アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

@香港:ヒット中の呉鎮宇主演作『逆流大叔』

2018-08-21 | 香港映画

毎日、1~2時間の激しいスコールに見舞われる香港。気温は31度とあまり高くないのですが、雨が降った後はムシっと暑くなります。雨の凄さ、おわかりいただけるでしょうか?


そんな中、昨日、今日と、面白い映画を見てきました。1本目はタイトルにあげた香港映画『逆流大叔(Men on the Dragon)』で、呉鎮宇(ン・ジャンユー/フランシス・ン)主演の、というか、スターは彼しか出ていない香港映画です。8月2日に公開されて、すでに20日近くになるというのに、私が見に行った月曜日も又一城のモールにある映画館は8割の入り。チケットを買ったのが30分ぐらい前で、後ろの方は全部埋まっていたため、誰もいない前から4番目の列の端の席にしたのですが、中に入ってみると隣にイチャイチャカップルは座ってくるは、その後も結構若い3人組や2人組が真ん中の席に入ってきます。なんで~、と思っていたら、前の方の席には女子高校生か中学生の4人連れが座り、真ん中パートの席はどんどん埋まってきます。平日午前中の上映なので、一般料金でも50HKドル(700円)、シニアは25ドル(350円)ということで少しは見る人も多いかな、と思っていたものの、シニア、中年、30代以下がそれぞれ3分の1ずつ、という構成で席が8割埋まってしまったのにはびっくりしました。こんなに入っている香港映画を見るのは久しぶりです。

Man on the dragon.jpg

物語は、労働着を着た4人の男が乗ったブロードバンド会社のバンが、道を走るシーンから始まります。4人は龍哥こと陳龍(ン・ジャンユー)、黄淑儀という女性のような名前を持ったメガネに口ひげの中年男(潘燦良)、元ピンポンの選手で20代の威廉(胡子彫)、そして新人で20歳そこそこの陳自豪でした。4人は会社のリストラに対する抗議集会にかり出されたのですが、会社側のコワモテ上司泰哥(黄徳斌)が姿を現すととたんに腰砕けに。しかし会社側はリストラを強行、一番若い陳自豪がクビを切られました。意気の上がらぬ社員たちに対し、会社は自らがスポンサーになっているドラゴンボート・レースに会社チームとして参加することを命じて、女性の訓練員ドロシー(余香凝)に預けて特訓させます。いろんな事情を抱えている男たちでしたが、龍哥、淑儀、威廉に泰哥も加わり、いやいやながらドラゴンボートに取り組み始めます。

大叔たちの事情とは、いわゆる「家庭の事情」でした。古いアパートに住む龍哥は、隣の部屋に住む美容関係の仕事をしているキャロル(胡定欣)と恋人同然の仲。いつも隣の部屋で料理を作り、キャロルの中学生の娘も交えた3人で食事をしては、自分の部屋に帰る毎日。娘の学校の書類にサインをしてやったりと、すでに父親のような存在の龍哥でしたが、キャロルは別れた芸術家で娘の父親である男にまだ未練があるようで、いまいち結婚に踏み切れないのでした。淑儀の方は、団地の狭い部屋に妻と2人の幼い娘、そして中国出身で普通話しか話せない母親と一緒に住んでいます。生活は楽ではなく、劉徳華(アンディ・ラウ)のコンサートに行きたいという妻の望みも叶えられないまま。母親と妻の仲があまりよくないのも悩みの種で、夜中央の広場でビールを飲んでは憂さを晴らす毎日。ボートの練習をしていても、はつらつとしたドロシーについ、ふらふらっとなってしまいます。コワモテの泰哥は管理職で、給料も現場で働く男たちよりずっといいため、こぎれいなマンションに住んでいるのですが、中学生の息子はゲームに夢中で、帰っても無視されます。また、妻はどうやら浮気をしているらしく、先日妻が海外旅行で使ったスーツケースには男性名のタグが。ぶっきらぼうながら妻子を愛している泰哥は、悩んだ末相手の男の不動産会社に乗り込みます。そして、威廉も卓球の選手に戻ってやり直すことを決意、そういったもやもやをすべて乗せて、ドラゴンボート・レースが始まります。ドラゴンに乗った男たちの運命はいかに? 逆流を漕ぎきれるのでしょうか??


ここに挙げた出演者名をン・ジャンユー以外にも知っている方は、チョー香港映画通です。私も全然知らず、黄徳斌をどこかの映画で悪役で見たような気がする、と思った程度。監督は陳詠燊という人で、英語名は何とサニーハハハ・チャンなんだとか。2000年に香港演藝学院を卒業し、その後テレビ・プロデューサー、映画の脚本家、作家、専門学校の講師などを経て、このたび本作で映画監督としてデビューしました。脚本は『地下鉄』(2003)、『捉妖記2』(2005)など、結構有名な作品を20作近く担当していて、本作も脚本が上手なことが成功の基盤となっています。特に、香港人がビビッドに反応する「'70・'80年代ネタ」を上手に入れ込んでいて、「獅子山下」や「羅文」「黄霑」、「英雄本色」といったギャグが出て来た時には館内は大笑い。通路を隔てて私の左側に座っていたおじさんは、しょっちゅう呵々大笑していました。

演出力もなかなかのもので、最初はふまじめ半分でやっていた彼らが、だんだんとボートを漕ぐこと、みんなで力と気を合わせることの面白さに目覚めていくところなど、非常に巧みに描かれています。訓練員ドロシー役の余香凝もさわやかでチャーミング、彼女も含めて、なかなか上手なキャスティングです。おじさんチームはすんなり優勝したりはしないものの、彼らが達成感や充実感を味わうさわやかなシーンは、見ているこちらにもその気分が伝染してきます。隣に座っていたカップルも、いちゃいちゃするのを忘れたかのように、ずっと映画に見入っていました。各人の問題はハッピーエンドとはならないのですが、こういう人のいる香港っていいな、と思わせられる、久々に香港映画らしい作品でした。現在すでに600万香港ドル(約8500万円)稼いだそうで、まだまだ快進撃は続きそうです。早くも来年の「香港電影金像奨」という呼び声も高く、ちょうどいい時に来合わせて見られてラッキー。予告編を付けておきます。

天下一電影發行《逆流大叔》正式預告 8月2日 一鼓作氣 破浪前行

ン・ジャンユー、お腹もボテッとしてきてだいぶ年取ったなあ、という感じですが、ちりちりパーマ頭でかわいいおじさんぶり。「黄淑儀(実はこの名前の脇役女優がいたのです)」役の潘燦良は、今後コメディー映画に引っ張りだこになるかも知れません。若いイケメン男性が出ていないのは残念でしたが、日本でも映画祭上映とかされるといいですね。

 

映画祭上映と言えば、アジアフォーカス・福岡国際映画際2018で上映される香港映画『大楽師』は飛行機の中で見ました。借金の返済を迫られている男(姜皓文)が人気歌手(顔卓霊/チェリー・ガン)を誘拐して、身代金を取るまでの間海上生活をしている友人(鄭中基/ドナルド・チェン)に預けますが、音楽好きの二人はやがて意気投合して、新しい曲を作り始める、というもの。これも主役の2人が魅力的で、引き込まれる作品でした。こちらの映画祭の公式サイトで、ぜひ御確認下さい。間もなく映画祭の秋ですね。いろいろ楽しみにしていましょう。



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