紅点(BENI TEN)
第7話:一つ目の太刀
羽田空港国際線ターミナル駅を降りる下野。
背には大きなスポーツバッグを担いでいる。
広い羽田空港のどこで待てば良いのか全くわからない。
そう…どこで待てばアメリカの手の者と接触できるのだろうか?
いや、それ以前に誰が来るんだ?軍人か?諜報員か?外交官か?
手がかりの”て”の字も無い状態で、しかし下野は前向きだった。
彼は向こうが見つけてくれないなら、自分が人混みの中から見つけ出してやるぐらいのつもりでいた。
行き先が海外なので短絡的ではあるが、国際線ターミナルに来た。
とりあえず3階の出発ロビーに向かってみる。
右足を力強く踏み出した瞬間、下野のiPhoneがなる。
メールの着信音だ。
愛生からの連絡だなと思い、メールを確認する。
下野「なんだこりゃ?」
差出人はなんと下野本人、件名は空白だ。
自分自身からのメールだって?覚えが無いぞ?
スパムかと思い、削除を考えた…しかし、受信一覧に表示される本文の一部に”国内線第2ターミナル”と書いてあるのを見て、反射的にタップする。
なんだかよくはわからないがアメリカ側からのメールだ、違いない。
しかし、メールの本文は一覧で見えていた10文字で全て。
それ以上のことは全く書かれていない。
そのメールの返信で”第2ターミナルのどこですか?”と送ったが、そのメールは自分自身に届いた。
下野「はははぁー、、そりゃぁそーか。自分に対しての返信だもんな。でも、なんでぇ?」
これはメールのヘッダー情報を偽装するやり方で送られてきたメールなのだが、下野にそこまでの知識は無い。
どうやらこちらからは一切連絡ができない仕組みらしい…とだけ理解した。
連絡バスを使って国内線側に行き、第2ターミナルに入った。
それからどうするのが正解かは全く判らないが、国際線ターミナルでそうしたように安直に出発ロビーを目指す。
するとまたメールの着信音。
受信の一覧を見ると、例によって差出人は下野本人、件名なしだ。
”決して後ろを振り向くな”と書いてある、きっと本文はこれで全てだろう。
だからタップして全文を見ることはしなかった。
さっきといい、今といい、相手は自分の位置を完全に把握している。
下野は研修のときこれと同じことができる技術を教わっていた。
下野「僕の携帯電話のGPS情報を覗いたな。」
すると、背後から近寄ってきていた一つの足音が、ピタリと止まった。
下野は先ほどからその足音に気づいており、彼の野生がどうしてもそれをけん制したがった。
しかしその後すぐ、彼の理性が自分の両手を(周囲の人たちに目立ってしまわない程度に)上にあげさせた。
下野「好きにしろ。」
再び足音が近づいてくる。
真後ろを取られ緊張感が高まる。
何をされるかと思ったら、右手に何か小さなものを握らされた。
足音が遠ざかってゆき、それが全てだということが理解できた。
右手にあったものは小さなカプセル、薬のようだ。
下野「飲めってことか?」
3階のカフェでコーヒーを注文し、薬を飲んだ。
さぁ、言うとおりにしたぞ。
これで次の指示がメールで来るのではないかと思い、テーブルの上にiPhoneを置いて画面を睨む。
下野「ぷはぁーっ、」
10分たったが何も起こらない。
メールはこないし、誰かが近づいてくる気配もない。
1時間待って何のアプローチもなければ、やはり自分から探しに行こうと決めた。
”羽田なう”
無駄についっとして時間を潰した。
しかし、30分ほどすると強烈な眠気が襲ってきて、これに抗えない。
下野「うわー、やっぱ睡眠薬か、、ですよねぇー…ちっくしょう。」
そのままがしゃんとコーヒーカップに顔から突っ込んだ。
びっくりした店員が、あわてて下野を起こしにきた。
カフェの外に立ち、英字新聞を読んでいた白人男性がやおら新聞をたたみ、カフェに入ってくる。
そして優しい笑顔で店員に大丈夫だと声をかけ、下野のコーヒー代を払った。
下野が目を覚ましたとき、彼は自分が飛行機に乗っていることを真っ先に知覚した。
この浮遊感、ジェットエンジンの音。
やれやれ、まだアメリカに到着していないのかと思った。
そして、自分が床に寝転がされていることにも気がついた。
巾の広いゴムバンドのようなものを頭にまかれ、視界をふさがれている。
手足は手錠のようなもので拘束されているようだ。
あまりいい待遇ではない。
下野「ただ乗りはエコノミークラス以下ですってか?」
遠くで話し声が聞こえる。
”彼が目を覚ましたようだ。”(英語)
”問題ない。彼には何もできない。”(英語)
”何もできない”だと?ふっと、不適な笑みで陰に喧嘩を売る下野。
彼は両手両足を拘束された状態からでも、抵抗する技を持っている。
両手をそろえて振り上げ、同時に打ち下ろす掌底。
相手が油断して近づいてきたところに、突然立ち上がりこれを食らわせれば、相手はひとたまりも無いだろう。
たとえそれがめくらうちの一撃でもだ。
下野「どーん。」
下野は掌底を撃つマネを小さく一回やったあと、今一度眠るために頭の中で羊を数え始めた。
彼に抵抗をするつもりはない、早く目的地に連れて行って欲しいだけだ。
それほど時間はかからず、再び深い眠りについた。
次に起きた時は荒地の上に寝ていた。
風に舞った砂ほこりが口に入っていてじゃりじゃりする。
飛び起きて、ぺっぺと吐き出した。
どうやら今は目隠しも手錠もなしのようだ。
下野「おおっと!」
何かに躓いて、転びそうになった。
自分が担いできたスポーツバッグだ。
早速中身を確認する。
全てある。
何も押収されていないようだと、ほっとした。
それで力が抜けたのか、突然下腹部からぶるっと震えがきた。
下野「やばい、やばい。」
彼はなさけないちょこちょこ歩きで、背の低い草がぼっと生えている辺りに向かう。
ズボンのチャックを下ろし、立小便開始。
下野から見て国道の右手から、一台のハンヴィー(軍用…というかハマーの元)がやってくるのが見えた。
一人の軍人が車を降りてきて、下野の横にやってきた。
敬礼し、英語で何か言っている。
そのガタイのいい黒人兵士は兎に角しゃべりが早く、単語と単語がくっついて聞こえる。
どちらかと言うと”シマナ”っぽく聞こえるけど自分の名前を言っているのだろうか?
早口でよく聞き取れなかったが、自分の身元を確認したいんだと理解し、半分賭けでイエスと答えた。
するとまた早口でいろいろと話し出した。
手招きしているので、ついて来いと言っているのだろう。
だが、それは無理だ。
小便が止まらない。
長時間飛行機に乗っていたせいか?しごく貯まっており、いっこうに止まる気配が無い。
これは気まずい。
引きつりつつも笑顔っぽい表情をなんとか作り、”プリーズ、ウェイト ア ミニッツ”と答えた。
すると下野ののっぴきならない状態に気づいたその黒人兵士は、己が目を手で覆って大爆笑。
下野の首にごずんと腕を回してきた。
”ようこそアメリカへ”(英語)
下野は恥ずかしくって何も言えない。
ひたすら自分のモノに向かって早く終われと念じている。
黒人兵士は下野のブツを指差してこう言った。
”作戦が終わったら、お前の坊やをタフガイにしてくれるいい女を紹介してやる。”(英語)
人を舐めた巻き舌口調だが、いい女のあたりを強調しつつゆっくり話してくれたので、なんとなく意味がわかった。
なんともしまりが無く苦笑いしか出ないが、黒人兵士は楽しげに何かを歌いだした。
無駄に陽気な男だ、、なんか疲れるな。
永遠の泉もついに枯れ、ハンヴィーに乗って現場であるモーテルに向かう。
到着するまでの間、ずっと黒人兵士が早口でマシンガンの様に話しかけてきて、本当に参った。
どうやら、へんな気に入られ方をしたらしい。
数分で目的地が見えてきた。
物々しいのですぐにわかる。
百人ほどの警官で取り囲まれており、大型のテントが設置され軍隊も待機している。
離れた場所からでも現場の緊張感がビリビリと伝わてくる。
車を降り、黒人兵士についてゆく。
テントの中に案内された。
奥のほうに大きなモニタがあり、航空写真のようなものが表示されていた。
その中央にあるのは間違いなくこのモーテルだ。
モーテルを挟んだ国道の両側に印があり、それが”道路閉鎖中”を意味していることはすぐにわかった。
モニタの前にはヘッドセットを被った兵士が座っている。
まぁ、監視や調整を行っているに違いない。
特に敵を刺激するマスコミ等には入ってきて欲しくはないだろう。
おっと、遅れずにあのおしゃべり野郎の後についてゆかねば。
一人の白人士官の背中に向かって黒人兵士が敬礼をする。
振り返ると年季の入った強面。
かなりヤバイ面構えだ…これは絶対に人を何人か殺していると予想される。
そして同時に少なからず棺桶に片足突っ込んできたに違いない。
戦いが彼の顔を少しづつ整形していったのだろうか?
黒人兵士は例の早口で報告をし、以上ですと再び敬礼。
白人士官が判ったというと、彼はあれほどじゃれ付いてきた下野を見ようともせず去っていった。
どうやらおしゃべり好きのあの男も、この仕官の前では冗談無しのようだ。
白人士官がゆっくりと手を挙げ始めた。
いかん、先に礼をされては日本人として格好がつかない。
超特急で敬礼の形を作る。
下野「陸上自衛隊!下野紘准陸尉であります!」(日本語)
と、言い放って自ら固まる。
ガチョーン!しもたー、、まんまる日本語じゃーんっっ!
いや!今から言い直しても間に合う、諦めるな自分!
ええっと、英語!英語!英語!思い出せーっ。よしっ!なんかキタっ!!
とりあえず単語を順に並べればなんとかなるっ!
下野「Japan GSDF Warra…」
やたらでかくてごっつい手で、がっしと肩を握られた。
ニカッと笑っている。
しかし、ゴリラとライオンを足して10倍したようなそのツラで笑顔を作られても、逆に怖いわ。
”俺はお前をヒロと呼んで構わないか?お前は俺をチップと呼んでいい。”(英語)
いや、そんな可愛らしい語感の名前で呼びにくいわアンタ。
だが、自分の階級を省略したフレンドリーな行為は、下野の全身を強張らせていた力を一瞬で抜ききった。
気持ちは伝わってきたのだ。
自分の心の乱れ等お見通し、百戦錬磨のいい士官、敵わないなと思った。
そう、敗北を認めたら余計な力が抜けたのだ。
実は”チップ”とは、コンバット!のサンダース軍曹にかけた白人士官なりのジョークだったのだが、下野は名作コンバット!を知らない。
普通に、彼が周りからチップという愛称で呼ばれているのだと思い込んだ。
すぐにテーブルに案内された。
状況を教えてくれるのだろう。
案の定、テーブルの上にはモーテルの見取り図があり、手書きでいろいろと書き込まれている。
先ほどのやり取りで、下野は英語が苦手と読んだか、チップは易しい単語を選びゆっくり説明してくれた。
チップ「モーテルの真ん中には廊下がある。」(英語)
指で廊下をなぞってくれた。
チップ「廊下のそれぞれの側には4つの部屋がある。合計で8部屋だ。」(英語)
ごっつい指で、部屋を一つずつちょんちょんと指し示してくれた。
チップ「シライシはこの部屋に居る。入り口から一番遠い部屋だ。建物の角にある部屋だ。」(英語)
シライシとは拉致されている被害者、白石稔(33)のことだ。
チップ「この部屋には1つ窓がある。大きな窓だ。だが、家具で塞がれている。テロリストたちはベッドやテーブルを積み上げた。他の壁には窓は無い。我々はシライシに最も近い進入路を失った。」(英語)
チップはここで視線を見取り図から下野へと移す。
チップ「テロリストは9人いる。シライシはそれほど長い間、正気ではいられないだろう。」(英語)
はじめ、早く強硬手段を取って方をつけろとせかしているのかとも思ったが、彼がそんな意地の悪い男とは思えない。
チップの読みはあたっていた。
薄暗い部屋の中、常に銃口を向けられていた白石は憔悴し、頬はこけやつれている。
彼らが好んで吸う、火をつけるとバチバチ言うタバコの匂いも白石の心にダメージを与えてゆく。
チップ「ここまでで、何か質問は?」
下野は廊下の突き当たりの壁が気になっていた。
この壁から入れれば、すぐ左の部屋に白石が居る。
だが、なんて聞いていいものやら、、英語に不案内で言葉が出てこない。
”What sort of” で大丈夫かな?
壁が破壊が容易な材質かを知りたい。
思い切って話してみた。
下野「モーテルの外壁はどんな種類の材料ですか?」(英語)
チップはすぐにALC板だと答えてくれた。
ここではっと気づく、見取り図にもALCって書いてある。
これ、材質の名前だったのか、何かの暗号かと思った。
iPhoneを取り出し即時にググる。
ALC(オートクレーブ養生をした軽量気泡コンクリート)
ウィキペディアをざーっと読んでゆくと、構造材として期待できるほどの強度はなさそうだ。
つまりは比較的に弱い材質だと判断できる。
専用のノコギリで切断可能な薄手の製品もあるらしい。
これで下野の心は決まった。
発泡スチロールのコンクリート版なんざぁ、ぶった切ってやる!
間仕切りの材料は見取り図を確認した。
軽量鉄骨と石膏ボード。
そんなもの下野にとっては紙同然、簡単に切り裂ける。
早速、思いついた作戦をつたない英語で告げた。
下野「私はここから入ります。そして、可能な限り早く白石さんを確保します。」(英語)
ここからと言われても、お前が指差したそこは壁だろう?聞いた方は半信半疑、いや7割は疑だ。
チップ「壁を爆破するのか?」(英語)
下野「いいえ、私は切ることができるでしょう。」(英語)
青年が背負ってきた重そうなバッグに目をやるチップ。
彼は”日本には手がある、下野にやらせろ”とだけ上層部から伝えられている。
コンクリート板を一瞬で切り裂く工具を持ってきたってことか?
次に下野の目を見る、自信満々だ。
きっと彼は何らかの方法で、壁に大穴を開けてくれるだろう…感だが、これは信じていい。
そしてそれは米軍にとっても有利な新入路となる。
チップ「判った。だが、私が君の失敗を確認した場合は、我々がやる。君はそれでいいか?」(英語)
その提案の真意は判る。
下野が作るであろう入り口には賞味期限がある。
テロリストが室内の有利な位置から銃口を向け、新入にてこずっている間に家具を積み上げるなどして塞がれてしまえばそれまでなのだ。
その後、おそらく敵は人質を一つ隣の部屋に移すだろう、同じ作戦を使えなくするために。
チャンスは逃したくない…なるほど。
下野「いいです。」(英語)
早速、バッグを開けて軟式甲冑に着替える下野。
チップはそれを興味津々で見ている。
だが、その視線は次第に好意的なものではなくなっていく。
チップ「ヒロ、それは何だ?もしそれがアイアンマンなら、スクリーンの中に片付けてくれ。俺はそんなもの見たくない。」(英語)
下野は自分の顔に不敵な笑みが浮かび上がるのを抑えられない。
ここに来て、やっとチップに勝った気がした。
彼は軟式甲冑を理解できない、受け入れられないでいる。
自分は知っている!こいつの性能を、富士鏡の切れ味を。
下野「チップ、もしあなたがアイアンマンに会いたいなら、映画館に行くべきだ。」(英語)
初めて百戦錬磨の猛者にタメ口をきいてやった。
その全身からあふれる自信がチップに再び確信を与える。
”自分には理解できないが、ヒロはきっとやる”
軟式甲冑を着終わり、廊下の突き当たりの壁面へと向かうチップと下野。
状況を見てすぐに下野がもらす。
下野「どこが廊下ですか?」(英語)
建物はやや傾斜した地面に立っている。
横方向はど真ん中をぶった切れば良いとして、問題は縦方向…どこから上が床なのか良くわからない。
床下や天井裏に穴をうがっても仕方が無い。
チップが壁に印をつけるよう、部下に命じてくれた。
設計図を見ながら巻尺で測定し、赤のスプレー缶で四角く廊下の位置を描いてくれた。
その両側に米兵が10人づつ壁に沿って並ぶ。
下野が失敗したとき、すぐに突撃するためだ。
後は下野が実行するだけだが、ふとあることに気づき質問をした。
下野「白石さんの他には誰もいないのですか?お客がいない場合でも、何人かのモーテルの従業員はいると考えます。」(英語)
これには辛そうな表情を見せ…いや、テロリストへの怒りの表情を隠さないチップ。
チップ「皆、殺された。」(英語)
下野はヘルメットの内側で、しまったと後悔していた。
きいてはいけないことを訊いてしまった。
彼のプライドを大きく傷つけ、心の奥にしまっていた悲しみをほじり出した。
チップ「そう、皆殺された。残念だが我々は我々の市民を助けることができなかった。だが、日本はやってくれ。」(英語)
彼は良き軍人だ。
そして彼は、彼自身理解できない軟式甲冑と自分に期待している。
望みを託している。
下野「もちろんだ。」(英語)
この力強い一言に、白い東レゼロFの背中をバンとはたく。
チップ「さぁ、お前の時間だ。」(英語)
脇へと離れてゆくチップ。
下野は富士鏡をずるっと鞘から抜き、中段に構えた。
一方、モーテルの中ではテロリストの一人が廊下を、下野が突撃してくる壁面へ向かって歩いてきていた。
間違いなく二人は鉢合わせするだろう。
下野「kick start」
ヘルメットにはジェットエンジンと脚部ダンパー制御用のワンボードマイコンが内蔵されている。
全ては柔軟に曲がる基板上にプリントされ、ヘルメットの形状に成約を与えることは無い。
下野の言葉を契機にOSが起動、ヘルメット内部のモニタにNetBSDのログが表示されてゆく。
ログイン画面になり、声紋確認のアイコンが表示された。
下野「たい焼き焼けた。」
声紋の確認が目的なので、十分な長ささえあればこの言葉は何でもいい。
ホーム画面が表示され、その左上隅に脳波の受信レベルを示す5本線がある。
5本中3本が光っている。
米軍が壁につけてくれた廊下の位置を睨み、深呼吸。
そして、意を決し左腕のジェットエンジンを点火し、壁面に向かってすっ飛んでゆく。
下野「るああああっっ!!こんな空気ぶくれのコンクリ板、軽く切れよ!富士鏡ぃいいいいっっ!!!!」
バガンとブロックが割れるような音がして、壁に切れ込みが入った。
本当に軽く切ってくれた。
無我夢中で刀を振ったので、自分でもいつ切ったのか判らず、手応えが残っていない。
アドレナリン出まくりで、飛散するコンクリート片がゆっくりに見える。
脳波受信レベルも今やバリ5だ。
そして伝わってきた、その一つ目の太刀に驚愕する警官や兵士の魂の震えが。
下野「っしゃあああああっっ!!」
そのままショルダータックル。
バコンと盛大に壁が砕け散る。
その大きな破片の一つが、廊下を歩いてきていたテロリストの顔にびすんと当たる。
時速150km以上でコンクリートの塊が当たった。
瞬間、顔の前半分がまっ平に潰れ、首が折れ、頭部が後方にべちんと垂れた。
下野は腕を折り曲げてジェットエンジンを全開で吹かしてブレーキをかける。
下野の体は空中で半回転、腕が反対側に向かって強烈に伸ばされてゆく。
やばいと思った。
全開にしてはいけなかった、出力高すぎだ。
すぐにエンジンを全閉にするが、それでも体を建物の外に持っていかれそうだったので、刀を天井に刺して耐える。
下野「ぐあああああっっ!!」
腕が引っこ抜けるかと思った。
姿勢が落ち着いたところで、天井から刀を抜き床へと落ちてゆく。
下野「くそぅ!川崎重工ぉっ!エンジンのパワー手加減無しかよっっ!!」
超小型のジェットエンジンなので設計時点から出力に不安を感じていた下野は、川崎重工に”できるだけ高出力で”と注文していたのだが、今はそんなことすっかり忘れている。
床に着地しながら、白石が囚われている部屋の間仕切壁をV字型にたたっ切る。
ジェットエンジンを一瞬ブスンと吹かして、拳で間仕切りを粉砕しつつ部屋に侵入。
そのまま白石に銃口を向けている男の頭蓋骨に富士鏡を刺した。
室内には他に2人おり、ただちに下野と白石を狙って引き金を引く。
下野は東レゼロFに守られており、突撃銃の銃弾ごとき避ける必要が無い。
白石を守る必要がある。
下野は日本刀で刺した死体を、白石の前にぶら下げ盾代わりにした。
白石「ぎゃあああっっ!!」
死体の顔が目の前に来る格好となり、その恐怖に金切り声を上げる。
下野「白石さん。その死体からはみ出さないようにしてください。弾に当たりますよ。」
下野は死体で白石を脅しながら、彼をより安全な位置へと誘導してゆく。