テニスと読書とデッサンと!

遠い思い出。




「これで25.5cmありますか?」

気に入ったデザインの靴を見つけて

店員さんに出してもらった。

たぶん35~6歳くらいの女性だったと思う。

店員さんがひざまずき靴を箱から出す。

ここまではよかった。


次にぼくが自分の靴を脱いだ時、

自分の靴下にかなり大きめの

穴が空いていることに

ぼくと店員さんが同時に気づいた。

ぼくの顔がみるみる熱を帯びてくる。

でもその店員さんは別に表情を変えることなく

何も見なかったようにぼくに接してくれた。

「サイズ、どうですか?」

そしてつま先を親指で軽く押しながら

「ちょっとキツそうですね。

もうワンサイズ大きめのものを

試してみた方がよさそう」

そう言ってバックヤードに26を取りに行った。

椅子に腰掛けているぼくはあまりにも恥ずかしくて

この隙にどこかに逃げ出したくなったけれど、

一所懸命に対応してくれている店員さんに

悪いなと思って踏みとどまった。


ほどなく店員さんがワンサイズ大きい靴を

抱えて来て箱から出して床に置く。

ぼくが顔を紅潮させたままモジモジしていると

店員さんは小さな声でこう言った。

「大丈夫。誰も見ていないから。さあ!」

ぼくはその後、この靴を買ったのかどうかを

まるで覚えていない。

ただ不思議なことにこの店員さんの

ヘアスタイルを今でもはっきり覚えている。

ネイビーのシュシュでポニーテールにまとめた

艶のあるダークブラウンの髪、

眉毛に届きそうなくらいのふんわり膨らんだ前髪

両サイドに留められたサーモンピンクのヘアピン、

耳には星型のイヤリングが飾られていた。


ぼくが大学2年の時の出来事だった。

このことがずっとトラウマになっていて、

穴空きの、もしくは空きそうな靴下は

絶対に履かないと決めている。

だけどある程度歳を経た今でも

シューズショップで靴を脱ぐときは

一瞬躊躇してしまうのだ。



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