アジア映画巡礼

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日本人監督が記録した香港の闘い:2019年10-12月の『香港画』

2020-12-24 | 日本映画

昨年秋香港で、たまたま仕事で滞在していた日本の映画人堀井威久麿(ほりい・いくま)監督は、街頭でデモ隊に遭遇します。若者が多く、女性もたくさんいたそのデモ隊の姿に心動かされ、いったん日本に戻った堀井監督は、この香港の闘いを映像に記録するため、再び香港に戻ります。前田穂高プロデューサーと共に、11月19日から撮り始めて翌2020年の1月1日まで撮り続けたその膨大な映像を、1日の出来事のように、時間帯に分けてまとめたのが本作です。特に前半は、日本語が話せる香港人が登場して、その時の情勢や自分の心情を語ってくれるため、香港の人たちの生の声を聞くことができます。これで昨年秋の香港の現実がわかる、とは言いませんが、何かがこちらの目や耳や皮膚からしみ込んでくるような、心震わせてくれる作品です。まずは映画のデータからどうぞ。

『香港画』 公式サイト
 2020年/日本/28分/広東語、英語、日本語/ドキュメンタリー
 企画・監督・撮影:堀井 威久麿
12月25日(金)よりUPLINK渋谷、UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開

© Ikuma Horii

2014年には「雨傘運動」が起きて、大規模な市民運動が長期間続いた香港ですが、今回の混乱の発端は、2019年3月末に香港の立法會(議会。日本で言えば国会)に提出された「逃亡犯条例改正案」でした。詳しくはこちらのWikiを見ていただければと思いますが、何らかの事件を起こした容疑者を簡単に中国に引き渡せる、という手続きの簡略化を図ったものでした。一見便利な法律のようですが、香港で何か「事件」を起こせば香港で裁かれるのが本来であるところ、中国本土へ連れて行かれて、中国のやり方で裁かれてしまう――香港の人たちはたちまちこの法案の本質を見抜き、反対運動を起こします。

© Ikuma Horii

6月9日には、何と103万人もの人が参加するデモが繰り広げられ、翌週6月16日の「逃亡犯条例反対」で抗議自殺をした人への追悼デモには、さらに多い200万人が参加しました。香港の人口が752万人ですから、4分の1を超える人々が参加したのです。デモは続き、衝突事件も起きたりする中、9月4日にはキャリー・ラム行政長官が撤回を表明します。しかし、市民の民主化要求デモは収まらず、10月23日に「逃亡犯条例」が正式に撤回されたあとも、6月に掲げられた民主化のための「五大要求」の実現を求めて、連日の抗議行動が続きました。

© Ikuma Horii

堀井監督らはこの頃から撮り始めたのですが、この頃には警察側も催涙弾は言うに及ばず、時には実弾発砲も辞さないやり方で取り締まりを強化してきたため、堀井監督は上写真のような重装備でカメラを構えていたそうです。撮影を開始した11月18日は、大学を拠点とした闘争が香港中文大学(九龍半島北部の、中国本土に割と近い所に広いキャンパスを持っています。1993年に、私が4ヶ月広東語を学んだ所でもあります)から、市内中心部にある香港理工大学(科技大や城市大と並んで、返還直前の90年代前半に大学となった所で、紅磡の駅に近い所にモダンなキャンパスが展開しています)へと移った頃でした。

© Ikuma Horii

それから2ヶ月弱。映像には当時の記録が焼き付けられていきますが、その一方で、多くの市民や学生へのインタビューも重ねられます。日本の大学に留学中だったケン(何嘉軒)、やはり日本で通訳として働くウィリアム・リー、若き区議会議員のサム・イップ(葉錦龍)、まだ中学生のジョー、ミュージシャンのナーヘイ、理工大生のブリエッタ、名古屋大に留学していたことのあるホー、そして、もと警察官で、現在は区議会議員であるキャシー・ヤウ(邱汶珊)。今回の運動についてだけでなく、香港人としての彼らの姿が見える部分が引用されています。その彼らの、「香港24時」に選ばれた時間と場所を列挙しておきましょう。

© Ikuma Horii

  5:00A.M. 将軍澳(チョンクヮンオウ。九龍半島東部)
  7:00A.M. 海怡半島(サウス・ホライゾン。香港島南部)
    8:00A.M. 旺角(モンコク)
  0:00P.M. 中環(セントラル)
  1:00P.M. 将軍澳
  2:00P.M. 西環.(サイワン)
  4:00P.M. 銅鑼湾(コーズウェイベイ)
  5:00P.M. 九龍地区(尖沙咀?)
  6:30P.M. 中環
  7:00P.M. 香港理工大
  9:00P.M. 九龍湾(ガゥロンワン)
  9:30P.M. 尖沙咀(チムサーチョイ)
 10:00P.M.    旺角
 11:00P.M. 旺角
 11:59P.M.    大晦日の街

© Ikuma Horii

2020年へのカウントダウンで本作は終わりますが、その時叫ばれていたスローガン「光復香港・時代革命!(香港に光を取り戻そう、今こそ革命の時だ)」は、現在では口に出すこともできなくなってしまいました。日本の戦前に存在した悪法「治安維持法」に当たる「国家安全法」が、香港にも適用されることになったからです。その直前を切り取った『香港画』、ぜひ目撃して下さい。予告編を最後に付けておきます。

映画『香港画』予告編

 


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