アジア映画巡礼

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『プレーム兄貴、王になる』<その1>王国物語が大好きなインド

2020-02-18 | インド映画

インド映画『プレーム兄貴、王になる』の公開日が迫ってきました。きちんとご紹介を、と焦りながらも、COVID-19の影響で種々の予定変更を迫られてバタバタしていたため、すっかり遅くなってしまいました。気合いを入れ直して、ご紹介することにします。まずは、作品のデータからどうぞ。

『プレーム兄貴、王になる』 公式サイト 
 2015/インド/ヒンディー語/164分/原題:Prem Ratan Dhan Payo
 監督:スーラジ・バルジャーティヤ
 出演:サルマン・カーン、ソーナム・カプール、ニール・ニティン・ムケーシュ、ディーパク・ドブリヤル
 配給:SPACEBOX
 宣伝:シネブリッジ
2月21日(金)より、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

©Rajshri Productions ©Fox Star Studios

物語は、地方劇団が演じる「ラームリーラー」から始まります。秋のお祭りシーズン、ダシャヘラー祭の時に演じられる、古代叙事詩「ラーマーヤナ」を劇化したものが「ラームリーラー」です。「リーラー」は「遊び、遊戯、戯れ」といった意味になります。そこに颯爽と現れるのが主人公のプレーム(サルマン・カーン)で、小道具や衣裳を新調してくれないケチな団長(サンジャイ・ミシュラ)や、不埒な観客を懲らしめたりしながら、「♫プレームリーラー」と歌って、最後にはチャリティの寄付を集めていきます。プレームのよき相棒が、この劇でシーター役をやっていた女形役者のカンハイヤ(ディーパク・ドブリヤル)。明くる日二人は集めたお金を持って、マイティリー王女(ソーナム・カプール)が主宰するNGOにやってきます。その王女が来週、近くのシータープルにやってくると聞いて、プレームは彼女に会おうとシータープルに行くことに決めます。

シータープルのヴィジャイ王子(サルマン・カーン二役)はマイティリー王女の婚約者で、間もなく王位に就く予定なのですが、忠実な執事(アヌパム・ケール)や優秀な護衛サンジャイ(ディープラージ・ラーナー)が付いているものの、家族には恵まれませんでした。母親を異にする弟アジャイ王子(ニール・ニティン・ムケーシュ)は王位を狙っており、また、これも母親が違う妹たちチャンドリカー王女(スワラ・バースカル)とラーディカー王女は、彼女たちの母親が生きている時差別を受けたというので、今でもヴィジャイ王子を恨んでいました。ヴィジャイ王子は別の場所に住んでいる妹たちを訪ねて冷たくあしらわれたあと、帰り道で馬車が谷底に落ち、行方不明になってしまいます。しかし、マイティリー王女の訪問や即位式を控えているため、ことを公にできません。そんな時プレームがカンハイヤと共にシータープルにやって来、その顔を見た護衛のサンジャイはびっくりします。ヴィジャイ王子とプレームはうり二つだったのでした。こうして、執事の指揮する「ヴィジャイ王子替え玉作戦」が始まります...。

©Rajshri Productions ©Fox Star Studios

「王子とこじき」の物語や韓国映画『王になった男』(2012)等々、そっくりさんが高貴な人の身代わりになる、という話はいっぱいありますが、これもその系譜に属するものです。ただ、王子の方には性格的な欠点があるのに対し、そっくりさんの方は無類の「いい人」で、「いい人」パワーがすべてを解決していく、というストーリーはいかにもインド映画。特に、この映画の製作会社ラージャシュリーは、人間の善意をまっ正面から描く作品を得意としているので、悪人は出てくるものの、最後はすべてハッピーエンドになります。主演のサルマン・カーンはこのラージャシュリー社ととても相性がよく、過去に「プレーム」の役名で本作を含め4作品に出演していますが、いずれも大ヒット。本作でも、性格の違う二人をうまく演じ分けていて、特にプレーム役は十八番(オハコ)のハマリ役として魅力を発揮しています。サスペンス映画ばやりで、インドでも緻密に考えられたストーリーの作品が増えている現在、ちょっと食い足りないかも知れませんが、古き良き時代に戻ったつもりで楽しむのが得策です。ソング&ダンスシーンもたっぷり入り、これも往年のインド映画のよさを十二分に味わわせてくれます。

©Rajshri Productions ©Fox Star Studios

また、お城や宮殿の豪華な背景が見られるのも、大いに目の保養となります。いくつかはスタジオセットだと思いますが、実際の建物を使っての撮影は主としてグジャラート州ラージコートで行われたようで、オーチャード・パレス、リバーサイド・パレス等の名前が挙がっていました。ご承知のように、インドには以前、各地に王国が存在し、その遺構には、現在も王族が住んでいるところや、ホテルとして活用されているところ、そして、観光地として見学者を日々受け入れているところなどがあります。日本でも知られている「マハラジャ(正しくはマハーラージャー)」という呼び名は「藩王」と訳されたりしますが、「○○藩王国」もインド各地にあったのでした。

©Rajshri Productions ©Fox Star Studios

そんなことから、インドの人は王国物語が大好き。特に独立前から1970年代ぐらいまで、王子様や王女様が主人公の映画がよく作られました。実在の人物を登場させた『偉大なるムガル帝国』(1960)や『Taj Mahal(タージマハル)』(1963)などのほか、架空の王国が舞台の『アーン』(1952)や『Suraj(スーラジ)』(1962)など、いろいろな作品が作られています。以前、インドの人は貴種流離譚が好き、と書いたことがありましたが、自分ももしかしたら、と思わせられてしまう映画の世界は、インドの人々にとって希望を託せる夢の世界だったのでしょうね。近年に大ヒットした『バーフバリ』シリーズも、この王国物語好きというインド人の嗜好が大きく作用したことも大ヒットにつながった、と言っていいかもしれません。最後に予告編を付けておきます。

痛快アニキが歌って踊る!サルマン・カーン主演/インド映画『プレーム兄貴、王になる』予告編

そうそう、新宿ピカデリーなどの劇場では、『サーホー』の予告編も見られるかも、なので、どうぞお楽しみに。

 


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