倒産回避コンサルタントからの救命ロープ

倒産回避コンサルタント・中逵努のブログです。
恩師村松謙一弁護士ご本人のブログではないことを予めご了解ください。

金融機関には正直に窮状を訴える 4

2006年05月16日 | 企業再建について
しばらく投稿できず申し訳ありませんでした。
せめて週に1度は更新できるように頑張りますので
これからもこのブログに立ち寄っていただければ
有難く思います。

以前から何度か説明しているように、倒産回避に際して
金融機関に正直な現状を打ち明けることが大きな
ポイントです。さらに言えば、例えばご自身の年金まで
返済に充てているような場合は特に配慮が必要です。

人間の生存権を脅かす意味もあり、年金の差押は基本的
には認められないほど本来法的に保護されているものですが
年金からの任意での返済は個人の自由行為として認められて
います。つまり年金での返済を本来強要できるものでは
ないのです。

だからもし任意で年金を返済原資に充てているような方が
いらっしゃれば、年金部分を除いた資金繰り表を一度
作成して金融機関に交渉するのが大きなポイントなのです。



コラムの著作権は村松弁護士本人に帰属します。
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。


99年8月9日 日刊帝国ニュース
弁護士ウオッチング  弁護士 村松謙一

信用不安の回避=倒産の回避(下の2)
第7 金融機関側として、取引先会社の再建に
   協力るべきか否かのメルクマール(指標)

1.資金繰り表(約定資金繰り表と変更資金繰り表)
 金融機関側としては、まず会社の現状を正確に
把握し直す必要があります。
 なぜなら取引先会社が、金融機関に会社の窮状
を知れれまいとして、早晩資金不足に陥ることを
承知で、せっせと約定返済を続け、その内実は
かえってますます資金繰りが悪化しているという
例は枚挙にいとまがないからです。

 そこで、現在の当行に対する返済額を全債権者に
対する返済に置き直せば過剰返済であり、このまま
の返済を続けていると早晩資金ショートして、
ひいては、手形不渡り倒産、従業員の給料未払い、
信用不安等、経営危機に陥る事態にあることを、
まずは正しく知ってもらう必要があります。

 案外、金融機関側は、自己の返済のみしか見て
おらず、債権者全体に対する総返済額を見ていない
ことが多いからです。
 そのために必要なものが、「約定資金繰り表」
(過去実績3カ月、将来の予想6カ月)です。

 これにより、金融機関側にも資金ショートに
陥らせない何らかの方策を考えざるを得ないと
気づかせることになります。
 「資金ショートさせないための何らかの方策とは
何か」が次の問題となります。

これには、2つの方向があります。
①社内にあっては、経費削減により、営業収支を
黒字化する方策です。
 この点をまとめ上げたのが、「合理化実施要領」
です。

 具体的には、人件費の削減、その他経費の削減
により、どれくらいの営業収支の好転が見込めるか
です。
 遊休資産等があれば、その処分により、有利子
負債がどれだけ減らせるかです。

②社外にあっては、経常収支の部分です。即ち、
金融機関との金利低減、毎月の元本返済の
低減により、翌月繰越金が毎月安定して、人件費の
2~3ヶ月分残せるかという視点です。

2.事業計画書の作成
 これらの資金繰り表が企業でいう車の前輪とすれば、
後輪としては、事業計画書の作成、提出です。

 ここで大切なことは、過去三ヵ年の事業実績を
必ず記載し、その実績の延長線上に将来五ヵ年の
事業計画案を位置付けることです。

 そして、将来右肩上がりに売上高が増加する方式の
事業計画は、消費不況の今日では全く信用性が
ありません。

 私共は、直前六ヶ月間の売上動向から、前年比
30%乃至40%前後の売上減を試算してスタート時の
売上高とし、以後も三ヵ年或いは五ヵ年は、売上増は
見込めないか、三ヵ年毎に若干の見直しをする手法を
用いています。

 売上が今後、相当落ち込んだとしても、どの程度の
収益弁済なら安定して確実に履行出来るかを算出
するためです。

 ここで大事なことは、経営危機の原因が、
(1)営業利益の段階で赤字が続く、いわゆる放漫経営
型に起因するのか、

それとも、

(2)営業利益、経常利益上は黒字であるが、資金繰り上
資金ショートが発生する、過剰返済、黒字倒産型に起因
するものなのか

の見極めです。

 前者であれば、合理化の実施が再建の可否を握る
のに対し、後者の場合は、金融機関側の強調で十分に
再建に導くことが可能だからです。

 そして、返済方法いかんで十分に再建に導くことが
可能である以上、銀行法上も公的、社会性を有する
金融機関側には、債権回収の視点及び企業支援の
社会的役割の視点から、会社側の調整案を協議
すべき「善管注意義務」を有していると私は考えて
おります。

 換言すれば、あまりに理不尽な要求、公平性を無視
する要求を一方的に自己の都合のみ押し付ける
ことは、その社会性、公共性からみて権利「濫用」に
該当する場合も出てくると私は考えています。

 次に、上記の事業計画書から、年間の返済原資を
算出するのでありますが、ここで注意すべきは、
返済原資(減価償却費+税引後利益)をそのまま
そっくり返済に充ててはいけないということです。

 なぜなら、将来的に売上高が計画に反して更に
低下することもあり、加えて、設備の老朽化による
修理費、賞与等、将来特別に発生する経費に対応
する借入がもはや出来ないという事情を前提に
すれば、返済原資の80%程度を返済に回し、
残り20%相当額は、将来の不測の事態に備える
予備費として、会社に残しておくべきです。

 債権者側から見ても、余裕をもった返済であれば
こそ、長期的かつ安定的な返済履行の確実性を
読み取ることができるからです。
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金融機関には正直に窮状を訴える 3

2006年05月04日 | 企業再建について
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99年7月26日 日刊帝国ニュース
弁護士ウオッチング  弁護士 村松謙一

信用不安の回避=倒産の回避(下の1)
第5  資金ショート3カ月前には金融機関に相談を

警察庁がまとめた98年度の自殺者は3万2863人に
上り、初めて3万人を突破した。そのうち、会社倒産、
失業等の「経済・生活苦」に起因した自殺者は
6058人となり、97年が3556人であったから、
実に2502人も一挙に増加したことになります。
 一日に換算すると、実に16人の尊い命が倒産・
不況苦に亡くなっている計算です。加えて、中高年の
家出も増えているとの事です。

 長引く不況の影響が、このような数字となって訴えて
いることを関係各位は決して目をそらせてはなりません。
社会的サポート体制が急務となっています。

 多くの倒産事件に関与してきた弁護士として、
経営者の自殺に遭遇した例はいくつかあります。
 悲嘆の苦しみに耐えなければならない者は、
亡くなった者よりもむしろ残された遺族であることを、
会社経営者は胸に刻まなければなりません。

 自殺の直接の引き金は「孤独感」だそうです。
自分自身が「一人ぼっち」と感じるところから死に
向かいはじめているのです。そして必ずその予兆は
あるものです。妻、役員管理職らが、経営者の
孤独感を早めに見抜き、開放してあげ、精神科医の
カウンセリングを受けさせられれば、十分に防げる
こともわかっています。

 また、弁護士会においても、リストラや過労に対する
相談窓口を用意しており、経営危機と感じたならば、
顧問弁護士、税理士らに直ちに相談すべきです。
 顧問弁護士・税理士はそのときのためにこそいる
ようなものです。
 金融機関側の不用意な発言をきっかけに、経営者が
命を絶った例も多数見受けます。
 金融機関と取引先企業は、切って切れない夫婦、
親子のような関係にあり、本来の金融機関の役割は
取引先企業が苦境に立たされた時の駆け込み寺で
なければならないはずです。
 然るに、経営危機に陥った原因たる放漫経営をなじる
ばかりでは、傷口に塩を塗りつけるようなものであり、
最悪の場合は、自滅へと足を引っ張ることになります。
損失の拡大となるばかりです。
 風邪をこじらせて熱を出している子供に、どうして
風邪を引いたんだとどなってみても仕方がないで
あろう。どうしたら熱が下がるかを考えるのが先決
だろう。

 絶対的な情報量と組織、人材と資金力を備えた金融
機関と、資金力の乏しい中小零細企業の関係は、
親子の関係として、苦境に立たされた企業を救うために
常に直接接している金融機関こそが、真っ先に援助の
手を差し出してあげなければならない位置にいるのです。

 他方、金融機関の援助をお願いするために、中小企業
側としては、経営危機に陥った理由を自己分析し、
①その除去の可否と具体的除去方法、②危機の原因が
赤字体質の放漫経営に由来するのであれば経費削減
の具体化を明らかにし、もって債権の見通しを示す
ために、以下の資料を作成して、資金ショートに陥る
少なくとも3カ月位前には、金融機関に相談に行くべき
です。

 金融機関側として、支援してあげるために最低必要と
なる判断資料は、以下の7つの書類に要約されるから
です。
 私はこれを「再建のための7つ道具」と呼んでいます。
①現状通りの資金繰り表(資金ショート時期のわかるもの)
②資金ショートを回避し、且つ安定的に資金が回る
ことを示せる変更資金繰り表
③過去実績と比較した向こう五ヵ年程度の事業計画書
④上記の事業計画書に基づいた公平・公正なる
各金融機関に対する返済予定表
⑤担保設定状況表
⑥清算貸借対照表と清算時配当率試算表
⑦会社側の努力の跡を示す合理化予定・実績表

 なお、少なくとも以上の7つの書類は、現在会社が
好調であっても、いつ何時経営が危うくなるやもしれない
今日では、会社の常備薬よろしく、常に会社に用意
しておく配慮が、経営者には必要です。

第6 会社を再建に導くための基本ルール
1.さて、勇気を出して金融機関に会社の窮状を打ち明け、
窮地脱出の助言を得ることが、雪山で遭難せずにすむ
最善の方策であることを述べました。おそらく読者の
方々は、今まで自分が考えていたことと正反対のことを
私が言うので戸惑っている方々も多いことと思います。

 金融機関を鬼のすみかと考えているのではないで
しょうか。
 そこで以下、私共の事務所でこれまでに扱った
数多くの会社再建の事例を通して、金融機関側としても
助け舟を出したくなるような再建に導くための書類の
重要性とその作成上の注意点(ノウハウ)について
説明することとします。

2.会社の窮状を訴えられ、助けて欲しいと要請された
とき、金融機関側審査部としては、取引先会社に対し、
再建のための協力・支援をすべきか、逆にもはや
救済の余地なしとして、清算を勧めるかを検討する
必要に迫られます。

 ここで大切なことは、金融機関側としても、再建できる
のならば企業に再建してもらって、貸金の全額(100%)
回収の実をあげたいと考えていることであります。
 換言すれば、原則再建協力であり、再建反対は
あくまで例外であるという図式であります。

 この大前提を企業経営者は、しかと認識しておいて
下さい(発想の転換です)。

3.本音の部分は以上の通りとしても、金融機関側にも
稟議等決済のための手順があり、軽々しく、再建に
協力しましょうと言えないことも事実です。

 ここで絶対にしてはならない過ちは、不公平弁済、
公私混同、会社資産の隠匿(名義変更)等、悪質な
資産保全に走ることです。
 後に詐欺破産罪、過怠破産罪という刑事罰を伴う
ペナルティーが待っています。

 会社を再建に導くための大前提は、「等しからざるを
憂う」「知らざるを憂う」という債権者心理、「公平、公正
なる返済」という基本ルールにあります。このルールを
ないがしろにすれば、せっかくの原則「賛成」が、
たちどころに例外たる「反対」となって地獄に落とされて
しまいます。

4.以上、この債権者心理及び基本ルールを守って
いれば、おのずと道に迷った山中から灯火親しむ集落
に出ることができるのです。
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