波の音と潮の香りがどんどん大きく強くなっていき、やがて前方に出口らしきものがうっすらと見えてきた。
「もうすぐ出口だぜぇ、今日は月が出てるから少し明るいみたいだなぁ。」
足元の岩は、いつの間にか鍾乳石ではなくなり、ゴツゴツとした岩と岩の間に波に洗われて丸くなった小石が敷き詰められ、歩くたびにじゃりじゃりと音を立てた。
一歩進むたびに足が沈み込むような感触に気を取られ、下を向いて歩いていたので、急に立ち止まったスクアーロの背中にぶつかってしまった。
しこたま鼻をぶつけ、痛みに顔を顰めながらスクアーロの背中に向かって文句を言う。
「おいっ!急に立ち止まるなっ!!」
「ん?おお、悪い。」
前方を照らしたままこちらを見もせずぶつぶつ言っているスクアーロを不審に思い、XANXUSもスクアーロの照らし出す方向を覗いて見ると、立っている場所より少し先に水が見えた。
「どうしたんだ?」
「潮が満ちてきちまってる。」
「まずいのか?」
「んー、まずいって言うかぁ。」
言い渋るスクアーロの腕を引く。
「なんだ、はっきり言え。」
「お前泳げるかぁ?」
「当然だ、馬鹿にすんな。」
「なら大丈夫かなぁ。」
「だからなんなんだ?」
「ああ、今は満ち潮の時間だから出口に潮が入り込んじまってるんだぁ。
大体膝ぐらいまでの水深なんだけどなぁ、浜に出るまでには俺達の背じゃ足が届かない少し深いところもあるから、泳げないと出られないかと思ったんだぁ。」
「心配ねぇ、プールなら50mまで泳げる。」
XANXUSが自信満々で答えると、スクアーロは『プールねぇ』と呟きながら、『まぁいざとなったら俺が何とかするしかねぇかぁ』とぶつぶつ言いながら、自分の腕を握り締めているXANXUSに『行くか』と声をかけた。
XANXUSが頷いたので、二人は出口へ向かって歩き出した。
足元の水を避けるように岩から岩へと慎重に歩を進める。
時折波が入り込んできて岩を洗うので、岩場は滑りやすくXANXUSは何度か転びそうになってはスクアーロに抱きとめられた。
しばらくそうして水に入らぬように進んできたが、出口までもう少しというところで、とうとう水面から顔を出す岩がなくなり、一面の水面には海から押し寄せた波でざわめいていた。
スクアーロは立ち止まってXANXUSを見ると、水面から出口までを照らし様子を覗った。
「今日は割りと波が穏やかだな、風が凪いで来ているからかなぁ。
この分なら大丈夫かな。
これから先は水の中を行かなきゃならねぇ、どこが深くなってるかわかんねぇから、俺から手を離すなよ。」
スクアーロはXANXUSの手をぐっと握り締め、意を決したように波の中に慎重に踏み出した。
地元の人間といえども、こんな暗がりで海の中を歩くのは少なからず危険を伴った。
いつ大きな波が来て、その身を浚われ岩に叩きつけられるかわからないのだ。
小さいといえども、波の力はとても強い。
子供の力ではちょっとした波で足元を浚われる。
スクアーロは洞窟の壁に沿って、ゆっくりと進む。
時折大きめの波が打ち寄せて、二人を腰までぬらした。
折角乾きかけていたワンピースもまた塩水に濡れて、脚にまとわりつきとても歩きにくかったが、スクアーロはゆっくりと進んでくれたので何とかついていくことが出来た。
出口はすぐそこにあるのになかなか辿り着かない。
月光が入り込んできているのか、水面が光を反射して、懐中電灯の光がなくてもうっすらと辺りの様子が見えるようになった。
出口から見える海は凪いでいて、海面がキラキラ月光を反射して明るかったが、洞窟に押し寄せる波は入り口付近で砕け、泡だって勢いが増し荒々しささえ感じさせた。
二人は必死で洞窟の壁にしがみつきながら、やっとのことで出口へ辿り着いた。
砕け散る波が全身を濡らし、強い力で二人を翻弄したが、なんとか踏ん張って立つ。
「あそこが浜だ、ここからしばらくは泳がねぇといけないんだ。一人で泳げるか?」
浜を指差しながらこちらに問いかけるスクアーロに頷く。
月光があるとはいえ夜の海は暗くて怖い。
XANXUSは意を決して海の中へ泳ぎだした。
しかし、泳げるとはいえプールでしか泳いだ経験はない、しかも水着でしか泳いだことはなかったから、衣服を着たまま泳ぐということがどういうものなのかわかっていなかった。
息継ぎをするつもりなのに、波を被って嫌というほど水を飲む。
前へ進むつもりなのに靴を履き、スカートの纏わりつく脚ではバタ足も旨くできない。
さっさと飛び込んだXANXUSが明らかに溺れているのを見たスクアーロは、舌打ちをすると靴を脱ぎ捨てて即座に飛び込んだ。
穏やかな波と月光に助けられ、何とかXANXUSに近づくと、今にも波間に沈もうとしていたXANXUSの首に腕をかけ手引き上げ、意識が朦朧としているであろうXANXUSの顔が水面に出るように横に抱えて浜に向かって泳ぎだした。
浜までの距離は大して遠くはなく、彼らの背が届かぬくらいの深みもほんのわずかあったため、スクアーロは力尽きることなくなんとかXANXUSを浜まで連れて行くことが出来た。
やっとのことで波打ち際に横たわって、XANXUSを覗き込む。
青い顔をしてぐったりしていたので、波打ち際から浜まで引き上げると、XANXUSの頬を叩きながら大声で名前を呼んだ。
「う゛おおいっ!ダニエラっ、しっかりしろよ。もう浜だぞ。
ほら、もうすぐ俺んちだから、目ぇ覚ませよ。
クソッ!!こんなとき、どうすりゃいいんだ!?」
なかなか覚醒しないXANXUSにうろたえて、体を揺すりながら無い頭を絞って考える。
「こんなとき、父ちゃんならどうする?
そうだ、あの時父ちゃんどうしてた?
思い出せ俺ーっ!」
数年前、浜で泳いでいた子供が溺れたことがあった。
通りすがったスクアーロの父がその子供を助けたとき、子供は意識が無かった。
その時父は子供に人工呼吸をして、その子は息を吹き返し助かったのだ。
その時のことをスクアーロは鮮明に覚えていたし、人工呼吸のやり方はその後父親に聞いてなんとなく知っていた。
目の前には青い顔をした少女が横たわっている。
状況はあの時と同じだ、やるしかない。
肝が据わったら、とたんに頭がクールダウンして冷静になれた。
XANXUSの首の下に腕を入れ、気管が開くように少し傾けて鼻をつまみ、息を思い切り吸って口から吹き込み、胸の上から少し強めに何度か押す。
それを数回繰り返したのち、ごほっとXANXUSの口から飲み込んでいた海水が吐き出され、苦しそうに咳き込みながらうつ伏せに蹲ると咳き込み始めた。
ゴホゴホと咳き込むXANXUSの背中を擦りながら、息を吹き返したことにほっとして少し涙が出た。
「ダニエラ、大丈夫か?苦しいのか?」
蹲って咳き込むXANXUSは、苦しくて返事も出来ない様子だったが、スクアーロはやさしく背を撫でてやった。
やっと咳が出なくなり、普通の呼吸を取り戻したXANXUSは、朦朧とする頭でスクアーロを認めると、ふっと笑った。
その笑顔を見たスクアーロは、思わずXANXUSを抱きしめて泣き出した。
「ダニエラ、よかった、無理させてごめんなぁ。」
ダニエラってだれだ?朦朧とした頭で聞きなれない名前を呼んでなく少年を見つめているうちに、段々と今までの経緯を思い出してきた。
ああ、俺はさっき溺れたんだったなぁ。
海に沈みかけたとき、こいつが助けてくれたのか?
自分を抱きしめて泣きじゃくる少年の濡れた背をぽんぽんと叩くように撫でてやると、少年は段々と落ち着きを取り戻し涙を拭って笑顔を見せた。
「無事でよかった、立てるかぁ?」
頷いて立とうとしたが、脚に力が入らずへなへなとその場にへたり込んでしまった。
「まだ無理かぁ。じゃ、俺がおぶってやるぜぇ、ほら。」
そういってこちらに背を向けてしゃがんだスクアーロの背中は、当然ながら小さくておぶさるには少し不安があった。
「でも、お前も疲れてるだろ?」
「俺は大丈夫だぁ、何しろ毎日この海で泳いでんだからなぁ。
あの位泳いだってどうってことねぇぞぉ。」
おぶさるまでは梃子でも動かないといった風情のスクアーロに気おされて、XANXUSは渋々その背に身を預けることにした。
流石に自分と変わらぬ体格のXANXUSをおぶるって立ち上がるのはスクアーロも辛かったが、根性で立ち上がると沈む砂に足を取られつつも、なんとか歩き始めた。
「もうすぐ出口だぜぇ、今日は月が出てるから少し明るいみたいだなぁ。」
足元の岩は、いつの間にか鍾乳石ではなくなり、ゴツゴツとした岩と岩の間に波に洗われて丸くなった小石が敷き詰められ、歩くたびにじゃりじゃりと音を立てた。
一歩進むたびに足が沈み込むような感触に気を取られ、下を向いて歩いていたので、急に立ち止まったスクアーロの背中にぶつかってしまった。
しこたま鼻をぶつけ、痛みに顔を顰めながらスクアーロの背中に向かって文句を言う。
「おいっ!急に立ち止まるなっ!!」
「ん?おお、悪い。」
前方を照らしたままこちらを見もせずぶつぶつ言っているスクアーロを不審に思い、XANXUSもスクアーロの照らし出す方向を覗いて見ると、立っている場所より少し先に水が見えた。
「どうしたんだ?」
「潮が満ちてきちまってる。」
「まずいのか?」
「んー、まずいって言うかぁ。」
言い渋るスクアーロの腕を引く。
「なんだ、はっきり言え。」
「お前泳げるかぁ?」
「当然だ、馬鹿にすんな。」
「なら大丈夫かなぁ。」
「だからなんなんだ?」
「ああ、今は満ち潮の時間だから出口に潮が入り込んじまってるんだぁ。
大体膝ぐらいまでの水深なんだけどなぁ、浜に出るまでには俺達の背じゃ足が届かない少し深いところもあるから、泳げないと出られないかと思ったんだぁ。」
「心配ねぇ、プールなら50mまで泳げる。」
XANXUSが自信満々で答えると、スクアーロは『プールねぇ』と呟きながら、『まぁいざとなったら俺が何とかするしかねぇかぁ』とぶつぶつ言いながら、自分の腕を握り締めているXANXUSに『行くか』と声をかけた。
XANXUSが頷いたので、二人は出口へ向かって歩き出した。
足元の水を避けるように岩から岩へと慎重に歩を進める。
時折波が入り込んできて岩を洗うので、岩場は滑りやすくXANXUSは何度か転びそうになってはスクアーロに抱きとめられた。
しばらくそうして水に入らぬように進んできたが、出口までもう少しというところで、とうとう水面から顔を出す岩がなくなり、一面の水面には海から押し寄せた波でざわめいていた。
スクアーロは立ち止まってXANXUSを見ると、水面から出口までを照らし様子を覗った。
「今日は割りと波が穏やかだな、風が凪いで来ているからかなぁ。
この分なら大丈夫かな。
これから先は水の中を行かなきゃならねぇ、どこが深くなってるかわかんねぇから、俺から手を離すなよ。」
スクアーロはXANXUSの手をぐっと握り締め、意を決したように波の中に慎重に踏み出した。
地元の人間といえども、こんな暗がりで海の中を歩くのは少なからず危険を伴った。
いつ大きな波が来て、その身を浚われ岩に叩きつけられるかわからないのだ。
小さいといえども、波の力はとても強い。
子供の力ではちょっとした波で足元を浚われる。
スクアーロは洞窟の壁に沿って、ゆっくりと進む。
時折大きめの波が打ち寄せて、二人を腰までぬらした。
折角乾きかけていたワンピースもまた塩水に濡れて、脚にまとわりつきとても歩きにくかったが、スクアーロはゆっくりと進んでくれたので何とかついていくことが出来た。
出口はすぐそこにあるのになかなか辿り着かない。
月光が入り込んできているのか、水面が光を反射して、懐中電灯の光がなくてもうっすらと辺りの様子が見えるようになった。
出口から見える海は凪いでいて、海面がキラキラ月光を反射して明るかったが、洞窟に押し寄せる波は入り口付近で砕け、泡だって勢いが増し荒々しささえ感じさせた。
二人は必死で洞窟の壁にしがみつきながら、やっとのことで出口へ辿り着いた。
砕け散る波が全身を濡らし、強い力で二人を翻弄したが、なんとか踏ん張って立つ。
「あそこが浜だ、ここからしばらくは泳がねぇといけないんだ。一人で泳げるか?」
浜を指差しながらこちらに問いかけるスクアーロに頷く。
月光があるとはいえ夜の海は暗くて怖い。
XANXUSは意を決して海の中へ泳ぎだした。
しかし、泳げるとはいえプールでしか泳いだ経験はない、しかも水着でしか泳いだことはなかったから、衣服を着たまま泳ぐということがどういうものなのかわかっていなかった。
息継ぎをするつもりなのに、波を被って嫌というほど水を飲む。
前へ進むつもりなのに靴を履き、スカートの纏わりつく脚ではバタ足も旨くできない。
さっさと飛び込んだXANXUSが明らかに溺れているのを見たスクアーロは、舌打ちをすると靴を脱ぎ捨てて即座に飛び込んだ。
穏やかな波と月光に助けられ、何とかXANXUSに近づくと、今にも波間に沈もうとしていたXANXUSの首に腕をかけ手引き上げ、意識が朦朧としているであろうXANXUSの顔が水面に出るように横に抱えて浜に向かって泳ぎだした。
浜までの距離は大して遠くはなく、彼らの背が届かぬくらいの深みもほんのわずかあったため、スクアーロは力尽きることなくなんとかXANXUSを浜まで連れて行くことが出来た。
やっとのことで波打ち際に横たわって、XANXUSを覗き込む。
青い顔をしてぐったりしていたので、波打ち際から浜まで引き上げると、XANXUSの頬を叩きながら大声で名前を呼んだ。
「う゛おおいっ!ダニエラっ、しっかりしろよ。もう浜だぞ。
ほら、もうすぐ俺んちだから、目ぇ覚ませよ。
クソッ!!こんなとき、どうすりゃいいんだ!?」
なかなか覚醒しないXANXUSにうろたえて、体を揺すりながら無い頭を絞って考える。
「こんなとき、父ちゃんならどうする?
そうだ、あの時父ちゃんどうしてた?
思い出せ俺ーっ!」
数年前、浜で泳いでいた子供が溺れたことがあった。
通りすがったスクアーロの父がその子供を助けたとき、子供は意識が無かった。
その時父は子供に人工呼吸をして、その子は息を吹き返し助かったのだ。
その時のことをスクアーロは鮮明に覚えていたし、人工呼吸のやり方はその後父親に聞いてなんとなく知っていた。
目の前には青い顔をした少女が横たわっている。
状況はあの時と同じだ、やるしかない。
肝が据わったら、とたんに頭がクールダウンして冷静になれた。
XANXUSの首の下に腕を入れ、気管が開くように少し傾けて鼻をつまみ、息を思い切り吸って口から吹き込み、胸の上から少し強めに何度か押す。
それを数回繰り返したのち、ごほっとXANXUSの口から飲み込んでいた海水が吐き出され、苦しそうに咳き込みながらうつ伏せに蹲ると咳き込み始めた。
ゴホゴホと咳き込むXANXUSの背中を擦りながら、息を吹き返したことにほっとして少し涙が出た。
「ダニエラ、大丈夫か?苦しいのか?」
蹲って咳き込むXANXUSは、苦しくて返事も出来ない様子だったが、スクアーロはやさしく背を撫でてやった。
やっと咳が出なくなり、普通の呼吸を取り戻したXANXUSは、朦朧とする頭でスクアーロを認めると、ふっと笑った。
その笑顔を見たスクアーロは、思わずXANXUSを抱きしめて泣き出した。
「ダニエラ、よかった、無理させてごめんなぁ。」
ダニエラってだれだ?朦朧とした頭で聞きなれない名前を呼んでなく少年を見つめているうちに、段々と今までの経緯を思い出してきた。
ああ、俺はさっき溺れたんだったなぁ。
海に沈みかけたとき、こいつが助けてくれたのか?
自分を抱きしめて泣きじゃくる少年の濡れた背をぽんぽんと叩くように撫でてやると、少年は段々と落ち着きを取り戻し涙を拭って笑顔を見せた。
「無事でよかった、立てるかぁ?」
頷いて立とうとしたが、脚に力が入らずへなへなとその場にへたり込んでしまった。
「まだ無理かぁ。じゃ、俺がおぶってやるぜぇ、ほら。」
そういってこちらに背を向けてしゃがんだスクアーロの背中は、当然ながら小さくておぶさるには少し不安があった。
「でも、お前も疲れてるだろ?」
「俺は大丈夫だぁ、何しろ毎日この海で泳いでんだからなぁ。
あの位泳いだってどうってことねぇぞぉ。」
おぶさるまでは梃子でも動かないといった風情のスクアーロに気おされて、XANXUSは渋々その背に身を預けることにした。
流石に自分と変わらぬ体格のXANXUSをおぶるって立ち上がるのはスクアーロも辛かったが、根性で立ち上がると沈む砂に足を取られつつも、なんとか歩き始めた。
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