アジア映画巡礼

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年末年始はイ・ビョンホンと共に!『それだけが、僕の世界』

2018-12-24 | 韓国映画

年末の日々は、あっという間に過ぎていきます。今日はもうクリスマス・イブで、街はすごい人出でした。3連休でしたし、この間にアジア映画の上映館に足を運ばれた方も多かったと思います。そして次、年末年始は何を見ようと思ってらっしゃるあなた、赤丸、それも三重丸ぐらいのオススメ作品があるので、ちょっとご紹介しましょう。主演のイ・ビョンホンがすごーくいい、そしてそれにも増してその弟を演じたパク・ジョンミンがすごぉぉぉぉぉーくいい韓国映画『それだけが、僕の世界』です。まずは基本データをどうぞ。

 

『それだけが、僕の世界』 公式サイト
2018/韓国/韓国語/120分/原題:그것만이내세상/英語題:Keys to the Heart
 監督:チェ・ソンヒョン
 主演:イ・ビョンホン、パク・ジョンミン、ユン・ヨジョン
 配給:ツイン
12月28日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

ⓒ 2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

物語は、やさぐれた40歳の元プロボクサー、ジョハ(イ・ビョンホン)から始まります。ジョハは街でチラシ配りをしたり、元東洋チャンピオンであったことから、たまにボクシング・ジムから声がかかってスパーリングの相手役を務めたりしていますが、暮らしはかつかつ。家も家族もなく、ネットカフェに寝泊まりする毎日です。でも気に掛けてくれる親友はいて、今日も彼のおごりで焼き肉で一杯、とある店に入ったら、そこの店員のおばさんが彼の顔をまじまじと見つめてきました。「あんた....ジョハ?」何と、ずっと昔に別れたきりの母インスク(ユン・ヨジョン)でした。母はジョハの父の家庭内暴力に耐えられず、ジョハが中学生の時に家を出て漢江に身を投げようとしたところを助けられ、再婚してずっと行方が知れなかったのでした。その後ジョハの父は刑務所に入り、ジョハは中学生の頃から1人で生きてきたのです。

ⓒ 2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

母は責任を感じたのか、ジョハに一緒に住もうと提案します。宿無しのジョハにとっては渡りに船で、少々わだかまりはあるものの、母の家にやっかいになることにしました。ところがそこには、母が再婚後に生んだ26歳になる息子ジンテ(パク・ジョンミン)がいました。ジンテはサヴァン症候群と呼ばれる、知的障害はあるけれどもある分野ではものすごい才能を発揮するという特異な性質の青年でした。ゲームもジンテの得意分野で、入り浸る大家の高校生の娘と共にコントローラーを握ってゲーム三昧の毎日。最初は粗野なジョハにおびえていたジンテでしたが、徐々に心を開いてきます。またジョハも、ジンテの並々ならぬピアノ演奏の腕前を目のあたりにし、弟への認識を改めました。ところがそんな時、一家に暗い影が...。

 

ⓒ 2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

見どころは何と言っても、情けないイ・ビョンホンの姿。落ち目のボクサーというキャラは、ここのところ善人・悪人とも大物を演じてきたイ・ビョンホンにはそぐわない感じがするのですが、まるで別の俳優のように軽やかに演じています。格闘技選手と対戦しての見事なやられっぷり、ちょっと前屈みの姿勢でのビラ配り(と言うより押しつけ)ぶり、ジャージのフィット感などなど、”ビョン様”はいずこに、という感じで実に新鮮です。見ながら何度も、「うまい俳優さんだなあ」と舌を巻きました。ラストに到るまで、力まない演技で観客を上手に乗せてくれます。一箇所だけ、ちょっと違和感を覚えるシーンがあるのですが、これは脚本に無理があったようです。脚本もチェ・ソンヒョン監督によるもので、よくできているものの、少しだけ余計な部分もくっついてきてしまいました。

ⓒ 2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

イ・ビョンホンの演技と共に、いや、それ以上に観客にインパクトを与えるのが、弟ジンテ役のパク・ジョンミンの演技です。サヴァン症候群についてはほとんど知らなかったのですが、Wikiを見てみると様々な分野で特異な能力を発揮する人の例が挙げられています。ジンテはゲーム分野(映像認識と登場する事物の先読み能力、及び瞬発力)とピアノ演奏(一度聞いた音楽の再現能力)で異才を発揮するのですが、後者の方は音楽理解力や解釈力に疑問は残るものの、それを忘れさせてくれるのがパク・ジョンミンの演奏シーンです。撮影の3か月前からピアノを猛特訓した、とのことですが、数曲にわたる演奏シーンを指の吹き替えなしで演じる迫力は、観る者を圧倒します。オーケストラとの協奏曲もあり、観客としてはハラハラさせられるのですが、パク・ジョンミンの演技はそんな心配を吹き飛ばし、大いなる感動を観客に与えてくれるのです。


ⓒ 2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

パク・ジョンミンの演技には、以前『空と風と星の詩人~李東柱の生涯~』(2016)でも接していたものの、あの固く生真面目な活動家からは想像もできない変身ぶりで、一瞬たりとも過去のパク・ジョンミンを感じさせないジンテの姿は、「神ってる」としか言い様のない演技でした。こちらのインタビューを読むと、彼の役作りにかけた努力がよくわかります。でも、このインタビューページの写真はごくごく平凡な青年俳優という感じで、あの化けっぷりはどこに行った? と思ってしまいます。次作品が難しいでしょうが、またあの演技力をぜひ目にしたいものです。

ⓒ 2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

なお、タイトルになっている『それだけが、僕の世界』は、韓国ではよく知られている歌だそうで、ジェジュン(元「東方神起」でJYJとしても活躍、現在はソロ活動が中心。『天国への郵便配達人』(2009)など、映画にも出演しています)の持ち歌としても知られているのだとか。劇中でも印象的な使われ方をしていますが、それと共に印象的なのが、次々と登場するクラシックの名曲の数々。ジンテが憧れて、その演奏スタイルから何もかも真似してしまう女流ピアニスト(ハン・ジミン)とのエピソードもたっぷり描かれるので、2人の演奏でいろいろ聞くことができます。

ⓒ 2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

韓国では2018年上半期の興行収入第4位となった作品で、おそらく年間興収トップ10にも入ると思います。これまでの兄弟映画、イ・ジョンジェのちゃらんぽらんな兄貴とイ・ボムス演じる早老症の12歳が競演した『オー!ブラザーズ』(2003)や、柔道の試合中にケガで失明した弟とヤクザな兄貴(チョ・ジョンソクが素晴らしい! このブログでのご紹介はこちら)の話『あの日、兄貴が灯した光』(2016)などをかすかに思い起こさせる作品ではありますが、イ・ビョンホンとパク・ジョンミンの圧倒的な演技がそんな過去のイメージを吹き飛ばしてくれます。この面白さを、年末年始にぜひ味わって下さい。『それだけが、僕の世界』から始まる2019年がよいお年となるよう願って、最後に予告編を付けておきます。

イ・ビョンホン出演『それだけが、僕の世界』日本版予告編



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2 コメント

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1月はフィリピン映画も (よしだ まさし)
2018-12-26 12:57:08
以前、cinetamaさんが紹介してくださいましたフィリピン映画『BuyBust』の「未体験ゾーンの映画たち2019」での劇場公開が決まりました。
他に、香港映画、中国映画、マレーシア映画、韓国映画、インドネシア映画など、気になる作品がてんこもりです。
詳しくは、以下のサイト。

https://aoyama-theater.jp/feature/mitaiken2019?fbclid=IwAR0JVCk7QarFzzgyzSCmENHfvMWJYQ6g5PyoFGoCAS8iKtdSwC0sbNqZCw0


また、国際交流基金アジアセンターでは、リノ・ブロッカ監督の『少女ルーペ』が上映されます。
他に、マレーシア、シンガポール、タイ、ミャンマー、インドネシアの映画も上映されるとのことで、こちらもたいそう気になります。

https://jfac.jp/culture/events/e-crosscut-asia-05-athenee/?fbclid=IwAR2c_7tRhOC-dEIXMqUNkwlwvanRj4zQzN2EF3cFpoVfKrrTVSkQ70gMcTI
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よしだ まさし様 (cinetama)
2018-12-26 22:49:33
コメントというか、貴重な情報をありがとうございました。
後者の方は、私もちょろっとお手伝いしている(というか、まだ形になっていないのですが)のに、情報アップが遅くなってすみません。
皆さん、ぜひお出かけ下さい。
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