩ましいと感じたら、カテーテルアブレーションの要否も含めて、早めに専門医に相談しよう。

Caseの経過

 今後も発作や受診を繰り返す可能性があるため、専門外来へ紹介しました。自覚症状の強さやQOL、治療希望も含めて、本人、家族と協議した結果、カテーテルアブレーションを行う方針になりました。高齢者でも負担の少ない冷凍バルーンアブレーションを実施し、大きな合併症も起こらず、無事に退院することができました。心房期外収縮が少し残存していますが、本人としては気にならず、臨時受診を繰り返す原因となっていた心房細動発作は見られなくなりました。

 また、ビソプロロールを半量にしたところ、心拍数は50回/分から60回/分へと正常化し、労作時息切れも改善しました。術後再発リスク因子への介入として、朝一の家庭血圧を130/80mmHg以下にコントロールすべく家庭血圧測定や自己検脈を徹底するとともに、減量を目的に毎朝のウォーキングを指導。アブレーションという“手術”を受けたことで本人の健康意識が高まった影響もあり、習慣として定着した様子です。

まとめ

 高齢者の心房細動は、無症状であれば、かかりつけ医の先生方でも特に困らずに管理できると思います。一方で、有症状の場合は高次医療機関でのアブレーションを検討したいケースもあるでしょう。

 「高齢者にアブレーションして本当に効果はあるの? 安全にできるの?」と心配する声が上がるかもしれませんが、実臨床では心・腎機能の影響で抗不整脈薬を使用できなかったり、内服しても発作の再発を繰り返したりする高齢患者は少なくありません。年齢が高くなるほど、洞不全症候群の併存率も上昇するので、薬物療法の強化が難しくなり、変時性不全や失神・転倒による外傷へとつながる恐れもあります。

 患者のQOLを維持、向上させるため、年齢だけでアブレーションを受けるかどうかを判断しないでいただければと考えています。お困りの際には、「高齢者にアブレーションの適応はない」と決め付けず、専門医へ一度相談してみてください。

編集幹事からの一言

 最終回であるその4は、高齢者の心房細動に対するDOACとカテーテルアブレーションがテーマです。佐藤先⽣は、参照すべき日本のレジストリも紹介した上で、多くの先生方が実際に悩ましいと感じている点をデータで参照できるようにしつつ、分かりやすくまとめてくださいました。・・・

[参考文献]
1)Akao M, et al. Circ Rep. 2020;2:552-9.
2)Yamashita T, et al. Eur Heart J Qual Care Clin Outcomes. 2022;8:202-13.
3)Camm AJ, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;76:1425-36.
4)Kusano K, et al. J Arrhythm. 2024;40:1053-8.
5)Yokoyama Y, et al. J Am Heart Assoc. 2021;10:e019701.
6)Prasitlumkum N, et al. J Cardiovasc Electrophysiol. 2022;33:1435-49.
7)Mark DB, et al. JAMA. 2019;321:1275-85.


心房細動のモヤモヤ、その3「抗不整脈薬」

2025年04月07日 15時36分32秒 | 心房細動

心房細動のモヤモヤ、その3はリズムコントロール薬(抗不整脈薬)の解説です。

それも専門医診療ではなく、「かかりつけ医」レベルで処方する薬を扱っています。

<ポイント>

・器質的心疾患を伴わないケース

  → I群抗不整脈薬(ナトリウムチャネル遮断薬)。

・器質的心疾患があって心機能が低下しているケース

  → III群抗不整脈薬(カリウムチャネル遮断薬)であるアミオダロンが第一選択。

・「かかりつけ医」レベルで処方する基本的な抗不整脈薬は3つ:

① I群抗不整脈薬:フレカイニド(タンボコール®他):腎排泄率40%、

✓ まず1回 50mg、1日2回から開始し、効果が弱ければ1回100mgに増量

② I群抗不整脈薬:ピルシカイニド(サンリズム®他):腎排泄率90%程度、

✓ 半減期が短いため単回経口投与などに向いている

✓ 発作時に1回100mgを頓用する方法(pill-in-the-pocket)をよく用いる。

✓ 定期処方の場合は1回50mg、1日3回。

③ III群抗不整脈薬:アミオダロン(アンカロン®他):心外副作用(とくに間質性肺炎と甲状腺機能障害)も多数認められることから、抗不整脈薬の“ジョーカー的存在”、ハードルが高い印象があるが、低用量であれば、“使える薬”。

・I群抗不整脈薬は腎排泄が多く、特に高齢者では注意が必要。とりわけ気を付けるべきなのがピルシカイニド(サンリズム他)で、腎機能低下例では少量からの投与を検討する。3〜6ヶ月に1回は心電図をチェックし、洞徐脈(洞停止)、心房粗動、QT延長(および多形性心室頻拍[torsades de pointes])に常に注意。

 

背景がわかり、勉強になりました。

 

▢ かかりつけ医で処方できる3種のリズムコントロール薬

小田倉弘典(土橋内科医院[仙台市青葉区]院長)
 
Case

 70歳男性。高血圧で通院中。数年前に発作性心房細動を発症し、抗凝固薬、β遮断薬、降圧薬を内服している。3年前から発作が頻回となり、専門病院でカテーテルアブレーションを受けた。1年後、再発を認め、同院でフレカイニド(商品名タンボコール他)1回100mg・1日2回が投与された。しかし、再発を繰り返すことから、2回目のカテーテルアブレーションを実施。半年後、再び再発し、同院でベプリジル(ベプリコール他)1回100mg・1日2回を投与されたが、それでも再発に至り、下腿浮腫などの心不全症状が見られたので、アミオダロン(アンカロン他)1回100mg・1日1回が処方された。その後、半年以上発作がないため、同院から「かかりつけ医で処方をお願いしたい」との依頼があった。

基本は「抗不整脈薬の管理は専門医」

 抗不整脈薬は、かかりつけ医の処方ラインナップの中でも「ハードルが高い薬剤」といわれています。理由として、まず種類が多い。その上、投与法、排泄経路、副作用が薬剤ごとに異なります。そして、副作用も重篤なものが多い印象があります。抗不整脈薬は、専門医でさえ、使いこなすのが容易ではありません。

 「使用経験が少なく、自信を持って処方できない」「やむを得ず、新規に投与を開始する必要が生じた」──そうした場合は無理をせず、専門医に紹介するのが基本です。これは少しも躊躇すべきことではなく、推奨されると考えます。また、抗不整脈薬の管理を要するケースでは、心房細動の管理は専門医、それ以外の生活習慣病などの管理はかかりつけ医という併診での対応も十分妥当と思われます。

Gem of Advice

抗不整脈薬について、「使いこなす自信がない」「新規に投与を開始する」といった場合には専門医に紹介する。

かかりつけ医が抗不整脈薬を使用する場面とは?

 近年、カテーテルアブレーションが症候性発作性心房細動の標準治療となり、かかりつけ医が抗不整脈薬を使用する場面は以前より減少しました。しかしながら、冒頭のCaseのように、カテーテルアブレーション後の再発例も時に経験し、抗不整脈薬で安定した場合などは、逆紹介されるケースも増えています。難治例に対して、あるいは次回のカテーテルアブレーションまでのつなぎとして、抗不整脈薬が処方されることは少なくありません。また、中にはカテーテルアブレーションに難色を示す患者もおり、かかりつけ医による抗不整脈薬の処方が求められるケースは一定数あると思われます。最低限押さえておくべき知識とコツについて概説します。

Gem of Advice

かかりつけ医による抗不整脈薬使用を考えるケースとしては、「カテーテルアブレーション後に再発し、安定化した例」「カテーテルアブレーション留保例」などが挙げられる。

抗不整脈薬使用で押さえるべきポイント

 一般的に、抗不整脈薬を使用する際に押さえるべきポイントは次の3つです。

◆器質的心疾患の有無

 大半の抗不整脈薬が陰性変力作用(心抑制)を有します。器質的心疾患を伴わないケースにはI群抗不整脈薬(ナトリウムチャネル遮断薬)が用いられ、器質的心疾患があって心機能が低下しているケースではアミオダロンが第一選択となります。専門病院からの処方であれば、器質的心疾患の有無は心臓超音波検査などでしっかり評価されていると考えられるものの、心不全、虚血性心疾患、心筋症の可能性は常に念頭に置いて管理してください。

◆排泄経路

 I群抗不整脈薬は腎排泄が多く、特に高齢者では注意が必要です。必ず、使用中の薬剤の排泄経路を確認しましょう。とりわけ気を付けるべきなのがピルシカイニド(サンリズム他)で、腎機能低下例では少量からの投与を検討します。

◆モニタリング

 抗不整脈薬の安全性を考える上では、「1)心抑制」「2)催不整脈作用」「3)心外副作用」の3点がポイントになります。かかりつけ医が特に注意すべきは、「2)催不整脈作用」と「3)心外副作用」です。催不整脈作用は最も重篤な副作用ですが、心電図を定期的にモニタリングすることで予防可能です。徐脈、QRS幅の延長、QT間隔について、少なくとも3~4カ月に一度は心電図で確認しましょう。

Gem of Advice

抗不整脈薬を使用する際は、「器質的心疾患の有無」「排泄経路」「モニタリング」の3つのポイントを押さえる。

具体的な薬剤の使用法

 抗不整脈薬の数の多さにひるむかもしれませんが、筆者はI群抗不整脈薬では、フレカイニドとピルシカイニドしか原則として処方していません。また、アミオダロンは処方のハードルがかなり高い印象がありますが、低用量であれば、“使える薬”だと捉えています。基本的には、この3剤の特徴を知っていれば問題ないはずです(表11)。具体的な使用方法を説明します。

表1 主な抗不整脈薬の特徴(文献1を基に筆者作成)

◆I群抗不整脈薬(フレカイニド、ピルシカイニド)

【使い方】
 フレカイニドは腎排泄率40%、ピルシカイニドは90%程度とされ、フレカイニドの方が腎機能低下例にも比較的使いやすいといえます。一方、ピルシカイニドは半減期が短いため、単回経口投与などに向いている傾向があります。

 筆者は、フレカイニドはまず1回 50mg、1日2回から開始し、効果が弱ければ1回100mgに増量します。ただし、75歳以上では増量を避けています。ピルシカイニドは発作時に1回100mgを頓用する方法(pill-in-the-pocket)をよく用います。定期処方の場合は1回50mg、1日3回としますが、高齢者や腎機能低下例では1回25mgから始めています。フレカイニドの方がやや効果がある印象ですが、ピルシカイニドは1日3回の服用が必要であり、アドヒアランスが低下しやすいのも原因だと思われます。

Gem of Advice

I群抗不整脈薬はフレカイニド、ピルシカイニドの2剤だけ押さえよう。基本的に低用量から開始する。

【モニタリング】
 両剤とも抗コリン作用や低血糖といった、他のI群抗不整脈薬で見られる心外副作用は少ないため、モニタリングとしては心電図に主眼を置きます。洞徐脈(洞停止)、心房粗動、QT延長(および多形性心室頻拍[torsades de pointes])に常に注意し、高齢者は3~4カ月に1回、それ以外でも半年に1回は心電図をチェックします。

 ナトリウムチャネルを遮断するため、徐脈のリスクが高く、高齢者ではたとえ低用量でも徐脈を呈することがあります。高齢者やもともと徐脈傾向のある患者では特に気を付けましょう。

 また、ナトリウムチャネル遮断による伝導遅延が心房内の大きなリエントリーを形成し、心房細動が心房粗動にオーガナイズされ、心房粗動が出現しやすくなることがあります。1対1房室伝導が惹起されると血行動態が破綻するため、心房粗動を認めたら早急に専門医に紹介します。さらに、ナトリウムチャネルを遮断することでQRS幅の延長や左軸偏位を来し得ます。それらが新たに出現した際は減量を考慮します。

 カリウムチャネル遮断作用のあるフレカイニドではQT延長を認めることがあり、多形性心室頻拍の原因となります。ただし、頻度はそれほど高くはありません。明確な規定はないものの、投与前に比べてQTcが25%以上延長、または500ミリ秒以上になったら減量または中止とします。

Gem of Advice

フレカイニド、ピルシカイニド使用時には、徐脈、心房粗動、QT延長、QRS幅を心電図で定期的にチェックする。

◆アミオダロン

【使い方】
 アミオダロンはIII群抗不整脈薬(カリウムチャネル遮断薬)ですが、カリウムチャネルだけでなく、ナトリウムおよびカルシウムチャネルの遮断作用や交感神経抑制作用など、多彩な薬理効果を有します。一方で、心外副作用も多数認められることから、抗不整脈薬の“ジョーカー的存在”ともいわれてきました。

 しかし、心房細動に対して使用する際(器質的心疾患のある場合に限られる)は、心室不整脈より用量設定を少なくできるため、考えられているほど副作用の頻度は高くない印象です。心室不整脈では維持量200mg/日が推奨されていますが、筆者は心房細動では50mg/日から開始して、効果に応じて100mg/日まで増量します。場合によっては、25mg/日に減量可能なこともあります。基本は「より少量」です。100mg/日以上の増量が必要な例や70歳以上の高齢者は、副作用が多いとの報告を踏まえ、専門病院に紹介します。

Gem of Advice

アミオダロンは25~100mg/日で維持する。副作用は低用量ほど少ない。100mg/⽇以上の増量が必要な例や70歳以上の⾼齢者は専⾨病院に紹介。

【モニタリング】
 心電図に関しては、交感神経抑制作用による徐脈や、カリウムチャネル遮断作用に由来するQT延長が懸念されます。一方、25~100mg/日の用量で維持していれば、臨床的に問題となるような房室ブロックや多形性心室頻拍の出現は非常に少ない印象です。ただし、3カ月に1回は心電図をチェックし、明らかな徐脈やQT延長が見られたら減量ないし中止とします。

 アミオダロンは多彩な心外副作用が報告されています。主なものは肺毒性(間質性肺炎)と甲状腺機能障害です。肺毒性の日本での発生率は年間2.1%で2)、年齢や用量が高いほど頻度が増すとの報告があります。導入1年以内は3カ月ごと、1年以降は6カ月ごとに、胸部X線検査、血清中KL-6値(可能であれば、N-モノデスエチルアミオダロン血中濃度)の測定を実施します。また、胸部の聴診は意外に有用で、背部、特に下肺野のfine cracleを新たに聴取した場合は、間質性肺炎の出現を考えます。肺毒性に関しては、重症化することも少なくなく、高齢者、高用量ほどリスクが高まるので、60歳以上、100mg/日以上の使用といったケースでは、「少しでも異常を認めたら専門医に紹介」というスタンスをお勧めします。

 甲状腺機能は、アミオダロンによって低下または亢進のいずれの影響を受ける可能性もあります。特に甲状腺機能亢進症には注意が必要で、2~3カ月ごとに血液検査でTSH、FT3、FT4を測定します。基本的には可逆的であり、甲状腺治療を行いつつ、アミオダロンを継続できるケースが少なくありません。しかし、慎重な用量調節を求められる場合が多く、甲状腺治療が必要となったら、原則として専門施設に紹介します。その他に、肝障害も見掛けますが、低用量では低頻度で可逆的です。

Gem of Advice

アミオダロン使用時には、定期的な胸部X線検査、血清中KL-6値、甲状腺機能、肝機能のチェックを行う。

Caseの経過

 専門病院からの指示に従い、定期的なモニタリングを行いつつ、アミオダロンを100mg/日から開始した。6カ月後も、長く持続する発作がなく経過しているため、50mg/日への減量を検討してもらう目的で逆紹介元の病院に紹介した。

まとめ

 非循環器専門医の場合、抗不整脈薬の使用には非常に強い抵抗を感じるかもしれません。しかし実際には、心房細動のリズムコントロール目的であれば、比較的低用量にとどめられるため、副作用の発現頻度は意外なほど低いものです。一方、上述したように、モニタリングすべき項目はやはり多く、副作用には重篤なものもあることから、綿密な管理が求められます。そうした手間を障壁だと感じたら、遠慮なく専門病院に紹介しましょう。スムーズな連携体制の構築は、抗不整脈薬処方のハードルを下げる可能性もあると考えます。

編集幹事からの一言

 小田倉先生にはさらに一歩踏み込んだ内容を解説していただきました。非専門医の先生方にも、小田倉先生が挙げてくださった「フレカイニド」「ピルシカイニド」「アミオダロン」の3剤の使い方を押さえておいていただくと、診療の幅が広がるはずです。特に、アミオダロンは重要な薬剤だと感じています。処方を継続する際も、怖がりすぎる必要はありません。とはいえ、専門医とのスムーズな連携体制構築は欠かせない要素です。・・・

[参考文献]
1)日本循環器学会 他「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン
2)Yamada Y, et al. Cir J. 2007;71:1610-6.

 


心房細動のモヤモヤ、その2「抗凝固療法」

2025年04月07日 15時35分18秒 | 心房細動

心房細動のモヤモヤ、その2は「心房細動の基本的マネジメント」を取り扱っています。

救急外来などで頻脈性の心房細動に遭遇した際、

ワソランを処方しておしまい」

また通院診療では、

「脳梗塞予防のために抗凝固療法を開始して、あとは脈が速くならなければそれでいいよね」

という時代は終了し、

2024年に改訂されたガイドラインでは「効果判定と併存疾患の管理」と一歩踏み込んだ方針に更新された、

という内容です。

 

 

▢ 心房細動、あなたの管理は「十分」ですか?

西崎公貴(手稲渓仁会病院循環器内科主任医長)

2025/04/01:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ・・・心房細動は、日常診療で遭遇する不整脈の中でも頻度の高い病態で、国内の患者数は約100万人と推定されています。心房細動といえば、「脳梗塞予防のために抗凝固療法を開始して、あとは脈が速くならなければそれでいいよね」と思われている方も少なくないかもしれません。しかし、本当にそれで十分なのでしょうか。本稿では、心房細動マネジメントの基本である「AF-CARE pathway」についてご紹介します。

心房細動管理の基本理念「AF-CARE pathway」

 AF-CARE pathwayは2024年に改訂された欧州心臓病学会(ESC)の心房細動ガイドラインで初めて言及された疾患管理の基本理念です 1)。以前のガイドラインでは「ABC pathway」とされていましたが、違いを確認してみましょう。

 ABC pathwayのABCはそれぞれ「A:avoid stroke(脳梗塞の予防)」「B:better symptom control(症状の改善)」「C:cardiovascular risk factors and comorbid conditions management(心血管リスク因子と併存疾患の管理)」を意味します。一方、AF-CARE pathwayのCAREは「C:comorbidity and risk factor management(併存疾患とリスク因子の管理)」「A:avoid stroke and thromboembolism(脳梗塞と血栓塞栓症の予防)」「R:reduce symptoms by rate and rhythm control(レート・リズムコントロールによる症状の改善)」「E:evaluation and dynamic reassessment(効果判定と定期的な再評価)」を指します。

 両者の最も大きな差は、AF-CARE pathway では「評価」に関する項目が追加されている点です。つい心房細動そのものへの介入ばかりに注目しがちですが、増悪因子となり得る併存疾患にも目を向けるだけでなく、さらに「治療介入がどんな効果をもたらしたか」「併存疾患の管理がどのように変化したか」などを評価しつづける重要性が強調されています。

Gem of Advice

心房細動の治療では、より包括的な管理、評価が求められるようになった。

「C」「A」「R」「E」を押さえた多角的な介入が重要!

 それでは、CAREの各要素について確認していきましょう。

◆C:併存疾患とリスク因子の管理

 心房細動の要因になり得る併存疾患(高血圧、糖尿病、心不全、睡眠時無呼吸症候群)や生活習慣(肥満、アルコール多飲、低身体活動)などの修正可能な因子への介入は、心房細動の発症や再発抑制に効果的であることが分かっています2)。これらの併存疾患やリスク因子への介入は、心房細動のタイプ(初発、発作性、持続性、永続性)にかかわらず推奨されます。それぞれの管理目標を表1に示します 1)

表1 併存疾患とリスク因子の管理目標(文献1を基に筆者作成)

◆A:脳梗塞と血栓塞栓症の予防

 脳梗塞予防は、「血栓塞栓症リスクの評価」→「抗凝固薬選択」→「出血リスク評価」→「出血予防」の順に検討します。血栓塞栓症リスクの評価について、2024年のESCガイドラインでは、CHA2DS2-VAScスコアから女性(Sc)を除いたCHA2DS2-VAスコア(心不全1点、高血圧1点、75歳以上2点、糖尿病1点、脳梗塞/一過性脳虚血発作[TIA]/血栓塞栓症の既往2点、血管疾患1点、65~74歳1点)の使用が推奨されています。

 また、各地域で検証されたリスクスコアを用いることも認められており、日本のガイドラインではCHADS2スコア(心不全1点、高血圧1点、75歳以上1点、糖尿病1点、脳梗塞/TIAの既往2点)1点以上の場合に抗凝固療法の開始を推奨しています3) 。CHADS2スコア0点のケースは「持続性・永続性心房細動」「低体重(50kg以下)」「腎機能障害」「左房拡大」「心筋症」といった、我が国で独自に見いだされたリスク因子の有無に基づいて、抗凝固療法を考慮します。

 抗凝固薬の選択に関して、直接経口抗凝固薬(DOAC)が使用可能であればDOACを選択することが、日本、ESC、いずれのガイドラインでもクラスⅠで推奨されています。一方、僧帽弁狭窄症、機械弁を有する患者や、DOACが禁忌となるクレアチニンクリアランス15mL/分未満の患者ではワルファリン(ワーファリン他)を選択します。

 出血リスクはHAS-BLEDスコア(高血圧[収縮期血圧>160mmHg]1点、腎機能/肝機能障害各1点、脳梗塞1点、出血1点、不安定なINR 1点、65歳超1点、薬剤[抗血小板薬、抗炎症薬]/アルコール各1点)を用いて評価します。HAS-BLEDスコアとCHADS2スコアは共通している因子も多く、「血栓塞栓症高リスク=出血高リスク」となりやすい傾向があります。とはいえ、「出血高リスクだから抗凝固療法を開始しない」と安易に判断するのではなく、介入可能な出血リスクに漏れなく対応することが重要です。HAS-BLEDスコアのうち、介入しやすいリスク因子としては、「収縮期血圧>160mmHg」「不安定なINR」「抗血小板薬、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の併用」「アルコール多飲」が挙げられます。

◆R:レート・リズムコントロールによる症状の改善

 心房細動患者では、一般的に心拍数が110回/分を超えないようにレートコントロールを行います。以前は、レートコントロールとリズムコントロールのどちらを行っても、患者の生命予後はあまり変わらないと考えられていた時期もありました・・・。しかし、発症1年以内の心房細動を対象にしたEAST-AFNET 4試験で、リズムコントロールの方が、レートコントロールと比べて複合イベントを抑制することが示されて以降、より積極的にリズムコントロールを実施する流れに変化しました4)

 リズムコントロールに関しては、抗不整脈薬とカテーテルアブレーションのいずれを選択すべきか、悩むことも少なくないでしょう。カテーテルアブレーションの方が抗不整脈薬よりも洞調律維持効果には優れているものの、「手術に抵抗感がある」「手術に踏み切るほど日常生活で困っていない」「費用面が心配」など、患者の捉え方は様々です。私は、患者の意向を踏まえて検討しています。なお、カテーテルアブレーションの有効性や安全性については「心房細動のモヤモヤに答えます」その4(4月3日公開)をご参照ください。

◆E:効果判定と定期的な再評価

 心房細動患者のリスクや状況は、治療介入前後で経時的に変化します。例えば、狭心症に対して経皮的冠動脈形成術(PCI)を行った患者で、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった併存疾患や喫煙歴があれば、併存疾患の管理状況や禁煙を継続できているかを確認すると思います。同様に、心房細動患者でも定期的に再評価し、状態の変化に応じて治療を最適化しつづける必要があるのです。

 心房細動患者で特に重要になるのが、「新たに発生したリスク因子、併存疾患の有無」「既存のリスク因子、併存疾患の管理状況」「血栓塞栓症リスクの再評価および抗凝固薬の用量調整」「介入可能な出血リスクの評価と管理」「治療介入前後での心房細動による症状の変化」「症状悪化時のレート・リズムコントロール戦略の見直し」です。すなわち、AF-CAREの各構成要素である「C」「A」「R」の達成状況を総合的に検討した上での治療計画の最適化が求められているといえます。また、フォローアップ時に生活指導の順守状況や症状をチェックし、患者教育を継続することで、患者自身が治療に積極的に関与しやすくなるというメリットも得られます。

Gem of Advice

心房細動管理では、患者ごとのリスク評価に基づいて、「C」「A」「R」「E」の各ポイントを押さえた個別の治療目標を設定し、多角的に介入しよう。・・・

まとめ

 AF-CARE pathwayの概要について説明しました。心房細動そのものに対する介入のみではなく、併存疾患にも着目しながら、定期的な再評価を行いましょう。

編集幹事からの一言

 西崎先生には、AF-CARE pathwayについて、非常に分かりやすく解説していただきました。「経験からなんとなく」ではなく、表1に挙がっている併存疾患やリスク因子を包括的にチェックすることが重要です。救急外来などで頻脈性の心房細動に遭遇した際、「ワソランを処方しておしまい」という時代は終了しました(さすがに最近は、脳梗塞予防として抗凝固薬を処方したり、翌日の外来を受診するよう指示したりといった対応がなされているとは思いますが)。ジェネラルな視点を持った先生方にこそ、AF-CARE pathway──特にA(脳梗塞と血栓塞栓症の予防)はしっかりと押さえていただく必要があると感じています。一度、AF-CARE pathwayに関する部分だけでも、ESCガイドラインに目を通しておくとよいかもしれません。また、循環器専門医にとってはアブレーション一辺倒からの脱却──この流れに大きな意味があるでしょう。・・・

[参考文献]
1)Van Gelder IC, et al. Eur Heart J. 2024;45:3314-414.
2)Pathak RK, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;64:2222-31.
3)日本循環器学会 他「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン
4)Kirchhof P, et al. N Engl J Med. 2020;383:1305-16.

 


心房細動のモヤモヤ、その1「心房細動と治療の歴史」

2025年04月07日 15時08分00秒 | 心房細動

某医療系サイトで「心房細動のモヤモヤ」を特集していたので読んでみました。

第1回では心房細動と治療の歴史が記されています。

心電図の発明が1903年、心房細動のf派発見が1906年(それらしい症状は『黄帝内経』に記載あり)、肺静脈からの期外収縮がトリガーになることが判明したのが1998年、これが現在のカテーテルアブレーションの理論的根拠となりました。

それとは別に、脳梗塞・血栓症のリスクが統計学的に判明したのが1940年代です。

現在「心房細動と言えばカテーテルアブレーション」という時代を迎えています。

私は常々、「なんでも焼けばいいってもんじゃないのでは?」と密かに疑問を抱いてきました。

新しい治療技術が登場すると、それが席巻します。その後、やり過ぎを反省して振り子が戻ってくる現象を何度も見てきました。

そしてこの記事ではその動きが出始めている、と指摘しており、

(ほら、思った通り)

と私は心の中で頷いている次第です。

 

<ポイント>

・通常の房室機能を有していれば、心電図では頻脈(頻拍)となり、心房細動を認める患者で心拍数が100回/分以下の場合は、房室機能が落ちているか、薬剤が原因になっている可能性を考えるのが基本中の基本。

・リズムコントロールとレートコントロールを比較したAFFIRM試験(2002年)では、両者間で患者の生命予後に有意差は見られなかった。

・心房細動のトリガーとなる期外収縮の大半が肺静脈起源であるとの報告をきっかけに、カテーテルアブレーションの技術革新が進んだ。

・心房細動の発生基盤としての心房の機能と構造の再構築は心房リモデリングと呼ばれ、当初は「AF begets AF」、つまり心房細動が心房細動の原因となると考えられていた。心房リモデリングが進行すると、心房細動が誘発・持続されやすくなるため、発症から間もなく、心房リモデリングが少ない心房細動にはアブレーションを行い、リズムコントロールを目指す方針が現在ではスタンダードになっている。リズムコントロールは、低迷期を経て、飛躍的に成長した。

・恐らくあと5~10年ほどで、心房細動の“治療しすぎ”が問題視され、虚血性心疾患と同じように、「薬物療法が基本だよね」とのスタンスに戻るのではないかと予想されている。2024年の欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、併存疾患マネジメントなどの要素が強調され、アブレーション一辺倒の脱却に向けた動きが徐々に進みつつある。

 

▢ 心房細動マネジメントと治療の歴史2025

水野篤(聖路加国際病院循環器内科・医療の質管理室)
2025/03/31:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 

・・・心房細動のエピソードの標準的な定義は、少なくとも 30 秒間続く細動イベントであり、心房の高頻度興奮を特徴とし、これが心房の同期不全収縮と心室の不均一興奮の両方を引き起こします2、3)通常の房室機能を有していれば、多くの電気的興奮は心室に伝わるため、心電図では頻脈(頻拍)となります。心房細動を認める患者で心拍数が100回/分以下の場合は、房室機能が落ちているか、薬剤が原因になっている可能性を考えるのが基本中の基本です。ただし、脈拍数は別です。血圧が高いと測定できないこともありますからね。・・・

心房細動の歴史から学ぶ

 心房細動の歴史として、テクノロジーと考え方の転換を押さえておきましょう。まず、心電図の開発。そして、心房細動のコントロールにおける、疫学的データに基づく治療対象の変化も重要なトピックです。治療に関して、心房細動ほどダイナミックに色々な試行錯誤がなされている領域はないと考えています。

◆ 心房細動発見と心電図の開発

 心房細動に関する最も古い記載は、中国の前漢時代(紀元前200年頃)の医学書「黄帝内経」に見られるとされています。古代ギリシャ・ローマ時代にはガレノスらが脈診を用いた診断法を発展させましたが、当時の技術では心臓の電気的活動を記録するのは不可能で、心房細動は「不規則な脈を持つ状態」として、経験的に認識されるにとどまりました。

 1628年、英国の医師ウィリアム・ハーヴェイが血液循環を発見し、心臓のポンプ機能が科学的に理解されるようになりました。そして1903年に、オランダの生理学者で医師のウィレム・アイントホーフェンが心電図を発明したことで心房細動領域の知見は一気に深まります4)。1906年には、英国人医師トーマス・ルイスが心電図を用いて心房細動に特徴的なf波(細動波)を記録。これをきっかけに心房細動の概念が確立されました。ちなみに、f波を最もよく捉えられるのはV1誘導でもII誘導でもなく、ルイス誘導(参考:外部サイト[Life in the Fast Lane])だとされています。房室解離などの評価にも使えますから、知っておいて損はないでしょう5)

 その後、心房細動の病態がより詳細に研究されるようになり、心房が規則的な収縮を失い、高頻度の電気的興奮が無秩序に伝導することなどが判明しました6)。1998年には、心内心電図を使った研究により、肺静脈から発生する期外収縮が心房細動のトリガーとなる可能性をフランスのハイサゲールらが指摘7)。心電図という記録モダリティーが、心房細動診療の歴史を大きく前進させたといえます。

◆ 心房細動に伴う新たな治療対象の発見

 心房細動は不整脈の一種であり、脈の乱れや動悸、めまい、息切れといった症状を伴う点は昔から把握されていました。通常は「心臓が適切に動かないこと」がその主な問題だと捉えられるでしょうし、心房細動と心不全に密接な関係があることは否定しません。しかし、「血栓症」の危険性も忘れてはいけません。

 1940年代に、心房細動患者の脳梗塞発症率が有意に高い事実が疫学研究によって示され、心房細動が血栓塞栓症のリスク因子だと判明しました。1960年代には、Framingham心臓研究の結果、心房細動患者では脳卒中リスクが5倍に上昇することが分かりました。心房細動と脳卒中の因果関係がより明確になり、脳卒中が心房細動の課題の1つとして認識されるようになったのです。

 これはテクノロジーそのものではなく、データサイエンスの結果として得られた知見ですが、非常に大きな影響を現場にもたらしました。我々医療者は、心房細動治療において、心機能障害だけでなく、脳卒中にも目を向ける必要が出てきたからです。

Gem of Advice

心房細動は考え方のパラダイムシフトを理解するのに非常に良い題材。特にテクノロジーや産業の進歩によって発展した、分かりやすい例といえる。

心房細動治療をひもとく

 心房細動治療については、大きく2つの軸で捉えられます。「心房細動そのものへの対応」と「脳卒中への対応」です。今回は前者にスポットを当てます。

◆ 心房細動にどう立ち向かうのか:「困らなければ放置」も1つの手段?

 心房細動の本質はその名の通り、心房の細動ですから、これを元に戻すためのリズムコントロールを目指すのが基本です。しかし一方で、「心房が細動しても、心室が適切な拍出を行えているなら置いておけ」という考え方もあります。もちろん、心房細動を根治できればベストですが、「治療してもすぐに元に戻ってしまう」「薬を使うと不整脈悪化のリスクが高まる」「脳卒中の頻度は変わらない」のであれば「放置」も選択肢になり得るのです。

 リズムコントロールとレートコントロールを比較したAFFIRM試験(2002年)では、両者間で患者の生命予後に有意差は見られませんでした8)。これを受けて、私が研修をしていた頃は「リズムコントロールをする人はセンスがないよね」との雰囲気が漂っていました。当時はデータに基づいて判断する文化が出来上がりつつあったので、こういった方針が比較的スムーズに受け入れられていましたが、演繹的に考える先生方にとっては、AFFIRM試験の結果すら、納得できないものだったのではないでしょうか。

◆ リズムコントロールの逆襲

 リズムコントロールが軽視される傾向にあった一方で、前述したハイサゲールらによる、心房細動のトリガーとなる期外収縮の大半が肺静脈起源であるとの報告をきっかけに、カテーテルアブレーションの技術革新が進みました。電位をより詳細に取得できるようになるなどの機器の改良に加え、合併症を減らす戦略や、術者の能力面での進歩には目を見張るものがあります。

 心房細動の発生基盤としての心房の機能と構造の再構築は心房リモデリングと呼ばれ、当初は「AF begets AF」、つまり心房細動が心房細動の原因となると考えられていました。心房リモデリングが進行すると、心房細動が誘発・持続されやすくなるため、発症から間もなく、心房リモデリングが少ない心房細動にはアブレーションを行い、リズムコントロールを目指す方針が現在ではスタンダードになっています。リズムコントロールは、低迷期を経て、飛躍的に成長したといえます。まだしばらくはリズムコントロールの時代が続きそうです。

 ただし、恐らくあと5~10年ほどで、心房細動の“治療しすぎ”が問題視され、虚血性心疾患と同じように、「薬物療法が基本だよね」とのスタンスに戻るのではないかと予想されています2024年の欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、併存疾患マネジメントなどの要素が強調され(詳細は「心房細動のモヤモヤに答えます」その2[4月1日公開]参照)、アブレーション一辺倒の脱却に向けた動きが徐々に進みつつあると感じています。心房細動治療の変遷は、テクノロジーの進歩に伴って現場がダイナミックに変わった分かりやすい例だといえます。

Gem of Advice

心房細動治療の基本は心房細動のマネジメントと脳卒中予防。・・・

 

[参考文献]
1)McGrath ER, et al. Neurology. 2013;81:825-32.
2)McIntyre WF, et al. Eur Heart J Open. 2022;2:oeac044.
3)Li YG, et al. Korean Circ J. 2018:48:665-84.
4)樗木晶子 心電図 2012;32:217-20.
5)Mizuno A, et al. Circ J. 2014;78:2774-5.
6)Mines GR. J Physiol. 1913;46:349-83.
7)Haïssaguerre M, et al. N Engl J Med. 1998;339:659-66.
8)Wyse DG, et al. N Engl J Med. 2002;347:1825-33.

 


「パルスフィールドアブレーション」〜心房細動に対する新しい治療法〜

2025年02月05日 06時38分52秒 | 心房細動

従来の心房細動に対するカテーテル・アブレーションは“電気焼却”でした。

簡単に云えば、「心房細動を起こす電気回路を電気メスで焼いて切り離す」治療法。

近年、“冷凍焼却”という方法が登場しました。

電気焼却を“火傷を作る”と捉えると、冷凍焼却は“凍傷を作る”イメージですね。

この分野は日進月歩で、どんどん新しい手法が開発されています。

その一つがパルスフィールド・アブレーション(PFA)で、有望視されています。

「治療部位(肺静脈出口)にパルスフィールド(電場)を形成し、熱によらない電気的隔離をする」

という説明なのですが・・・今ひとつピンときません。

PFAに関する記事が目に留まりましたので、紹介します。

<ポイント>

・ PFAシステムは、肺静脈の出口にカテーテルで電場(パルスフィールド)を形成して電気的に隔離することで、心房への異常な電気信号を遮断し、AFを治療するもの。

・PFA治療は、心筋が他の臓器よりも障害閾値が低いことを応用し、心筋だけを選択的に焼灼する電場を起こす。

・現在、標準的治療となっている熱アブレーション治療で課題となっていた食道損傷や肺静脈狭窄、さらには横隔神経の持続的な障害などの合併症リスクを低減することが期待されている。

記事を読むと「手技時間が従来法より短くなり、効果も長期間期待できる」とのこと。期待が高まります。

 

▢ 12万例超の手術で使われた心房細動の新アブレーション/ボストン・サイエンティフィック

2025/01/14:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ボストン・サイエンティフィック ジャパンは、心房細動(AF)の新たな治療法として期待されるFARAPULSE パルスフィールドアブレーション(PFA)システムを11月1日より全国で発売した・・・。
 AFの有病率は2030年には100万例を超えると予想され、わが国の医療現場でも迅速な治療が急務となっている。今回発売されたFARAPULSE PFAシステムは、肺静脈の出口にカテーテルで電場(パルスフィールド)を形成して電気的に隔離することで、心房への異常な電気信号を遮断し、AFを治療するもの。PFA治療は、心筋が他の臓器よりも障害閾値が低いことを応用し、心筋だけを選択的に焼灼する電場を起こすことが期待されている。これにより、現在、標準的治療となっている熱アブレーション治療で課題となっていた食道損傷や肺静脈狭窄、さらには横隔神経の持続的な障害などの合併症リスクを低減することが期待されている。
 本システムは、2021年の欧州での発売以来、これまで世界65ヵ国で承認・使用されており、12万5,000例を超える臨床使用実績を持ち、120以上の査読付き論文で有効性、安全性が示されている。また、手技時間の短縮にも貢献し、医療機関での効率改善と患者の負担軽減が期待されている。同システムは2024年9月26日に薬事承認を取得している。

▶ 手技時間の短縮で医師も患者も負担が軽減できる

 「心房細動アブレーションのGame Changer PFAへの期待」をテーマに、里見 和浩氏(東京医科大学病院 主任教授 病院長特別補佐 不整脈センター/心臓リハビリテーションセンターセンター長)が、実臨床での本システムの有用性などについて説明を行った。

・・・AFの検査としては、12誘導などの心電図、心臓エコー、心臓へのCT/MRIなどの検査があり、現在は薬物、カテーテルアブレーション、外科手術の3つの治療法がある。
 AFの原因となる部位の9割が肺静脈であり、この治療がスタートとなる。とくにカテーテルアブレーションが9万例施行されているが、そのうちの約7万例がAFであり、今後も増加が予想されている。
 今、カテーテルアブレーションでは、熱を使わない新しいエネルギーで心筋組織を選択的に焼灼できるFARAPULSE PFAシステムが登場し、使用できるようになった。実臨床では、手技時間が短く、だいたい30~60分で手技が終わり、長期間その治療効果は維持される。循環器内科や心臓血管外科を志望する医師が減少し、人員が満たない中で手技や手術の時間の短縮は、患者にも医師にもメリットがあると期待を寄せた。
 
▶ 全世界で約12万例超の有効性、安全性を実現したFARAPULSE PFAシステム
 「FARAPULSE パルスフィールドアブレーションシステムの概要」をテーマに同社のEP PFAマーケティングの伊藤 彰彦氏が、システムの内容について説明した。
 FARAPULSE PFAシステム(以下「同システム」と略す)は、短時間に電圧をかけパルス電界を形成することで標的部位の細胞に細孔を形成し、細胞に内容物がこの細孔から排出されることで、非熱的に細胞死を引き起こして治療する。従来の熱アブレーションと比較し、心筋組織に選択的に影響を与え、近接組織への影響を避けることができるメリットがある。
 パルスフィールド アブレーションは、熱アブレーションと同等の有効性、安全性を保ちながら、従来のアブレーションで懸念される食道関連合併症や肺静脈狭窄、持続的横隔神経障害のリスクを低減し、より効率的な治療を提供することが期待されている。また、同システムは、すでに12万5,000例の実臨床経験において、有効性、安全性、効果の持続性を確認しており、独特な形状(最大花が咲いたような姿)をしたカテーテルはさまざまな患者の解剖に対応する。シンプルかつスムーズな手技ワークフローは、迅速かつ再現性の高い手技を提供する。
 同システムの製品構成は3つから成り、カテーテルは手元で先端部が可変でき、360度アブレーションができる。スティーラブルシースは目的部位へ簡単に誘導することができ、ジェネレータはシンプルな構造で操作も単純化されている。
 最期に臨床試験で実施された“ADVENT Study”について説明した。本試験は、発作性AFにおける同システムの有効性と安全性を高周波アブレーション(RFA)/クライオバルーンアブレーション(CBA)と直接比較した無作為化臨床試験で、同システム群305例とRFA/CBA群302例(RFA群167例/CBA群135例)を検討した。その結果、安全性、有効性ともにRFA/CBA群と比較し、非劣性だったことが検証され、手技時間、左房滞在時間、アブレーション時間ともに同システム群のほうが短時間だったが、透視時はRFA/CBA群のほうが短かったことを説明し、終了した。