アジア映画巡礼

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こんな時こそ韓国映画<1>『暗数殺人』のチュ・ジフンが凄い!

2020-03-30 | 韓国映画

この土・日の外出自粛要請が響いて、首都圏では「映画館はつらいよ」状態になっているようです。土・日は休館となったところも多かったのですが、前日の金曜日も、そして今日も、席がなかなか埋まっていません。いっそのこと、<イスラーム映画祭5>でユーロスペースが実施したように、「市松模様座席販売」方式を取り入れては? と思ってしまいます。つまり、前後と左右の座席が空いている形で、1席おきに座席を指定していくのです。売れる席数は約半分になりますが、観客の密度も半分になって、安心度が増します。

とまあ、いまだかつてない苦境に陥っている映画界ですが、そんな中でも韓国映画は元気です。ここのところ、3本も試写を見せていただき、それぞれに面白いというか力作で、うなってしまいました。今の時期に見るにはちょいしんどい作品もありますが、ほかにも次々と上映予定作品があって、インド映画@日本は「韓国映画に追いつき追い越せ」だよなあ、などと思っていたことが高望みだと思い知らされる感じです。ま、それは置いておいて、今日はこのところ出ずっぱりのチュ・ジフンがまたまた凄い演技を見せてくれる作品をご紹介しましょう。

『暗数殺人』 公式サイト 
 2018/韓国/韓国語/110分/原題:암수살인/英語題:DARK FIGURE OF CRIME
 監督:キム・テギュン
 出演:キム・ユンソク、チュ・ジフン、チン・ソンギュ
 配給:クロックワークス
4月3日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー

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主人公は中年刑事のキム・ヒョンミン(キム・ユンソク)。ある日情報屋と会っていた安食堂に、情報屋が紹介したいという若い男カン・テオ(チュ・ジフン)が姿を現します。ところが、彼の話を聞いている最中に、カン・テオは別件で他の刑事たちにその場で身柄を確保されてしまいます。恋人殺しの容疑で収監されたカン・テオは、キム刑事を面会に呼び出し、思いもかけぬ告白をします。「オレが殺したのはあいつだけじゃない、ほかにも殺してるんだ」そして、殺した相手7人とその状況をリストに書き出すカン・テオ。「ウソだと思うなら、公園のここに行ってみな。オレの殺した女の下着がみつかるから」とカン・テオが描いた地図をもとに、キム刑事が一人で行ってみると、その通りの場所で証拠品を発見したのでした。カン・テオはその後、偏光サングラスなど自分の欲しい物をあれこれ要求し、引き換えに別の現場の地図を書くなどして、キム刑事を振りまわします。こいつは本当に7人も殺したのか? キム刑事はしらみつぶしにそれぞれの事件を調べていくのですが、殺したはずの相手が生きていたりして、謎はますます深まるばかり。カン・テオは大ぼら吹きなのか、それとも...。

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暗数、つまり表に出ない数ということで、キム刑事は地下にもぐっていた殺人事件を根気よく掘り起こしていくのですが、最後にその捜査が衝撃的な事実にぶつかる、という脚本がまずお見事。脚本は監督のキム・テギュンと、製作総指揮としてクレジットされている『友へ チング』(2001)や『チャンピオン』(2002)のクァク・キョンテク監督との共同執筆となっています。確かに、プサン方言のセリフは『友へ チング』の記憶を呼び起こしますが、クァク・キョンテク監督作品とはまた違った、別種の緻密さを感じさせる作品です。キム・テギュン監督は1971年生まれで、クァク・キョンテク監督らの下で助監督を務め、2011年に『春、雪』でデビューした遅咲きの人。しかし、この2本目の作品『暗数殺人』がヒットした上、青龍映画賞、百想芸術大賞、韓国映画評論家協会賞で脚本賞を受賞、注目されるようになりました。『暗数殺人』は実際の事件を元にしたそうで、その描写が問題となるトラブルもあったようですが、俳優陣の名演もあって印象に残るサスペンス映画に仕上がっています。

名演が光るのは主役の2人、キム・ユンソクとチュ・ジフンですが、中でもチュ・ジフンの演技は凄いのひと言。冒頭に長髪姿で登場した時から「何かヘンな奴」と感じさせ、逮捕後囚人服に丸坊主姿となってからは、どこかネジがはずれたような人間を巧みに演じてみせて、キム刑事のみならず観客をも翻弄します。自分の犯した殺人事件をすらすらと紙に書いていく「こいつ、バカか?」と思わせられる表情から、殺した相手のことをとうとうと語る得意げな表情、そして、時にはキム刑事におもねるような小ずるい表情に、一転してキレて怒鳴り出す時の憤怒の表情まで、カン・テオ百面相とでも言いたくなるようなたくさんの顔を、チュ・ジフンが披露してくれるのです。ここ数年、大作、話題作に出演して演技力にますます磨きがかかった成果を、本作で確認できる感じと言えばいいでしょうか。それゆえにチュ・ジフンもいろんな賞も獲得しており、春史大賞映画祭や黄金撮影賞、映画製作協会賞では主演男優賞に輝いています。もちろんキム・ユンソクの受けの芝居あってのチュ・ジフンの演技力発揮ですが、陰惨な殺人事件の描写が続く作品なのに、カン・テオの登場シーンが楽しみになってくるような作品でした。

連続殺人犯vs刑事 の息詰まる攻防を描く!『暗数殺人』予告

予告編を付けておきます。今の閉塞感がパッと晴れるような作品ではありませんが、チュ・ジフンの凄さが味わえる力作ですので、ぜひご覧になってみて下さい。

 


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