インドのムンバイから香港に到着しました。香港も寒いです。昨日一挙に10度も下がったそうです。
佐敦(ジョーダン)の安いホテルに泊まっているのですが、レセプションの人が親切で、タダで使用できるインターネットを日本語のモードに変えてくれ、今日やっと地震の正確な情報を知ることができました。被災地の皆さんのご不自由はもちろん、東電の区域内の方は計画停電もあって、今も寒い気温に耐えてらっしゃることと思います。
インドや香港のジャーナリズムは、福島原発の放射能漏れのことを大きく報道していますが、それと共に、日本の人々の態度に感心し、共感する記事も出始めました。
インドの最有力紙「タイムズ・オブ・インディア」は、16日のムンバイ版で、「日本の被災者たちは、辛抱強く、長い列を作って、水やガソリンの供給を待っている。余震があり、死者の数が増え続ける中でも、彼らはきちんと社会秩序を保っているのだ。ハイチの地震の時や、ニューオルリンズの自然災害の時とは全く違う」というような論調の記事を載せています。
また、香港の「リンゴ日報」も16日の社説で、「日本の人々は、災害後も秩序をよく保っている。識者は、”小さいときから災害の訓練を教育されているせいだ”と言うかもしれないが、それだけではないように思う。日本人が礼儀をとても重んじる民族であることと、国に対して信頼を置き、不平は言わず静かにことに対処することで、事態をいい方へ向けて行こうとしているのではないだろうか」というようなことを述べています。こんな風に、日本のいい面を伝えてくれる報道も目に入りだしました。
さて、地震に続く一連の出来事については、皆さんはもうたくさん情報を持ってらっしゃると思うので、気分を変えて、インドで見た映画のお話をしましょう。
今回インドで見たヒンディー語映画は、チェンナイとムンバイを合わせて4本。その中でも、いいなあ、と思った映画が2本あります。「パティヤーラー・ハウス」(原題:Patiala House)と「花婿行列が賑やかに」(原題:Band Baaja Baaraat)です。「パティヤーラー・ハウス」は数年前にシネコン化されたムンバイのメトロという映画館で、「花婿行列が賑やかに」は新しく完成したムンバイのフェニックス・モールにできた映画館PVRで見ました。
「パティヤーラー・ハウス」は、「たとえ明日が来なくても」や「チャンドニー・チョウク・トウ・チャイナ」のニキル・アドヴァーニー監督作品で、ロンドンのサウスオールに家を構えた、パンジャーブ州出身のシク教徒一家の物語です。”親父殿”と呼ばれる一家の主人は、ロンドンにおけるシク教徒の権利拡大のために闘い、何度も監獄に放り込まれた人物。彼のおかげで、グルドワーラー(シク教寺院)もでき、コミュニティーは強力になったのですが、自宅ではどうしようもないワンマンな人物となってしまった親父殿でした。
彼の家は”パティヤーラー(パンジャーブ州の町の名)・ハウス”と呼ばれ、妻、そしてシク教徒の弾圧があった時に髪を切ってしまった息子2人のほか、常に親族が多勢一緒に住んでいるという賑やかな場所でしたが、ここでは誰もが親父殿の言う通りにしないといけないのでした。
こうなったのには、長男(アクシャイ・クマール)がクリケット選手になる夢をあきらめ、親父殿に言われた通り、小さなストアというかコンビニの店長に納まっていることが影響していました。クリケットのボウラー(投手)として才能があった彼も、「わしの敵、イギリスのために戦うのは許さん!」という親父殿の一言で、夢をあきらめたのです。
ところが、ボウラー不足に悩むイングランド・チームから長男に声がかかり、ある娘(アヌシュカー・シャルマー)の後押しもあって、彼は自分の意思に忠実に生きることに決め、選手として活躍し始めます。ところが、もしこれが親父殿に知れたらさあ一大事! 長男の活躍次第では、自分たちの将来にも希望が...と思ったパティヤーラー・ハウスの若者たちは、親父殿にバレないよう、新聞に出た長男の写真を差し替えたり、試合が放送される時は、彼の出番になるとケーブルを切断したりと、苦心惨憺するのですが...。
父親のいいなりになっていた無気力な青年がガッツを取り戻す、という、よくあるお話ですが(でも、インド娯楽映画では珍しいかも)、長男を応援する娘役のアヌシュカー・シャルマーが生き生きとしていて、他の脇役とともにお話を大いに盛り上げてくれます。もう少しクリケットの試合にリアリティがあれば、とも思いましたが、笑わせ、泣かせ、ハラハラさせて、最後はハッピーエンドという、インド映画らしいさわやかな作品でした。
もう1本の「花婿行列が賑やかに」も、アヌシュカー・シャルマーの主演です。相手役は、この映画で昨年度の新人賞を総なめにした男優、ランヴィール・シン。こちらは、デリーの大学生の男女2人が意気投合し、ウェディング・プランナーの会社を始めて大ヒットさせるものの、やがて友情が恋に変わり...、というお話です。2人は誠心誠意結婚式の準備をするほか、式を盛り上げるために歌って踊ってと大サービス。見ているこちらも椅子を蹴って踊りたくなるような、ナンバーが出てきます。
前半は、あれよあれよという間に2人が成功していくサクセス・ストーリーをテンポ良く見せてくれ、後半はちょっとモタつくものの、2人のキャラの魅力で観客を引き込み最後まで見せ切るという、これもインド映画らしいスグレもの作品でした。インド人にも大ウケで、すでに公開第14週というのに、日曜日の映画館は家族連れでほぼ満員。私の隣にすわった小学生の女の子も、楽しそうに見てました。途中ベッドシーンもあったんだけど、大丈夫だったかなあ。ご両親も夢中で見ていて、そんな配慮も忘れてたみたいです。隣のおばちゃん(私です)はちょっぴり心配したんだけど。
ところが、「花婿行列が賑やかに」をPVRで見て、同じモールにある書店ランドマーク(全国展開しています。ほかにも、クロスワードという書店などもあちこちに支店あり)に行くと、何と「花婿行列が賑やかに」のDVDがもう棚に並んでいるではありませんか! まったく、それでいいのか、ボリウッド、です。
最後にもうひとつ、小さな映画の話題を。ムンバイのあるマハーラーシュトラ州では、右翼政党が政権を取った時から、映画館では映画の上映前に国歌演奏フィルムが流され、全員が起立することが決められました。写される映像はたいてい、インド国旗がはためく、という絵なのですが、映画館メトロではちょっと興味深いフィルムが上映されました。最初小学校が写り、1人の子が駆けていく姿が写された時には、「もう、さっさと始めてよ」と思ったのですが、なんとそれはハンディキャップのある子供たちの学校で、国歌演奏を合わせて彼らが手話で合唱する映像だったのです。
これには、国歌が苦手な私もうならされました。見ていたインド人観客も感動したようで、終わったあと拍手が起きました。どうせなら、このフィルムを全映画館で上映すればいいのに、と思った私です。
友人の事務所のパソコンを借りて打っているので、あまり長くなっては申し訳ないためこの辺で。Oさん、ご協力、ありがとうございました。では、また香港から、次は香港映画のレポートができるようがんばります!