12月27日(金)公開のインド映画『燃えよスーリヤ!!』の試写を見せていただいて来ました。がーーーーっ! なんじゃ、この映画はぁぁぁぁぁ!! 長年インド映画を見てきた私ですが、何やらインド映画の突然変異が現れた、という感じで、「カンフー映画オタクのインド人監督が作ったコメディ・アクション映画」というレッテルを貼ろうとしても、むにゅむにゅといろんなものがそのワクからはみ出してきてしまう作品でした。あと2、3日しないと脳が興奮状態から冷めそうにないので、今回は周辺部分からご紹介を始めてみたいと思います。まずは、映画のデータをどうぞ。そうそう、ストーリー等を急ぎ知りたい、とおっしゃる方は、公式サイト(↓)を見て下さいね。
『燃えよスーリヤ!!』 公式サイト
2018/インド/ヒンディー語、英語(マラーティー語も少し登場)/138分/原題:Mard Ko Dard Nahi Hota
監督:ヴァーサン・バーラー
出演:アビマニュ・ダサーニー、ラーディカー・マダン、グルシャン・デーヴァイヤー、マヘーシュ・マーンジュレーカル
配給:ショウゲート
※12月27日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
上は、本日いただいたプレス(マスコミ向け試写で配布される資料パンフレット)の表紙です。アジア映画ファンの皆さんなら、元ネタはおわかりですよね。そう、ブルース・リー主演作で世界的スーパーヒットとなった『燃えよドラゴン』(1973)のポスターのイタダキです。オリジナルのポスターは下のとおり。
実に上手にパロってあるでしょう? プレスは枠を黒にしたので、元のポスターの右側にぶら下がる綱と人物を入れ込めなったようですが、ちゃんと功夫ポーズを決めるスーリヤ(アビマニュ・ダサーニー)のカットを入れてあります。下部とか赤枠とかのデザインが少々違いますが、デザイナーさんもブルース・リーの大ファン? と思うほどエッセンスが取り入れられています。欲を言えば、トップの人物アーナ・カプリの所は主人公スーリヤのじいちゃん(マヘーシュ・マーンジュレーカル)で、悪役ジミー(グルシャン・デーヴァイヤー)はやはりスーリヤのお腹に顔が来る、というデザインがよかったなあ、と思いますが、スーリヤと共に戦う2人――スーリヤの憧れの人カラテ・マニ(グルシャン・デーヴァイヤーの二役)と、スーリヤの幼なじみでカラテ・マニに育てられたスプリ(ラーディカー・マダン)をジョン・サクソンとジム・ケリーの位置に配するなど、うまいなあ、と感心してしまいました。スプリが手にからめているスカーフも、実は意味があるんですよ。そのうち、種明かしをしますね。
そしてこのプレス、中も素晴らしいデザインなのです。上はスタッフ紹介のページなんですが、アメコミのコマ割りみたいでしょ? 大物プロデューサーであるローニー・スクリューワーラーの所に、香港のカンフー映画で活躍した劉家輝(リュー・チャーフィ)の顔が覗いているのはご愛敬ですが、『少林寺三十六房』(1978)などで知られる劉家輝はインド映画『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ~インドから中国へ~』(2009)にも出演したので、サービスカットというところでしょうか。余談ですが、「スクリューワーラー」という姓は、英語の「スクリュー」とヒンディー語の「ワーラー(~をする人、~の人)」を組み合わせた姓で、インド人のパールシー教(ゾロアスター教、拝火教)信者には、こういう「~ワーラー」が付く姓を持っている人が結構います。「~」の部分は出身地や居住地を表す地名だったり(「Rangoonwala/ラングーンワーラー」「Nadiadwala/ナディヤードワーラー」など)、職業を表す単語だったり(「Pithawala/ピター(パンのような食べ物)ワーラー」など)します。スクリューワーラーさんは、イランから移住してきたご先祖がインドで始めたのがネジ屋さんだったのかしら?
そして、プレスの裏表紙はこれ。「君は『映画秘宝』か!?」と言いたくなるデザインですね。内容も素晴らしく、特に監督インタビューは読んでいて感動に近いものを覚えました。今後の記事で、ちょっとご紹介しようと思います。あと、江戸木純さんの本作およびインド映画全般における「カンフー愛!」の解説も面白く(タイトルが長すぎるので引用省略。江戸木さん、タイトルは簡潔にお願いします!)、このプレスが劇場用パンフになった時には、これに加えて「インド・アクション映画の系譜」の解説文もぜひ載せてほしいと思います。近年では、ヴィドユト・ジャームワールやタイガー・シュロフといった、本格的アクションスターと呼べる人たちが思いっきり活躍する映画も誕生しているインド映画界ですのでね。しかしながら本作『燃えよスーリヤ!!』、その系譜につながる1本かと思いきや、アクション以外の部分がとてつもなく妙ちきりんで面白い。ここが『Commando』シリーズや『Baaghi』シリーズと一線を画するところです。ちょっと落ち着いて本作の構成と各キャラクターを分析してみますので、<2>までお待ちくださいね。
上はチラシの裏面なのですが、このえんじ色ジャージもブルース・リーへのオマージュだったとは、前述の江戸木さんの文章を読むまで気がつきませんでした。「ブルース・リーがゲスト出演してジークンドーについて語ったTVシリーズ『復讐の鬼探偵ロングストリート』(71-72)でブルース・リーが着ていたものだ」なんだそうです。YouTubeのこちらで映像が見られますので、7分30秒ぐらいのところを見てみて下さい。ヴァーサン・バーラー監督のブルース・リー命!ぶりがハンパでないことがわかりますが、この人、脚本家としてもすごいんです。おまけに、俳優としてもチョイ役でいろいろ出ていまして、その中から一つだけ映像を付けておきます。
Emotional Attyachar Full HD Video Song Brass Band Version Dev D Ft. Abhay Deol
かつて大阪アジアン映画祭で上映されたアヌラーグ・カシャプ監督作『デーヴD』(2009)の一シーンですが、ヒロインの結婚式場面で登場した歌のシーンです。冒頭、サングラスをかけてトランペットを吹いているのがヴァーサン・バーラー監督のはず。その後に出てくる歌手のうち、左側の歌手がナワーズッディーン・シッディーキーというのは有名なのですが、その直前にヴァーサン・バーラー監督が出ていたとは。とまあ、今回は周辺部のお話に終始しましたが、最後に『燃えよスーリヤ!!』の予告編を付けておきますので、スーリヤ君の顔をしっかり憶えて下さいね。
映画『燃えよスーリヤ!!』12/27(金)公開/本予告60秒