わが子を vous で呼ぶ、18世紀フランス貴族の父。
この 父:ジャルジェ将軍 が、子:オスカル・フランソワ を tu で呼んだのは、どんな時でしょうか。
1回目は、すでにこの研究で一度とりあげた場面です。
オスカル・フランソワの出生時。
Oscar, tu es mon fils ! Tu as compris ? ”
「オスカル!おまえはわしのむすこだ おまえ、わかったな!」
父は、生まれたばかりの我が子を、tu で呼んでいます。
さすがに、新生児を vous とは呼ばないということでしょうか。
子どもを tu と呼ぶとき、 その tu には保護の感情や、愛情などが含まれているような気がします。
興味深いことに、主人・ジャルジェ将軍やオスカル・フランソワを敬い、常に自分の“分”をわきまえている ばあや grand-mère が、ゲメネ公爵との決闘騒動で謹慎になったオスカル・フランソワが領地視察旅行に行き、それを父に咎められて張り倒される場面で、オスカル・フランソワを庇いながら、このように言っています。
Ooh ! J'aurais dû m'opposer à tout ça !
(オー! ジョレ デュ モポゼ ア トゥー サ!
Comme ça j'aurais pu vous élever comme toutes les jeunes filles
コム サ ジョレ ピュ ヴー ゼルヴェ コム トゥートゥ レ ジュンヌ フィーユ
et on vous aurait mariée...
エ オン ヴー ゾレ マリエ…
Oscar, tu étais pourtant la plus belle...
オスカル,テュ エテ プルタン ラ プリュ ベル…)
「ああ!わたしはもっとこのこと(6女:オスカル・フランソワを男として育てるというジャルジェ将軍の方針)に反対するべきだった! あなた(オスカル・フランソワ)をふつうのお嬢さまのようにお育てし、あなたにご結婚していただくことができるように…
オスカル,tu (おまえ)は一番美しかったというのに…」
OT「ああ!オスカルさま…こんなことなら、お生まれになった時、死んでもだんなさまに反対するのだった!ふつうのお嬢さまとして、美しく大切にお育てし、幸せな結婚をしていただいて… 6人姉妹の中で、一番美しくお生まれのオスカルさまなのに…」
Oscar, tu étais を、「オスカル、おまえは…」 という日本語に訳してしまうと、ちょっと違うかな?という気がします。「あなたさまは…」 「オスカルさまは…」 としてよいと思うのですが、そこには、ばあやの深い深い愛情がこもっている、ととらえてよいのではないでしょうか。オスカル・フランソワが生まれた時から我が子のように大切に育ててきたばあや。この tu は、そういう思いがつまった tu のように思います。
一方、貴族の常として、父母のジャルジェ将軍夫妻は実際に世話をするわけではありませんが、自分たちの子どもが可愛いことには変わりはないでしょう。
ばあやの tu 同様、新生児オスカル・フランソワに対するジャルジェ将軍の tu には愛情が感じられます。
しかし、一方で、オスカル・フランソワの運命を思いつきで決めてしまうこの場面。我が子を 「自分の所有物」 と見なしている気持ちも、この父の tu からは感じられます。