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観劇の感想もろもろな備忘録。
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『ウエアハウス-double-』ストーリーと感想

2020-01-30 10:17:22 | 劇場・多目的ホール
舞台『ウエアハウス-double-』を新国立劇場小劇場にて、1月29日(水)15:00の回を観劇してきました。

ストーリーと感想を備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【ストーリー】
閉鎖された教会の地下にある「憩いの部屋」で活動する暗唱の会。格々が詩や小説、戯曲などを暗唱するサークルに参加しているヒガシヤマ(平野)は、ある日、一人でアレン・ギンズバーグの長編詩「吠える」をひたすら練習していた。
そんな彼のもとに謎の男・ルイケ(小林)が現れ…。


【演出】
鈴木勝秀


【出演】
平野良、小林且弥


【感想】
客入れの音楽は、懐かしのアメリカンポップス。スタンド・バイ・ミーなど。
中央に四角く黒い舞台が作られている。その周囲、四方に客席があるので、役者は360℃観客に観られることになる。
舞台上には黒く塗られた箱椅子が数個置かれ、四隅と上方には所々黒く塗られたワイヤーが張られている。
時折、外の工事の騒音や犬の吠える声が入り、場面によっては「ザーッ!」というノイズが入る。
ルイケの衣装も美術同様に全身黒づくめ。カットソー、パンツ、編み上げのショートブーツも黒。
ヒガシヤマの衣装は全体的に薄めの色合い。淡いブルーのシャツ、ベージュのチノパン、スニーカー、脱いでいるけどベージュのジャケット(妻からのプレゼント)。

暗転から照明がつくと、舞台上にルイケが一人で立っている。赤い装丁の小さいハードカバーの本を持ち、小さな折りたたみナイフを天井にかざしている。
また、暗転から照明がつくと、ヒガシヤマがiPhoneのイヤホンで何かを聴きながら、暗唱の練習をしている。黒い装丁のムック本が傍らにある。
彼が聴いているのは“ホワイトノイズ”で「ザーッ!」という雑音。ここからいろいろな音や声を聞き分けることができるという。

二人は地上げで取り壊し予定の教会の地下室で偶然に出会い、挨拶を交わし、お互いのことを話し始めるのだが、最初から微妙に会話が噛み合わない。
ルイケは恐ろしく記憶力がよく、一度見ただけのヒガシヤマの免許証の内容をそらで言えるてしまう。その能力に驚いて拍手しつつも、個人情報を知られたことに少しの戸惑いと恐怖を覚えるヒガシヤマ。

二人の会話はまるでルイケからヒガシヤマへの尋問のようで、ただ他愛もない会話をしたいだけのヒガシヤマは段々と苛立っていく。その変化に敏感に反応して、苛立ち大声をあげるルイケ。
密室の空気は密度を増していき、「帰ります!」というヒガシヤマに激昂したルイケは彼にナイフを向ける。揉み合いながら落ちたナイフを拾ったヒガシヤマは、ルイケにナイフを向ける。
そのとき、ルイケは自分からヒガシヤマにドン!と体当たりする。刺されたのか!と思ったが、ゆっくりとヒガシヤマから体を離したルイケは自分の腹をなでている。血は出ていなかった…。
ルイケは無言でヒガシヤマのジャケットと本を持ち、彼を残して立ち去っていく。一人残されたヒガシヤマは、残されたルイケの本を暗唱し始める。

暗転。

不条理劇のようで、実はがっつりと人間を描いている作品だと思う。時代や国、文化も超えて感じることのできるシェークスピアのような。
ルイケは妻とコミュニケーションロスから離婚し、裁判にも負け、その後は坂を転がるようにひどい人生を送っていた。今は無職でボロボロの安アパート住まい。
彼の苛立ちと怒りはかつての妻やアパートの銭ゲバ大家、鬱陶しい隣人たちに向かっている。
でも、ここで疑問がふっと浮かんでくる。本当に彼の不幸の原因は彼女たちなのだろうか?違うだろう?
彼を“自己責任”と突き放すつもりはない。ただ、“自分以外=他者”に勝手に過度の期待と幻想を抱き、妄想の域まで達しているのではないだろうか?
自分の思いどうりにならないことに怒り、恨みをつのらせ、他者を攻撃することに変換してしまっているだけだ。
ヒガシヤマに執拗に絡み、彼の心の奥にある本音を引きづり出そうとするのも、自分だけではないと思いたいからではないのか?
心の闇は闇のままで、そっと深海に漂わせておけばよいのだ。寝た子を起こしても誰も幸せにならない。
ルイケの自堕落な生活や考え方は緩やかな自殺のようにも思える。彼は他者はもちろん、自分自身さえも愛していないし信じていないのだろう。
彼の狂気は一体どこからやってきたのだろうか?おそらく、“持って生まれた気質+環境”が彼の狂気を育んでいったのだろうと思う。

まだ、ヒガシヤマとルイケが微妙に噛み合わないながらも会話をしていたとき、ヒガシヤマがiPhoneでニュースを見ていて、「無差別殺人の犯人が都内を逃走中」というのを読んでルイケに話して聞かせるというシーンがある。実は…ルイケが犯人なのではないのだろうか?そう考えると辻褄が合ってくる気がする。

「怖くて気持ち悪い」と噂の作品。怖いことは怖いのだが、「あ~いるんだろうなこういう人も…」と思ってしまった。最近の悲惨な事件を考えると突拍子もない話でもない。
濃密で密度の高い、90分があっという間の作品だった。久々に「演劇」を観た気分。

ヒガシヤマは平野良で、ルイケは小林且弥のように観えた。芝居をしていないということではなく、とても自然体でそこに存在していたということ。おそらく、お二人の中にもあるであろう一部分を、ぐ~っと拡大して観せられているような気持ちになった。
ヒガシヤマが左手を曲げ、頬杖をつくようなポーズで「う~ん…」と考えこむ様子はなんだか可愛らしい。
ルイケが大きな体を持て余すように背中を曲げ、箱椅子に座っている姿が切なく妙な色気がある。お二人とも素敵な役者さんだと思う。大好き♡


【余談】
以前実際にあった事件を思い出した。某芸人が後輩のアパートに遊びに行き、その近くでぴょこぴょこお辞儀をしながら「おはようございます!おはようございます!」を繰り返している男がいた。
芸人は「変なやつだな~」と思いながらも「おはようございます」と挨拶を返しておいた。後日、その男が無差別殺人を起こし逮捕され、「挨拶をしなかったやつを刺した」と供述したらしい。
この事件と少し似通っていると思い、恐怖は日常の足元に転がっているのだと再認識してしまった。

客席の最後部で腕組みをして観ていらした男性は、演出の鈴木勝秀だと思うのだけど、もし、違っていたらごめんなさい。
あと、記録用?DVD用?なのかカメラが入っていた。一台のようだったから記録用かな~?



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