アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

TIFF:DAY5

2012-10-24 | アジア映画全般

今日はすごくいいお天気でした。昨日、傘をお猪口にされながら、六本木ヒルズの突風&雨に耐えたのがウソのようです。好天のヒルズ、ちょっと写真を付けてみました。

会場であるシネコンTOHOシネマズへ上がるエスカレーター下の広場。風は強いのですが、いっぱい降り注ぐ太陽の光が気持ちいいです。アジア映画のポスターも光っています。

今日はプレス試写で3本見たのですが、どの作品も大当たり。すごく幸せな1日で、ニコニコしながら家路につきました。私を幸せにしてくれたのは、この3本です。

「アジアの風」

■アジア中東パノラマ
『兵士、その後』 (Ini Avan/Him, Here After)
 2012/タミル語・シンハラ語/スリランカ
 監督:アソカ・ハンダガマ/主演:ダルシェン・ダルマラジュ、スバシニ・バラスブラマニヤム

スリランカの北部に住むタミル人の中からタミル・イーラム解放のトラといった武装勢力が生まれ、多数派のシンハラ人に対するタミル人の権利獲得を目指して闘いが始まったのが1983年。以来スリランカでは内戦状態が続き、2009年にやっと終息したのですが、内戦の期間に亡くなった人は10万人とも言われています。その中には、武装勢力の強引な兵士狩りに遭って、強制的に戦いに参加させられて命を落とした若者も多いのです。内戦終結後武装解除された戦士たちは、再教育を受け、それぞれの村へと帰っていったことが、最初のテロップで語られます。

この映画の主人公は武装勢力の中心にいた男で、生き延びて村に戻ったものの、村人の冷たい視線に迎えられます。「わしの息子を返せ」と罵る近所の老人。一方昔の恋人は、兵士狩りから逃れるため親に強制的に結婚させられた結果、年取った夫が初夜に亡くなり未亡人になったうえ、たった一度の性交で身ごもった息子までできていました。職探しに苦慮していた時、貴金属商で怒りの余り警備員をなぐったことから、店主はその警備員をクビにし、彼を替わりに雇い入れると言い出します。やっと職にありついたのですが、今度は警備員とその家族にうらまれ、つきまとわれる羽目に。そんな時、彼を見込んだ店主が裏の仕事に引き込もうとしますが...。

内戦終結後の現実に気づかされる冒頭に始まり、最後はサスペンス劇になっていくのですが、その展開が巧みで、緊張感溢れる画面を堪能しました。密輸のカモフラージュに警備員の妻(上写真右)を使えと言われて彼女と行動を共にしていくうち、彼女の「失うものは何もない」という居直り的な強さが主人公にも影響を与えていきます。前半のヒロインで主人公と結局結婚することになる元恋人はプリヤンカー・チョープラー似、後半のヒロインである警備員の妻はレーヴァティ似で、それからもわかるように結構娯楽的な要素が入っていて楽しめます。とはいえ、登場人物には全員名前がなく、まるで「これはスリランカのどのタミル人世界にもあてはまる物語だ」と示しているかのような、監督の視点もしっかり入っている秀作です。

『ブワカウ』 (Bwakaw)
 2012/タガログ語/フィリピン
 監督:ジュナ・ロブレス・ラナ/主演:エディー・ガルシア、レス・コルテス

こちらは、愛すべき作品でした。ブワカウというのは主人公の独身老人レネ(エディー・ガルシア)が飼っている雌犬の名前で、”がっつき犬”という意味だとか。上はプレスなのですが、犬の足跡を模したロゴがかわいいですね。レネは実はゲイ。村の理容室を営むゲイのサルディとトレイシーは、レネに辛辣な言葉を浴びせられながらも、彼のよき理解者としてつきあっています。レネは老人ホームにいるアリシアという老婦人を時々訪問するのですが、彼女はかつてレネがつきあっていたものの、ゲイである自分を捨てることができずに別れた相手でした。

そんなある日、ブワカウにガンが見つかります。ブワカウを病院に運ぶのに協力してくれたのは、以前大げんかしたトライショー(三輪タクシー)の運転手ソル(レス・コルテス)。ソルはその後何かとレネに力を貸してくれるのですが、その友情が壊れる事件が起きてしまいます....。

人生の最終ステージを生きていく、かつて郵便局員だった老人レネ。老いた伊達男という感じで、退職後もボランティアとして郵便局で働き、そのユーモアと毒舌が人々に愛されている頑固なじいさん。ところが、トレイシーが彼のことを「ローラ(ババア)」と呼んだりするので、だんだんゲイなのだということがわかってきます。うーむ、あのマチズモの代表のようだったエディー・ガルシアがゲイの役を、とその点は少々違和感があるものの、頑固者の役柄はピッタリです。犬との交流も自然で、本当にうまい役者さんだなあ、とあらためて思わせられました。

彼によって演じられるレネの人物像がチャーミングで、最後までだれることなく物語を見せてくれます。キリスト像の話がいまいち効いていないとか、少し脚本に不満はあるものの、見応えのある作品でした。字幕もとてもよかったです。

『パンのココロ』 (愛的麺包魂/The Soul of Bread)
 2012/北京語・英語/台湾
 監督:高[火丙]権(カオ・ビンチュアン)、林君陽(リン・チュンヤン)/主演:陳漢典(チェン・ハンディエン)、陳妍希(ミシェル・チェン)、倪安東(アントニー・ニーリー)

これまた、かわいい映画でした。高雄郊外にある町の小さなパン屋が舞台で、妻が死んでからパン作りをやめてしまった店主(おなつかしや~の廖峻)に代わり、今は娘のシャオピン(ミシェル・チェン)と弟子のガオピン(チェン・ハンディエン)がパンを作り、シャオピンの弟が店番を手伝っています。シャオピンとガオピンは幼馴染みで、28歳になるシャオピンをほっとけないガオピンは彼女に求婚するのですが、シャオピンはパリに憧れていたりしてなかなか真剣に結婚を考えてはくれません。そこへ、有名なグルメ番組のVJをしていた仏中混血の青年ブレッド(アントニー・ニーリー)が母親のルーツ探しにやってきて、このパン屋に修業のため住み込みたいと言い出したからさあ大変。シャオピンとブレッドはだんだんいい感じになっていき、ガオピンは嫉妬にさいなまれます...。

『あの頃、君を追いかけた』のミシェル・チェンが、今回もとっても魅力的な女の子を演じています。28歳にはとても見えず、2人の青年が彼女を巡って争うのも納得です。ガオピン役のチェン・ハンディエンは、『モンガに散る』で主人公たちと敵対し、セメダインで口をくっつけられていたあの男子生徒。相変わらずチンピラ顔(すみません)ですが、今回はもうけ役でした。というわけで、TIFFにお帰りなさいの主人公たちなのでした。他愛ない物語なのですが、人情味たっぷりの台湾の人たちにかかれば、心がポッと温かくなる良質の娯楽作に変身。とっても後味のいい、おいしいパンのような映画でした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日はあと2本、DVDで下の作品を見ました。実は今回はプレス・パスではなくてスペシャル・ゲスト・パスなので、専用ラウンジでDVD鑑賞ができるのです。以前最優秀アジア映画賞の審査員をしたことがあるのでこのパスがいただけるのですが、昨年まではプレスパスと両方出して下さっていたのに、今年からは1本化になってしまい、当初はプレス向けのニュースが届かず困ったりしました。でも、事務局の方のご尽力でプレスと変わらぬ情報がいただけるようになり、さらにDVD鑑賞もと、今回はパスの特典を満喫しています。見た作品は次の2本です。

■アジア中東パノラマ
『パーフェクト・ゲーム』 (Perfect Game)
 2011/韓国語/韓国
 監督:パク・ヒゴン/主演:チョ・スンウ、ヤン・ドングン

チョ・スンウとヤン・ドングンというので飛びついたのですが、DVDが途中でスタックしてしまい、前半のみの鑑賞。全部見ていないものの、結構通俗的な作りで、満足度は低い感じです。チョ・スンウのメガネ姿だけが私的にはプラス・ポイント、というところ。韓国野球界で1980年代に実際にあった投手対決を描いています。

『沈黙の夜』 (Lal Gece/Night of Silence)
 2012/トルコ語/トルコ
 監督:レイス・チェリッキ/主演:イルヤス・サルマン、ディラン・アクスット

トルコの山岳地方のある村で、結婚式が執り行われます。花婿は20年ムショに入っていた50代の男で、花嫁は14歳の美女。いざベッドインとなって、幼い花嫁を前にした男は戸惑い、彼女に物語を聞かせたり、綾取りをしたりと何とも奇妙な初夜になっていくのですが...。巧みな作り方であるものの、見ているのにちょっと辛抱が要る作品でした。

DVD鑑賞が出来る部屋は、映画祭事務局もあるヒルズの49階。今日は空気がきれいだったせいか、夜景もきれいに見えました。

さて、ではまた明日を楽しみにして、私もベッドインならぬ蒲団インです~。

 


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6 コメント

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明日が楽しみ (よしだ まさし)
2012-10-25 12:28:59
『ブワカウ』は明日見に行く予定にしています。cinetamaさんの印象も良好なようで、楽しみです。
でも、ゲストの来日はないんですね。フィリピン映画でゲストが来なかったことって、ほとんどないんですけど。

火曜日には『火の道』を観てきました。
圧倒的な映像で、映画が終わったところでは、こちらも疲労困憊です(笑)
新人監督にあれだけの大作映画を任せるって、インド映画界、懐が深いです。
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よしだまさし様 (cinetama)
2012-10-25 13:24:55
コメント、ありがとうございました。

「ブワカウ」、エディー・ガルシアは無理としても、監督(ひょうきんな写真が映画祭カタログに使われてます)は来日してほしかったですね。
ご覧になって、またコメントをお寄せ下さい。フィリピンとフィリピン映画をよくご存じの方は、どのようにご覧になるのかうかがいたいです。
返信する
パーフェクトゲーム (K.KOTANI)
2012-10-25 19:43:54
cinetamaさんでしたね。失礼しました。
「パーフェクトゲーム」途中までの鑑賞になってしまい残念でしたね。
私は阪神ターガース迷ということもあって、あの野球映画割と気に入ってます。
あの試合は、2対2の延長戦で引き分けに終わるという投手戦なので、リアリティーを重視すると単調で終わってしまうので、あの演出もあり、かな、と、個人的に思っていました。
前半での、キム・ヨンチョル(ロッテG.の4番打者)、遅刻してくる後輩選手、パク・マンス(ヘテT.の控えキャッチャー)のエピソードは、後半にちゃんと活かされていたりしています。
むしろ、韓国では、今年の夏に劇場公開された「どろぼうたち」が、あそこまで大ヒットしたのが少し不思議でした。
勿論、作品自体は面白かったのですが。
脇道にそれました...
「パンのこころ」は、台湾での興行成績から、あまり期待していなかったのでうが、案外楽しめました。
有線放送シーンなど、ベタなシーン満載ではありましたね。
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K.KOTANI様 (cinetama)
2012-10-26 01:09:16
続けてのコメント、ありがとうごさいました。

「パーフェクト・ゲーム」はおっしゃる通りで、深い反省を込めて、本日(10/25)のブログであらためて紹介しています。後半も、キム・ヨンチョルのトイレットペーパー・エピソードはなくてもいいんじゃない、とか思いながら見てたんですが、その後のチェ・ドンウォンの息を呑む肉体の出現で、この苦痛を見せるためにお気楽なエピソードを前に持ってきたのか、と納得しました。韓国で、韓国の観客と一緒に見てみたかったです。

「パンのココロ」はベタなシーン満載なんですが、ラストの三太子でもうぜ~んぶ許しちゃう!という気になりました。1箇所突然ミュージカルになったりと変テコリンな映画でしたが、好きです、ああいうの。
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ブワカウ (よしだ まさし)
2012-10-27 20:53:40
 『ブワカウ』、観てきました。とても素敵な作品でした。ここ数年、シネマラヤ映画祭から優れたフィリピン映画が何本も日本に来ていますが、その中でも最良の1本だったのではないかと思います。特に監督のユーモアのセンスが秀逸で、場内には何度も笑いがあがっていました。笑えないエピソードであっても、この監督の手にかかると、ついつい笑ってしまいます。「老い」というシリアスなテーマを描いた作品でありながら、こうやって笑いに変えてしまえるセンスって、たいしたものだと思います。監督、まだまだ若い方なのに、ここまで達観してしまっていいんでしょうか。
 ちなみに、この映画は、監督が師匠と仰ぐ脚本家が亡くなられ、その人に捧げられた作品ということでした。

 上映終了後に、予定になかった監督をゲストとしたQ&Aセッションがありました。
 そこでキリストの横臥像について、あれは母親が大変に信心深い人であったことの象徴で、そういう家庭であったためにレネも自分がゲイであることを60歳になるまで受け入れられなかった、というような話も出てきていました。

 質問した中にフィリピン人の方が何人かいて、そのうちの一人がフィリピンの有名な映画監督だったとのことなのですが、ついにその人が誰なのか分かりませんでした。いったい誰で、なんのために日本に来ていたのか気になるところです。

 そして、あのラストシーン、いったいレネはどこに向かって歩いていったのでしょう。それも気になるところですが、なんとなくその回答は、監督が観客のひとりひとりに出した宿題であるような気がしています。
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よしだ まさし様 (cinetama)
2012-10-28 00:18:39
「ブワカウ」の詳しい感想&報告、をどうもありがとうございました。よしださんの評価も高いようで、よかったです。

監督が来日してたんですか。フィリピン映画はゲスト有り、という法則にはやはり例外はなかったんですね(笑)。監督の年を知ろうとカタログを見てみたら、”1972年マカティ市生まれ”とありました。すると、もう40歳??写真では25、6歳に見えますが。
キリスト像のコメントのご紹介もありがとうごさいました。あれ、全貌というか全身を見てみたかったですね。ピエタのあの形に近いものだったのかしら?
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