裸の王様

日常をダラッと垂れ流しております。
時折、マニアックな妄想も垂れ流していますのでご注意下さい。

遠い夏の日⑤ (幼SX過去捏造 女装中注意)

2007年08月14日 23時42分14秒 | REBORN(SS)
暗い洞窟を歩いていくと、やがて遠くに水の流れるような音が聞こえてきた。
洞窟の岩が水気を帯びて懐中電灯に照らされると、キラキラと光を反射し、時折ピチョンピチョンと滴の落ちる音が聞こえる。
洞窟の上からも下からもツララや筍のようにツルツルの岩が三角形に伸び、水滴を互いの間で滴らせていた。
少年の後を少し離れて歩いていたXANXUSの背中に頭上から滴が伝い落ち、びっくりした拍子に足元を滑らせて派手に転んでしまった。

「ひゃっ!!」

ドシンっ!!という音と、小さな悲鳴に少年が後ろを振り向くと、転んだ拍子にどこかぶつけたのか、痛そうに顔を顰めて蹲るXANXUSがいた。

「おい、大丈夫かぁ?」

懐中電灯をXANXUSに向け、駆け寄った少年が右手を差し出してきが、暗闇に慣れた目に懐中電灯の光はまぶしすぎて、目を庇う様に手を顔の前に上げた。

「まぶしい。」

「おお、わりぃ。立てるかぁ?」

少年は懐中電灯を下に向けると、顔の前にあげられたXANXUSの手を取って引き上げるように力を入れた。

「痛っ!」

「どこか怪我したのかぁ?」

少年がもう一度XANXUSを照らすと、膝小僧がすりむけて血が出ていた。

「あー、膝がすりむけちまってるなぁ。ちょっと血が出てるぞぉ。痛いか?」

かがんで膝を照らし怪我の様子を見ながら少年が問う。

「大丈夫だ、このくらいどうって事ねぇ。」

「このくらいの怪我、俺もしょっちゅうだぜ。
母ちゃんが言うには『舐めときゃ治る』らしいぜぇ。
だから俺いっつも舐めてるけど、ここじゃ自分で舐めらんねぇな。
俺が舐めといてやるよ。」

少年は言うなり膝小僧をペロッと舐め、口の中に血の味が広がったのか、不味そうな表情をした。

「何すんだっ!」

その行為にびっくりしたXANXUSが少年の頭をポカリと殴り、その衝撃で舌を噛んだ少年が口を押さえて呻いた。

「いへぇ~(痛ぇ)。あにすんらっ!!(何すんだっ!!)」

目じりに涙をためて痛いのか舌を出したまま抗議して来る少年の顔がおかしくて、XANXUSは思わずぷっっと吹き出してしまった。

「はにがおかひーんらっ!(何がおかしいんだっ!)」

「だ、だって変な顔っ。ぷははははははっ。」

よっぽど笑いのつぼに嵌ったのか、腹を抱えて苦しそうにひーひー言いながら大笑いするXANXUSに少年はムッとふくれっ面をして立ち上がると、無言でXANXUSの手を取り歩き出す。
手を引かれて引きずられるようになったXANXUSは、少年に講義した。

「手ぇ離せっ!」

「また転ぶかもしんねぇから、離さねぇっ!」

少年も少し意固地になっていたのか、力いっぱい握り締めたので、XANXUSは手の痛みに顔を顰めた。
そのままぐいぐいと引っ張られて歩いてゆくと、少し遠くに光が差し込んでいるのが見えた。
光を目指して進むと、狭かった洞窟が急に開け、そこは奥の高いところにある泉から棚田のようにいくつもの小さな水溜りが段々に上から下へ連なり、透明な水が流れて下にある小さな青い池へと流れ込んでいた。
その洞窟の天井の一部が抜け、上から光が降り注いでいるのだとわかった。
もう雨は止んだのだろうか、見上げれば夕焼け色に染まった空が見えた。
天井の穴からは、いくつか植物のつるが延びてはいたが、とてもそれを伝って上れるような高さではなかった。

「ここ、上るのか?」

「いや、この鍾乳洞はあの丘から海まで繋がってんだ。ちょっと疲れたろ、休憩しようぜ。」

そう言うと少年は近くにあった手ごろな岩に腰掛けたので、XANXUSもそれに倣った。

「そう言えば、まだ名前聞いてなかったなぁ。
俺はスペルビ・スクアーロってんだ。スクアーロでいいぜ、お前は?」

「俺は・・・、ダニエラ。」

問われたXANXUSはしばし逡巡し、別荘で見た肖像画の中の祖母の名前を使った。
正直に答えてもよかった気もしたが、こんな格好をしていることもあり偽名を使った方が得策だと判断したのだ。

「ダニエラか、よろしくな。」

少年はニカッと笑って立ち上がり、ここの水はおいしいんだぜといいながら犬のように両手をつくと、流れる水に直接口をつけて飲み、口元をぐいっと腕で拭っってお前も来いよと手招きをした。
歩きつかれてのどの渇きを覚えていたXANXUSも、素直にそれに従って少年の元へ行くと、少年の横にしゃがみ、両手でその澄んだ水をすくい、口へと運んだ。
一口含んだその水は、とても冷たくて、渇いたのどを潤していく。
小さな手では大して掬う事が出来なかったため、XANXUSは何度も水を掬っては口へと運んだ。
その様子を見て、スクアーロは少し自慢げに、うまいだろ?と笑った。
XANXUSはうなづきながら、口元を拭った。

「ここの水はなぁ、ニンフの涙って呼ばれてんだぁ。」

「ニンフの涙?」

「婆ちゃんから聞いた話だけどなぁ、この泉には言い伝えがあるんだってさ。
うろ覚えだけど、教えてやるぞぉ。」

スクアーロはそう言うと、泉にまつわる物語を話し出した。



昔、また神々が人間と同じくこの地にいた頃のこと、豊穣の女神に仕えるニンフと海神の息子が恋に落ちた。
しかし、豊穣の女神と海神はとても仲が悪く二人の仲を許してはくれなかった。
仕方なく二人は人目を忍んで逢瀬を繰り返し、やがて結婚の約束を交わす。
ニンフは豊穣の女神に、海神の息子は父である海神に、それぞれ許しを乞うたが、どちらも二人を許してはくれなかった。
思いつめた二人は、次の満月の晩に月が中天に差し掛かる頃、駆け落ちすることを約束した。
次の満月の晩、その日に限って豊穣の女神はなかなかニンフを開放してくれず、ニンフはそわそわと落ち着かない様子で外を眺めてはため息をついていた。
やっとのことで開放されて、急いでニンフは約束の場所へ向かった。
約束の時間に遅れてニンフが待ち合わせ場所に到着したとき、海神の息子は何も言わずに待っていてくれた。
二人手に手を取って安寧の地を求め旅に出ようとしたその時、ニンフの様子がおかしいことに気づいた女神が、抜け出すニンフの後をこっそりつけさせていたフクロウによって、彼らの計画はたちまち女神の知るところとなり、怒った女神は雷神に頼んで海神の息子に雷を落として命を奪った。
目の前で最愛の人を亡くしたニンフは悲嘆に暮れ、その場で幾日も嘆き続けた。
嘆き続けたある晩、ニンフは海神の息子との間にできた子を産み落とすが、その子は息子を亡くして嘆き悲しんでいた海神に連れ去られてしまう。
最愛の人に続き、わが子まで失くしたニンフは悲しみのあまり岩になり、その目からとめどなく流れる涙は泉となり、遠く海の底の神殿へと連れ去られたわが子を追って、海へ流れていった。
海神の息子が落雷に打たれたとき出来たのが天井のあの穴で、泉の中心に聳え立つ石筍がニンフの姿だという。


スクアーロが語り終わるころ、天井から差し込んでいた明かりもだいぶ薄暗くなってきていた。
先ほどまで見えていた青い池も、黒く底の見えない淵へと変化しつつあった。

「でなぁ、ここの泉の水を恋人達が分け合って飲むと、ニンフが決して自分達のような目に合わない様にって、どんな困難をも超えて結ばれることが出来るって言い伝えがあるんだぁ。
うちの姉ちゃんは、いつか恋人が出来たら一緒に飲むんだっていっつも言ってるぜぇ。
あ、俺姉ちゃんいるんだぁ、お前兄弟はいるのかぁ?」

黙って話を聞いているXANXUSに向かって、スクアーロは問いかけると、XANXUSは首を横に振った。

「一人っ子ってやつかぁ、いいなぁ、俺んちの姉ちゃん口うるさくてよぉ。
何かっちゃー文句たれてくるんだぜぇ。やってらんねぇよ。
だいぶ暗くなっちまったなぁ、海の出口まであともう少しだから急ごうぜぇ。」

そう言って立ち上がったスクアーロが右手を差し出してきたので、つられて手を繋ぐと、スクアーロに手を引かれて泉の広場を後にした。

「もうちょっと行くと俺達の秘密の場所があるんだけど、もう日も暮れちまったしなぁ、今度案内してやるよ。
腹も減ったしなぁ、とりあえず村に出て俺んち来るか?
母ちゃんの飯は結構旨いんだぜぇ。」

「でも、いいのか?」

「へーきへーき。それよりお前の方はいいのか?家帰らなくて。」

昼間、婆さんと一緒に剥いたソラマメのスープには未練があったが、何よりフェデリコ兄妹と一緒の食事など取りたくはなかったので、XANXUSはうなづいた。

「大丈夫だ。」

「うちの父ちゃん漁師なんだぁ。新鮮な魚使うから、うまいんだぜぇ。」

「ふーん。お前も魚取るのか?」

「俺はたまに手伝うけど、まだ船には乗せてもらえねぇんだ。半人前だからってさ。
それに俺には他に夢があるから、そっちの方が忙しいんだぜぇ。」

「どんな夢だ?」

「これは内緒だけどなぁ、父ちゃん漁師になる前は剣士だったんだぞぉ。
そんでなぁ、剣の道を究めるために世界中の剣士と戦ったんだぁ。
でも、ある剣豪との勝負で負けちまって、以来剣の道は捨てて漁師になったんだってさぁ、俺父ちゃんが隠し持ってる剣、見たことがあるんだぁ。
少し刃が欠けてたけど、手入れされてて綺麗な剣だったぜぇ。
俺悔しくてさぁ、いつか俺が剣士になって父ちゃんを負かした奴負かして、世界中の剣士という剣士を負かして世界一の剣豪になってやるって思ってんだ。
そのためにこっそり修行もしてんだぜぇ。」

「世界一の剣豪になってどうすんだ?」

「世界一になったら、そうだなぁ。剣士引退して、父ちゃんの跡継いで漁師にでもなろうかなぁ。
お前は将来の夢ってあるのか?」

「俺は、父様の跡を継ぐことだ。」

「お前も父ちゃんの跡を継ぐのかぁ。女だてらに大したもんだぁ。
俺の姉ちゃんなんか、将来の夢はお嫁さんだぜぇ。
ひねりってもんがねぇよな。
でもよぉ、お前なら可愛いお嫁さんも似合いそうだけどなぁ。」

「なんだとっ!からかうのもいい加減にしろっ!!」

スクアーロにはからかったつもりなどこれっぽっちもなかったのだが、XANXUSは繋いでいない方の手で思いっきりスクアーロを殴った。

「イテっ!なんだよ、からかってなんかないぞぉ。
俺は正直な感想をだなぁ。」

正直な感想ならなお悪いとばかりに、XANXUSは言い募るスクアーロの頭を再度殴った。

「イテェな、う゛おいっ!女がそんな暴力振るうんじゃねぇっ!この跳ねっ返りのこの男女っ!!」

「俺は男女じゃねぇっ!!」

更に今度は蹴りが飛んできた。

「イテッ!もういい加減にしろっ!
ったく、うちに姉ちゃんより性質悪りぃぞぉ。」

殴られたところを擦りながら、スクアーロはぶつぶつと文句を言った。
性質が悪いと称されたXANXUSは、ふくれっ面でスクアーロに手を引かれながらここがこんなに真っ暗でなかったら、さっさと握られた手を振りほどいてやるのにと歯噛みしていた。
しばらく黙って歩いていくと、遠くから波の音が聞こえ、潮の匂いがしてきた。


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