シンガポールでは、インド映画以外にもいろんな国の映画を見ました。残念ながらシンガポール映画はなく、これまでほぼ毎年、夏休みといえばジャック・ネオ監督作のコメディか、ロイストン・タン監督作の音楽ものかが上映されていたのを考えると、今年はちょっと寂しいです。では、見た順番に作品を簡単にご紹介しましょう。
『Soekarno: Indonesia Merdeka(スカルノ:インドネシア独立)』 予告編
2013年12月11日現地公開/インドネシア映画
監督:ハヌン・ブラマントヨ
主演:アリオ・バユ、ルクマン・サルディ
インドネシア独立運動の指導者であり、初代大統領となったスカルノの半生を描きます。病弱で名前を「スカルノ」と変えた少年時代から始まり、当時インドネシアの統治者であったオランダ人の女の子を好きになったティーン時代、そしてのちに副大統領となるハッタらとの独立運動を詳しく描いていきます。その中で、妻子がいるのに教師時代に教え子と恋愛関係になり、第二夫人としたことなども描かれ、英雄としてよりも人間スカルノを描こうとしている感じを受けました。ただ、1941年の太平洋戦争開始後やってきた日本軍の描写は、予算がなかったためか日本人俳優をほとんど使わずといういまひとつの出来。その後、1945年8月17日に独立を宣言するところで映画は終わるのですが、何となくハッタの方が魅力的な人物に描かれている気もして、スカルノをどう捉えるかがやはり難しかったのかしら、と思ってしまいました。
『人間中毒』 予告編
2014年/韓国映画
監督:キム・デウ
主演:ソン・スンホン、イム・ジヨン、オン・ジュワン、チョ・ヨジョン
ソン・スンホンが大胆なベッドシーンを演じた、というので話題になった作品。上官の娘を妻にしたベトナム戦争帰りの将校が、部下の妻に惹かれていき、やがて彼女と関係を持ってしまう、というストーリーです。1969年という時代の再現にかなり力が注がれており、当時の軍官舎に住む将校夫人たちのファッションや髪型なども見どころのひとつとなっています。ベトナム戦争のトラウマに苦しみ、妻に頭の上がらない男、そして中国系韓国人という出自ゆえに貧しい少女時代を送り、雇われていた家の女主人に気に入られて息子の嫁にさせられた女。この2人が出会ってしまった、ということなのですが、彼女のエキセントリックな行動にはちょっと共感できないものが....。
『分手100次(100回目の別れ)』 予告編
2014年8月1日現地公開/香港映画
監督:鄭丹瑞
主演:鄭伊健(イーキン・チェン)、周秀[女那](クリッシー・チャウ)
8年間同棲を続けているカップルが直面する危機を描きます。香港人の好きそうな物語なのですが、カフェを開きながら、お客さんそっちのけでカフェで大げんかするこのオーナーたちってどうよ? という感じで、勘弁してよ~映画でした。久しぶりのイーキンだったのに、いいところがなくて残念です。クリッシー・チャウもモデル出身とのことですが、魅力がまったく感じられず矢印ぐぐっと下向きに。
『白髪魔女伝之明月天國』 予告編
2014年7月31日現地公開/中国映画
監督:張之亮(ジェイコブ・チャン)
出演:范冰冰(ファン・ビンビン)、黄暁明(ホアン・シャオミン)、趙文卓(チウ・マンチョク)、王学兵(ワン・シュエビン)、葉童(イップ・トン)
『白髪魔女傳』と言えば、張國榮(レスリー・チャン)と林青霞(ブリジット・リン)の1994年の作品ですが、今回は中国の美男美女が演じます。最初ポスターを見た時はてっきりリー・ビンビンだと思っていたら、ファン・ビンビンの方でした。ファン・ビンビン、美しいだけでなくアクションもしっかりこなしていて、ちょっと見直しました。イップ・トンが白髪魔女の師匠役で特別出演しているほか、最近気になる王学兵も出ていて、まずはしっかりした作りの時代劇になっています。残念なのはファンタジー部分のCGが「あ~あ」なことで、徐克(ツイ・ハーク)も製作に加わっているのにどうしたの、とまさに画竜点睛を欠く思いでした。ラストにレスリーの歌が流れるという嬉しい反則ワザもあり、それをフィーチャーしたMVも見られます。日本でもどこかがお買いになるのでは、と期待していましょう。
例年に比べると、韓国映画も中国・香港・台湾映画も少ない感じがするシンガポール。今年はシンガポールも、ハリウッド映画とインド映画の夏、なのでしょうか。そうそう、今日最後に見た『白髪魔女傳之明月天國』はこれまでのGVとは違ってショウ・ブラザーズの映画館だったのですが、珍しい予告編に出会いました。ついに出現!という感じの、シラット(マレーシアやインドネシアの伝統武術)の女性ファイターを描く『Yasmine(ヤスミン)』の予告編です。公式サイトを見てみると、製作会社はブルネイの会社だとか。ということは、初のブルネイ映画となるのでしょうか? 見てみたいです!!
映画「スカルノ」ですが、今月17日の独立記念日に合わせてより長いバージョンが最近こちらでは公開されました。私は昨年末に公開された版しか見てないので、具体的にどこらへんがより長いのかはわからないですが、cinetamaさんがシンガポールでご覧になったのはどちらだったのでしょう?
あと、シンガポール上映版でも本編開始前に国歌「インドネシアラヤ」斉唱はありましたか?インドネシア映画を今まで見てきてはじめての経験だったので劇場で見たときはちょっと驚きました。まるでタイか軍事独裁政権時代の韓国みたい...
映画内の描写についてあれこれコメントしますと...
スカルノに始めに接触する日本軍人を何故か華人のフェリー・サリムが演じていて、その点は私も疑問に感じました。キャストのネームバリューを優先したのでしょうか。
ただ海軍の前田精提督(こちらでは教科書に記載されているほど有名)を演じていたのは私が何回かお会いしている鈴木伸幸さんでしたね。史実に忠実で、所謂おいしい役でした。鈴木さんは日本人俳優としてインドネシア映画出演本数最多記録を更新中です。先月はAKB48の姉妹グループJKT48の映画にも出てました。
めこんから出ている「ハッタ回想録」などを読んでいたので、映画内の、特に後半の描写はかなり史実に正確に作られているのがわかりました。スカルノを巡る二人の女性とのやりとりも多分あんな感じだったのでしょう。映画ではさすがに描かれてませんでしたが、見事最初の妻インギットを追い出したファトマワティが、インドネシア独立後にスカルノが更に妻を娶ろうとして自分が宮殿を去ることになったのはなんとも皮肉です。
とは言え、やはりヘンな描写は避けられないのがこの手の映画の宿命?で、慰安婦(と言ってませんけど)、辮髪した中国人、オランダ人少女の家の番犬の勃起、中国系俳優による裕仁天皇などなど、それなりに私は楽しめました。
蛇足ながら「ヤスミン」はこちらでも今日から上映開始のようです。新聞報道によればブルネイ=インドネシア合作の模様。カテゴリーはドラマになってましたが、アクションはどのくらいの比率なのか。日本人女性でシラット使いの友人にそのうち感想を聞いてみます!
シンガポールで上映された『スカルノ』では、「インドネシアラヤ」の斉唱はありませんでした。
時間は、確か2時間ちょっとだったと思います。短縮版でしょうか?
日本人役の俳優さんの情報もありがとうございました。
前田提督役の方は、最後のクレジットにはSuzukiとしか出ていなくて、日本人だと思うけど...といぶかりながら映画館を出たのでした。
弁髪は確かに私も気になりました。清朝が崩壊してからすでに20年経っている頃ですよね。インドネシアの華人にその情報が届かなかったはずはなく、「華人」というか「華僑」という記号を強化するために弁髪にしたのかなあ、と思ったりしました。
『ヤスミン』は、タイのアクション映画がトニー・ジャーからジージャーへと進んだように、イコ・ウワイスから彼女に、という風に日本での紹介が進むかも知れませんね。期待しています。
鈴木伸幸さんはインドネシアに15年以上滞在されており、10本以上の映画に出演されてます。東京国際映画祭でも上映されたガリン・ヌグロホの『スギヤ』や、昨年インドネシア映画祭で最優秀作品賞を獲得した『Sang Kiai』でも日本軍人役でした。ある食事会で3回ご一緒しましたが、表情や仕草が面白いので小さい子供たちに大人気でした。
日本では間もなく『ザ・レイド2』が上映されるようですが、残念ながら私は見逃してます。前作も見た知人曰く、日本人の出番こそ少ないものの前作から脚本もアクションも大幅にパワーアップしていて楽しめた、とのことでした。日本公開時にはcinetamaさんのご感想もおしえていただきたく。
現在公開中の『ヤスミン』はなんとか暇をつくって見に行きたいものです。予告編を見ましたが、意外とこういう話はインドネシアでは今までなかったと思うので、期待してます。シラットを習っている養女も連れて行こうかと思案してます。
「ザ・レイド2」は正式邦題を『ザ・レイド GOKUDO』といい、11月22日から公開の予定です。公式サイトはこちらです。
http://theraid-gokudo.jp/
遠藤憲一、北村一輝、松田龍平という日本側のキャストも期待できそうですが、さて、前作の迫力にどのくらい迫っているでしょう?
また、ご紹介できればと思います。