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『東京暮色』を観る

2010年12月11日 | アート
  
小津安二郎の『東京暮色』を観た。ビールを飲んでから観たので寝てしまうかと思ったら最後まで観た。それだけ惹きつけられたのだと思う。しかし,ストーリーは淡々としていてひとつもドラマチックなシーンはなく抑制されている。

今まで観た作品(『東京物語』,『秋日和』『晩春』『麦秋』)と同じような感じだが(登場人物もほとんど同じ),終始暗い展開となる点が大きく異なる。ローキーな画面が多く挿入されて,象徴的なカットも多いと思う。親子関係,家庭を描きながらも,歴史を観るような目でひとりひとりを描いているようにも思えた。

今風に言えば,アイデンティティを確立できないまま去る次女(有馬稲子),新しい価値観に旧式な対応しかできない父親(笠智衆),結婚後も悩みを抱え幼子と出戻る長女(原節子)。放浪し続ける運命の別れた母親(山田五十鈴)。どことなく,『東京物語』や『晩春』,『麦秋』の後編というか,それらの作品からユーモアを差し引いてしまったような内容である。季節も真冬で寒々しい景色ばかりが映される。ところが音楽だけは明るくノーテンキ。これは逆に悲劇性を醸し出そうという技法なのか,人生は喜劇だという暗喩だろうか。

しかし,細部を描きながらも,大きなユーモアに包まれているような感もある。それは,最後の方で原節子が子供のために家に戻ると決断するときの聖母のような顔によく表れていると思う。そして,一人残された父親が忘れ物の幼児の玩具を手に取るシーンでは生命の連鎖を考えさせられる。

また,幾度となく映される家の前の坂道。どんなことがあっても生活は繰り返されていくことの象徴のようだ。このシーンに還って終わるのが何よりの救いだ。

■『東京暮色』140分,1957年,松竹映画.監督:小津安二郎,音楽:齋藤高順,出演:原節子,有馬稲子,笠智衆,山田五十鈴,杉村春子,藤原鎌足他.


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