ようこそ劇場へ! Welcome to the Theatre!

熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

今宵、フィッツジェラルド劇場で

2007-03-14 | 映画
スピルバーグの映画は観られなくても我慢できるが、偏愛するアルトマンの映画ばかりは代替が効かない。そんなアメリカ人映画作家は、他にはウディ・アレンぐらいになってしまった。

最後の作品となると思い入れも格別で、独断的かつ極私的な感想になるのは致し方ない。
アルトマンの作品では常に意識せざるを得ない「死」が、本作ではとりわけ濃厚に漂っている。
探偵気取りのキザな劇場保安係(ケヴィン・クライン)が登場する導入部のダイナーの場面でハードボイルドの雰囲気を醸し出し、白いトレンチコートを着た死神ふうの「天使」(ヴァージニア・マドセン)に美貌の「ファム・ファタール」の役割を担わせて、いかにも洒落た作りだ。
しかし決して重苦しくないのは、アルトマンが「死」を肯定的に受け容れているからだということが直ぐに解る。楽屋でひっそりと死んでしまう老カントリー歌手(L.Q.ジョーンズ)に対しての、「老人の死は悲劇ではない」というセリフに、それは端的に表れている。

『グレート・ギャッツビー』で有名な作家スコット・フィッツジェラルドの生まれ故郷、中西部ミネソタ州のセントポールにある、彼の名前に因んだ劇場での一夜が舞台である。
ラジオ局が大企業家(トミー・リー・ジョーンズ)に買収されたため、この劇場でギャリソン・キーラー(本人が出演)の司会で30年間続いたラジオの公開生番組『A Prairie Home Companion』(本作の原題)も、今夜が最後の収録日である。
ラスト・ラジオ・ショーに出演する歌手たちの楽屋でのおしゃべりが、そのままステージ上でのおしゃべりから演奏へと自然に移行し、さながら実況中継のような流れるような描写はさすがアルトマンで、そのままミュージカルか音楽劇に出来るくらい見事なもだ。
また、階下の楽屋からカメラが上昇して、そのままステージへ移動し、幕が開いて客席が見える一連のカメラワークにもウットリしてしまう。

カントリー&ウエスタンに特に興味が無くても、リリー・トムリン&メリル・ストリープの姉妹デュオのしっとりした歌や、ジョン・C・ライリー&ウディ・ハレルソンのカウボーイ・コンビの下ネタ・ソングなど、本職顔負けのC&Wの数々の歌唱も聴きどころだ。フィナーレの出演者全員による♪Red River Valley♪の大合唱にはホロリとする。
『M★A★S★H』『ナッシュビル』『ショートカッツ』『ゴスフォードパーク』(感想はこちら)等など、群像劇の秀作の数々に比べると、さらりとした印象だが、アメリカ的なバカバカしさを風刺しつつも、暖かく包み込むような優しさは、やはりアルトマンならではのもどだ。
カメラはいつでも歌手たちに寄り添っており、客席からの観客視線になっていないことにも、ああこれはラジオ番組なのだと感心してしまう。
劇場が解体された後、劇場の象徴のスコット・フィッツジェラルドの像はどこへ行ってしまったのだろうか?


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは。 (mint)
2007-03-17 12:31:27
こんにちは。
コメントをいただき、ありがとうございました。

映像とカントリー&ウエスタンの音楽が合ってる感じでしたね。
それと、アメリカ人の気質や哀愁の描き方がいかにもアルトマンらしいものだと思いました。

これが最後の作品というのが、残念です。
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反骨のパワー (butler)
2007-03-19 11:29:02
>mintさん、

アルトマン亡き後は、ポール・トーマス・アンダーソン監督に是非とも反骨の精神を引き継いで 頑張って欲しいですね。

TB&コメント ありがとうございます。

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こんばんは。 (ジョー)
2007-03-19 22:08:32
TBありがとうございます。
アルトマンのいないアメリカ映画なんて、トリュフォーのいないフランス映画みたいで、タルコフスキーのいないロシア映画みたいで、デビッド・リーンのいないイギリス映画みたいで、本当に本当に残念です。
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今村昌平のいない日本映画 (butler)
2007-03-20 11:54:38
>ジョーさん、

先日の教育TV「今村昌平に捧ぐ」での、スコセッシ監督の
今村監督に対するリスペクトは凄かったです。
日本的な代表とされてきた小津の対極に位置した今村が、松竹では小津の助監督をしたというのも皮肉ですね。

TB&コメントに感謝いたします。
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 (kimion20002000)
2007-07-25 02:30:07
TBありがとう。
本人は次の構想もあったかもしれないけど、結果論として、こういう遺言的な作品を残して、アカデミーの名誉賞もうけて、おしゃれな最後ですねぇ。
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巨匠たちの死 (butler)
2007-08-04 20:43:46
>kimionnさん、

アルトマンの次は、ベルイマンとアントニオーニの死去。
それも同じ日に亡くなりましたね。
映画芸術を独自に確立した、対照的な作風の二人の冥福を祈ります。
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