Life is・・・so・・・××××××Gun-Parade-March!!

死ぬから生きよう。ただ・・それだけ。

TUEEEEEEE。

2005-11-30 20:51:09 | Weblog
姫ちゃんの親父はおれの親友で先輩。
その先輩は孤児だったそうだ。生まれてすぐに施設に渡されたのだとか。理由とか原因は先輩が調べなかったからわからないのだけれど。
先輩はそこで中学を卒業するまで過ごしたらしい。
同じような境遇の子供が一杯で、その中でも先輩は一番年上だったらしい。
親が経済的な理由で預けた子。親と心中させられそうになって保護された子。親から捨てられた子。いろんな子がいたらしい。
先輩はそんな中で育って、家族なんて感情をまったく持たなかったらしい。せめて施設内の子供はみんな家族、といった教育を施設では行っていたようなのだが、先輩はそもそもにおいて家族を経験した事がない。
だから、わからなかったそうだ。
朝飯や晩飯を一緒に食べて、一緒に寝る。
似たような境遇での集団生活を、家族だと先輩は思っていたらしい。
だから先輩にとって施設は家族であり、でも、本当の家族では無かった。
「さぁ、これが家族だ」
と言われればそうなのだろうが、とは思った事もあるそうだ。
でも、それは中学を卒業し、仕事も見つかり、住む家も決まり、施設を出る時に思い知った。
本当の「家族」と云う感覚を知って。

中学を卒業し、施設から出て一人で暮らす事が決まり、施設の先生達は喜んでパーティーを開いてくれようとしていたらしい。
でも、先輩はそれを拒んだ。
パーティー一つのお金だって、もったいないと思っていた。
自分としては何一つ嬉しくは無かったそうだ。
どうせ自分はこれから社会に出て働く。そしてそのお金で生きていくだけ。
学校での授業が社会での仕事に代わっただけだと。
そう簡素に思っていたらしい。
今の先輩からはまったく想像がつかない事に、当時はまったく感情を表にださない少年だったそうだ。それはもう、あだ名が「鉄仮面」になるほど。
そんな、無味無臭な少年が施設から旅立つ日。
お別れ会もせず、まるで今までもいませんでした~みたいな感じで施設を後にしようとした。
先生達に挨拶だけして、子供達が到底起きて来れないような時間に施設を出る事にしたのだ。
子供達は嫌いではなかったけれど、まとわり付かれたり泣かれるのは正直言って鬱陶しいと思っていた(現在では想像もつかないが)
明け方のまだ早い時間に施設の入り口まで行き、さてこれからどうしたものか、と思案していると、一人の女の子が走ってくるのが見えた。
あぁ、これは厄介な事になるぞ、と顔を顰めたらしい。
なにせその子と来たら、子供の中でも一番自分に「あれをしろこれをしろ」とうるさかった子だったからだ。
あぁあ、面倒だなぁと適当に挨拶だけしようと心に決めて、話かけようとした時。
「ばいばい、お兄ちゃん」
と、一言言われたのだそうだ。
ぐっと唇を噛んで。ぎゅっとスカートの裾を握って。下を向いて。
なんとか聞こえる声で。
それを見て、聞いた時、先輩は
「自分は何を見てきていたのだろうか」
と思ったらしい。
その子の自分を見る目は、肉親を見る目ではなかったのか。
もちろん、血など繋がってはいないのだけれど。それでもこの子は今、どんな気持ちで自分を「お兄ちゃん」と呼んだのか。
それを知ろうともしないで自分は。
だから先輩はその子に「いってきます」と告げて施設を出たそうだ。
その「行ってきます」は、先生達へした挨拶のようなものでは無く、自分自身よくわからないのだけれど、がんばって肉親への挨拶をしてみたつもりだったらしい。
新しい家につくまで、ずっと胸が熱かったそうだ。
先輩が、兄になった瞬間らしい。

それからの先輩は働きまくった。昼も夜も働いて、それでも3日に一度は施設に顔を出した。
世の中は金で大抵の事が出来た。子供でも、金さえあれば大人と同じなのだと知った。
先輩は脇目も振らず働いて、働いて、「妹」を預けてもらいたかったそうだ。
その為に怪我や病気になっても、がんばったらしい。
兄だから、妹の為にがんばるのは当たり前だと。妄信して。
先輩が二十歳になり、その子は十歳になった頃。
その子は腎臓を悪くして入院した。
その入院の一報を電話で受けたとき、先輩は夜の仕事もすっぽかしてぶっ飛んで病院にいったらしい。この辺りでやっとわらびの知っている先輩になってくる。
結果的には、長い闘病生活になるとの事。
透析やらなにやら受けなければ、生きて行けないようになったとの事。
それを知った時の先輩の悲しみは、きっと想像を絶するものであろうと思う。
それを振り切るかのように働いたらしい。
昼も夜も働いて、休日を作らないようにして。
二十歳の若さで過労で倒れたのも一回や二回では無いそうだ。
そしてそんな体でお見舞いになんていくから、仕舞いには怒られた。
しかし仕事を減らせば収入が減る。
病院のお金は施設の先生方がなんとか負担してはくれているが、自分も何か協力したい、と申し出て入金していた。
今わらびが聞いても信じれないような大金を毎月入金していた。
そこで先輩は考えに考え、一つの名案を思いつく。
完璧な嘘笑顔である。
どんなに辛くても、妹の前では笑う事にしたそうだ。
最初は難しかった。そもそも笑うなんて事をしなかった人だ。
初めてした時は「どこか苦しいの?」と心配されたそうで、わらびはその話を聞いた時、爆笑してしまった。
それでも先輩は笑い続けた。お見舞いから帰る途中で、倒れてしまっても、そんな体でも、先輩は笑っていたそうだ。
そんな状態が数ヶ月続き、先輩は今の奥さん(姫ちゃんの母上)に会う。
奥さん曰く「放っておいたら死ぬと思った」との事。
結果、先輩は仕事を減らし、体を奥さんに預けて倒れるような事はなくなったそうな。
一度「なんでそこまでするの?」と聞いたらしい。そしたら
「おれは兄貴だからな」って一言で済まされたとか。
それから八年。その子の体調は日常生活でも透析さえ受ければ大丈夫な所まで回復。
施設の先生みたいな事のできる福祉関係の資格をとる為勉強中。
資金はなんと先輩が出すとの事。
そりゃあすっげー金です。
ただでさえ、先輩には家を建てるって計画があるのに。
家族的な意見はどうですか?と奥さんに聞いてみました。
「資金援助しないって言ったら張り倒す」
との事。はい、あんたの嫁さんもかっけーっすよ、マジで。
「一人分の給料で足らなきゃ二人分働けばいい。それだけだ。わらび、簡単な事なんだよ」
と先輩のありがたいお言葉。
おれさー、あんなみたいな人や、家族があるからさ、人間に絶望とかしないのかも。
人間の事、好きじゃないけどさ。あんた等の事、嫌いになんてなれる訳ないじゃん。

Vol:10 The 13 barrel

2005-11-25 23:54:58 | 妄想具現化
朝目が覚めると、そこは

「おれの部屋だ。」

当たり前だった。
昨夜は23時にはベッドに入った。それから朝までぐっすり。
うむ、寝覚めがなんか超良い感じ。今日は何か良い事がありそうな気がする。もっとも、そんな予感は当たった事がないのだけれど。
「・・・・・・」
ネガティブな方に流れる思考を元に戻してっと。
「あれ?」
なんか・・・部屋に既視感がある。
「んー・・・・ん?」
なんだか部屋に違和感があるのだけれど何がおかしいのかわからない。
わからないって所に違和感がある。
わかって当然な事があったような・・。
「ま、その内思い出すか」
と、その場は流して台所に行く事にした。

トントントントン。
小腹が空いたので朝食を採る事に。いやー朝の8時に起床とかこの幻影では珍しいんじゃないかなー?
と少しだけ自分を誇らしげに思っていたのだが。
「わらびーおはよー」
ねぇさんがいた。
いや、正確には”いるらしい”だ。
「あ、ねぇさんおはよ。早いねー」
とりあえず返事だけしておく。姿はまだ見えない。
台所かな?
「んー、昨日は徹夜しちゃってさーもーだるーい」
覗きに行ってみてもいない。
あれー?
「あのさ、朝食作るけどねぇさん食べる?」
声に声だけで返事をする。冷蔵庫の中身はーなにがー・・
「食欲ないかなー」
本当にだるそう。仕事大変そうだなぁ。
「そかー」
冷蔵庫の中身はベーコンと卵。
両方を炒める方向で朝食が決まったので皿を出しに行く。
「うをっ!?」
皿が納まっている棚の目の前にあるダイニングテーブルにねぇさんは突っ伏してプリンを見ていた。
「・・・・・・・・」
こりゃあ重症だ。
「ねぇさん、何か食べた方がいいよ・・」
「プリンなら食べれるかなー。冷蔵庫からとってー」
「いや、目の前にあるでしょうが・・・・」
棚から綺麗なスプーンを取り、プリンの上に置く。
「これぬるくなってるから新しいのがいいー」
「はぃはぃ・・。」
どうやら観賞用だったプリンを取り上げ、冷蔵庫に入れる。
ねぇさんには代わりに良く冷えたプリンを。
「わらびー」
「んー?」
えっと・・・フライパンどこだっけ・・。
「平和だねぇ」
最近料理してないからフライパンの場所がわかんねぇ。
「だねぇ」
どこだったっけなー?
TVでは今日の運勢が聞いても無いのに流される。
6位だった。



日当たりの悪い、薄暗い倉庫の中から見える世界は全てが美しく見えた。自身が受けた絶望や、悲しみなぞ、何処にいってしまったのかと。
そう思えた。
でも、どこかに隠れてやがんだ。
世界は美しい。それは絶対だ。
でも、その裏。見えない何処か。そこに絶望やら悲しみが隠れている。苦しさが、隠されている。パンドラが隠した希望のように。
持っているワインの瓶を日に透かす。
ワインの色は、血のように赤かった。

「あああ!真昼間から飲んだくれやっほおおおおおおおお!!!!!!」
ボサボサも極まった逆毛をガクガクとゆすりながら太陽に乾杯。
透かした時の色があまり気に入らなかったので一気に飲み干す事にした。
「無理wwwwwww」
無理だった。
ぶはぁ、とアルコール臭い息を吐いて相棒を見る。
「あの日は叙勲の日でした。太陽の光が剣に反射して、何もかもの不安を切り払うような神聖な美しさ―」
相棒は幸せな過去にぶっ飛んでいた。
「あの日に、そう、彼女に会った」
目が既に過去を見ている。いや、彼にとってはすでに『今』か。
「彼女もその日がミストルテインの叙勲の日で―」
「彼女彼女うーるせーなー!そんな外れたのが悲しいのかよー」
相棒は体の力全てが弛緩し、目は虚ろ。丸っきり何かの中毒者だ。
「彼女が外れた?ああ、そうでしたっけ。」
カクン、と首を垂れる。
なんだよこいつー、もっと骨があると思ってたのにな。
「え?でも彼女はいつ外れたんでしたっけ?」
「昨日だよ。昨日の戦闘の直前」
「戦闘?戦闘なんてしましたっけ?」
「・・・だめだこりゃ」
残りのワインをなんとか飲み干そうとする。ぐえ、半端に美味いからなんかもったいねぇ。
「あぁ、そう、あの戦闘で彼女はついつい踏み込みすぎた僕の代わりに」
おいおい。
「あれ?どうなったんでしたっけ?あれ?戦闘前に彼女が帰還?誰の命令で?あれ?」
あーもうめんどくせぇな。
ブツブツとうわ言を呟く相棒から目を離して窓から外を見る。
少し陽炎の掛かった外に、白いワンピースが見えた・・・気がした。
「あー・・・限界だ」
幻覚が見え出すのはかなり体に無理をさせているからだろう。
実際もう何日寝てないのかわからない。
3日?4日?
記憶では昨夜はぐっすり寝た。記憶では。
「掛けなおしか」
飲みかけのワインの瓶を足元に転がす。零れた液体は色が気に入らないから見ない。
「オーガトゥース、ちょっとトイレに行ってくる」
相棒、もとい”元”相棒に手だけを上げて伝える。
その”元”相棒は起きたまま夢をみている。
今襲われたらどうすんだ・・・・。
トイレに向かいながら考える。そこで気がついた。
ここは・・・・安全かもしれない。
現実に、ここに移動してからは誰の追撃も受けてはいない。
索敵されている感覚も無い。どころか猫の子一匹見かけない。
寂れた廃工場の倉庫。
頭の中には「それは体が休みたがっているから思う事だ」という考えがある。
そう、苦境に至れば誰でも楽をしようとする。少しのリスクに目を瞑って。
しかし・・・ここでの油断は少し所では無い。
まさに命に関わる事だった。
それでもしかし。
体は限界。間接全てに綿が詰まっているような気がする。
一歩歩く度に脳がシャットダウンしそうになる。
飲み物しか喉を通らない。
骨が体からずるりと抜け落ちそうだ。
「限界・・か・・・。」
限界すら超えていると思う。騙し騙しの限界の限界。
そう思うと、トイレまでも歩けないような気がしてきた。
それならばこの廃工場の倉庫は安全とした方が良い。
どうせこれ以上は進めそうには無いのだから。
「ツイてるな。こんな所・・・そう見つからない」
自分の幸運に胸が熱くなる。全ては友人に会えた自分の幸運。
それを噛み締め、体を横にする為のソファに向かう。
先程まで頭の中にあった「体の弱音で油断するな」と云う意見は、すでにファシズムと化している。
ったく、こんな廃工場誰もこねぇっつーの。
その判断は2秒後に足を掬いに来た。

『運を掴んだ瞬間が、運の尽き』

真横にあったレンガ造りの壁が内側に吹っ飛ぶ。
声の主は解りたくなかったが、聞き覚えがあった。


『ツイているな』
と呟いた瞬間に対象の力は全て弛緩した。
待ちかねていた油断、である。
しかし、自分の前で「運を自覚」したのであるからそうなるモノなのかもしれない。ただ、逃亡の疲労かもしれない。
色々推測であるが、やらなければならない事はわかる。
「運を掴んだ瞬間が、運の尽き。」
呟いて真横の壁を蹴りつける。
「雨樋―」
他愛も無く、壁は倉庫の内側に吹っ飛んでくれた。


時間が緩やかに感じる。
目の前には数個のレンガ片を挟んで対象”白谷の破魔矢”ことジョン。
瞳孔が開いて見える。自慢の逆毛はボサボサ、ヒゲも伸び放題。
頬はがりがりに痩せこけ、着ている白衣は所々血液が付着してる。
そして何よりも、目が。
完全に常軌を逸していた。
ジョンは咄嗟に一つしかない倉庫の出入り口にバックステップ。
問題無い。仲間の二人はそちらに回している。
一人が”オーガトゥース”の相手をし、もう一人がジョンを止めればいい。
慌てず騒がず問題の”オーガトゥース”を見る。
彼は、完全に停止していた。
「!?」
予想外である。彼ほどの使い手であれば、自分が部屋に乱入した途端に逃走経路である出口の確保、又は自分への迎撃に出れたはずである。
その彼は、しかしそうはせず、手に剣を持ちただただコンテナに座り外を眺めていた。
そしてジョンの転倒。相当体にガタが来ていたらしい。
一歩バックステップした瞬間に、その場に転がった。
一つしかない出入り口から仲間が顔を出す。
状況確認。ジョンは出入り口からは遠く自分に近い。
仲間である彼等は、”オーガトゥース”が近い。
瞬時に作戦変更。自分はジョンを拘束し、二人は”オーガトゥース”をヤる。
会戦は一瞬。結果も一瞬だった。
”オーガトゥース”は金髪のハイキックで一発KO。
ジョンは3発程受け流して、それでも足払いでまたもや地面に転がった。
地面に転がるジョンを、右手一本で引き摺り起こし、そのまま吊るし上げる。
「ぐ・・ぅううぅ・・・」
首を片手一本で締め上げられ、苦痛の声が漏れた。
そして次に漏れるのは
「ニレコ・・・頼む・・・見逃しt・・・」
命乞いだった。
「理由も説明も、全部後で聞きます。」
締めて吊るし上げたジョンの胸を見つめる。
神聖神経の探索・・・・発見。
左手で握り拳を作り、目標に目掛けて神経を集中させる。
「決判・法衣剥だ」
判決を言い渡しながら伸ばした左拳は、距離にしてジョンの胸の中頃で微かに震えた。
「!!」
自分の危険察知能力を信じて瞬間的にバックステップ。
ばきり、と思い切り蹴った床が割れる音がする。
目の前のジョンと人間一人分離れた所で、目の前を二つの赤い光弾が通過した。
「女」
光弾が発射され、声が響いた方向、唯一の出口にして入り口に、太陽の光を一身に受けた男が立っていた。
鈍い光を放つ黒い自動拳銃を構えて。
黒いスーツの上下に身を包んで、上等そうな革靴を履いた・・・男。
「何用かは知らぬが」
その背を陽光と北風に晒されながら、それでも冷酷に、慢心に言う男は、元幻影騎士団切り込み隊員・現ミラージュ副長。
「水無月家の客人に無礼は許さぬ」
水無月 社だった。

Vol:9 ナンバーナイン

2005-11-23 22:08:55 | 妄想具現化
・・・・・・・・・・・・・・・・。
どこか遠くで、近くで、花火の音がする。
ドーン・・ババーン・・バラバラバラ・・。
花火。
ドドーン・・バーン。
そうだ、今年は花火を見に行ってない。どうにも気が向かなかった。
心残りが、あったから。
ドーン・・・・・・・。
ああ、なんだか自分は夢を見ているような気がする。
はっきりとは自覚できないのだけれど、これは夢だと思う。
夏に花火に行けなかったから。
「・・・・・じゃ・・・あ・・・ゃ・・」
毎年行ってたんだけどな。
今年は、弟者とジョンと、みんなと行きたかったんだ。
「あに・・・あ・・・」
誰かが呼んでいる気がする。誰だろう。聞き覚えのある声。
「・・・・・・・・・・・じゃ・・・・」
あぁ、わかったよ。起きますよ。起きます起きます。
さっきまで随分と長く続いていたような気がする花火の夢は、いつの間にか終わっていた。
そして、目も今、醒める。


目を開けると、真っ暗だった。
そう、当たり前だ。
そもそも自分が床に着いたのが既に23時を過ぎていた。
腕をもぞもぞと布団の中で動かし、寝るときも外さない時計を見る。
02時か。
そりゃあ真っ暗だ。
草木も眠るってな。
呟いてさっきまで見ていたと思う夢を思い出す。なんだったっけ。
そして、それより重大な事があったような・・・・
「兄者」
その声は酷く低く、少し肌寒くなってきた部屋の温度を更に下げるような声だった。
「!?」
びくりとベッドから上半身を飛び上がらせ部屋を見渡す。
目が起き抜けでしぱしぱする。良く見えない。
幻聴?ありえない。そもそもおれはこの声に起こされたんじゃなかったか?わからない。
なんだか酷く恐ろしい。現実感がない。暗闇が怖いのでは無い。夢の中でも聞いたような、この声が恐ろしかった。
何処か聞き覚えがあるのに、うそ臭い・・・声。
「兄者」
キィ、と声と同時に金属音のようなものも聞こえる。
恐ろしい。おれは怯えている。何に?わからない。それが恐ろしい。
手はいつの間にか剣を携えている。お笑いだ。こんなもの、本当に役に立つのか?おれの腕で?
笑いそうになる。恐怖に負けないように。
この歳になって幽霊なぞ怖くはない。そもそも砦の対霊防御は完璧。BOSSクラスでも入ってくる事は出来ない。
じゃあ何が恐ろしい?・・・・わからない。
ひきつった笑みで部屋を見渡す。目がだんだんと慣れてきたのか薄暗い中でも部屋の中は良く見えた。
異常無し。
電脳で砦内の人間を検索。
誰も居なかった。
珍しい事ではない。まったく珍しい事ではないのに、何か・・・こう・・・わざとらしかった。
まるで、あつらえたよう。
「兄者」  キィ
声と音のした方に全力で集中する。
すると、ある事に気がついた。
「・・・・兄者・・・・って?」
自分でそのなんだかわからないモノの声を真似るのは何故か躊躇われたのだけれど、声に出してみてやっと気がついた。
おれを兄者と呼ぶ人間。
途端に脳は急回転を始める。
「弟者か!?」
ベッドから飛び出し声のする方に駆け寄る。どこだ・・・どこだ!
窓を一つ一つ辿る。
隣の部屋に一番近い、部屋一番端にある窓の外。
「兄者・・・・」
そこに弟者は居た。真っ黒なローブを着て、青白い顔をして。
「弟者!!どうしたんだ!」
姿を確かめるなりいろんな事が頭の中を駆け巡る。
何から話していいのか・・・わからない。
「病院は!?体はもういいのか!?」
窓に張り付くように弟者を見る。あぁ、窓が鬱陶しい。
「えぇ、この通り」
そう言って弟者は両手を広げる。
ここは砦の二階。弟者は魔術で浮遊していた。
表情こそ月明かりだけでは良くわからないものの、声はしっかりしている。月明かりに照らされている頬は少し青褪めているように見えるが、まだ病み上がりなのだろうか?
「兄者が見舞いに来ないので、病院は抜け出してきたよ」
「あぁ・・・えぇ?」
見舞いには毎月行っていたはずだが、と口にしようとしてはたと気がつく。
無理矢理薬で覚醒させていた時の記憶は、やはり残ってないのだ。
・・・・。
少し残念のような気もするが、あんな状態は・・・思い出さない方がいい。
でも、先月は見舞いに行った時に気がついていたような?
あれ?先々月だったっけ?
よくわからない。まだ頭は寝ぼけているのだろうか?
「兄者」
弟者の声でふけっていた気を起こす。
「あぁ・・・悪い。見舞い行けなくてごめんな」
「はぁ、まぁ兄者だから仕方ないか」
特に不満でもないようで、すぐに気を取り直す弟者。
兄としてこれは反省だな。
などと思っていると。
「所で兄者」
「うん?」
「そろそろこの・・・窓を・・・・」
すぅと右手を上げて別つ窓を爪で掻く。
キィ。
先ほどの音はこれだったのか。
「開けてくれませんか」
キィ。
まるで、危険物にでも触るように、窓を掻く。
キィ。
どこか、不吉な・・・金属音。
「あ・・あぁ・・悪い!気が利かなかったな」
月を背にする弟者は、少し微笑んだように思えた。
「兄者のする事ですからな、気が利かなくて当然でしょう」
いつもの皮肉。
待ち続けた・・・皮肉。
窓に手を掛ける。なんだかさっきまでの恐怖が手に張り付いているのか、力が入らない。
「兄者?」
「あぁ、この窓錆てんのかな・・はは・・・もうちょい・・・っと!」

がらり、と窓は半分程一気に開いた。

それから大きな音が三つほぼ同時に響く。

バン!!と乱暴に開かれた部屋のドアの音。
「わらび!開けるな!!」
と部屋に入るなり叫んだのりちゃんの声。
ダ、ダンッと左肩に二本の黒い十字架を生やして倒れるのりちゃんの音。

殆ど、同時に部屋の中で起こった。

「やぁ兄者、助かった」
ずるぅり、と窓枠に這いずり部屋に入ってくる弟者。
さっきまで軽快に見えた黒いローブは、何かに濡れているのか酷く重たそう。
「いやー馴染みを見かけたのでちょっかいを出したらマジギレされましてな」
タハハ、と笑う弟者。
じゃあ、そのローブから滴っているのは・・・血?
でも、まだ目が慣れて無いのか、寝ぼけているのか、おれの目には墨汁のような真っ黒に見え―
「ねぇさん!!!!」
そうだった!弟者がまるで何もなかったかのように振舞うせいで気を取られていたが、ねぇさんは肩に十字架みたいなモノが刺さっていたはず!
手当てをしないと!
でも・・・そんな十字架・・・どこから・・・
考えるのは後だ。
「弟者!のりちゃんが怪我をしたぽい。手当てするから手伝って!!」
言うと同時に駆け出そうとしたのだが。
「あれ?」
足がまったく動かない。
なんだか・・・影に張り付いてしまったように。
「くそっ!びびってる場合じゃないぞ!」
自分を怒鳴りつけてなんとか足を動かそうとする。
ダメだ。ちっとも動かない。
早く・・・早くねぇさんの手当てをしないと!
「弟者!頼む!」
やれやれ、兄者は本当に仕方のない―
なんて言葉が返ってきて、弟者が本当に仕方なさそうに魔術でおれのダメな脚を何とかしてくれるに決まっている、と。
思っていた。
「はぁ?兄者はさっきから何を言ってるんですか?」
予想は裏切られる。裏切りでさえない。さっぱり訳の解らない所を切られた。
「ばっ!馬鹿!ほら!ねぇさんが!」
倒れたままののりちゃんを指差す。
のりちゃんは意識が無いのか、ぴくりとも動かない。
「姉者?・・・あぁ、兄者は普通の目しか無いんでしたな」
薄く笑う弟者。何いってんだ?
「落ち着いてる場合じゃな」
「まぁまぁ兄者。アレの正体を見せよう。見れば解るよ。それにしても本当に良く出来てる・・」

言って後ろに一歩滑るように下がる。どう見ても、黒い雫を垂らしながら。
弟者はのりちゃんを正面に見据える。
ぎしり、と音がした。
「!?」
なんだか、氷を無理矢理引きちぎったような、そんな音。
音は続く。
ぎしりぎしりぎしりぎりりりぎりぎり。
弟者の両目の周りには、いつの間にか紫色の歯車があった。
メガネを掛けるように。
それでもその紫メガネは良く見ると一つ一つが呪言。
右が小さい歯車。左が大きな歯車。
文字で作られた歯車は回る。ぎしりぎしりと音を立てて。

「おと」
「兄者ぁ・・そろそろ兄者にも見えるだろう?」
ぎし!と一際大きな音を立てて、紫の歯車は止まる。
その音に反応するかのように、今まで倒れていたのりちゃんが上半身を飛び上がらせた。
「ねぇさん!だいじょ」
目を見張った。
のりちゃんは無理に上半身を飛び上がらせたものだから、二本の十字架で縫い付けられていた左肩が体から千切れそうになっている。
みちみちみちみちみちみち。
痛みを忘れたかのように、そんな事は関係の無いように。
動く右腕だけこちらに伸ばす。
左肩は腕ごと千切れてしまいそうだった。
「ねぇさん!!無理はするな!!」
のりちゃんはそれでも起き上がろうとするのを辞めない。
みちみちみち。
双眸だけが銀に輝く。
・・・・銀に?
「ねぇさん?」
のりちゃんの姿がぼやける。ぼやけて・・・ぼやけて・・。
半透明の銀色になった。
人型の、水銀のような。
その姿を見ておれは、息を呑んだ。
「はははははっ!兄者にもやっと見えたかぁ。ね?姉者ではないでしょう?あんな銀色が、姉者の訳がない!」
のりちゃんは何も答えない。
ただ、左肩を少しずつ千切りながら体を起こそうとする。
「しかし、この砦の防衛機構はどうなってるんでしょうな?あんなのの侵入を許すなんて―」
弟者が隣で何か言っている。良く聞こえない。
目の前には蠢く人型の銀色。
人型なだけ、少し気持ち悪かった。
けれど、おれにはそれでも。
「兄者。姉者が好きなのはわかるが未練垂らしは嫌われるぞ」
話を無視されて気を悪くした弟者の声。
「のりちゃんじゃないの・・かな・・」
その希望的観測は
「いただきます」
バンッと黒い十字架が弾ける。銀色の上半身諸共。
「・・・・・・・」
簡単に潰えた。

「さて兄者」
先程までのりちゃんの姿をしていた銀色の残骸を見つめる。
いまや、どう見てものりちゃんではなかったけれど。
「兄者!」
「あ・・あぁ、悪い」
「いいですが・・・なんだか今日の兄者はあやまってばかりですな」
にやりと笑う弟者。
気を使わしてしまった。
「そろそろこっちの怪我も障ってきましてな」
少し苦しそうに表情を歪める。
そうだった、弟者も怪我をしていたのだ。
「そ・・そうだ!医者!ねぇさんを!」
と言ってから気がつく。入れ替わられていたのだ。
なら本物は砦内にはいないだろう。
弟者は首を振り、左腕を挙げ
「ああ、いえ、知り合いの医者が近くにいます。そこまで肩を貸してくれればいいです。」
弱弱しくなってきている声でなんとか言った。
急がなければ。
「わかった」
弟者の左側に寄って行って左腕を取って自分の肩に回そうとした。
弟者の左腕は肩から先が無かった。
「?」
「?」
二人してその場所を見てはてなまーくを浮かべる。
さっきまであったのに?
あれ?
「ぐっ!」
遅れて肩口から吹き出たどう見ても黒い液体の元を右手で庇って身を翻す弟者。
「?」
まだおれにはわからない。
傷口を庇った右手ごと右肩から左脇腹に走る銀の糸。
ズレる体。
「そうか・・あんた・・・」
なんの音も無く、弟者は最後まで喋れず、その首は胴体から離れた。

全部目の前で起こった事なのに何もわからない。
声がして目を覚ますと窓の外に弟者がいてねぇさんが部屋に飛び込んできて十字架に縫い付けられて、でもそのねぇさんは銀色のニセモノで弟者が爆発させて弟者を病院に運ぶ為に肩を貸そうとしたら弟者の肩がなくて空中で分解した。
はぁ?
呆然とするおれの前で弟者だったモノが黒い水溜りに沈んで行く。
あ、あれだ。夢だ。これは夢だ。
狂いだしそうな理性を本能がだます。叫び出しそうな喉を恐怖が絞める。
空気がなんだか甘い。唾液の味かもしれなかったが。
まぁ全部・・・夢だ。
と現実を認めなかった一瞬に首筋にちくりと痛みを感じる。
仰向けに倒れていく体。
最後に見たのは美しく夜空に咲く銀月。
でも、やっぱりこれは夢で。
なぜか銀の月が三つに見えた。







同刻。
「はい。”白谷の破魔矢”一味とスリーマンセルで交戦。”破魔矢”と”オーガトゥース”には逃げられましたが、”ミストルテイン”は聖罰完了。こちら脱落者無し。ですが3人とも重傷を受け、現在全力で治療中です。はい。了解しました。はい。はい。聖罰を続けます。はい。失礼します。」
町外れの草むらで互いに治療しあう3人。
金髪の聖職者が目だけこちらに向けて言う。
「”教壇”はなんて?」
黙々と自分を治療してくれていたクルセイダーもこちらを見る。
「ただ一言。”聖罰を続けろ”」
うんざりしたようにうな垂れる金髪。
それを見て少し微笑むクルセイダー。
金髪の治療を再開する。
この二人はそこそこに良い仲間ではある。
しかし、何もかもは・・・話せない。
ジョン・・どうして?



同刻。
「うえー!!あぶねー!!!!」
ぼろぼろの白衣が闇を走る。
足元がかなり怪しい。
「えぇ、やはり彼女には任務を離れてもらって正解でしたね」
転がってしまいそうな白衣の背中を守るように走る青年。
彼も満身創痍だった。
「・・・・・・・・」
「どうかしました?」
「いや、そうだな。今頃珈琲でも飲んでらぁ」
「いいですねぇ」
二人は闇の中を転がるように逃げ続ける。
戦力の減少は不味い。早くなんとかしなければ・・。
「あれぇ?ジョンじゃねぇか?」
屋根の上から声がかかる。
身構えて見上げると、そこには
「やしーろ!!」
友人がいた。
戦力はさっきの戦闘で3-1=2
でもこれで2+1=3
元通り。
聖職者で無い分、戦力UP!
神なんて信じねぇが、自分の幸運だけは信じる。それがおれ!!
「やしーろぉぉぉ助けてくれよぅ」
「なんだ?どした?」
「実は―」

ええと・・ちょっとメイド喫茶について。

2005-11-23 18:20:29 | Weblog
我が岡山県にもついにメイド喫茶ができました。
わーい。

とまぁよろこんでいた訳なんですが。

やっぱり流行りモノって事で色々叩かれるんですよね。

「あんなののナニがいいんだ」
とか
「キャバクラ行くよ」
とか
「珈琲がマズイし高い」
とか

まぁ色々言われてたりするんですよね。

うんうん、わかるわかる。

ならもう行くな。

はい、まぁこの一言に尽きるんですけどね。
何がいいか?おれにはお酒の何が良いのかわかりませんし、自分の車が○○ℓで○○km走るって事の凄さがわかりませんしパチンコに行く心境もわかりません。
キャバクラに行く?んな事言わずにヤリたいなら風俗行って下さい。似たようなモンじゃないすか?
珈琲がまずくて高い?ならスタバでもドトールでも行って下さい。美味いかどうかわかりませんが安いですよ。
んなモン求めてる訳じゃないので。
何求めてるのかって聞かれればあんたには解りませんとだけ。
まぁ兎に角。
少数派を相手にしてる商売だから大勢に乗って叩くってのはさ、かっこわりーと思うんですよね。
「あいつ等さー何がいいのかねー?」
とかしたり顔で隣の肩叩いてんじゃねぇぞっと。

Vol.8 捲れる地獄

2005-11-17 06:06:59 | 妄想具現化
月を背に闇夜を飛ぶ。
がちゃり。
レガースが地面代わりの屋根を割る。
「・・・・・・・・・・」
敵は前方約10m。ギリギリの射程内。
敵、前方に跳躍。ギリギリの射程外。
空気が冷たい。
射程内に入れるようにこちらも前方の屋根に跳躍。
前方より辛辣に纏わりつく冷気。
追いすぎたか、とも思う。
砦に防衛機構をハッキングして侵入して来た敵。
それを見つけ、準戦闘速度で追跡を始めて15分。準戦闘速度とはいえ、自分が追っているのだ。すでに追い払うには十分すぎる程の距離を追った。
これ以上は深追いか。
そう思って追跡を止めようとする事数十回。
しかしそれは
「・・・・・・・・・・・」
屋根から屋根の跳躍を終わりかけ、次の屋根が見える。着陸態勢。
きりり。
前方から高魔力感知。体内対魔術防衛機構活動開始。
体の中心から光の輪が発現。体を包み込む。
対魔術防衛機構に敵高魔術衝突・・・・レジスト。
自身に向かって来た氷の礫は、防衛機構によって鉋で削られる鰹節のように目前で削れて消える。
残り香のような冷気だけが頬を撫でて後方の闇へ。
このやり取りも、すでに5回を超えた。
まるでこちらの射程を知っているかのような一撃。
ギリギリの間合い。それも、かならず回避の出来ない空中か着地寸前を狙っての精密射撃。
着地。”左目”をON。そのままの姿勢で前方を査走。
敵はさらに跳躍。またギリギリの射程外に。
嫌な感じがする。敵は明らかに自分を誘っている。
進む先は必ず罠。いや、すでに罠に嵌っていると考えた方がいい。
脳だけで思想し、体は次の屋根を目指して再度の跳躍。
では、自分を罠に誘う理由は?
「・・・・・・・・・・」
栓の無い事。恨みなぞ、買い過ぎてどれがどれだかさっぱりわからない。本能は「なら、知らしめてやれ」と言う。
理性は「もう十分だ」と言う。
がちゃり。
着地。今度は攻撃は無かった。前方を確認。
”左目”でサーモグラフ・魔術探知・敵識をすると同時に”右目”で敵を視認。
敵は微量の熱量・異常な高魔力を有し、接敵経験は無し。
”右目”での視認は―
「・・・・騎士?」
姿を瞳に映すと同時に氷の礫が飛来。
油断した。対魔術防衛機構の発現には間に合わない。
”左肩”対物ファランクス始動。
”左目”で飛来物をロック。”左肩”に発現したファランクスが目標のロックと同時に火を噴き、飛来物を眼前で全て撃ち落としていく。
破片が頬を掠め皮膚を裂くが血は・・・流れない。
騎士の外装。異常な高魔力。
今流行りの・・・通り魔(ドレイナー)
俄然やる気が出てきた。
そもそも、自砦に無断で侵入して来た敵をむざむざ生かして帰す必要は無い。もしも罠ならば、その罠事始末すれば良いだけの事。
覚悟を決めて前方を確認。
敵も追いかけっこに疲れたのか、その場に佇み魔力の開放を行っていた。
「・・・・・・・」
いいだろう。いいだろういいだろう。
左足を膝立ちにし、右足を後ろにスライド。
射程はギリギリ。でも、射程内。
右足のヒールを起動。屋根に突き刺す。
”右腕”を前に、限界まで前に。二の腕に左手を添える。
「・・・・行きつ帰り・・・電火の」
敵の詠唱が早い。マスタークラスの詠唱速度。
自身を中心に屋根に文字が走る。巨大な巨大な・・魔方陣。
気にも留めず体内のセーフティを解除。生命炉を全開始動。
”右腕”1番から3番まで順次解放・・グリーン。
”左目”目標ロック。”右腕”とのアイリンクまで後0.15sec・・グリーン。
”槍”装填開始。弾種・・クワドロプルボーンド・・いや、クワドロプルブラッディ。
敵の外装はあくまで騎士。ならば人型と辺りを付ける。
”右腕掌・槍射出口”開放。
ばしゃり、と右手に穴が開く。同時に”エネルギー排出口”が肘を中心に3箇所口を開ける。
”左目”からのデータを確認。念結界又は空間歪曲防御の可能性あり。
確かに、さっきから”左目”で見ていてもどうしても顔が見えない。うすぼんやりと、霞がかったように。
まるで、瞳が見る事を拒否しているように。
”槍”の装填を一時中断。
”左腕補助機構・ニーチェ”起動。
”槍”にエレメントエンチャント開始。種別は・・水・・いや、氷の礫を使う相手・・・水属性なら念では無いが・・・空間歪曲ならどうしようもない。諦めるだけだ。
エンチャントエレメント、種別は火。
”右腕”の中にある”槍”に火の概念が装着。
装填工程終了。発射体勢完了。生命炉全開を確認。
体内全てのセーフティがオールグリーンを告げる。
自身は完全に”槍”の発射台になった。

『元王立騎士団第18隊突撃殲滅部所属、ノム3。字は”盤上のエース”』

今まで無言だった敵から声がかかるとは思っていなかったが、それでも揺らがない。揺らぐような精神は発射台には不必要なモノだ。

『18隊とは言っても実情は一人。一人で”隊”と成る化け物・・か』

ぺらぺらと良く喋る。しかしこの声、どこかで?
考えられない。考えない。今は目標の抹消のみ―
もういい、もうこの声の持ち主に会った事があったかどうかなんてどうでもいい。
今は。
悲鳴を聞けば思い出すだろう。
「臓物ぶちまけてガランドウになってしまえ」

”右腕”を完全に解き放つ。

深夜の街中に、大爆発が起こった。




「うおー!あれヤバイよ!うはは!すげー!あんなすげーとはなー!すげーすげーとは思ってたけどな!マジすげーわ!」
同刻。その大爆発を、少し離れた公園で見つめる男女3人。
「はー、本当にきれーですねー」
「だいじょぶなんですか?こんな事して」
んー?と大声で笑っていた男が渋る彼女に振り返る。
「だーいじょぶだいじょぶ!あの辺は廃墟だしさ、なんの被害も出てないと思います・・・よっと!」
飲んでいた珈琲の缶をゴミ箱にスローイング。
外れた。
あちゃー、と逆毛を掻きながら拾ってゴミ箱に捨てる。
捨てる際に少しヨロけた。
「もう、全然寝てないんでしょ?隈だって酷いんだし、早く帰って寝ましょう。言う事聞かないなら・・・」
はぁーっと自分の拳に息をかける女性。
「おわっわわ!寝た寝た!寝ましたよ!あれー?あんなに寝たじゃん!」
「・・・・あれ?そうでしたっけ?」
「うむ。寝坊したくらいだよ。隈はねー一日二日では取れないんだよ」
むぅー、と唸る彼女。こりゃダメだ。
「さっきからどうやら監視されてるようですが、どうしましょう」
一人まったりとやり取りを見ていた青年が剣を発現して尋ねる。
「むむ、気がついてたか。さすがは”オーガトゥース”」
逆毛の男はにぱっと笑って拍手する。
「褒めても何も出ませんよ。それよりも」
どうする?と目で訴えている。
女性の方は既に聖域結界の体勢。
「あー・・後付けられっぱなしもなんかやぁだしね。この感じはきっとあの子だとは思うんだけど・・うーん、自信無いなぁ。ニレちゃんに狙われる理由なんてなぁ・・・うーん、まぁ、捕らえて聞こうか!」
言葉を待たずに、草むらから影が飛び出した。

そこらじゅうにある鏡。エンドマーク。

2005-11-15 22:47:49 | Weblog
「お前さえ大人しくしていれば」
「あんたさえ大人しくしていれば」
「あんたがだまっていれば」
「わらびさえ大人しくしていれば」


二の腕の裏がザワザワする。
なんだ、それ?
「あはは、おれが・・だってさ」
首だけを後ろに回してざぜんを見る。
いない。

「ああああああああああああああああああああっ!」

あんた達におれはどう映ってますか?
違う、そうじゃない。違う。それは違う。違うんだって。
それはおれじゃない。違うんだってば。どこを、何をみてるの。
違うんだ違うんだ違うんだ違うんだ。
もっと、ちゃんと見て。
どう見えてるの?せめて、人間であればと。

舞砂。

2005-11-13 19:23:58 | Weblog
まだおれがぼくだった頃。世界はいっぱいで、でも狭かった。
楽しくて、悲惨だった。と思う。
でも、毎日毎日、「今日が続けばいい」と思ってた。
そんな心配なんてしなくても、未来は引っ張っても大声で呼んでも来なかったのに。
でも、だから、いつか来るんだと知ってたんじゃあないかと最近思った。
あの、背中が炙られるような。鉋で削られるような。
寂しい予感。
折に触れてぼくは言う。
「ずっと、ずーっとここで遊ぼう。」
みんなの気持ちに、届くまで―。
炙られたり、削られる背中から逃げながら。
ともすれば、穴の空きそうな胸を抱えて。

いつか溢れてしまうんじゃないかと心配です。

2005-11-11 22:32:22 | Weblog
世の中には、悪が満ちてます。満ちて満ちて、此処其処で溢れてあぶれているように感じます。昔から、ずっと。
ぼくはそれが許せなかった。いや、現在進行形で許せない。
それは、誰かの為にだとか、世界の為だとか、そんな立派なものじゃなくて、とても個人的な事で。
溢れてあぶれて蔓延っているのを見るのが許せないだけなんです。生理的に受け付けないんです。ゴキブリを嫌うようなモノなんです。目に止まれば打ち払いたくなるようなモノなんです。見逃すのが辛いんです。目を逸らすのが痛いんです。見たくないんです。なんとかしたいんです。見ればどうにかしたいけれど自分には何の力もなくてどうしようもなくて見逃したり目を逸らしたりする事が辛いんです。胸が痛むんです。悼むんです。痛むんです。全部自分の為なんです。自分の価値観に合わない事。自分の倫理観に合わない事。自分の望む世界では無い事が。それ全部が、ぼくを苦しめます。辛くします。痛くします。誰からか褒められたいって訳じゃないんです。賞状が欲しい訳じゃないんです。「ありがとう」って感謝されたい訳じゃないんです。恩が売りたい訳じゃないんです。自分に自信を付けたい訳じゃないんです。カッコいい所を見せたい訳じゃないんです。何か自分の人生を彩りたい訳じゃないんです。気障ったらしい武勇伝が作りたい訳じゃないんです。自慢したい訳じゃないんです。
ただ、悪が其処にある事実が気に入らない。
きっと、潰せば気持ちいいんだと思います。
そこに誰で何の想いがあろうとも、どんな理由があろうとも、どんな背景があろうとも、どんな情状酌量があろうとも、どんな愛があろうとも、どんな哀があろうとも、どんな涙があろうとも、どんな苦労があろうとも、どんなどんなどんな何かがあろうとも。
悪を潰してぼくが思う事は「気持ちいい」だろうと、思うんです。
自己中心的すぎてもうぼくが悪なんじゃないかと思ったりします。でもそれはそれこれはこれ。ぼくはぼくの悪がこの世から消えてなくなればいいんです。そこですでにはみ出していようといまいとそれはあんまり問題じゃないんです。
思えばぼくは鉈でも良かった。振り下ろされる先に悪人の頭でもあるならば。斧でも日本刀でもナイフでも拳銃の弾でも錐でもロープでも断頭台の刃でも棍棒でも花瓶でも灰皿でも。その先にある悪が断てるのであれば。ずーっとずーっと、世の中の悪モノを片付けて生きて行けたらどれだけ幸せだろうかと思います。どれだけ恨まれようとも、嫌われようとも。
全部自分の為ですから。

家出にも似たあの日。

2005-11-10 06:14:20 | Weblog
僕が家を出たのは高校を卒業した3月の終り頃だったと思う。
20~28日だったんじゃないかと自分では思ってる。
うん、正直に言って良く覚えてなかったりする。
高校に入ってすぐ、想像通り母は弁当を作ってくれなくなった。それと時を同じくらいから言われていた事。
「あなたは高校出たら家を出る事。」
その度に僕は
「あーはいはい。」
と流して3年間。その日はなんだか永遠に来ないんだと思ってたんだけれど、唐突にやってきた。
まぁ、だからなんだって話しなんだけれど、要はまぁ、実感が湧かなくて家を出た記念日を覚えてねぇって事です。
そもそもなー、どうも、こう、あれです。自分の一大事ってのに記憶力が沸かないと言いますか。もう直前まで他人事みたいに思っちゃう節があるんです。
腎臓の手術をする時だって、素っ裸にされて緑色の貫頭衣みたいなのを着て手術室の前で今から正に手術するぞーってなるまで実感なかったし。
「え?まじで?」
みたいなね。だからその日だって良く覚えてないし。
これもあれかな、一種の逃避なんかなーとか思っちゃうんですが、本当になんとゆーか、ただ単に自覚が無いってだけかもしれないです。
鈍いってのとはちょっと違って・・うーん。
や、話しがズレズレです。もう着流し着て歩いた時の帯みたいに。
そんでまぁ、その家を出た日ですよ。日付は覚えて無いんですが、覚えてる事があって。もう今思い出しただけでもすっげー恥ずかしいんですが暴露だ暴露。あれです、いつもこのブログを見てくれてる人にちょっと露出狂の本性見せてやるぜーみたいな。うん、違うな。
いやーほんっとうに恥ずかしい事なんですが、まぁ18のガキがやった事と思って流してください。した事自体は全然役に立ったしね。
えっとですね、まず家に入ってやった事。
洗面所を探しました。えぇ、洗面所です。トイレとかじゃなくて洗面所。んでですね、その家の洗面所ってのは風呂と一体化してる所しかなかった訳です。ちょっと面くらいました。でも2DKならそうですよね。見落としてました。
何分、当時の僕が家を選ぶにあたって注意した点は2点。
家賃と、風呂とトイレのセパレートです。
たまにあるよね、風呂とトイレが一緒になってる所。
どーっしてもそれの我慢が出来なくてさ。意地になってました。
んで、洗面所の場所の失念っと。
まぁ、あるだけいいやって事でとりあえず洗面所を発見し、前まで行きます。すると目の前には洗面所としては申し分の無い洗面所がある訳です。当然ですが。
そんで更に当然と言えば当然なんですが、丁度良い感じの高さの正面に鏡がある訳です。そう、探していたのは水場じゃなくて鏡だったんですよ。
そんでまぁ、風呂場でちょっと光量が足りずに暗い鏡を見ながら、僕なりの『儀式』をする事にしました。
おもむろに両手を鏡に乗せ、鏡に反射された自分の目をじっと見つめる。
深呼吸。
「今日から一人だ。しっかりしろ。今日からは誰からも助けてもらえない。だからしっかりしろ。仕事に行け。サボるな。死ぬぞ」
そんで気が済むまでじーっと鏡の中に写る自分の目を見ます。
もう本気で。逸らしたら負けだーってぐらい。
んで、気が済んだらまた深呼吸して終り。
一種の自己啓発っつーかむしろ自己催眠?みたいな?いや、啓発って意味が自分自身よくわかってなかったりするんですが。
いや、マジで恥ずかしい。何やってんだ18の僕。阿呆みたいだ。阿呆だけど。
でもですねー、高校時代に散々サボり倒してるからね。
きっちりケジメつけないと。本当に仕事さぼっちゃいそうだったし。
そしたら待ってるのは死なんですが、それへの実感がまたあれでナニな具合で無かったモンですから。はぃ。ダメダメです。
それでも、いくら恥ずかしくっても、あれはやっておいて良かったと思う。今でも仕事が続いてるのは案外あれのおかげだったりしてなーとか。
ま、基本的にダラダラした人間なもんでしてね。真に遺憾ではあるけれど。
そんでなんだっけ?将来への夢を持とうって事でえーと・・あぁ、作家になりたいとか思ってたっけかな。近くの本をさらっと流し読みして諦めたけど。
当時それは過分な夢。
今はもっと、過分な夢。

まっ!そんな恥ずかしエピソードでしたっ!あーなつかし。



(´・ω・`)寝ぼけてて訳わからんスね。

Vol.7 功罪の間。後悔の真。

2005-11-04 00:08:24 | 妄想具現化
かちゃり。
インターフォンの受話器を置く。
なんだろう・・・耳に残る声・・。
「兄者?」
「あ、うん。悪い」
なんだか、暖かい声を聞いたような・・。でも、全然思い出せない。思い出せない?聞き覚えが・・ない?
「愚弟はなんと?」
「あぁ、うん。すぐ来るって」
ベッドのすぐ脇の椅子に腰掛ける。なんだか・・気持ちがふわふわするけれど、今はそれどころじゃないか。
「チ・・呼んで2秒で来るように普段から言っているのに・・あぁ、兄者、悪いけれど・・」
なんか歯切れが悪い。珍しいな。
「?」
「ちょっと・・・目にかかった前髪をどけてもらえますか?」
見ると、丁度前髪の先が目の中に入るような角度でもたれ掛かっている。
「どした?」
「いや・・その・・まだ手がうまく・・」
あぁ、そっか。半年以上眠ってたんだものな。
「おーけーおーけー」
右手の人差し指で前髪をすくう。
「ほら、これでいい?」
「・・・・申し訳ない」
ぷいっと窓側を向く。うん?恥ずかしがってる?
「・・・・・・えーと・・」
「あ・・兄者、それより寝てる間に起こった事を教えて下さい」
顔真っ赤だな。
「顔がm」
「GvですGv!!私がいないから負けたなんて聞きませんよ!」
ぶwおもしれぇ。
「兄者!!」
「いろいろ・・・あったよ」
弟者が寝てる間。
本当にいろんな事があった。
別れも、出会いも、死別も、栄光も、喪失も・・・。
「いろいろ・・・」
「・・・・・・・」
自分は今、どんな顔をしてるんだろう?
この数ヶ月を凝縮して思い出している今。
どんな顔を。
ナーバスになるな。
今は・・・まだ。
弟者が元気になって、みんなの所に戻ってからで遅くない。
今はまだ・・。

それから少しだけ、できるだけ楽しそうな事を話した。
「krさまがさぁ・・・」
「そんでさ、のりちゃんが言うのよ-」
「すまっpがまたオーラに。。。」
「兄者・・それは兄者の手抜きです・・」
「そこに私がいれば・・」
「えぇ!?そこで落としたんです!?」

LPでキラキラと光る部屋。
もう、ほんの少しだけ諦めていた人と、過去を思った。

かちゃん。
いきなり転がって来た音に振り返ると、そこにはかつての偉丈夫が頼りなさ気に立っている。
後ろ手でドアを閉めて、うつむき加減の・・・白衣。
「兄ぃ・・・」
自慢の逆毛はボサボサで。
無精ヒゲ伸ばし放題。
頬はやや虚仮て。
目の下には墨汁をたらしこめたような・・隈。
白衣を着た、病人。
「ジョン・・」
席を立ってジョンから弟者の顔が見れるようにする。
「遅い」
弟者はまたぷいっと顔を窓側に向けたまま、半年振り以上の弟に言った。
「兄ぃ・・すまない・・・少し手の離せない事があって」
ドアからベッドまで約5m。
ジョンはいつまで経ってもそれを縮めようとしない。
「・・・・・?」
どうしたんだろう?ジョンはドアに張り付いたままこちらに寄って来ない。
なぁ、どうした?と聞こうと・・
「ジョン、床のLPが眩しい。なんでこんなモノがあるか説明しろ」
ハッと息を呑む。
弟者は覚えていない・・・。
薬によって無理矢理半覚醒状態にされていた時の事は、覚えていない。
入院当初、看護士と医者、そして自分諸共大魔法で消そうとした暴走。
LPによる措置は・・それからだ。
「兄ぃは魔術制御系に異常が診られたんだ・・・だから・・その・・念には念を入れて・・・」
身振り手振りで激しく弁解するジョン。
一歩もドアの前から動かずに・・だが。
「もういい・・・」
苛立ちともなんとも言えない声で弟者は呟く。
「兄ぃ・・・すまない・・」
それに負けないくらいの囁きで、ジョンも何かの贖罪を口にした。
空気が重い。
「ジョン、弟者は大丈夫か?ちゃんと診ないのかよ」
沈黙に耐えれずに、思わず口にする。
でも、口から出任せなんかじゃなく、もう大丈夫だって言って欲しかった。誰からでもなく、ジョンの口から。「もう、大丈夫だ」って。
「わらにぃ・・それはこれから調べるんだ。」
「ならそんな所に突っ立ってないで・・」
あ・・・。
言ってから気がつく。そうだった。ここは普通の病院とは違う。”研究所”だった。しかも軍も絡んだ、ちょっと物騒な。
「わらにぃ、この件だけでも院内でLv5の情報規制が掛かってる・・」
”研究所”
ここはほぼ全ての情報に対して規制や機密保持の掛かる面倒な施設。
毎回機密に関する誓約書を書かされ、受理までを待つ程の。
本当は、この段階で部外者が居る事すら許されないのだろう。
ジョンが・・・いなければ・・・。
「わらにぃ・・・」
「すまん。浮かれてた」
弟者に向き返る。
「弟者。少し席を外す事にするよ。なに、ジョンに任せていれば大丈夫だ」
笑ったつもりだったけれど、どうかな・・。
「何か取り決めがあったのかな?まぁ、いいです。その代わり兄者」
「うん?」
「いちご牛乳が飲みたいです」
不安気な眼差しで、数ヶ月ぶりのわがままを聞いた。
「ちゃんと検査を受けて終わったらな」
ドアの前から未だに動かないジョンの横を、滑るように避けてドアのノブに手を・・
「ジョン、なんだその不細工な攻性防壁は。のりちゃんを少しは見習え」
握って・・・
部屋を出る最後に、チラっとだけ見た弟者の左目は、LPの光か窓からの光かで、何故か紫色に見えた。

ぱたん。
後ろ手でドアを閉めてほぅ、と一息つく。
何はともあれ、弟者は目を覚ました。
こんなに嬉しい事なんて、何ヶ月振りだろうとぐにゃっと思った時、それを祝うように[シャリッ]と何かが、鳴った。

ピ。ザー。
「あーあー、もしもし。聞こえますかー?」
ひょっこりなんの前触れも無く景色の中・・・いや、見える世界にうちの養女であるエレナが現れた。
「・・・?」
唖然。
向こうからはこちらが見えていないかのように、うちの養女は「これ本当に見えてるのかなー?自信無いにゃー」とか「やっぱやめとけばよかったかなー」とかブツブツ言っている。
にゃー禁止。
「えーと、これはですね、いつもぼけーっとしてるオヤジ様へのプレゼントなのですわ」
いや、まぁ、いつもぼけーっとはして・・ますか?
「ほら、いつも奇襲とか不意打ちとか喰らってるでしょう?つまりやっぱりいつもぼけーっとしてるのですわ」あぁ、嘆かわしい。
あぁ、まぁ、うーん、比較的にそうかもしれない。
「うー、時間が無いので手短に用件だけ」
最初からそうしてくれてれば・・
「おほん、えー」
咳払いをして、しかつめらしい顔で養女。
「これが見えた時点でオヤジ様は奇襲を受けてます」

防衛機構始動。
足にマナを溜める時間を放棄して音がした逆の方向へ横跳びして地面に転がる。
既に左腕には盾が「何故か」組み上げられていた。
映像はまだ続く。
「なおー、これが見える以前に最低限の防衛機構は無理矢理始動させてますので悪しからず。」
最低限の防衛機構・・・盾か。
「これもひとつのクラックだから後日体が痛むかもだけど、まぁ命落とすよりいいよねー^^」
我が養女ながらすっげぇナイスな笑顔だ。
地面に方膝を立てて、左手で握りこんだ盾の持ち手を体の前へ。
ぎっ。
衝撃一発目。
「時間が少し余ったので、これからの対処について専門家であり頼れる兄貴なノム君に聞いてみましょー」
ぎっっ。
一発目よりも重い衝撃二発目。
「・・・・・・・」
ノム君が入れ替わりに移る。おぉ・・宣託を!!
プツッ。ザー。
時間切れっぽかった。
おいいいいいいいいっ!
ばきっ。
左肩から抜けるような三発目の衝撃。まず・・このままだと・・。
 「・・・の寄る辺に穿て大弓」
聞き覚えのある・・詠唱。これはマグヌス・・・!?
研究所の廊下は既に、戦時下だった。

「ストップ。」
病人のような虚ろな声で、全てが止まる。
「は_・・っ・・あ・・」
やっと息ができるようになって、改めて回りを見た。
目の前には、門であった青年。一月前からの着任だと言っていた聖導騎士。
右斜め前には、左肩に銀の十字を模した法衣の聖職者。
その紋様からランク「ミストルテイン」であると解る退魔師。
青年の奥には・・・白衣の・・
こつりこつりと、白い床を鳴らして寄って来る。
「わらにぃ・・」
「ジョン・・・なんの冗談だよ・・」
緊張感が晴れない。盾はまだ消えない。
「すまない。ちょっとね、院内も気がたってる。」
「ちょっ・・」
言いかけて、被せられる。
「そうだ、久々の兄ぃはどうだった?/部屋に何か感じた?ずっと寝てたから本人時間の経過に自覚無いってさw/どこか触られた?髪を切れってうるさくってさ/視界がぼやけたりしない?/おれ逆毛しかできなってのw/声の裏に魔力を感じた?/でも逆毛はイヤだって言うしぃ/天井が落ちてくると思った?/わらにぃが切ってよ/捕食される気持ちってわかる?/こうさ、サーベルでばさーっと/壁がうごめいてなかった?/逆毛でもいいからさw/眼球が回って見えなかった?/逆毛かっこいいのになぁ/人間じゃないように見えなかった?/暫く切らないでいいしさ/本当に兄ぃだった?/便利だよね・・・・・


わらびー!!」
はっ!?
気がついたら夕暮れの駅前だった。
携帯を左手に持ったまま、夕日で赤く染まる世界。
「なぁ、聞いてるか?」
「え?」
目の前で社君が手を「おーい」と振る。
「あ・・うん、だいじょうぶ」
目がなんかしぱしぱするけど、他に異常はない。いたって普通。
「おいおいーしっかりしろよなー」
はぅ、と肩をすくめてみせられる。
「や、ごめんごめん。昼から何も食べてなくてさw」
「それさっきメールで見たし。だから晩飯食いにいくんだろー?」
「え・・?あ・・あぁ、そうだったそうだった」
「まぁちーと早いけど、いいだろ」
「うおー!腹減った!」
どこで食うかなー?とか言いながら前を歩く社君に続く。
ついて行きながら、自分がなぜ駅前で待ち合わせをしたのか、どうしても思い出せなかった。