Life is・・・so・・・××××××Gun-Parade-March!!

死ぬから生きよう。ただ・・それだけ。

Vol:18 Gun-Parade-March-2 hydrangea

2006-01-08 19:16:44 | 妄想具現化
紫陽花を見ていた。
砦のベランダから、雨に濡れる紫陽花を。
『蹴球、なに黄昏てるの?』
真後ろから声を掛けて来た真っ赤なドレスの女性・・・ニレコは、うん?もう夜だし夜てる?いや、どうなんだ(*'ω'*)?
等と呟く。
気楽なものだ。あれだけ、オレのせいで恥をかかされたのに。
「ニレコ、すまんな」
本当は謝りたくなんてないから、紫陽花にむかって謝る。
そんな情けないオレにニレコは
『・・・帰ったら暇な時に練習付き合ってやるから な!』
なんて、笑顔で(きっと)言いやがる。頭・・・あがんねぇな。
パーティーはまだ続いている、このベランダなんかじゃ無く、砦内でだけ。
『いやもーマジ暇な時だけな?な?』
最後の一言だけ余計だった。


なるべく繊細にステップを踏む。まるで、踏みしめる先に地雷があるみたいに。
「たったらった・・・たらった・・・・」
記憶を頼りに、ステップ。薄氷を踏むように。
っと・・・ここでパートナーの肩に手をまわ・・・
すっと上げるつもりだった右腕はギシギシと鳴るブリキの様。
ちっ・・生地に金を掛けすぎてフォームは適当になっちまったっぽい。
どうも肩があがりにくいのだ。せっかくオーダーで作ったのに。
ぼやきながらタキシードの裾を翻してくるりとターン。
「たたったらっ・・・・た・・・・た・た・・」
首を回す一動作ですらぎぎぎと音がなる。シャツまでギリギリサイズだ。
よし、ここでパートナーの腰を持って一気に・・・!
ズズズ。地響き。地震ってレベルまではいかないけれど、微妙にバランスが崩れる。それでもすでに足を踏み出していて・・
タンッ。
「あ」
踏んだ。間違いなく踏んだ。
勢いに任せて踏み出した右足は、イメージの中にしかいない女性の左足の爪先を間違い無く踏みしめている。
「・・・あらー・・・」
すでに脳内投影機は相手が顔を顰めて中指を立てている絵まで浮かび上がらせる。
『いてーよはげ!』
声まで聞こえてきた。
何、別に大した事じゃない。なにせ足を間違えて踏んでしまうのも、もうこれで5回目。脳内投影も慣れたもので相手はどんどんリアルになっていく。
「どっかで必ず失敗するんだよなぁ・・・」
今回はまぁ地響きのせいってのはあるんだけれど、あんな小さなアクシデントでダメになっちゃうのはなぁ・・。
脳内の相手がべーっと舌を出して消えてからぽつりと呟く。何やってんだオレ。
「あーぁ、ニレコー、見てないで練習付き合えよー」
「やだね(・ω・)”」
自分はだれもいない大広間で練習していた。それでも、そんな鎌をかけたのは、本当になんとなくだったので声が返ってきた事にびっくりする。
くるりと回って声のした方を向く。部屋の隅に人影。
「足を踏まれまくるのなんてマジ勘弁だ(・ω・)”」
ピンクと白の色とりどりなワンピースを着たニレコが、部屋の隅にある机に肘を突いてこっちを見ていた。
「いや、でもなぁ・・イメージじゃどうにもこうにもうまく・・ってお前なに食ってんの?」
なんかさっきから咀嚼してるなーなんて思っていたのだけれど、その机・・・
「うん?(・ω・)”もぐ。いや、ちょっと聞いてよ奥さん(・ω・)”もぐ。」
左腕は肘を突いたまま。何やら右手が高速で口に何かを運んでいるようなのですが・・
「砦のメンテ前にERを掃除しようと大広間に入ったらですね(・ω・)”もぐ。何やらクルクルぱたぱたやってる人がいるじゃないですか(・ω・)”もぐ。」
な・・なんだあれ?咀嚼が異常に早いのか、口にモノを入れてから直に口を開くのにそこには何も無い・・・。
「それがあんまりぎこちなくて面白かったからちょっと見学しようと(・ω・)”もぐ。座った席の机にこれがあったのごちそうさま。」
綺麗になった皿をこっちに向けてごちそうさまをしてくるニレコ。
そ・・・その机には確か・・・
「ばかwwww!ちょ、おま、それはおれが気分を出すために用意しておいたモンなの!」
蹴球特製”一人の晩酌も寂しくない”豪華三種盛り。
居酒屋のバイトでつちかったノウハウを導入した最新作である。
「いやいや、さすがバージル君は料理がウマイネ(*'ω'*)」
フォークを名残惜しげに眺めるニレコ。
「オレが作ったんだよ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「(;゜ω゜)・・・」
かちゃーんと音を立てて床に落ちるフォーク。
「は・・・は・・・・」
「は?」
歯がどうかしたのか?
「謀ったなー!!ど・・どどどど毒!?毒なのか!?」
ぐぇ、と喉を両手で押さえて立ち上がるニレコ。待て、いまウマイっつっただろ。
『warning。warning。unknown forceにより砦に攻撃が与えられました。自律プログラムでは対処不能、”管理者”による外部サポートを希望します。繰り返し・・』
「オレが食う予定だったものに毒なんて入れるかwwww」
「ぐぐぐg!清めなければ!」
がっ!と机の上に残されていたワイングラスを手に取り、中に満たされていた紫色の液体をぐいっと飲み干す。
「ふぅ(*'ω'*)」
「おいwwwwwwそれボトルで9kくらいするんだぞwwwwww」
微妙とか言うな。
「毒は清められた(*'ω'*)」
「元から入ってねぇwwwwwwwww」
グラスの横に置いてあるバケツの中から、冷やされているボトルを回収する。二杯目とかに突入されたら事だ。
「(;`ω´)」
「狙ってんじゃねwwwwwwww」
まったく、ほんとに狙ってやがった。
「はぁぁああぁあぁ、ヤダヤダ、小さい男はやだねぇ(*ω*)」
ボトルを天井のライトに翳して中身を見る。ほっ、どうやら無くなったのは一杯分だけだ。
パンッとどこかで破裂音。
「見てよ奥さん、アイツ中身の確認とかしてやがんのっ!ちいせぇちいせぇ!」
「うるせぇwwwwwwワイン一気飲みするお馬鹿は黙ってろよwwwww」
がたんっ!と椅子を蹴り上げていきなり席を立つニレコ。お・・・怒った?
「kr・・・・・・」
「は・・はいっ?」
何故か額を冷や汗が落ちる。なんだこの緊張感は・・・・。
ざわ・・・ざわ・・・と、何やら嫌な予感がする。いや、マジでなんかこえーんすけど。
目の前まで進んできたニレコはすっと右手を挙げて・・・
「ひっ」殴られる!?
そのまま右の手の平を額に当ててきた。
「?」
「kr・・・大丈夫?病院行く?」
さっきまでの緊張感はどこかに消え、ニレコの表情は重症の患者を看取るような、慈愛と哀れみに満ちていて。
瞳には涙のようなモノが盛り上がっている。
そんな、表情でニレコは諭すように言った。
「ちびちび飲むのはウィスキー。ワインはぐい飲み。これ・・常識だよ?」
「ちげwwwwwwwwwww」
どうやらシリアスは10秒くらいが限界のようです。
バッと額に乗せられていた手を叩いてどける。
「せっかくおねぇさんがワインの正しい飲み方を教えてやってるのに(;`ω´)」
大真面目に言ってやがる。こいつ、マジか?
「いあいあ、それ違うから!ワインの飲み方じゃないから!」
予備で持ってきていたグラスをワインを運んできたカートから出してワインを注ぐ。とくとくとく。
「いいか?そもそもニレコはグラスの持ち方からして違う!」
キュッとワインにコルクを挿して栓。1/3ほどワインを注いだグラスの『首』を持つ。
『こちらERバージル。”管理者権限”を発動。現在砦はunknown forceにより攻められている。総員第一種戦闘配置に着け。繰り返す、総員第一種戦闘配置に着け』
「さっきお前はこのグラス自体を手の平で持ってたろ?こう・・こんな感じで」
右手の中指と薬指の間にグラスの『首』を差し込んでグラス自体をワシ掴む。
「帝王持ち(・ω・)左手は猫を撫でる」
居もしない猫を撫でるニレコ。だ・・だめだ・・・・。
「それ漫画の見すぎwwwwwwワイン温くなっちゃうだろwwwwwwww」
「温くなったら捨てて新しく注げばいいじゃない」
「どこのマリーだよwwwwwwwwww」
なんか・・・最初から説明しなきゃいけないような気がして鬱になる。く・・手強いな。
「そんでだ、グラスを持ったら・・・」
「はいはいせんせー」
ビッと手を上げる生徒ニレコ。
「なんだ?」
「その面白服は私を笑い死にさせる為ですか(;`ω´)?」
「タキシードだよwwwwww」
「芸人になるんですか(;`ω´)?」
「お前空気読めよwwww殴るよwwwwww」
『ERバージルより各員、砦は完全に包囲されている。襲撃備え』
「まさか・・・コスプレですか(;`ω´)?」
「・・・ニレコ・・・・ちょっと額を出せ」
とことこと寄って来て前髪を上げるニレコ。瞳がキラキラと輝いている。なにやらすっごい楽しみにしている模様。素直か馬鹿なのだがぜひとも後者の線で行きたい。
「ていっ!」
「あ痛っ!」
ペチンとつるつるの額にデコピン。参ったか。
「なにしやがるヽ(`□´)ノ」
「話を聞けwwwwww」
また最初に立ち返り、グラスを持つ。
「いいか?ちゃんとこの『首』を持ったら・・・」
「グラス自体を親指で弾いて『首』から切り離すんですな(;`ω´)?」
「筋肉馬鹿漫画じゃねwwwwwwwwwwwww」
『砦内配置各員に告ぐ、現在砦はunknown forceからの襲撃を受けている。その際、空間干渉系の攻撃を受けたものと予想され砦は空間移送を強制的に受けたと思われる。砦が割り出した現在地は”ニブルヘイム5”繰り返す、ここはプロンテラでは無い。現在地は”ニブルヘイム5”。各員unknown forceからの防衛を第一とし、迎撃せよ。敵を迎撃せよ。』
「まずは匂いだ!ワインはまず匂いをかいで・・・・うん?」
何か今聞こえたような・・・・
「匂いとは変態めヽ(・ω・)ノ」
どこをどう勘違いしたのかわからないが、なにやら凄い表情でこちらを窺うニレコ。
どれくらい凄いかと言うと・・・(*゜ω゜)・・・な感じなのだが。
まぁいい(良く無いが)今はそれよりも確認しなければ・・・
「なぁニレコ、今何か・・・」
「匂いは嗅がせない ぞ!ヽ(`□´)ノ」
ばっと胸を両手が隠して飛び退るニレコ。
「話を聞いてくれよ頼むからwwwwwwwwwwww」
それから斯く斯く云々と(自分が匂いフェチで無い事から)違和感や、なんとなく聞こえた事に付いて説明する。
するとニレコは
「あぁ、そういえば。」
ぽん、と手を打ち
「面白服を着た人がロリコンとショタコンとペドの違いについて熱く語っている時に『第一種戦闘配置』とか『防衛』とか『迎撃』って聞こえたような気がする(;`ω´)」
「そんな話してねよwwwwwwwwっと、じゃあニレコも聞こえたのか。」
あいヽ(・ω・)ノと手を挙げるニレコ。じゃあ早く教えろよ・・・とは言えないか。おれも聞いてなかったし・・な。
「まさかくっちゃべってて砦内放送聞いてなかったなんてバレたら・・・」
「(((・ω・)))お・・お前は早く持ち場に行けよっ!ここは私が守るからっ!」
ガクガクと震えながらいつの間にか出した杖でシッシッとオレを追い払おうとするニレコ。ずるぃ・・・。
「のりちゃんに怒られる時は一緒だからなwwwwwwww」
「(((・ω・)))シッシッ」
槍を作りながら走り出そうとした時、不意に胸に青い光が立った。
「うぇ?」
「あぁ?」
この青い光は・・・・
「ねぇ、この光って確か・・・」
すぃすぃと手を青い光に翳しながらニレコがこちらを向く。そう、この光は確か・・・
「バージル君の”ブルーリンクス”・・・・」
同時多数支援を可能にするバージル君の特殊能力であり、ある意味幻影騎士団における”極限連携多重戦闘状態”。
同時に多数の支援を可能にはするのだが、それはつまりバージル君一人に全ての負荷が掛かるという事でもある。
故に、戦場においてこの能力はいつも”切り札”的な使われ方をしてきた。それ程までにきつい負荷。苦しい・・・能力。なのにその発現は・・。
「随分とマズイのかな・・・」
心を見透かしたようなニレコの独り言。そう、この能力の発現はそれを意味する。楽な戦いでなんて・・・使わない。
「なぁ、確かこれってつないでいるだけでもエーテルを食うんだよな」
手に絡まない青い光を手で遮ったりしてみる。効果なし。
「うん・・・・何もしなくても私たちの状態を数値化して送ってるはずだから・・・」
いくら手で遮ったところで光は途切れないのに、幾度もその光に手を添えるニレコ。
「オレはニレコといるから・・・これ・・解除してもらえないかな」
うん・・と俯き、ニレコは光の先・・・壁を見る。
「いつもはプライバシーの関係でリンクする時に許可を求めてくるんだけれど・・・」
そうだった。いつもバージル君はこの能力を使う時には必ず許可を求めてきたっけ。
それが今回は無かった。有無を言わせない強制接続。つまり・・・・
「戦況は・・・随分じゃなくて・・・かなりヤバイ事になってるのかもね・・・」
慈愛の瞳で壁を見るニレコ。その先に、苦しんでいる仲間がいるのが見えるように。
「なら・・・・・早く行こう」
とりあえず槍だけを作りだしてニレコを促す。この事態を早く解決する事が、仲間を救う事だと信じて。
もう一瞬だけ光が差す先の壁を見て、ニレコはこちらを見る。強い瞳で。
もう大丈夫。そう言っているような瞳を見た時
”それ”は出てきた。耳を劈く轟音を伴って。
「!?」
「・・・・!」
天井に鉄の板が変な形になって突き刺さっている。
その真下には暗い・・・暗い穴が一つ。ADの入り口。
地を滑るように這い出てきたそれ・・・・ミニデモは躊躇い無くニレコの足に向かって突進してくる。
それを左手に持っていた槍を回転させ、槍の柄でふっ飛ばし、槍先を次に出てきたボロ布骸骨・・・デッドリーゴーストに向ける。
「ニレコ!支援!」
と、言い切る前にブレスと速度が自身にかかる。ついでの詠唱でマニピに入るニレコ。
現状の把握・・・ADが内側から破られ、修練用に飼われていたMOBが溢れ出した。
絶対に破られる事の無いと云われていた、扉を破って。
その扉は今はもう力なく天井に突き刺さり、役目を果たしていない。
あの穴を塞がなければ砦は・・・
現状を把握し、対策を練っていた一瞬にボロ布骸骨の多分指先であろう部分がキラリと光る。
次いで、砦のタイルが波打ちこちらに近づくにつれ鋭利な刃になっていく。アーススパイク。
「!!」
槍の柄を両手で順手に持ち、前に押し出す。体内にエーテルが満ち、体の内側から見えない円が広がる感覚。
べきりっ、と音を立てて大地から切り上げる刃は槍の少し手前で粉々に消え去る。レジスト成功。
槍を右手に持ち、ボロ布骸骨に切りかかろうとした時、右目の端に銀の光弾が見えた。
先程ふっ飛ばしたミニデモのユピテルサンダー。照準は・・・ニレコ!
マグニフィカートがかかり、心が軽くなる。コマ送りの世界。光弾は詠唱を終え、無防備なニレコに!
ニレコの代わりにレジストしてやる為にはまずこちらがエーテルを練ってそれから右に横っ飛びに飛んで槍を相手に間に合わない!
”百機夜攻”
短く呟いて右足で砦のタイルを、地面を、いまこの世界を、踏みつける。
すでにニレコと光弾の間には人間一人分には少し余るくらいの空間しかない。
間に合うか?
ニレコが光弾に気が付き、スローに目を瞑る。
自分がした事に間違いは無いと信じ穂先をボロ布骸骨に向け、駆け出す。ニレコを置いて。
そして、光弾は炸裂した。
タイルから生えた人間よりも3周りは太い、鎧の腕に。
「どおおおぉぉりゃああああああぁあああああ!!」
骸骨相手に突いても意味がない。右手に持った槍を袈裟に断ち下ろす。
ガッ、ボロ布骸骨の左肩に槍の穂先が切り込むと同時に右手が刺し出される。槍のように尖った骨の右手が。
めきめきめき、と袈裟に割り続ける穂先。
左の首筋に刺し込もうと伸ばされた骸骨の腕。
しかしその腕は、タイルから生えたこれも同じような鎧の手に掴まれて握りつぶされる。
ばかんっ。
そして、ボロ布骸骨は袈裟に切り分けられ、灰になった。
足元に未練たらしく絡み付いてくる布を槍の穂先で払い、タイルを足で踏む。
たんたたんたんったたたん。
見るモノによっては、それは不出来なタップダンスに見えたかもしれない。
けれど、それはもちろんタップダンスなんかじゃなくて―
それが合図だったかのように、何かが、何か達が、地面からズルズルと這い出てくる。
ズズズ、と。ズルズル、と。
それは、鎧の騎士。人間よりも3周りは大きな、鉛色の、電動の・・・騎士。
「が・・・ガーディアン?」
ニレコが呆れ声で言う。それもそのはず、ガーディアンは本来GvG時間中にのみエンペリウムの力を借りて敵を討つ自動機械兵。
それがどう考えてもGvG時間では無い時間に現れ、自分たちを守っている。
つまり、蹴球の特殊能力は・・・
「あーあ!バレちゃったよ!オレのスウィートでミステリーな謎が!」
謎がかぶってるよ。
見れば部屋の端で剣機兵がミニデモを切り伏せていた。
「あ・・あんたねー!こんなの裏技じゃないの!ヽ(`□´)ノ」
「だから内緒だったんだよwwwwwwwwwwwww」
蹴球を守るように集まってくる機兵達。剣が3、弓が2、そして豪奢な外装を纏ったマスターガーディアン。
「蹴球騎士団!」
ダメだこれ・・・・。
「ともかく!あの穴は今は塞ぎ様がねぇからER入り口まで下がって防衛するぞ!」
見てくれはアレだが、その案には賛成だった。
現在ERは本部となっている。そこだけは守らなければならない。
急いでERへの通路に向かおうと穴に背を向けた瞬間、何かの破壊音がした。
ばきん、と。
次いで、ガシャンと。
見ればERへの出口には鋼鉄の板が下ろされている。
1Fへの階段がある通路にも、鋼鉄の板。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
恐る恐る背中を振り返ると、溢れんばかりの(実際溢れているのだが)MOBの下にコンソールパネルらしきものがぐちゃぐちゃになって転がっている。
「・・・・・・・・・・・・」
ええ?うそぉ?
「閉じ込められたwwwwwwwwwwwwwwwww」
進路も、退路も無くなった部屋にkrの絶叫がこだまする。

Vol:17 Gun-Parade-March-1

2006-01-02 23:27:20 | 妄想具現化
何もできずに割れた机とカップをただ眺めていた。
そして、椅子共々消えた男の事。
「ジョン・・・あなた・・・」
沈痛な面持ちで同じく裂けてしまった机をただ、見つめるのりちゃん。
「・・・・・・・・・・・・・・」
その時、奇しくもベルは鳴る。
開幕と、閉幕を告げる。
ベル。

『warning。warning。unknown forceにより砦に攻撃が与えられました。自律プログラムでは対処不能、”管理者”による外部サポートを希望します。繰り返します』

感情をまったく含めないマシンボイスが砦中に響き渡る。
とっさに先程の事が思い起こされた。
『パーティー』
あの逆毛の男は、ただそう言った。
それが・・・・・この事なの・・か?
「バージル君!」
真横から怒鳴られて意識を元に戻される。
そうだ、今はやらなきゃいけない事がある。
「了解しました。”管理者”バージル、砦をサポートします。・・・・のりちゃん、先に行」
自身の言霊に砦が反応し、起動。
のりちゃんへの伝言は最後まで伝えれず、強制的に転送され始める。
「・・・・・・すぐに行く」
転送される瞬間に見たのは、そう呟いて髪をくくる強い瞳の銀色。

次の瞬間にはエンペリウムルーム最深部、マスターデッキと呼ばれる机に居た。
そこには数々のコンソールパネルやモニターが並んでいるわけではない。
ただ、木製の少し大きな机があるのみ。
「・・・・・・・」
その机の真ん中に右の掌を置く。
次いで左手を自身の胸に。
「”管理者”バージル、マスターデッキに到着。これより砦をサポートする。パスワード、”VELESS”」
鈍くも、鋭くも、なんの音もおこらず右手は砦とリンク。
数々の状況をエンペリウムルームの空中に直接映し出す。
現状の把握は十分に必要な事だが、一番目の前でモニターされている画面が気になる。
これは・・・
『ノム3よりER。アラートは聞いた。現状知らせ』
エンペリウムルームの中に響くノム君の声。さすがに反応が早い。
「現状把握中。”砦”はunknown forceにより攻撃を受けたと言っている。」
『了解。8番から出る。シャフト用意!』
ザッ、と雑音を残し通信が切れた。乱暴だなぁ。
「8番シャフト用意了解、暫く待て」
右手に通す魔力を探り、調節する。8番シャフトは・・・ノム君の部屋か。
8番シャフトを起動、射出口を屋上まで開き、途中に異常が無いか確認。異常なし。
「ERよりノム3、8番シャフトオールグリーン。エーテル温存の為に射出は火薬射出で願う」
『了解した・・・・ノム3、8番シャフトから出撃!』
ここからでは到底聞こえるべくも無いが、今頃砦内には軽い破裂音が響いているはずだ。
本来シャフトの射出にはエーテルを電気のように使ったエーテル射出によって行われる。
あくまで”本来”は。現在はGvGの時間では無いから肝心のエンペリウムがないのだ。
つまり、今の砦は自身のエーテルだけで動かさなければならない。
ケチれる魔力は・・・少しでも大いに越した事は無い。
『こりゃ・・たまげ・・』
屋上まで無事に射出されたであろうノム3からの通信が途絶える。
「現状知らせ。こちらは未だ把握中」
右手をマウスのように動かして空中に投影されたモニターを調整する。
数が多くてさばききれない。
『全・・ザザッ・・・こりゃ・・ザーッ』
ノイズ塗れ。強力なECM(通信妨害)?
「ノム3、現状知らせ。通信状況が悪い、聞こえたら何か合図送れ」
問いかけながらモニターを探す、現状把握現状把握。
『聞こえては・・・ザザッ・・・こちらから・・』
聞こえてはいるらしいが、どうやら送れないと判断。
と同時に爆発音が響く。
撃った。間違い無くノム君は今”槍”を撃った。
ならば、砦が言うように何かの勢力が攻めてきているという事か。
現状の把握を一時中断して、意識を砦内に向け、用意していた言葉を”砦内”に喋る。
「こちらERバージル。”管理者権限”を発動。現在砦はunknown forceにより攻められている。総員第一種戦闘配置に着け。繰り返す、総員第一種戦闘配置に着け」
意識をエンペリウムルームに戻し、現状把握を再開。
全天位レーダーを・・・・起動させ、敵勢力の数を確認しようとする。
ぐっ、と体にかかる負担。砦の機能を使えば使う程、自分自身から魔力が抜けていく。
表示されたモニターを一番手前に。それを見て、絶句した。
「全天敵で・・・真っ白・・・・」
そう、全ての方向をくまなくチェックしたレーダーはその結果のみをモニターに映し出す。
敵は完全に砦を包囲し、砦外は敵の印である白い点で埋め尽くされ真っ白になっていた。
屋上ですでに戦闘を開始しているノム君には伝える必要は無い。
砦内にのみ意識を向け
「ERバージルより各員、砦は完全に包囲されている。襲撃備え」
そうとだけ言い放ち、意識をエンペリウムルームに。
次は”砦”が要請してきたサポートを果たす。
フリーズしているモニターを一番手前に起こし、”砦”の躓いた部分をチェック。
現在位置の把握で砦の自律プログラムは躓いたらしい。なんて初歩的な・・・故障か?
リンクしている”砦”そのものに問いかける。
「”管理者”から砦へ、現在位置はプロンテラ東京で間違いないかと思うが?引っかかった過程を示せ」
”砦”は即答する。
『”砦”から管理者。サポートを感謝します。unknown forceより攻撃を受ける直前に時空震を観測しました。空間干渉系の攻撃を受けた可能性があり、それを確かめる為に3次元観測による現状の把握を実施、そこで自律プログラムでは律しようの無い答えに辿りついてしまいました。』
”砦”はわけの解らない事を言う。普段はこんな事は絶対に言わないのだが。
「テレポアウトやワープアウトの時空震の可能性は?」
時空震はそう珍しい事では無い。プリーストやアコライトのワープポータル、空間干渉系の能力でも起こる、ちょっとした空間の揺らぎだ。
”砦”は答える。
『ありません。むしろ時空震は”砦周辺”で起こった事では無く、”砦全体”に直接起こった事と考えています』
「つまり、”砦”がそのままワープアウトした、と?馬鹿な。こんな巨大な質量を・・」
黒い水溜りに沈む逆毛の男が脳裏を掠める。今は、忘れろ。
『最大の不明点はそれを元にした”現在位置”です。よろしいですか?』
まわりのモニターに目を走らせつつ、”砦”に頷く。
『今まで居た場所から現在地を結び、それを割り出した結果、ここは”ニブルヘイム5”であると予想されます』
砦の声には感情がまったくない。から、思わず聞き逃す所だった。
「ありえない。ニブルヘイムに4はあっても5なんて・・・聞いた事もない・・」
ニブル討伐戦が終わり、ニブルヘイムは3までの存在を確認されている。
非公開でならば4までは確認できているが、これはまだほんの一部の人間しかしらない事だ。
『その通りです”管理者”バージル。故に自律プログラムはこれを否定。また最初から現在地の割り出しを開始。しかし、何度やっても結果は”ニブルヘイム5”』
そしてフリーズ・・・か。
無理も無い。ありえない答えばかりに辿りついてしまい、やり直し。そしてそれの繰り返し。
自律プログラムには荷が勝ちすぎる・・か。
どうするか悩む・・・事もない。
今現在もっとも重要なのは現在地の確認では無いからだ。
今もっとも重要なのは・・・・unknown forceからの防衛、そして迎撃。
心の中で優先順位をきっちり決めて、”砦”に告げる。
「”管理者”が砦に告げる。現在地の確認を放棄。繰り返す、現在地の確認を放棄」
『現在地の確認を放棄了解。』
すぐ目の前の空間でフリーズしていたモニターが消えた。
これでいい。次は・・・
右手に集中した精神を探る。確かできたはず・・・。
「”管理者”から砦へ、砦設置のカメラとリンクし外部情報の収集を始める」
エンペリウムルームにはその場所の特性上窓が無い。
”敵”が攻めてきているのは確実だが、その姿すらまだ確認できてないのだ。
『了解。カメラとリンクを始めます。が・・・』
砦の言いたい事は解る。ただカメラとリンクする、と云う事一つとっても今は自分のエーテルを使わなければならない。
そして、砦にあるカメラは無数なのだ。しかし・・
「かまわない。接続を開始」
ここで怯むわけには行かない。戦況の確認、敵の識別、対策、自身の身惜しさにスルーなんてできない。
訪れるであろう身体への負担と情報の波に負けぬよう、体を硬くしたその時。
「ふん。待てバージル、索敵哨戒は俺の役目だろうが」
エンペリウムルームの扉が開き、”目”御影が入ってきた。
「御影君、どうして?」
そう、エンペリウムルームは自分の第一種配置だ。そして、彼は最前線に出う事が第一種配置。
突然の事に目を丸くする自分に目もくれずたんたんと喋る。
「ふん。エンペが無いのはわかっている。少し、手伝おうとな」
すぐ横立ち、右の手を左肩にのせられる。
「バージル、俺とリンクしろ。情報を流すぞ」
言われてやっと気が付いた。砦周辺の情報をその”特殊能力”で調べ、教えてくれるというのだ。
急いで左肩から御影へのリンク・・・・成功。
「いくぞ。”YHVH”」
左肩から心臓にかけて、見えない道ができるのを感じる。
そして、360度の視界が壁をすり抜けて遠くまで広がる!
情報に検閲を掛けない。一つ一つ、東西南北から切り取り映像化してエンペリウムルームの空間に投影。
4枚のモニターは、それだけで今までの仮説を全て正しいものとした。
「プロンテラじゃない・・・・」
どうにか喉から言葉を押し出して呟く。
四方は、見慣れた街中なんかじゃなく、暗く煤けた赤色をもった空。
赤褐色の荒野。
そして、砦の空中ぐるりを囲むモンスター。
見渡す限りに人工物は無し。ただ、どこまでも世界は続いていた。
「地獄・・・か」
ふいに思った事が口をつく。まさに・・・・これは誰もが想像する地獄と類似している。
「ふん。言い得て妙とはこの事か」
御影君の皮肉った鼻笑い。
砦内への回線を開く。
「砦内配置各員に告ぐ、現在砦はunknown forceからの襲撃を受けている。その際、空間干渉系の攻撃を受けたものと予想され砦は空間移送を強制的に受けたと思われる。砦が割り出した現在地は”ニブルヘイム5”繰り返す、ここはプロンテラでは無い。現在地は”ニブルヘイム5”。各員unknown forceからの防衛を第一とし、迎撃せよ。敵を迎撃せよ。」
自分で言っておきながら未だに信じられない事実を胸にしまいこむ。
自分は状況を把握し、対処するだけだ。それが、どんなにありえない事であっても。
東西南北を映すモニターに時折閃光と爆発が煌く。
ノム君はまだ無事・・・しかし・・この数では・・・。
敵は数え切れない。何せ、全天を埋め尽くす程だ。
心が・・・折れる。
『アロー!砦1Fよりコンニチワ!!うっひゃー!すっごい数だね!』
一際明るい女の子の声が絶望しかけた耳を叩く。
この声は・・・
「ERバージルよりめぐ、だいじょうぶ?」
ノム君が戦闘を開始し、砦内に第一種を引いて約10分。敵と場合によっては命を落としてもおかしくない時間。
『あっはっは!まだ一発も撃ってないお!んー?撃っちゃっていいの?かなー?んー?』
随分とテンションが高い。マズイな・・・・薬を使っているかもしれない。
「めぐ、聞いてなかったの?敵勢力迎撃だよ。」
薬が効いてしまっている時のめぐは状況の判断や戦闘が怪しくなる。もちろん、言動もだが。
とりあえず、落ち着いて諭しにかかる。全てはこれからだ。
スピーカーの向こうの空気が、一瞬冷えたように感じた。
読み間違え・・・た・?
『じゃあ状況の把握と対策、砦の迎撃機能の始動と迎撃隊配置の伝達、支援によるサポートよろしく。目に見える範囲全てが私の得物って事で。ダイレクトサポートは期待しないけれど、支援と人員の把握だけはすぐにでも頼みます。オーヴァー』
くっくっく、と御影君が笑いをかみ殺す。
そう、薬が効いてない時のめぐは正確無比な射殺兵器になる。
戦闘はばっちり、言動は全て敵を殺す為だけ。
でも・・・感情が、欠落する。
まだまだ僕の読みも甘い。
「ERバージルよりめぐ、失礼した。武運を」
通信を切って精神を集中。頼まれ事を済ましてしまおう。
マスターデッキに座った瞬間から、意識がGvGになってしまっており、人員はいつもの数だけいるものと思っていた。
今は・・・異常事態だ。
集中した精神が、胸にエーテルが集まるのを感じる。
解き放つ。言霊をもって。
「”歌い流れ出でて紡がれ走れ。捉えて縛って慈しめ。切り結ぶ運命の”」
一度伽って。
「”青い糸・・・ブルーリンクス”」
びゅん、と胸から走る青い糸は8本。
事態が急な為、強制的にリンク。
脳内にだけ広がるデータをエンペリウムルームの空間に投影する。
捉える事の出来た人員は、ノム君・御影君・スマ君・のりちゃん・めぐ・無影君・kr君・ニレちゃんの8人。
この敵の数相手に・・・たった9人・・・。
絶望を使命感で押しつぶす。
「”ブレス・速度・マグニフィカート・アスペルシオのUP”」
続いて、自身の精神に空きを作りそこに神聖術をチャージ。維持する。
「砦内各員、”ブルーリンクス”で強制的に全員を支援する。必要と思われる支援はUPしておいたので、各員必要に応じてDLされたし」
放送を切ると同時にがくり、と身体に負担がかかる。
ノム君による支援のDL。4つ同時。
「ぐっ・・・」
歯を食いしばって耐える。なんて事無い。こんなもの、いつもの事じゃないか。
「バージル・・・無理はするな。代わってはやれんがな」
左肩に少しだけ圧力を感じる。御影君・・・心配してくれてるんだね。
大丈夫、なんてこと無いよと声を返そうとした時、エンペリウムルームの扉が開いた。
「男同士で何やってんのー?やーらしーぃ」
長い銀髪をたなびかせ、のりちゃんが到着。
これでやっと”マスターデッキ”っぽくなってきた。
本来の”マスターデッキ”は管理者の他に”マスター”・”マスター補佐官”・”参謀”の3人がいる。
ちなみに”マスターデッキ”は今座っている机その物を指す言葉でもあるが、同時にエンペリウムルームに置かれる本部を指す言葉でもある。
”管理者”である自分と”マスター補佐官代理”を務める御影君。”マスター”負傷及び不在の場合に”マスター代理”となる”マスター補佐官”ののりちゃん。
なんとか・・・・形にはなる・・か?
エンペリウムが無いのが痛いが。
のりちゃんは入室の際に軽口を叩いたが、それからは空中のモニターを睨みつつ大股でデッキに歩いてくる。
「ふぅん。戦況把握完了。バリアも魔砲も使えないのね」
チラとGvG中であればエンペリウムが置いてある台を見るのりちゃん。
もちろん今はただの台だ。
「えぇ、残念ですが個人のエーテルでは無理です」
せめて予備の青ジェムでもあればよかった。
本来の半分程ではあるが、砦の機能が使えたのだ。
もう少し早くわらびーを買いに向かわせていたら・・・・。
後悔が胸をかすめるが
「後悔しても始まらないわよ。現状の打破。それから考えましょう」
のりちゃんに笑顔で言われて、気持ちを切り替える。そうだった、今は戦闘中。
3人でモニターを睨みつける。
「現在交戦中の人はノム君とめぐちゃんだけ?」
一際煌いたモニターを見てのりちゃんが尋ねる。
「いや、スマも戦ってるな。気配でわかる」
ふん、そう長くは持たんと思うがな。と鼻で笑う御影君。
随分と余裕がある・・・ように見える。
残りの戦力は・・・・ん・・?
「kr君とニレちゃんがエンペリウムルーム直前の大広間にいます。何してんだろう・・?」
第一種配置はかけた。
本来なら二人は1Fに降りて最前線に立っているはず。
それが大広間?
「!?すぐに離れるように言って!そこはマズイ!!」
のりちゃんの怒声に驚くと同時に御影君が大広間の映像を送ってくる。投影。
二人は並んで何か喋っているように見える。特に異常は見当たらないが・・・
取りあえずのりちゃんの指示通りに場所の移動を告げようとした瞬間、モニターはノイズにかき乱された。