先日、福岡アジア美術館、略称「アジ美/あじび」の学芸員をしている友人が家に来てくれました。アジ美は来年1月21日(土)~3月11日(日)に、「インド・コレクターズ--現代日本におけるインドのイメージ(仮題)」という展覧会を開くことになり、その一環でわが家のコレクションの調査に訪れてくれたのです。この展覧会に関してはまた詳細が決まった時点で詳しくお伝えすることにして、今回はちょっとアジ美のお仕事の紹介をしたいと思います。
福岡アジア美術館が開館したのは1999年。福岡市の中心街、天神からもすぐという好立地で、地下鉄中洲川端駅に近いリバレインセンタービルの7・8階にあります。アジ美のHPはこちら。HPオープニングのアニメーションが楽しく、これだけでインドに迷い込む気分になってしまいます。
福岡では、ご承知のようにアジアフォーカス・福岡国際映画祭が1991年から開催され、この映画祭の開催される9月を中心に「アジアマンス」期間が設定されて、様々なイベントが行われています。この時期になると、ああ福岡の住人になりた~い!と思わずため息が出るような、Fukuokasiaが出現するのです。この前の記事でアジアフォーカス・福岡国際映画祭のことをお知らせしましたが、アジアマンスの全容も間もなく出てくると思うので、アジアマンスのHPもチェックしてみて下さいね。
話をアジ美に戻すと、この美術館にあるアジア現代美術のコレクションはすごい、ということはよく知られていますが、いろんな企画展も面白いものがいっぱい。手元にインド関係展示のカタログが何冊かありますので、それをちょっとご紹介してみましょう。
「インドのカレンダー・アート~女神からピンナップへ~」展(2000年)
いや~、色っぽいですねー。インド映画好きなら、『ラーマよ、あなたのガンジ河は汚れてしまった』 (1985/原題:Ram Teri Ganga Maili)のあのシーン(3分34秒辺りを凝視して下さいね)を思い出すことでしょう。実は映画よりもこの絵の方が古いのですが、カレンダー・アートの中には、「ミーナークマーリー」など映画がらみのものがいっぱい。あきらかに女優がモデルとわかる絵もあり、モデルはどのスターかというのをあれこれ推理してみるのも面白いです。神様絵図も含め、大衆アートの持つキッチュな表現や色遣いがたまりません。
「カンタ展~ベンガルの刺繍--その過去と現在~」展(2001年)
ベンガル地方、特にバングラデシュの民芸品として有名なカンタは、刺繍なのですが、その表現は美術品にも匹敵します。正方形や長方形の布に刺繍糸で描かれた、精緻かつダイナミックな模様の数々。こうした刺繍糸によるミニアチュール(細密画)の趣を持っているカンタがある一方で、生活の場では日本の刺し子刺繍と同じような、古布再利用のためのほっこりした刺繍もあります。日本では、NGOシャプラニールによるフェアトレード/クラフトリンクのショップで、かわいいカンタのタペストリーやテーブルセンターなどが「ノクシカタ」として売られています。
「ポーバ絵画の世界~華麗なるネパールの神仏~」展(2011年)
今年の初めに行われた展覧会で、「アジアの作家」シリーズの第5回に当たります。この表紙を見て、チベットの仏教絵画タンカでは、と思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、そのタンカにも影響を与えながら発達してきた、ネパールの先住民族ネワール族による宗教画です。仏教やヒンドゥー教の神や仏、そして曼荼羅などが描かれているのですが、現代の作家たちによるポーバ絵画は、伝統絵画という枠に収まりきらない表現を見せてくれます。じーっと見つめているとあちらの世界に連れて行ってくれそうなポーバ絵画は、細部の表現などもすごくて、一度ハマると病みつきになること請け合いです。
上記図録はまだ在庫があるようです。購入等のお問い合わせはこちらのサイトからどうぞ。
そして最後に、図録ではないのですがチラシの裏表をお付けするのが「ロリウッド!--パキスタンの映画ポスター展」(2006年)。
ボリウッドは皆さんご存じでしょうが、ロリウッドって知ってました? 何だかロリータ映画を作るハリウッド(笑)みたいなネーミングですが、パキスタンのパンジャーブ州にある街ラホール(Lahore)にちなんで付けられた名前です。ラホールはパンジャーブ語の映画をたくさん製作している映画の都なのですが、「Lahore」+「Hollywood」なのに、なぜか「Lallywood」ではなくて「Lollywood」なんですね。どうやら、「Bollywood」 に対抗して付けられた名前のようで、パキスタンの映画産業、映画文化全体を指すのだそうです。
そしてこのロリウッドの映画ポスターが、何とも言えぬ味わいを持っているのです。この時の展覧会では1950年代~90年代のポスターが集められましたが、どれも陰影に富んでいてとっても素敵。先日紹介したインド映画『クーリー』のポスターなんて、これに比べると月とすっぽんどころか、月とガメラと言ってもいいぐらい。私がパキスタンに行ったのは1979年12月の1回きりなんですが、その頃にこのポスターの存在を知っていたら買い集めて来たのになあ、と残念です。
上は、1979年12月にラホールに行った時撮った映画館の看板です。飾りが派手で、びっくりしました。
こちらは、同時期に撮ったラホールの映画館。私はこの映画『火』 (1979/原題:Aag)をこことは別の映画館で見たのですが、中が男性席と女性席に分かれていたりして結構大変でした。でも、この映画で当時の人気男優ムハンマド・アリーと人気女優バーブラ・シャリーフを知り、続いて行ったカラチの映画館で見た『鏡』 (1977/原題:Aina)でまた別の人気男優ナディームと人気女優シャブナムを知り.....という具合に、結構面白い映画を見ることができたのでした。
ロリウッド・ポスターの中には、これらの俳優たちも登場したりしています。なお、パキスタン映画を知るためには、次の本が一番わかりやすいかと思います。
Mushtaq Gazdar "Pakistan Cinema 1947-1997" Oxford University Press, Pakistan, 1997.
パキスタン映画といえば、2008年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭では、ショエーブ・マンスール監督作『神に誓って』 (2007)が上映されましたね。アジ美といい、アジアフォーカスといい、やっぱり福岡はよかところですね~。