本日より第30回東京国際映画祭(TIFF)が始まりました。このTIFFでも特別上映されるのが、10月28日より公開のフランス映画『リュミエール!』。このブログは「アジア映画巡礼」なのでアジア映画をご紹介するのが基本なのですが、そんな枠を越えて、全映画好きの人必見!なのが『リュミエール!』なのです。まあ、少しでも映画に関心のある方は、「リュミエール」という名前を聞いただけで「ああ、あの」となるでしょうからもう説明も不要なのですが、今回の映画は、「映画」の始祖とも言うべきリュミエール兄弟の作品紹介ではあるものの、ひと味違う面白い構成になっています。まずは、基本データからご紹介しましょう。
『リュミエール!』 公式サイト
2016年/フランス/フランス語/90分/原題:Lumière!
監督・編集・脚本・プロデューサー・フランス語ナレーション:ティエリー・フレモー(カンヌ国際映画祭総代表)
映像:1895年~1905年リュミエール研究所(シネマトグラフ短編映画集1,422本のうちの108本より)
配給:ギャガ GAGA
※10月28日(土)より東京都写真美術館ホール他全国順次公開
© 2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon
上の写真が、オーギュスト(左/兄/1862-1954)とルイ(右/弟/1864-1948)のリュミエール兄弟です。リュミエール兄弟は1895年12月28日、パリのグラン・カフェの地下にあったサロン「インドの間」で初めて映画を上映したのですが、当時「シネマトグラフ」と呼ばれた映画は実に画期的な発明でした。それまでのエジソンが発明したキネトコープは覗き眼鏡方式で、1台1人しか楽しめなかったのですが、それに比べてシネマトグラフは、スクリーンに映写するという方法で一度に大勢の人に見せられるようになったのです。
© 2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon
その時上映されたのは、『工場の出口』『列車の到着』(上写真)『水をかけられた撒水夫』(下写真)などの短編映画10本で、いずれも人々を大いに驚かせました。『リュミエール!』では、これらの作品が何ヴァージョンもあることを明かし、その違いを見せてくれます。ダイナミックな構図で、まるで列車が観客の前に飛び出してくるような感覚を味わわせてくれる『列車の到着』は、プラットホームにいる人が違っていたりしますし、世界初のコメディ映画と言える『水をかけられた撒水夫』は、ホースを踏んで水を止めてしまう人物が異なったりします。リュミエール兄弟は単に風景を記録しただけではなく、最初期からすでに優れて映画的な演出を入れ込んでいたのでした。
© 2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon
それらのシネマトグラフはヨーロッパからアジアに伝わり、1896年7月にはインドのボンベイ(現ムンバイ)で、同年8月には中国の上海で、そして1897年1月には日本の大阪で上映されます。つまり、リュミエール兄弟は映画という上映方式を発明した「発明家」であるだけではなく、その後も映画製作を続けた「映画製作者」として、さらにそれを世界各地で見せてまわった「興行師」としても映画史上に名前を残すことになったのでした。
© 2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon
さらにリュミエール兄弟は、映画製作者としての行動を世界各地に広げていきます。自社のカメラマンたちを世界各地に派遣し、珍しい事物をカメラに収めさせるのです。今回の『リュミエール!』で紹介されるアジアは、ベトナム、カンボジア、日本ですが、ベトナムの子供(上写真)や、日本の武術家の姿(下写真)などがカメラで撮られています。
© 2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon
こういったリュミエール作品は、これまでもビデオやDVDで発売されていて、私も何種類か目にしています。そういった作品集と比べて『リュミエール!』がユニークなのは、リュミエール作品を最もよく知っているリヨンのリュミエール研究所のディレクター、 ティエリー・フレモー氏によるナレーションが付いていることです。時にはユーモアもまじえながら、リュミエール作品の魅力を詳しく解説していってくれて、目からウロコの思いがすることも。映画に少しでも興味のある人ならば、これを見逃す手はありません。
© 2017 - Sorties d’usine productions - Institut Lumière, Lyon
アジア映画でも、映画の黎明期に言及される時には、よくリュミエールの映像が使われます。中国映画『西洋鏡 映画の夜明け』(2000)や、インド映画『移動映画館』(2013)のように劇中に登場することもあるので、この機会にぜひ、リュミエール作品に慣れ親しんでおきましょう。今回はちょっとした特撮(?)も見られて、口あんぐりになってしまいます。本当に映画って、その始まりの始まりから凄かったのですね~。最後に予告編を付けておきます。
映画『リュミエール!』予告編 10月28日(土)公開