オンライン試写では2、3回見せていただいたタミル語映画『PS-Ⅰ:黄金の河』ですが、やっとスクリーンで見ることができました。キネカ大森のスクリーンなので、大スクリーンとはちょっと言えなかったのですが、それでもパソコン画面とは段違い。大画面の迫力を堪能しました。(以下、画像クレジットはすべて© Madras Talkies ©Lyca Productions)
本作の導入部は、戦のシーンが描かれます。そこで登場するのが、王位継承権を持つ第1王子のアーディタ(上写真/ヴィクラム)と彼の親友デーヴァンの2人で、その後アーディタに命じられたデーヴァンは、カダンブル城に行って財務大臣パルヴェート侯(サラトクマール)らが密談をしている現場を目撃します。そして、現在の王スンダラ王(プラカーシュ・ラージ)が王女クンダヴァイ(下写真/トリシャー・クリシュナン)と共に病身を養っている都タンジャイにたどり着き、王と王女に密談の内容を語ります。
まず、このあたりが、「デーヴァンの冒険」とでも名付けたいロードムービーになっていて、とても楽しいのです。デーヴァンが勇敢な剣士というだけではなく、結構ちゃらんぽらんな奴で、口から出任せを言ったり、書簡を偽造したりしますし、クンダヴァイ王女に近づくために、女性だけが演じていたクリシュナ・リーラー(クリシュナ神を主人公にしたダンス劇)に飛び入りまでして目立とうとするし、とても楽しいシーンが続きます。そんな中で画面に緊張が走るのが、パルヴェート侯夫人のナンディニ(下写真/アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン)と邂逅するシーンで、道中と、そして彼女の宮殿とで会うシーンは、緊張感が走ります。
そこからデーヴァンは、アーディタ王子やクンダヴァイ王女の弟で、まだ会ったことがないアルンモリ王子に会うために、南のランカ島(今のスリランカ)を目指します。クンダヴァイ王女から、「ランカ島に渡って、弟のアルンモリ王子を連れてきてほしいの」と頼まれたからです。こうして舞台は、ランカ島に移っていき、一挙に海と船の物語色が濃くなります。いろいろあった末デーヴァンはアルンモリ王子(下写真/ジェヤム・ラヴィ)と手合わせするというちょっと物騒な邂逅ながら、正式に挨拶する機会を得、二人はたちまち打ち解けます。
さらにその後、アルンモリ王子の命を狙う者たちが登場し、それを漁師の娘プーングラリ(下写真/アイシュワリヤ・ラクシュミ)が助けに入ったものの、デーヴァンが暗殺者どもの船に囚われてしまい、助けようとアルンモリ王子が船にやってきたところで大嵐が...というのが『PS1』のあらすじです。また、どなたかから「ネタバレだ」と言われるかも知れませんが、これぐらい筋を知っていたところで、本作の重厚かつ軽快な展開を楽しむ要素は、いささかも損なわれることはありません。
マニラトナム監督は、原作本を自在に改編したのでは、と思われますが、デーヴァン(下写真/カールティ)を一つの軸にして、王家の人々と王家に連なりながら自分たちが実権を握ろうとする人々、そして何かとてつもない復讐に燃えているナンディニと、彼女と繋がる滅ぼされた他国の集団、という駒を動かして、壮大な物語を描いて見せてくれます。何と言うか、根性入れて作った歴史劇、という感じで、久々に格闘できる作品とがっぷり四つに組んだマニSirの力業が随所に光る名作になっています。ちょっと不満なのは、長男のアーディタ王子がふがいないことで、相手がアイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン扮するナンディニならしようがないか、とも思うものの、ヴィクラム・ファンの私としては、もうちょっといいところも見せてほしかった、というのが唯一の不満です。
それ以外は、海戦のダイナミックさも含め、全部実写ではないのか、と思ってしまうような出来で、S.S.ラージャマウリ監督作とはまた違う、リアルな迫力が見る者を圧倒します。まだご覧になっていない方はぜひ劇場の大スクリーンで見ていただきたいのですが、その折にはできればパンフレットを事前に購入し、よくわからなくても隅から隅まで全部読んでおいていただきたい、というのが私のお願いです。このパンフレットは実にスグレモノで、本作の背景となる11世紀南インドの状況がよくわかりますし、地図もあるので地理的な位置関係も頭の中に描けます。登場人物の主な人はみんな解説が付けてあり、人物相関図も用意されているので、画面に出てきても「これ、誰???」と戸惑わなくて済みます。
上の写真は、デーヴァン(右)がアルンモリ王子(左)と出会い、なぜか即決闘になってしまうシーンなのですが、私の友人はボリウッド映画大好き人間で、南インド映画は『バーフバリ』と『RRR』ぐらいしか見たことがなかったのに、『PS1』を見て「ジェヤム・ラヴィが少しお気に入りです」などと書いてきています。そういえば、本作で一番かっこいいところを見せているのは、ジェヤム・ラヴィ扮するアルンモリ王子かも、という気がしますが、これまで出演作が日本では公開されていないジェヤム・ラヴィ、これで日本ブレイクするのか、かなり楽しみです。6月14日(金)からは、『PS-Ⅱ:大いなる船出』も公開されます。そのチラシも送っていただいたので、ご紹介しておきましょう。
最後に、両方の予告編を付けておきます。この世界が各巻160分あまり堪能できるのですから、至福の世界が広がります。ぜひ劇場にお運び下さい。
インド映画「PS1 黄金の河」予告
「PS2 大いなる船出」予告【6.14公開】