FileMakerでシステム開発

SE経験者がファイルメーカーを用いた場合、どのような設計、開発を行うのかを検証するブログです。

実在庫と有効在庫について

2022-04-16 14:37:29 | 業務システムの各機能
今回は在庫を管理する上での仕組みについてご紹介いたします。

1.在庫管理を行う上での在庫の種類
ここでの在庫の種類とは、以下を指します。(最低限必要なのものだけを記載しています。)
1)実在庫  :実際に保管場所に存在する在庫
2)帳簿在庫 :実際に帳簿に記載されている在庫
3)有効在庫 :実在庫に対して予定の受払(受注、発注)を反映させた理論上の在庫
4)基準在庫 :発注点または定期発注での必要在庫数
5)安全在庫 :手配してから入荷されるまでの間、欠品にならない在庫数

☞ 補足
ア.企業によっては、出荷と売上および入荷と仕入を区別してシステムを構築されていることもあります。
この場合、在庫数の更新は以下になります。
・実在庫への更新 :出荷入力、入荷入力、その他の在庫移動
・帳簿在庫への更新:売上入力、仕入入力。その他の在庫移動
※決算時は、実在庫と帳簿在庫を合わす必要があるので例えば仕入先からの送り状により入荷は完了しているが、本伝票(納品書・売上伝票)がまだ届いていない場合はそれらが届いて仕入入力が完了するまで月次締が保留になってしまいます。

イ.有効在庫は一般的な在庫引当に利用する場合といわゆる製造業でのMRP(資材所要量計算)とでは少し異なります。
一般的な在庫引当の場合、受注が発生した時点(登録日)で払出数を有効在庫に反映させます。この場合、受注の出荷予定日での反映はしません。発注については発生した時点(登録日)ではなく、入荷予定日で受入数を有効在庫に反映させます。(発注についても入荷予定日ではなく発生した時点で反映させているものもあるかもしれませんが・・・発注して即納品される場合はそれでも良いかもしれません。)
MRPの場合、受注情報についても出荷予定日で払出数を反映して計算します。


2.実在庫と有効在庫
現場においては、顧客からの注文に対し納入期日に出荷可能か在庫を確認します。
その際、実在庫だけでなく有効在庫でも確認していると思います。
以下に実在庫と有効在庫の遷移についての例を記載します。
注)一般的な在庫引当の場合として記載します。

☞ フェーズ1 本日を4月16日とします。
              受入        払出        残高
           実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫
(前月末在庫数)                         100   100
4/16    受注                  60   100    40
4/25    発注       200              100   240

以下が入力されたものとします。
①4/16(受注入力)  登録日  :4/16 数量:60  ※顧客A 出荷予定日:4/20
②4/16(発注入力)  入荷予定日:4/25 数量:200

本日4/16時点の在庫数
・有効在庫数は顧客Aの受注:60が入力されたため(100-60)で40になります。
(40のみ他の顧客に出荷可能となります。)
・実在庫は100のままです。
・未来の4/25時点での有効在庫数は240になります。


☞ フェーズ2 本日を4月20日とします。
              受入        払出        残高
           実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫
(前月末在庫数)                         100   100
4/16    受注                  60   100    40
4/20    売上                  60    40    40
4/25    発注       200               40   240

以下が入力されたものとします。
①4/20(売上入力)  出荷日:4/20 数量:60  ※顧客A

本日4/20時点の在庫数
・有効在庫数は40のままです。
・実在庫数は、本日60出荷されたため、有効在庫と同じ40になります。
・未来の4/25時点での有効在庫数は240のままです。


☞ フェーズ3 本日を4月25日とします。
              受入        払出        残高
           実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫
(前月末在庫数)                         100   100
4/16    受注                  60   100    40
4/20    売上                  60    40    40
4/25    発注       200               40   240
4/25    仕入   200                     240   240

以下が入力されたものとします。
①4/25(仕入入力)  入荷日:4/25 数量:200

本日4/25時点の在庫数
・有効在庫数は240のままです。
・実在庫数は、本日200入荷されたため、有効在庫と同じ240になります。

フェーズ1からフェーズ3までの遷移を見てきました。
受注(登録日)、発注(入荷予定日)の情報についても在庫数に反映させ未来の状態を把握するための仕組みの一つとして有効在庫での管理が存在します。


3.課題
在庫の引当とは、例えば顧客Aさんから注文を受けた時点で、Aさんのために在庫を確保しておくことを言います。Aさんに納品される予定のため別の顧客に販売はできなくしています。
一般的な仕組みとして有効在庫を取り入れてシステムを構築します。

それらのシステムの課題を記載します。
☞ 受注入力にて登録した順番に有効在庫が更新(在庫引当)されたるため、足の長い(納期がかなり先)注文が先に登録された場合、後に発生した注文(直近での納品希望)の有効在庫がマイナスとなるケースがあります。

1)一般的な仕組み (受注した時点で引当を行う)
本日を4月16日とします。
              受入        払出        残高
           実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫
(前月末在庫数)                         100   100
4/16   受注①                  60   100    40
4/16   受注②                  50   100   -10
4/16   受注③                  100   100   -110
4/16   受注④                   90   100   -200
4/25   発注         200              100     0

内訳
受注① 登録日:4/16 出荷予定日:5/10  出荷数:60
受注② 登録日:4/16 出荷予定日:4/28  出荷数:50
受注③ 登録日:4/16 出荷予定日:4/20  出荷数:100
受注④ 登録日:4/16 出荷予定日:4/24  出荷数:90
発注  登録日:4/16 入荷予定日:4/25  入荷数:100

②の受注登録の時点で、有効在庫が不足(-10)していることになります。
更に、③④の受注登録の時点でも有効在庫が不足しています。
4/25時点では有効在庫が、0になっています。

これらの在庫状況をから、どのような手当てが必要か判断できるでしょうか。
☞ 在庫引当の機能を実装しているシステムを導入していたとしても、実業務の中に機会損失リスクが潜んでいるかもしれません。

実際に顧客とやりとりしながら、注文内容を受注入力画面に入力し、上記のような状態が表示された場合、注文を受け付けた担当者はどのような回答をするでしょうか。
・在庫が不足しているためご希望の納期には納品できかねます。
・確認した後に、別途正式に納期回答をさせていただきます。

☞ 有効在庫の仕組みをシステムに実装する場合、様々な方法で行われていると思います。
システムによっては受注登録時に、それぞれの受注明細に引当可否および出荷可能数などを更新しているものもあるかもしれませんが、あまりそのような仕組みを私は採用しません。何故なら、別途手当として発注または他支店から緊急に在庫移動などを実施した場合、更新した内容を変更する必要があるからです。(バッチ処理で実施?)
一般的な在庫引当としては登録時に有効在庫数がどうなるか予想値を表示するだけでも良いのではないかと思います。
但し、登録時に引当する仕様は改善の余地があると思います。

受注変更が発生した場合、現場の在庫状況の把握はさらにややこしくなります。
例えば受注①がキャンセルとなった場合、次に登録した受注②の有効在庫は、-10から50に変わり全数出荷可能となります。

              受入        払出        残高
           実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫
(前月末在庫数)                         100   100
4/16   受注①                  60   100    40
4/16   受注① キャンセル            -60   100   100
4/16   受注②                  50   100    50


次にMRPでの例を記載します。

2)MRP (出荷予定日にて引当を行う)
  本日を4月16日とします。
              受入        払出        残高
           実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫
(前月末在庫数)                         100   100
4/20   受注③                  100   100       0
4/24   受注④                   90   100      -90
4/25   発注         200              100   110
4/28   受注②                  50   100     60
5/10   受注①                  60   100        0

④の受注登録の時点で、有効在庫が不足(-90)していることになります。
この場合の手当ては、
・4/25(入荷予定)の仕入先に対して納品日を4/25から4/24に変更依頼する。
・4/24(出荷予定)の顧客に対して納品を1日延ばせられるか相談する。

☞ MRPは定期に実行する必要があります。
実際のMRPの計算では、4/24に有効在庫が-90となった時点で、納期を4/23として発注が自動生成されます。(4/24納期の発注は安全在庫数と比較し過剰な場合、警告します。)
・MRPでの結果、自動生成された発注に対して確定指示することで正式に発注データとして登録され、有効在庫が更新されることになります。

              受入        払出        残高
           実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫  実在庫 有効在庫
(前月末在庫数)                         100   100
4/20   受注③                  100   100       0
4/23   発注             200              100   200
4/24   受注④                   90   100     110
4/28   受注②                  50   100     60
5/10   受注①                  60   100      0


今回は在庫管理の一部である在庫引当(有効在庫による)の機能について一つの事例をご紹介しました。
わが社の仕組みがどうなっているのか、一度精査してみることをお勧めします。
・現場担当が注文を受ける際、在庫をどのような内容で把握しているのか(把握できているのか)
・お客様への納期回答はどのような仕組みで実施しているのか
機会損失リスクが潜んでいないか
 ・リスクを特定する方法、規定は
 ・特定したリスクを評価する基準は (カテゴリ、影響度、損失度)
 ・リスクの対策は何か
 ・対策の有効性を評価する基準は
 ・対策後に残る残留リスクは何か


次回は、2023年10月から導入される適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)に関する一つの例として、現在構築中の販売管理システムからご紹介したいと思います。
特に、売上伝票と請求書(仕入伝票と支払明細書)の関係について

以上です。

P.S
かみゅーのホームページ
https://www.date-systems.com/

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