倒産回避コンサルタントからの救命ロープ

倒産回避コンサルタント・中逵努のブログです。
恩師村松謙一弁護士ご本人のブログではないことを予めご了解ください。

厳しい経済環境だからこそ今一度このメッセージを

2009年01月29日 | 企業再建について
コラムの著作権は村松弁護士本人に帰属します。
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。


日刊帝国ニュース 1999年11月15日
弁護士ウォッチング  弁護士 村松謙一

金融機関よ、モラルを回復せよ

銀行法第1条は、「この法律は、銀行の業務の公共性に
かんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保すると
ともに、金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ
適切な運用を期し、もって国民経済の健全な発展に
資することを目的とすることを銀行の第一の使命と
することを明確に謳っている。

然るに、最近の金融機関のモラルの低下は甚だしいものが
ある。最近、とかく話題の商工ローンに対する融資も
然り。商工ローンの取立てが弱者たる借り手、保証人の
社会的生命を抹殺しかねない状態にあったことは、
貸し手たる金融機関の耳にも当然入っていたはずである。
社会的弱者を救済することこそ、公共性質を有する
金融機関の使命だったはずではないか。

もちろん、適正かつ取引先企業の経営を圧迫しないような
配慮をもって取引を継続している良心的銀行も数多く
見られるものの、一部の心無い金融機関(担当者)の
違法・不当とも思える行いが、時には人の命を奪って
いる現実から、決して目をそらしてはならない。

例えば、最近私は、そんな相談を受けた。
関西に本店を置く都市銀行の若きエリート社員であり
ながら、取引先の企業の資金繰りが悪化して、返済が
滞りがちになるや、60歳を越えている当該企業の
社長に対し、「数億円の生命保険を掛けて下さい。
加えて、死亡時の生命保険の請求権に、当銀行を
質権者とする質権を設定させてもらいます。
毎月の生命保険の掛け金を滞ることなく、必ず
生命保険会社に支払ってください。」

なんのことはない、社長の命と引き換えに借金の
返済を迫るのと何ら変わらないのではないか。
ここでは「人の命」と「お金」が全く同じ価値と
みなされているのである。

今日の大学や一流企業では、「お金」は「命」よりも
重いとでも教えているのだろうか。
ただでさえ当該会社は、毎月の資金繰りが苦しいのに
更に加えて毎月50万円に近い生命保険の掛け金を
払うのも相当にしんどいはずである。
これは、住宅ローンを組むにあたり、団体信用保険の
生命保険をセットすることとは全く次元が異なるので
ある。

この場合は、残された妻子の生活のために、住宅ローン
負債を帳消しにする目的があるが、前述のそれは、
この観点は全くなく、単に一企業としての「貸金回収
目的」以外のなにものでもないからである。
そこには、残された者の生活の安定を願う気持ちは
これっぽっちも見られないのである。

私は、件の相談者にこう回答した。
「今日のその筋の人でも、病気で寝ているご老人の
ふとんまではがして持ってはいかないですよ。
生命保険を盾に取るなんて、早く死んでくれた方が
助かると言っているのと同じじゃないですか。
そのような人の命をおもちゃにしているような
金融機関の指示に従う必要は一切ありません。
毎月の50万円の生命保険の掛け金は直ちに
やめて下さい。生命保険会社から解約されたって
いいじゃないですか。
毎月5万円前後の生命保険に掛け直して、自分の
老後か、奥さん、お子さん達の生活資金にして
あげて下さい」

会社再建のために金融機関と数多く交渉していると、
金融機関のモラルの低下というだけですまされない
犯罪行為すれすれの対応が目につくこともしばしばで
ある。

借り手側にあたる経営者の方々も、人間として問題に
なる行為には、絶対に目をつぶらないで欲しい。
返済が滞ったら、直ちに悪人になると誰が決めたの
だろうか。
一生懸命に返済しようとする姿勢こそが、人間として
一番大切なものではないだろうか。

このことだけは忘れないで欲しい。
どんなに大きな借金でも、マイナスにはならないと
いうことを。例えば、資産が10億円、それに対し、
借金が100億円あったとする。
単純に考えれば<10-100=マイナス90億円>
となりそうだが、法律上は、免責なり、償却なり、
放棄なりの手続きで、結局、借金はゼロとなって
しまうのである。
マイナスからでなく、ゼロからもう一度出発できる
のである。資産のない人からの回収は、コストのみ
かかるだけでどんなに優秀な弁護士でも不可能
なのである。

これに対し、失ってしまった命は、二度と再び元には
戻らないということを、決して忘れないで欲しい。
残された遺族の悲しみも永久に消えはしない。

追加担保の要求に対して

経営が悪化し、資金繰りが苦しくなって、金融機関に
条件変更のお願いをすると、中には、「親会社や
スポンサー会社の側で、担保を提供して欲しい。
そうでなければ、条件変更は受け入れなれない」と
木で鼻をくくった対応を示す金融機関があった。
金融機関としては、決していやがらせのつもりでは
なく、内部のマニュアルに書いてある当然の行為と
認識してのことであろう。

それはそれで理解できるのであるが、ちょっと
待って欲しい。
破産法第375条に「過怠破産罪」という規定がある。
この規定に違反すると、「5年以下の懲役または
30万円以下の罰金」という恐ろしい規定である。

その中の第3項に、「破産の原因たる事実あることを
知るに拘らず或る債権者に特別の利益を与うる目的を
もってなしたる担保の供与又は債務の消滅に関する
行為にして、債務者の義務に属せず又は、その方法
若しくは時期が債務者の義務に属せざるもの」と
規定され、当該企業の破産宣告が確定した時は、
5年以下の懲役等が待っているのである。

これは、破産状態時のような経営危機時、混乱時
には、全債権者のために公平・公正性が強く要求され、
そのうちの一債権者にのみ有利となるような抜け駆け的
担保設定や偏頗(へんぱ)返済などを禁止して財産の
散逸を防止し、全債権者に公正性を確保するための
規定である。

もう一度、当該金融機関にこの規定の存在を申し出て、
当該金融機関の申し出がこの規定に違反していないか
どうか、抜け駆け的担保設定ではないか、抜け駆け的
弁済(但し、本旨弁済は除く)ではないかなどと、
金融機関担当者、支店長と十分に協議した上で、
担保設定を考えてみて欲しい。

私の経験では、金融機関の要求のうち、義務なき
行為が見つかり、この規定の存在を金融機関の
支店長によく説明したところ、その後は、担保の
話はなくなって、スムーズに条件変更の話が
まとまった例もないわけではないことも付言
しておこう。


追記
金融機関には最後まで返済を続けた挙句、資金繰りが
行き詰まり破綻する企業が続出しています。
返済低減を金融機関にお願いするためには、経費
削減などの企業努力をしても、この程度の返済しか
できないという数値化した資料の提出が不可欠です。
逆に言えば、数値化された計画を出さずに、口頭で
お願いしますというような返済猶予を求めても、
金融機関としては協力のしようが無いというのが
実情です。
端的に言えば、金融機関との交渉は、言葉ではなく
数字で行わなければなりません。
金融機関への返済さえ低減できれば、息を吹き返す
中小零細企業はたくさんあります。
そのような企業の再建を精一杯応援しますので、
どんな些細なことでもお気軽にご相談ください。

無料相談はメールでお願いします。
メールアドレス: consul-n@goo.jp
中逵(なかつじ)努








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連鎖倒産回避方法9

2009年01月23日 | 企業再建について
緊急報告
恩師の村松謙一弁護士が出演された
「プロフェッショナル 仕事の流儀」が
1月27日にNHKで再放送決定! 
~どん底の会社よ、よみがえれ~
末期ガン企業をも救う再建弁護士の人間愛溢れるドキュメント


コラムの著作権は村松弁護士本人に帰属します。
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。


日刊帝国ニュース 1999年10月18日
弁護士ウォッチング  弁護士 村松謙一

「債権譲渡の対抗要件に関する民法特例法」
2)この特例のメリット
従来から債権保全の一つとして、取引先が持つ第三者に
対する売掛金につき、予め債権譲渡契約を締結し、
更に対抗要件として、取引先より債権譲渡通知書を
徴収していたが、この通知書を第三債務者宛に
発送しなければ、債権者間の対抗要件具備とはいえず、
かといって、右の通知書を発送してしまえば、取引先の
信用力が低下し、逆に取引先の経営危機の引き金を
引く事態も予想されるため、この債権譲渡通知書は、
債権者にとり、逆に困った存在であった。

実際、会社更生事件において、通知書の発送なき債権者の
対抗要件否認の事例が相次いでだされている。
この点、この特例を使えば、第三債務者に知れることなく、
債権者として取引先の第三債務者に対する売掛金の
対抗要件を具備できるメリットがあるのである。

3)この特例の活用方法
①具体的には、げんざいのところ、取り扱い登記所と
しては、東京法務局に限定されており、債権譲渡登記
(法5条)質権設定登記(法10条)等については、
譲渡人及び譲受人(或いは、質権設定者、及び質権者)
の双方申請によることになっている。

注釈:債権譲渡に関しては本コラムが執筆された当時から
さらに合理的なシステムへと進化しています。
平成17年10月3日に「債権譲渡の対抗要件に関する
民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律」
(平成16年法律148号)が施行され,債権譲渡登記制度に
ついては,企業が有する資産を有効に活用し,更なる資金調達の
円滑化・多様化を図るため,債務者が特定していない将来債権の
譲渡についても登記によって第三者に対する対抗要件を備える
ことが可能となりました。

詳細については、下記法務省のHPをご覧ください。

債権譲渡登記制度について
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji13.html#2

②提出書類としては、登記申請書及び法務省令で定める
構造の磁気ディスクによって行わなければならない。
(令7条1項)

③申請書には、登記の目的、申請人の住所・氏名
(代理人も同じ)、手数料、年月日、登記所の
表示を記載する必要があり、磁気ディスクには、
更に債権譲渡当事者の数、債権譲渡に係る債権
(質権の目的とされた債権)の個数、登記の存続
期間(原則として、50年以内)等を記録しなければ
ならない。
特に、将来債権については、債権の発生年月日を
始期及び終期で表示する必要があり、債権額に
ついては、登記申請時における見積額を記載する
ことになる。

④申請のための添付書類としては、譲受人は、住民票
(個人)或いは資格証明書(法人)、譲渡人は、
資格証明書及び印鑑証明書(但し、3ヶ月以内のもの)
が必要である。
これらの登記制度を大いに活用して、売掛金の
焦げ付きによる連鎖倒産をガードすべく心掛けて
もらいたい。

倒産回避に向けて全力でアドバイス差し上げますので
ご相談はメールにてお願いします。
連絡先
consul-n@goo.jp

中逵 努(なかつじ つとむ)

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私の実体験 

2009年01月19日 | 私の体験
緊急報告
恩師の村松謙一弁護士が出演された
「プロフェッショナル 仕事の流儀」が
1月27日にNHKで再放送決定! 
~どん底の会社よ、よみがえれ~
末期ガン企業をも救う再建弁護士の人間愛溢れるドキュメント


コラムの著作権は村松弁護士本人に帰属します。
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私の体験
サンデー毎日 2005.8.14号
再建専門弁護士・村松謙一弁護士の特集記事
会社、蘇生します -「再建」弁護士が行く -
第3回 会社清算の経験を「第二の人生」に生かす
ノンフィクション作家 石村博子氏著

再建指導弁護士・村松謙一氏は、危機に陥った
会社を甦らせるのは、何としても立ち直ろうとする
経営者の熱意であるという。どん底をかいくぐった
元経営者が、今度は危機にある会社を救う側に立つ。
人生をリセットした彼が伝えるものは「諦めるな、
私はここにいる」という伴走者としての呼びかけ
である。

 午前10時、店が開くのとほとんど同時に、2台の
トラックが横付けになり、男たちが入ってきた。
 大阪市西成区にある酒専門の大型ディスカウント
ショップ・オーナー中逵努さんに、消費税滞納による
差押が告げられる。弁解する間もあらばこそ、8人の
国税庁の税務官たちは整然と数珠つなぎとなり、
ビールケースを手渡しでトラックに積み込み始めた。
酒店から酒がなくなれば今日にも店は潰れてしまう。

 南無三、という気持ちで電話をかけると、週の半分
は地方に出かける村松謙一弁護士は、事務所にいて
くれた。
「ぼくが説明するから、担当者を電話に出して」
 が、税務官はその必要などないとつっぱねる。
「じゃ、ぼくのいうことをそのまま伝えて」
 ここから東京ー大阪間の遠距離で、電話による
口伝えという綱渡り的な法的攻防戦が行われるので
ある。
「先生は条文を確かめたり、税理士に問い合わせたり、
そのたびに電話をかけてくれました。でも税務官は
高圧的で、このまま倒産しても構わないというんです」

 事態が急転したのは、昼を相当回ってから。
譲渡担保権の設定が国税の納付時期よりも前になされて
いるとの証明文書が、中逵さんの手元にあることが
分かったのだ。それが証明されれば、商品は中逵さんの
ものではないことになる。
「今後の差押は劣後することをはっきり言ってください。
強制すれば取り戻しの裁判をやりますよと」
 ここで税務官ははじめて動揺した様子をうかがわせた。
夕刻、いったん商品は戻すとの決定が下ろされる。
8人の国税庁員は、憮然とした表情で黙々と、トラック
に積み込んだ商品を、また元の場所に戻しにかかった
のである。まるで白昼夢のような光景。後日、この一件
は債権回収場面のギリギリの攻防戦として、国税庁
内部でも話題になったという。

 間一発で倒産を免れたこの事件は、03年11月の
こと。が、それまでの8年間、もうだめだと思った
ことが何度あったことか。
 この事件の翌年、中逵さんは祖父母の代から続いた
酒屋の幕を閉じ、第二の人生に向かうことになるのだ。
「地獄を見た経験を活かせば人を勇気付けられるよ」
という村松弁護士の言葉に力づけられ、倒産に怯える
人を助ける側に回っていくのである。

 ある意味で中逵さんは、時代の波ともろにぶつかった
人である。
最先端の並行輸入で得た資金と勢いをもとにして、
西成区に敷地150坪、3階建ての大型店をオープン
させたのは91年、弱冠28歳のときだった。全国的
にも珍しい酒専門の大型ディスカウントショップに、
人々は殺到した。
勢いに乗り、尼崎にもさらに充実の2号店を立ち上げる。
オープンしたのは94年12月2日。銀行からの融資
は、2店あわせて13億円にも及んだが、中逵さんは
強気に構えた。どちらも千客万来で、大量の商品が
あっという間にさばけていく。広い高級マンションに
住み、BMWを乗り回す日々。が、一抹の不安はない
ではなかった。借金の上に建つ砂上の楼閣が、時折
すうっと姿を見せた。

絶望の淵で出会った”一冊の本”

 若き経営者の夢を砕いた一撃は、95年1月17日に
起った大震災だった。棚のすべては倒壊し、床は一面
酒の海に化している。涙も出ないと立ち尽くすなか、
まだ地震保険に入っていなかったことを思い出す。
 大阪の店は無事で、被害の尼崎店も2週間後には再開
となった。が、人々は酒どころではない。客足は遠のき、
少し落ち着き始めたところで競合店が現れて、売上は
一気に4分の1にまで落ち込んでしまう。
 それからはジェットコースターで下るようだったと
いう。月数千万円という、銀行への返済が重くのし
かかる。営業利益が伸びぬなか、手持ちのお金を
かき集めて支払いに充てるような日に追い込まれて
いったのである。
 銀行への返済はどうしてもしなければならない。
従業員の給料も絶対に遅らせることは許されない。
乏しくなる資金は勢い仕入れに影響し、棚はすかすか、
倉庫は空っぽ。店としての体はなさなくなるのだった。

 親戚たちから担保の提供も受けた。が、96年も
半ばになると、自分の給料もだせないくらいになって
くる。公共料金も払えず、短期間だが、自宅の電気も
ガスも止められた。家に戻ると、ろうそくの前で妻が
独り泣いている。胸が潰れる思いだった。
 八方塞がりのなか、中逵さんはしばしば自分の身体が
炎に包まれている夢を見たという。それが自殺の思いに
つながっていることを知り、愕然とする。本当に何度
そう思ったか分からないのだ。
 96年7月、1億円近い手形の決済を控え、弁護士の
ところに相談に行くと、自己破産しかないというのだ。
死刑宣告を受けたように頭の中は真っ白になる。
 ふらつく足どりで、それでも駅前の書店に立ち寄った
のは、今では偶然とは思えない。ぼうっとしたまま
眺めていくと、飛び込んできた本があった。
村松謙一著「こうすればゼッタイ倒産しない(株式・
有限)会社になる」。タイトルに惹かれ、数ページ
めくっているうち、抜け殻の身体に電流が走った。
「会社を再びよみがえらせることこそが”正義”なの
です」とのメッセージに震え、その場に突っ立ったまま
最後まで読み通し、家に戻ってまた3度続けて読み
返した。

「満身創痍の状態で東京の事務所に駆け込んで、先生の
笑顔を見たとき、やっと人心地ついたと思えました。
で、こちらの資料をばーっと見ると、開口一番”今まで
よく頑張ったね”と言っていただいたんです。思わず
涙が溢れました。」
 村松弁護士はさらに続けた。
「この状態なら倒産しないよ。君は若くて、やる気が
みなぎっているじゃないか」

実際は店に行くと、商品はポツポツ、埃は目立つという
痛ましさだ。しかし酒屋という既得権、現金商売の強み
に加え、手形は振り出していない、何より33歳の若さが
村松弁護士に一肌脱がせる気持ちにさせたのだった。
 96年8月、村松弁護士と一緒に金融機関の担当者と
会う中逵さんの心臓は、音が聞こえるほど高鳴っていた。
まるで刑期を聞く囚人の気分だ。銀行の担当者は、硬い
表情を露にしている。
「弁護士さんが?何しに来たんですか?」
警戒する相手に、村松弁護士は中逵さんの会社の窮状を
率直に伝え、「ですからしばらく返済できません。一時
停止をお願いします」と理路整然と訴えた。
「そんなこをするんじゃ、会社を競売にかけますよ」

競売になったら一巻の終わりだ。中逵さんは息が止まる。
間髪入れず、村松弁護士は言ってのける。
「いいですよ。どうぞ競売してください」
うっとつまる担当者。
「ボク、それ聞いていて、オシッコちびりそうになり
ましたわ」

法律に精通した経営者を目指し

外に出て驚嘆する中逵さんに、村松弁護士は諭すのだった。
「競売は銀行にとっても最後の手段だし、決して怖いもの
じゃないですよ。今のあなたのやるべきことは、在庫を
増やすことです。命のお金を今は一円たりとも銀行に
払ってはいけません」
大口の取引先も、弁護士が来たと仰天する。
村松弁護士は事業計画書を差し出すと、滞っている仕入れ
金は銀行より優先して返していくことを確約し、中逵さん
と一緒に頭を下げる。
すると最初は感情的だった相手も、次第に取引再開に
応じる意向を見せてくれるのだった。
返済先を一緒に回りながら、中逵さんは奥から沸き立つ
ものを感じだす。中逵さんは法学部の出身である。
大学時代は無味乾燥の言葉の連なりにしか思えなかった
条文の数々が、こうして自分を守り、人を動かし、現実と
したたかに落としどころを探りあうものとして機能して
いる。
これ以後、中逵さんは法律の勉強を始めるのである。
金融機関側の理屈を知るため、家族や従業員を説得する
ため、時折襲う底知れぬ不安や罪悪感につぶされない
ため・・・。
手元から専門書を離さず、わずかの間隙を縫っては読み、
少しずつ少しずつ理解を深めていった。
その日々は、今の中逵さんの腰骨を作ることになるので
ある。
「ぼくのやり方をよく見ておきなさい。自分の会社を
立て直すこともできるし、他の人の相談に乗ることも
できるようになるから」
村松弁護士も、中逵さんが法律に精通する経営者になる
ことを期待した。

銀行の返済をストップし、支払いも分割にしてもらい、
村松弁護士の協力を得ながら、店は少しずつ立ち直って
きた。空っぽだった倉庫にも、ビールケースがいっぱい
積み込まれる。
が、競合店は増える一方で、売上は全盛期の数分の一と
いうところで伸び悩み続けた。

99年、銀行返済のため自宅を競売。移った先は、4畳半
が三部屋という家賃6万円のささやかな借家だった。
ほとんどの家具はマンションに残してきた。
「引っ越したときはほっとしました」中逵さんはしみじみ
そう言う。
「これが自分の収入にあった本当の暮らしだ。今の自分を
正直に見せている家だと」
奥さんも「やっとこれで落ち着ける。狭くても安心だね」
と、肩の荷を下ろしたようにつぶやいた。
「村松先生にも報告しました。そうしたら、モノはなくても
生きていける。命さえ無事で、事業が残ればいいと言って
くれました」
01年、今度は店の競売を銀行から要求される。
「それでも諦めちゃダメだ」と村松弁護士は叱咤する。
「知ってる人に落札してもらって、人から借りながらやれば
いい」
尼崎の店は完全に手放したが、大阪の店は村松弁護士の指示
どおり、知人に売って、賃貸で店を続けていくことになった。
もうこの時期は、法的な理解も深まって、無闇な不安に襲わ
れたりはしなかった。

03年から売上がまた少しずつ落ち始めた。
酒類販売免許の規制緩和はさらに進み、免許制から届出制
へと変更になる。
とっくに、酒はスーパーでもコンビニでも、手に入るように
なっていた。ディスカウントショップの使命はもう終わった
のかもしれない----。

消費税滞納の騒動が起ったのは、そんな時期だ。中逵さんは
腹を固めた。だましだまし続けるよりも、新天地で頑張った
ほうがいいのではないか。
40歳。まだ切り替えはできるはず。

04年7月。ついに閉店。
そして会社は清算した。十数年に及ぶ長い闘いだった。
ボロボロに打ちひしがれたなか、二人の娘の寝顔を見ている
うち、以前村松弁護士に言われた言葉が甦った。
「君は倒産の淵に立っている人の気持ちが誰より分かるから、
コンサルタントにもなれると思うよ」

倒産回避の専門家として活動を

現在、中逵さんは都内に単身赴任。大手コンサルタント会社
の企業再生コンサルタントとして、不況に苦しむ中小企業の
再建の活動を行っている。
不渡り確実を訴える企業からのSOSがあれば、全国どこに
でも飛んでいく日々。村松弁護士から伝授された人間救済の
流儀にのっとり、金融機関とも対等に渡り合う。
絶望的な気持ちを訴える経営者に、中逵さんは自分を体験を
さらけ出す。
「大丈夫です。そんな目にあった私でも今、ここにいるん
ですよ」
一念発起して今の会社に応募したとき、村松弁護士は
心からの推薦状を提出してくれた。
”企業再生を通じて人のお役に立てることに、彼としての
人生の役割を見出すべく・・・・”。
そして04年11月から倒産回避の専門家として動き始めた
のである。
「泥沼を這いずるような日々の中で、分かったことが
ひとつあります。人間は、失敗するから人間なんだという
ことです」
深夜、ときおりケータイが鳴る。
不安に襲われた経営者が、たまらずかけてくるものだ。
「中逵さん。食も喉を通りません。私は周囲の人たちに、
罪を作っているんじゃないでしょうか」
過去の自分に向き合いながら、中逵さんは答える。
「あなたが今、精いっぱいされていること。それが
あなたにとっての良心なんです、あなたは力の限りに
走っている。私はあなたが精いっぱい走ろうとする限り、
とことんお手伝いするつもりです」

連絡先
consul-n@goo.jp

中逵 努(なかつじ つとむ)









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連鎖倒産回避方法8

2009年01月14日 | 企業再建について
緊急報告
恩師の村松謙一弁護士が出演された
「プロフェッショナル 仕事の流儀」が
1月27日にNHKで再放送決定! 
~どん底の会社よ、よみがえれ~
末期ガン企業をも救う再建弁護士の人間愛溢れるドキュメント


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日刊帝国ニュース 1999年10月18日
弁護士ウォッチング  弁護士 村松謙一

3)債権譲渡と債務引き受けによる相殺処理
又、取引先の危機を感じたら、売掛金の債権譲渡契約と
「貴社に対する○○月分の売掛金○○○円は、今般、
○○社に譲渡しましたので、今後のお支払いは、
○○社の方にお願いします」旨の内容証明を
書いてもらって受けておくと、万一の場合助かる。

但し、債権譲渡は、上記の債権譲渡の通知を第三
債務者に実際に出しておく必要があり、他面、
この通知を出すと、会社が混乱しているのが
第三債務者に分かってしまい、今後の取引に影響が
生ずるので、何とか出さないでおきたいとの思いが
衝突する。

そこで平成10年(98年)10月より、後述の
「債権譲渡の対抗要件に関する特例法(登記制度)
」が施行されているので、この制度を債権保全の
手段として活用してみてほしい。

4.債権譲渡の登記制度の効果的活用方法
貸し渋り、融資の強制的回収による資金詰まりも
さることながら、せっかく自社は順調に営業し、
売上高も何とか前年比を維持していながら、
取引先の倒産により売掛金が焦げ付いてしまう
いわゆる連鎖型の倒産が急増している。

中には、直接の取引先は順調なのに、更に先の
取引先が倒産したために、順繰りに資金不足と
なり、倒産に至るドミノ倒し型倒産もよく見受け
られるようになった。

こうなると、直接の取引先に対してのみ監視・
チェックをしていても、防ぎようがない。
ただ言えることは、売掛先の倒産、焦げ付きに
対して、あまりにその保全に無防備の会社が
多すぎるということだ。

1)この特例の意義
そもそも、売掛金をガードするための「基本
売買契約書」すら締結せずに、単純な注文書、
納品書で売買形式とする企業が大半である。

ところで、取引先に不動産等のめぼしい資産が
ない場合、或いは、あっても既に根抵当権等が
先順位で設定されていて余剰のない場合等に、
債権譲渡の方策が、債権保全の有効な手立てと
なる。

但し、債権譲渡の対抗要件としての通知、或いは
承諾のみでは、債権の譲渡先が重複して混乱を
生じさせたり、第三債務者に通知を出さなかった
りする弊害が少なからず生じていた。

これらの弊害を改善するために、債権譲渡の
「登記制度」が平成10年10月より施行されて
いるので、この制度を債権保全手段として、
より活用してみてはいかがだろうか。

~ 次回につづく ~

■売掛金担保融資について

日本の金融機関に対して、いわゆるBIS規制
導入を契機として、邦銀は融資判断をそれまでの
不動産担保等にウエイトを置いた融資基準から、
自己資本比率や返済原資に見合った融資基準へと
融資判断を変化し、取引企業の格付け評価に
見合って融資額などを決めるシステムが現在
導入されています。

約束手形による決済の場合であれば、手形割引に
より決済日以前の資金化が可能でありましたが、
かつては現金決済の売掛金を決済日前に資金化
する仕組みはありませんでした。

そのような状況では、運転資金を金融機関から
調達して資金繰りを維持することになり、運転
資金を調達すれば、短期債務が増加してバランス
シート(貸借対照表)が重くなり、金融機関の
格付けに影響するという矛盾が生まれました。

そこで、その矛盾を解消するために、流動債権
である売掛金を担保に融資を受けることで、
自己資本比率を低下させずに、運転資金を確保
する売掛債権担保融資が徐々に浸透し始めています。

倒産回避の場面では、資金繰りを維持するために
売掛金担保融資を活用する機会も多いですが、
万一民事再生などの法的手続きを申し立てることに
なった場合、運転資金の確保に大きな影響が
及ぶ可能性があるので、綿密な事業計画および
資金繰り計画に基づいて売掛金担保融資を活用
する必要があります。






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連鎖倒産回避方法7

2009年01月08日 | 企業再建について
緊急報告
わが恩師の村松謙一弁護士が出演された
「プロフェッショナル 仕事の流儀」が
1月27日にNHKで再放送決定! 
~どん底の会社よ、よみがえれ~
末期ガン企業をも救う再建弁護士の人間愛溢れるドキュメント


コラムの著作権は村松弁護士本人に帰属します。
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。


日刊帝国ニュース 1999年10月4日
弁護士ウォッチング  弁護士 村松謙一

私が一番着目する箇所は、長期、短期合計借入金の推移と売上高の
比較である。

1)借入金の月商倍率
例えば、売上金に対し、長・短期合計借入金の額が10ヶ月分を
越えているようだと、倒産の可能性が高くなる。

2)過剰返済
税引き後当期利益と、減価償却費の合計額が500万円として、
その年の実返済額が2000万円であったとしたなら(例えば
前年借入残高合計9億円、本年借入残高合計8億8000万円)、
以下の点を推論してみる必要がある。

ア、預貯金を1500万円取り崩しているか、
イ、社長貸付として1500万円が新たに加わったか、
ウ、一部の取引先に対し、未払金1500万円を計上したか、
いずれにせよ、過剰返済のしわ寄せがいずれやってきて、
資金繰り倒産の危険を含んでいるとか、
エ、逆に、その年の実返済額は500万円なのに、新規の
借り入れが増加しているなら、金融機関からの借り換え、
手形の切り替えで返済を調整しており、万一、金融機関との
関係が壊れた場合は、直ちに返済を迫られ、同じく資金ショートに
陥る危険性が高い、等々が分かるはずである。

それにより、見かけ上は、売上高や社歴などで立派に見える会社で
あっても、その内実は相当に苦しいだろうな、火の車ではないかと
いうことを考えて取引に臨めるものである。

3.売掛金などの債権を担保化しておく
例えば、先に納品して、後日売掛金を請求する場合などは、
そのままでは、一般債権の扱いとなり、破産などでは、ほとんど
配当が見込めない。

1)所有権留保
本来なら、取引に入る前に「基本取引契約書」を作成して、万一の
場合の優先弁済や商品の返品を特約として明確に記載しておくことが
肝要であるが、やはり力関係上、契約書の取り交わしができない
場合も多数存在する。

そこで、せめて納品書や注文書などに印刷文字で、「本品の代金が
支払われるまでは、本品の所有権は当社にあるものとします」と
記入し、受取主の署名、捺印をもらって、その承諾の証としておく
のも一つの方法である。
私が関与した再生手続きでは、店頭商品につき、「売上仕入方式」を
とり、仕入商品を確保した経験がある。

2)契約の失効、返品処理
「破産や不渡りの場合は、本契約は当然に失効し、所有権留保の
商品は直ちに返品します(取り戻します)。又、当方も貴社
(破産会社)に対し、当社に商品が返品されるため、当該商品代金の
請求はしません。」などの奥書を記しておくと、万一の場合、現品の
取り戻しに効力を発揮する。

~ 次回に続く ~
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手形の買戻しについて

2009年01月04日 | 企業再建について
明日から仕事始めという会社が多いと思いますが、
不幸にも取引先が倒産してしまったなどの理由により、
手形の買戻しを金融機関から求められた場合は、
まず自社の資金繰り状況を確認した上で、結論を出して
いただくことが連鎖倒産を防ぐための重要ポイントです。

手形買戻し資金を拠出後、倒産防止共済などから
資金手当できる目処が立っているような場合はともかく、
買戻し資金拠出後の資金繰り目処が立っていない状況で
手元資金が流出してしまうと確実に連鎖倒産することに
なってしまいます。
かと言って、金融機関に相談したところで、手形を早急に
買い戻してくださいとキッパリと言われてしまうケースが
多いと思います。

このような場面こそが、元旦に書かせていただいたように
自分の会社は自ら守るという行動が必要になる場面です。
取引先の倒産により突然窮状に陥ってしまったような場合、
「当行は返済を待ちますよ」というような返済条件緩和の
提案が金融機関より持ち出されることはありえません。

このような状況の中でどうすれば良いかというと、
まず手形買戻しを実施し、従来の借入金も約定通り返済
した場合の約定資金繰り予定表を作成します。
約定資金繰り予定表上で資金繰りショートが予見される
場合は、この約定資金繰り予定表をベースに資金繰りを
維持するために必要な改定資金繰り予定表を作成します。

つまり約束通り返済してしまうと資金繰りが破綻してしまう
ので、連鎖倒産を回避するためには、このようなペースで
返済せざるをえないというシュミレーションに基づいて
金融機関に協力を仰ぐというのが最善策です。
金融機関に協力を仰ぐためには、数字の根拠をもって説明
する必要があります。
資金繰りが苦しいとどんなに口頭で説明しても、金融機関の
協力を得ることはできません。逆に言うと、数字の根拠のない
協力要請には、協力したくてもできないというのが金融機関の
立場です。
金融機関に対しては、自社の窮状を数字で訴えて協力を仰ぐ
ことが不可欠です。
金融機関に窮状が知れることを恐れず、むしろ窮状を伝え、
その上で確実性のある計画を説明して金融機関の協力を仰ぐ
ことが大切なのです。





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謹賀新年

2009年01月01日 | 企業再建について
謹賀新年。
新年明けましておめでとうございます。

企業の内部から再建を図るターンアラウンド業務に
集中していたため、昨年はブログの更新ができません
でした。
ターンアラウンド業務がひと段落付く目処が立ちましたので、
本ブログを再開させていただきます。

サブプライム問題に端を発し、リーマンブラザーズの
破綻した2008年9月以降世界経済が急速に失速し、
国内大手企業においても派遣切りなどの雇用不安により
先行きに暗雲が立ち込めた状況での新年となりました。

周囲の金融機関担当者からは1月5日を迎えるのが怖い
というような意見も聞こえる中で、一件でも中小零細企業の
倒産を回避することに役立てればとの思いを込めて、恩師の
村松謙一弁護士のコラムのご紹介や、倒産回避のための
現場の実例などをお伝えさせていただきたく思います。

中小零細企業の実態として、会社の存続と社長様ご家族の
生活が直結しているだけでなく、従業員の方々の生活基盤
をも支えていることから、中小零細企業の倒産回避に役立つ
事例をできるだけご紹介させていただきたいと思います。
また会社が緊急事態にあるような場合は、メールでの相談も
可能な限り受け付けていますので、consul-n@goo.jp まで
お願いします。

会社や自分たちの生活は自らの手で守る時代です。
1件でも多くの会社が倒産回避を実現して、それぞれの家庭に
笑顔が戻ることを願っています。











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