展示会で発表したコラボ創作作品 その3
Text by AnnaMaria
Drawing by Boruneo
「草に寝て」
足元から感じる、熱いエンジンのエグゾースト。
疾走するバイクのスピードメーターは、90キロ。
頭の上に広がる春は水色で、木々も優しい色の帯になり流れていくのに、
躯の表面にたたきつけてくる風は、鋭く冷たい。
僕の背中にぴったり躯を付けている君の筋肉の緊張を感じる。
怖いのかな・・・
でもこうやって一緒に風になるのもいいだろう?
やがて、僕らは目指す草原の海にたどり着き、
バイクのスピードを落とすと、流れていた世界の輪郭が少しずつ見えてくる。
二人を乗せていた熱い金属の塊が完全に止まると、
君が僕の後ろで長いため息を吐いたのがわかった。
「疲れた?」
「少し・・ね。こんなに長くバイクの後ろに乗ったのは初めてだから。」
君はヘルメットを乱暴にむしり取り、
軽く結んでいた長い髪を、風に解き放った。
そのまま、僕の隣の地面にぱさりときゃしゃな躯を横たえる。
君の長く伸びた体の向こうに緑の野が広がって行く。
「ここに連れて来たかったんだ。広くて誰もいないだろ?」
「あら、あそこの樹に小鳥がたくさんいるわよ。」
君は上体を起こして、眩しそうに辺りを見回すと、木の上を指差した。
「そうだな。ピチュピチュピチュ、誰かさんよりもおしゃべりみたいだ。」
「あら何よ、その言い方。
だったら、ずうっと黙っててあげるから、風とお話でもしてなさい・・。」
ぷんとすねて、くるんとうつ伏せになると、顔を向こうに向けてしまう。
さらさらさら・・・。
風の声が聞こえる。
体の上を、優しく通り過ぎるたびに。
君の長い髪を、風が触っているよ・・・。
僕も触りたいな。
「ねえ・・・」
「・・・」
「眠っちゃってないよね?」
「・・・・」
「聞こえてるなら、わざとそっち向くなよ。」
「風の声を聞いてるのよ。」
「・・・・」
意地悪だな。
頑としてこっちを向かない。
「ねえ・・・」
「なに?」
「僕の声は聞こえる?」
「聞こえるわ。」
「君の声はあんまり聞こえないな。」
「うるさくなくていいでしょ?」
「もうちょっとこっちへ来て。」
「折角、こんな広いところにいるんだもの。
ほら、こんな風にゴロゴロできるわ。」
ゴロゴロゴロ・・・って。
君、体中が芝だらけだよ。
どこまで転がっていくんだ?
「ねえ〜え・・・!」
「・・・な〜〜に〜〜!」
「もどって来いよ〜。」
「・・・ちょっと待ってて〜〜」
ゴロゴロゴロ・・・
芝だらけの髪が僕の手の届かないところで止まった。
それじゃあ、君か誰かわからないよ。
「来たわよ。」
「もっとこっち。」
ゴロゴロゴロゴロ・・・。
楽しそうなイモ虫さんだな。
「あ〜あ、芝生だらけになっちゃった。
あなたにもくっつくわよ。」
「いいよ、くっつけて。こっちへおいで。」
「もう行かない。」
「もう一回だけころがって・・・。」
「仕方ないわね。」
ゴロゴロ・・・。
ごつん、到着。
やっと君の体温が感じられた。
「あっ!」
「何?」
「今、ここにミミズがいたのに、君がつぶしちゃった!」
「え〜〜〜〜っ!うそうそ!どこよ!」
「もう遅い。哀れなミミズの代わりに僕が君をつぶす。」
「え〜〜〜っ」
焦って地面をきょろきょろしている芝だらけの君の上に、
僕の躯を固まりで落としてみる。
ぎゅっ!
「つぶれた?」
「・・・知らない。」
「じゃ、もう一回つぶす。」
シャツを通して感じる、華奢な骨組みをしっかりつかんでから、
今度はぎゅっと抱きしめる。
「ねえ、つぶれた?」
「・・・つぶれた。はあ・・。」
「今度はどこをつぶそうかな。」
君を捕まえて顎をなでながら、
どこから食べようか考えていた僕の一瞬の隙を突いて、
得意そうな君が僕の上になる。
「うふふ・・。今度はわたしがつぶすわ。」
「君なんかにつぶされないよ。」
「言ったわね!見てなさい!」
君は僕にしがみついたまま、
思いっきり、容赦なく、草の中を転がって行く。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・・・。
「あ〜〜あ、二人とも芝生だらけになっちゃった。」
「今ので、たくさんミミズをつぶしたね。」
「いやあね。あ!リス、リスがいる!」
君のよく動く瞳が木の上の何かを追っかけて揺れている。
「どこ?」
「あ、もう行っちゃった。残念!」
ホントにいたのかな?
僕から離れるための口実ってことはないよね。
悔しくなって、君の耳元にささやいてみる。
「・・・・・」
「きゃ、くすぐったい!何て言ったのか聞こえなかったわ。」
「リスなんか見るな。」
「じゃ、何を見るの?」
こっちを向いた黒い瞳の中に、寝転んだ僕と日に光る草原が映ってる。
「僕を見て・・・。」
「見てるわ。」
「もっと近くで。ちゃんと見て。」
「こんな広いところにいるのに?」
「いいんだ。僕以外見るなよ。今だけでいいから・・・」
君の瞳の中を僕だけでいっぱいにしたいんだ。