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アジア映画巡礼

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インド映画『WAR ウォー!!』の裏の裏<1>ハリウッド映画とインド

2020-06-21 | インド映画

やっと『WAR ウォー!!』の画像をいただきましたので、今後5回連載で、本作の”裏”を読みながらご紹介をしていきます。まずは、映画のデータとストーリーをどうぞ。

『WAR ウォー』  公式サイト        
 2019/インド/ヒンディー語/151分/原題:WAR
 監督:シッダールト・アーナンド
    出演:リティク・ローシャン、タイガー・シュロフ、ヴァーニー・カプール
 配給:カルチュア・パブリッシャーズ
 配給協力:インターフィルム
7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、キネカ大森ほか全国順次公開

カビール(リティク・ローシャン)はRAW(Research and Analysis Wing/インド政府の諜報機関)のエージェント。今回はイスラム教過激派のテロリスト、ファリード・ハカニ暗殺という使命を帯びて中東に赴き、彼の乗る車の到着を待って銃を構えているところ、のはずでした。指揮官は、デリーにいる上級分析官のナイドゥ。ナイドゥはパソコンに送られてくる現場の画像を見ながら、カビールに命令します。「その車の助手席がハカニだ、撃て!」引き金を引くカビール。ですが、その弾丸が貫いたのは、ナイドゥの額でした。「カビールが裏切った!」RAWは大騒ぎになり、責任者のルトラ大佐(アーシュトーシュ・ラーナー)は防衛大臣に呼び出されます。「カビールを見つけ出して、始末しなさい!」

RAWではエージェントたちが集められ、マルタ島での麻薬組織壊滅の仕事を終えたハーリド(タイガー・シュロフ)も帰国したその足でRAWに駆けつけます。ハーリドはカビールを捕らえる作戦の指揮は自分に執らせてくれ、と言いますが、「お前はカビールに近すぎる」とルトラ大佐は難色を示します。というのも、2年前、陸軍の基地でハーリドを始めとする新顔エージェントに訓練を施したのは、カビールだったからです。また、カビールは、やはりエージェントだったハーリドの父が裏切った時、銃を向け合った相手でもありました。その時はハーリドの母(ソーニー・ラーズダーン)が夫の裏切りをRAWに伝え、それによってカビールは銃弾を受けながらもハーリドの父を倒すことができたのでした。そんな因縁はあったものの、カビールはハーリドらを鍛え上げ、作戦チームを組んでイラクやモロッコでの危険な任務に従事してきました。モロッコのマラケシュでは、IS(イスラム国)組織とつながるビジネスマン、イリヤシを捕らえるはずが、作戦チームの1人ソーラブが裏切って失敗。ハーリドはソーラブを追って始末したあと、海に落ちて行方不明になります。自分がその後発見された時、「よくやった」と誉めてくれ、あれだけ自分を信頼してくれていたカビールがなぜ? ハーリドは混乱しながらも、カビールを追い詰めていきますが...。

© Yash Raj Films Pvt. Ltd.

ざっと最初から3分の1ぐらいまでのストーリーを書きましたが、これだけの中にも、山場、見せ場がてんこ盛り。冒頭のカビールの狙撃シーンや、カビールとハーリドの初対面の場を始め、イラクやモロッコでの作戦シーンなど、手に汗握る緊張シーンが連続して登場します。もちろんこれ以降も、カビールとハーリドの追いつ追われつのシーンに、カビールが裏切った謎が解けてくるシーンなど、一瞬たりとも緊張をゆるめることが許されない場面ばかり。これぐらい高いテンションを保ちながら、終始観客を引きつけて、だれることなく最後まで駆け抜けていくインド映画も珍しいのでは、と思います。まさに、ハリウッド映画水準のサスペンス・アクション・インド映画と言ってもいいでしょう。

これは、監督であり、原案と脚本にも関わったシッダールト・アーナンドの力に拠るところが大きいのでは、と思われます。この監督、どうやらハリウッド映画が大好きで、ハリウッド映画を見まくって詳細に研究しているようなのです。シッダールト・アーナンド監督はまだ41歳と若く、助監督を経て2005年、27歳の時に『Salaam Namaste』(主演:サイフ・アリー・カーン&プリーティ・ジンター)で1本立ち。以後、同じ様なテイストの、洗練されたラブコメ作品やファミリー・ドラマを作っていきます。『Ta Ra Rum Pum』(2007/主演:サイフ・アリー・カーン&ラーニー・ムケルジー)、『Bachna Ae Haseeno(美人さん、ご用心)』(2008/主演:ランビール・カプール&ディーピカー・パードゥコーン)、『Anjaana Anjaani(見知らぬ男と見知らぬ女)』(2010/主演:ランビール・カプール&プリヤンカー・チョープラー)といずれも人気スターを起用した作品で、どの作品も興行収入トップ10入りさせているのですから、たいしたものです。

Bang Bang (2014 Film).jpg

その後シッダールト・アーナンド監督は、ハリウッド映画好きが高じてか、何と、ハリウッドのヒット映画『ナイト&デイ』(2010)を正式リメイクする、という作戦に出ます(インド映画はずっと昔から、ハリウッドを始めとする他国映画を黙ってリメイクする、というのが得意ワザでした。きちんと権利を買い取ってのリメイクは、前世紀にはなかったのでは、と思います)。トム・クルーズとキャメロン・ディアスが共演した、アクションと笑い満載のあのヒット作を、リティク・ローシャンとカトリーナ・カイフでリメイクしたのが『バン・バン!』(2014)で、これももちろん興収トップ10入り。ほぼ忠実な映画化のうえ、加えて素晴らしいソング&ダンス・シーンが入っているので、『ナイト&デイ』よりも見応えがあるぐらい。キャメロン・ディアスのおとぼけぶりと比べると、カトリーナ・カイフは少々コメディエンヌとしては弱かったですが、日本で映画祭上映された時もファンがいっぱい生まれたぐらいのいい出来の作品でした。

© Yash Raj Films Pvt. Ltd.

そして、『バン・バン!』主演のリティク・ローシャンを再び起用し、タイガー・シュロフとのW主演で、ハリウッド・アクションを究極までインド映画化してみせたのが、本作『WAR ウォー!!』なのです。やりたいことはすべてやったかどうかはわかりませんが、これまでのインド映画の水準をはるかに超える洗練されたアクション・シーンが次々に現れてくるほか、ハリウッド映画でも珍しいのではないかと思われる北極圏での氷上アクションも登場します。上に付けたチラシの裏面には、「『ミッション:インポッシブル』『フェイス/オフ』『キングスマン:ゴールデンサークル』『ワイルド・スピード』など数多くのアクション映画へのオマージュが満載! 映画ファンは、いくつのオマージュを当てられるか?」と挑戦的な文章があるのですが、ハリウッド映画好きの方なら、何度もニヤリとすること請け合いです。

インドにハリウッド映画が本格的に入ってきたのは、1997年に欧米型シネマ・コンプレックス(インドでは「マルチプレックス」と呼ぶ)が誕生して以降ですが、興行収入全体の89%はインド映画が占める(2018年)自国映画大好きインドではあるものの、ハリウッド映画も興収20位の中に毎年2、3本は入るようになってきています。そこから生まれたシッダールト・アーナンド監督のような人が、これだけ完成度の高い作品を作れるのは、リティク・ローシャンやタイガー・シュロフのようなアクションをこなせる素晴らしいスターが存在していることと、国際的なアクション監督を起用することができる環境が整ってきたことが大いに寄与していると思います。アクション監督はまた後日ご紹介することにして、最後に予告編を付けておきますので、アクション・シーンのさわりをご覧になって下さい。

映画 『WAR ウォー!!』 日本版予告編 | Hrithik Roshan | Tiger Shroff | Vaani Kapoor | Siddharth Anand

『サーホー』(2019)のアクション・シーンも素晴らしかったですが、『WAR ウォー!!』のアクション・シーンもまた、負けず劣らずの素晴らしさです。楽しみにして、7月17日(金)の公開をお待ち下さい!

 

 

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2 コメント

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Unknown (北のインド映画好き)
2020-06-22 22:49:53
ハーリドの演者名がジャッキーシュロフになってますよ。
返信する
北のインド映画好き様 (cinetama)
2020-06-23 10:19:41
コメント、ありがとうございました。
うわぁ! 本当だ、とんでもない間違いをしまして申し訳ありません。
(誤)ハーリド(ジャッキー・シュロフ)
 ↓
(正)ハーリド(タイガー・シュロフ)
ですね。
いつもですと訂正線を引いて訂正するのですが、今回はストーリーの中なので、悩んだ末、差し替えました。
というわけで、本文内は間違いがないように見えますが、ご指摘いただいて助かったのでした。
ジャッキー・シュロフはタイガー君のお父さんです。
今後もこういうぽかミス、とんでもミス等がありましたら、皆様、ぜひご指摘下さいませ。
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