紅点(BENI TEN)
第6話:アメリカへ
地下鉄に飛び乗った下野が向かっているのは自分のマンションではない。
半蔵門線で一本、錦糸町で降りた。
彼が向かう先は、小山邸。
個人宅の庭にしては広すぎる日本庭園で心無に立つ小山力也。
彼は刀工として人間国宝に指定されている人物。
庭の片隅にそっと立つ、金柑の木の葉がかすかに揺れ、音をたてた。
小山の眉がぴくりと反応する。
小山「今日は…風が騒がしいな…」
日笠「でも少し…この風…泣いています。」
彼の後ろに控えていた彼の世話焼きの和服女性、日笠陽子が答えた。
そして小山は神に手を引かれるように、小山邸正門へふらりと足を進めてゆく。
猛々しい呼吸音、荒々しい獣の匂いが近づいてくるのを5感とは別な何かで感じた。
小山「どうやら風が街によくないモノを運んできちまったようだ。」
門の前に下野の姿、全力疾走してきたので肩で息をしている。
小山は荒れた息で挨拶もままならない下野を招き入れる。
小山「急ごう風がやむ前に。」
40畳はありそうな畳敷きの客間へと通される。
座して向き合う小山と下野。
日笠は小山の後ろに控えている。
かしこまって頭を下げる下野。
下野「本日はお願いが在って参りました。」
話を続けようとする青年に手のひらを向けて制する小山。
わずかに小山が顔を向けると、日笠は直ちに立ち上がり、部屋を出て行った。
下野は人払いをしたのかと思ったが、小山が話すつもりも自分に話をさせるつもりも無い様子だ。
沈黙が5分ほど続くと、日笠が戻ってきた。
彼女が手にしているものを見て驚く。
二人は自分が何の用事で来たのか、判っていたのだ。
日笠「富士鏡でございます。」
そう言って下野に差し出した。
刀の名を言われなくても”富士鏡”と判る。
こんなに分厚くて巾のある、バケモノじみた重さの日本刀は他に無い。
日笠も雪のように白い細腕にはつらそうで、に背を反らせてバランスをとりつつ刀を差し出している。
だが、そのか弱く儚げな姿も、彼女の美しさを引き立てる香水。
そう、確かに下野はこの刀を受け取りにきた。
礼を言おうとする下野を再び制する小山。
小山「よい。あの日、貴様は我が富士鏡を受け取ることを拒んだが、わしには判っていた。貴様は世に無双の人切り。そして富士鏡はこの世に唯一本の現代戦で通用する人切り包丁。ともに歩くが運命よ。」
これには厳しい目で反論する下野。
下野「いえ、今回はやむなくお借りするだけです。用事が済めばお返しいたします。」
うふふと微笑む日笠を睨み、非礼に抗議する下野。
日笠は妖艶な笑みで、今一度刀を差し出す。
白魚のような指と控えめな漆塗りの鞘のコントラストが美しい。
日笠「富士鏡は一途な刀です。とても。とても。ずっと、この刀は下野様をお慕いし続け、恋心に狂っておりましたわ。だってこの刀は、下野様と結ばれるために創られたのですから。」
通常の日本刀の3倍以上の重さがある富士鏡を、片手で軽々とわしづかみにする下野。
その屈強なる肉体。
鋼の体と獣の太刀が一つになった姿に、にわかに頬を染める日笠。
日笠「富士鏡はきっと、折れて果てるまで下野様の手を離れようとはしないでしょう。」
下野は”お預かりします”と今一度言葉を強調し、彼女の言葉を否定した。
一礼し去る下野の背に、思い出したように声をかける日笠。
日笠「タクシーを呼んでおきました。まもなく到着すると思います。」
下野「どうも…」
振り返らずに短く礼をいい、戸を閉めた。
正直彼女の完璧な立ち振る舞いが癇に障る。
確かに日本刀を担いで街を走り回るのはよろしくない。
なにより警官に職務質問をされたら時間を食ってしまい、何のために走ってきたのか判らない。
タクシーなら日本刀を人に見られる心配はないし、運転手も小山邸から日本刀を持った男が出てきても怪しまない。
日笠「礼には及びませんわ。私は富士鏡にとって、一番良いことをしただけですから。富士鏡を男女で分けるなら女。同じ女として気持ちは痛いほどわかるのです。」
下野はタクシーで自分のマンションへ向かう。
到着すると、エントランスの前に愛生が立っているのが見えた。
タクシーを降り、駆け寄る。
下野「豊崎、すまん。待たせたな。」
彼女は声をかけられるまで、下野に気づかなかったようだ。
愛生「わ!びっくりした。」
うわ、本当にただただぼけーっと突っ立ていたんだね。。
あきれて言葉が続かない。
愛生「ひろちゃんひさしぶりじゃのう。」
どうやったらこんなに人体から力をそぎ落とす発音ができるんだろう。
能天気って、精神兵器の一種なんだと思った。
なんかあれ、そうだエネルギードレインとかそういった感じの超能力だわ。
iPhoneで現在時間をチェックする下野。
石田が来るまで、あと30分はありそうだ。
手招きする。
下野「さぁ、僕の部屋に行こう。」
しかし愛生はその場でもじもじしている。
愛生「でへへー。やっぱ、ぱずかちぃー」
首をちょこんとすくめて、なーんて言われちゃった下野の顔が見る見る赤くなってゆく。
その鼻っ面を愛生が指差す。
愛生「ほらーっ」
下野「とっ!豊崎が変に意識するからだろっ!はっ!早く来いよっ!!」
腕を捕まえて引っ張ってゆく。
愛生「あーれーっ。おだいかんさまーっ。」
来た来た体力吸引発声法。。
ほんとにもう、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか判別ができない。
きりきりと引っ立ててエレベーターに、乗り10階のボタンを押す。
愛生「おー、10!!キリがいい数字ですな。」
もぅやだこいつ。
食いつきどころがわけ判んない、キリがいい数字だからなんなの??
でも、こいつの人脈が今の自分には必要なのだ。
絶えろ自分!!
狭いエレベーターの中、二人っきり。
愛生が落ち着き無くぴょこぴょこと動くと彼女のにおいが漂ってきて、また顔が赤くなってしまった。
頭の中でお経を唱えながら冷静さを保つ下野。
10階に着いた。
玄関をくぐると”うごー、たくさん部屋があるーっ”と愛生が興奮し、あちこち覗いてはしゃいでいる。
子供か?
肘でちょんちょんと下野を突っつく愛生。
愛生「税金泥棒。」
にやにやと笑っている。
だめだこいつ…もう、無視だ無視!無視!
このペースに付き合っていたら、話はいっこうに進まない。
リビングに行き、早速話をきり出す。
下野「テロリストに日本人が拉致された事件知っている?」
大々的に犯行声明があったから各メディアはこぞって報じているはずだが、このぼんやり娘だけは絶対に知っているわけが無いという口調で言ってやった。
愛生「あー。電車の中で日経のニュース読んでたらそんな記事あったね。タイヘンだねー。」
下野は”え”と声に出して、きょとんとしている。
下野「豊崎、日経新聞読んでるんだ?」
いや、お前、そんな出来るキャラじゃないだろう。
加えて言うなら豊崎のダルイ口調で”タイヘンだね”って言われると、緊迫感が尻尾を巻いて逃げ出し、どうでもいい話に思えてくるよ。
彼女はインフォバーの画面を突き出して見せた。
愛生「読んでるよー。貧乏だけどお金払ってスマフォで読んでるよー。」
下野「いや、無理して世相に敏感ぶらなくてもいいと思うんだ。しかも日経なんてお堅い新聞…僕は豊崎には似合わないと思う。」
棒読みセリフ…その背伸びをして大人ぶる子供を哀れむようなその目に、がーんとショックを受ける愛生。
愛生「ひっどぉーい!私、己が咽だけが頼りの声優界で必死に生きているんだよ!世の流れをつかもうって日々努力しているんだよっっ!」
と、ここではっと気づく下野。
話が横にそれていっている。
イカン、イカン!!だめ、こいつのペースにはまったら負け。
下野「判った、僕が悪かった。この話ここまで。でね、こっから極秘なんだけど、、」
うんうんと身を乗り出してくる愛生。
下野「日本はテロリストの要求をのむ方向で動いているんだ。」
うんうんと相槌を打つ愛生。
下野「え…と、判ってる?聞いてる?」
どうしても心配になって確認してみた。
愛生「ひろちゃん!私をなんだと思っているのかなっっ!!」
あ、マジ切れした、ぷんぷん怒っている。
ちゃんと聞いていてくれてるみたい。
よかった、よかった。
ほっとした。
下野「僕はその会議を聞いていたのだけど、テロリストの要求をのむことで被害者の命が保障されるとはとても思えないんだ。」
うーんなるほどと、腕を組んで納得している愛生。
そして…あれ?なにこの頼れる雰囲気。
急激に何かが変化してゆく。
愛生「で、ひろちゃんはどうしたいの?」
声の感じがガラッと変わって、どきりとした。
後に世界樹と呼ばれる女の本性がちらりと見えた。
下野「犯行声明を出したテロリストの拠点近くには、米軍が駐留している。僕が一人で被害者の男性を救い出すから、米軍に手引きをしてくれるよう要請して欲しいんだ。」
かぶりを振る愛生。
愛生「単身敵陣に乗り込むって格好は良いけど、話にならないわ。その作戦が成功するって信じてもらえないと思う。」
ドキドキしてきた。
言葉上は自分のことを完全に否定されたわけだが、普通に考えればその通りで筋が通っている。
今与えられた情報だけで判断すればそれが正解、考え方がしっかりしている女性だ。
ずっと、彼女の人脈だけをうまく使いこなそうと計を案じていたが、全てを任せ頼り切っていいと思えてきた。
下野「ああ、そうだな。だが僕には奥の手があるんだ。」
iPhoneで時間を確認する。
下野「それがもうすぐ来る。」
ポーン。。
インターフォンがなった。
石田が大きな木箱を載せた台車を押してやってきた。
石田「もーぅ。ここ駐車場から遠くてやだぁーっ。ボクの腕はピンセットより重いものは持てないんだよう。。」
すぐに部屋に招き入れる。
石田に愛生を紹介し、一通りの方針を説明した後、愛生の前で箱を空けた。
白いスウェットスーツのようなものが入っている。愛生に見せて説明する下野。
下野「軟式甲冑0ノ24型。対人兵器は全て無力化できる。銃器はもちろん、毒ガスも細菌兵器もナパームの炎も無力だ。」
愛生は軟式甲冑をじっと見ている。
反応が無い。先ほどは頼りになりそうに見えたが、やはり豊崎は豊崎、分かってくれないか?
下野「豊崎?」
愛生「どこか、ひとりっきりになれる部屋を貸してくれる?電話してみる。」
急にそんなことを言われ、虚をつかれた格好になった。
下野「あ、ああ。どこでも好きな部屋を使ってくれ。」
石田が楽しげに手を挙げた。
石田「はいはーい。ぼくわぁ。三人で打ち合わせしっながら作戦をすすめられるのでぇ、ここで電話してくれたほうがいいとおっもいまぁーす。」
だが、その提案は愛生の冷気によって氷塊と化した。
愛生「二人は軍とだけ打ち合わせをすればよいと思っているようだけど、違うわ。横や上とも調整が必要なのよ。」
えー、微妙にぼやかした表現しているけど、横や上ってCIAやペンタゴン?
愛生「だれと私が話をしているのか知れるとまずいの。」
絶対零度の威圧感に、二人ともただ黙ってうなづく。
そこまで大きな話になるのだとは考えてもいなかった。
ちょっとぶるった。
愛生の友人の兵士に、ちょこっとテロリストの巣穴に連れて行ってもらうだけのつもりだった。
そんな大それた方々との調整が必要になるなんて、想定外だ。
愛生「話はわかったわ。やれるだけはやってみる。」
廊下を進み、リビングから一番遠い洋室を選んでドアを開けた。
中に入り、ドアを閉めるとき一言。
愛生「期待はしないでね。」
その威圧感に氷漬けにされた二人は、間が持たないまま長い30分を耐えた。
洋室のドアが開き彼女の影が廊下に落ち、二人の視線がそこに集中する。
うだーっと前のめりになり、つかれきった様子の愛生が出てきた。
うだうだと廊下を戻ってきて、リビングに到着し開口一番。
愛生「うー。」
なんかいつもの雰囲気に戻っている。
愛生「えうー。」
いや、いつもの雰囲気に拍車がかかっているかもしれない。
愛生「えーとー。二人とも着席。」
言われたとおり、そそくさとテーブルに着く石田と下野。
えっこらせっと婆くさくよれよれと座る愛生。
愛生「えー、重大発表です。日本は2つ勘違いしてます。」
顔を見合わせる石田と下野。
石田「日本全員が勘違いなの?」
こくこくとだるくだるくうなづく愛生。
愛生「まず被害者は中東にはいません。アメリカの国道沿いのモーテルで拉致られてます。」
これにはすぐさま反論する下野。
下野「そんなはずは無い!被害者は中東にいるはずだ、入国手続きを行っている。確認済みだ。僕が出席した会議でもそこはウラが取れていると報告があった。」
んがーっと背もたれにのけぞる愛生。
愛生「普通に偽装だねぇー。」
石田「えーっ。どゆこと?」
愛生「パスポートを偽装して、テロリストのうちの一人が被害者のふりして入国しました。国際結婚なんて普通だから”2世です”ってな雰囲気かもし出していりゃあ、日本人の姓名で外国人が入国してもばれやせんって。」
石田「ぎょえー。」
話を聞きながら思考の迷宮に迷い、眉間にしわを寄せる下野。
下野「なんでそんなことしたんだ?一人だって味方が多いほうが良いだろう?犯行声明だってどこから発しても同じだ。意味のない行為だろう?」
後方にのけぞった状態から、ぐりんと前に戻ってくる愛生。
愛生「はい、それが勘違いの2つめ。テロリストの標的は日本ではありません。」
これには二人とも察しがついた。
石田・下野「アメリカ!」
ボタンを叩くようにテーブルをべしべしとやる愛生。
愛生「ピンポン、ピンポーン!テロリストの目的はあくまでもアメリカ都市部、人口密集地での自爆テロです。」
だが、二人がわかったのはそこまで。
続きは愛生の答えを待つしかない。
愛生「アメリカはテロリストの動きを完璧に把握していました。逮捕寸前まで行ったんですが、ここでテロちゃんずが意地を見せました。」
下野が自信無さげに答えを続けてみる。
下野「たてこもり?」
愛生の人差し指が伸びてきた。
愛生「はい正解。突入される前に逃げちゃったんだね。で、自国へ向かう日本人ビジネスマンを見つけたテロちゃんはこれを利用することを思いつきました。テロちゃんの一人がなりすましで自国の拠点へ報告…盗聴される心配なしにね。残りは日本人を盾に自爆テロのチャンスをうかがう。」
ここで石田の表情が謎色に染まる。
石田「なんでアメリカは日本に教えてくれないの。」
下野がはっと気づく、全てを察した。
愛生もそれに気づいたが、自分の口で話を続けた。
愛生「アメちゃんも話したいのはやまやまなんですけどね。話し方ってのがあってですね。」
石田の顔は謎色のまま。
深くうなづき、自らに説明するように口を開く下野。
下野「アメリカはテロに絶対に屈しない。万が一のときはおそらく…数百人と見積もられる一般人を守るため、日本人一名を犠牲にして強硬手段をとらざるを得ない。まずはそうならないように対応するが、そうなったときのために布石はうっておきたい。」
石田のため息。
石田「なんだ、向こうさんも手詰まりで説明に困っているってわけか。」
愛生「早めに連絡しようとがんばっているみたいだから、そう言っちゃうと可愛そうだよー。でも悪い奴は頭がいいねー、こんなやり方で日本を巻き込んでしまえばアメリカがめっちゃ困るって解ってる。人の嫌がることをする天才だよね。」
その言葉に続けて下野の顔をじっと見る。
愛生「アメリカ的には日本がカタをつけてくれるならそれが望ましいってさ。」
再び石田のため息。
石田「強攻策で人質が死んだとき、アメリカは非難されることが無いからね。」
愛生「だからぁ、出来るだけ当たり障りなく、仲良くしていたいだけだって。。」
下野の顔が決意にキッと引きしまる。
下野「協力は得られるんだな。」
しっかりとうなづく愛生。
愛生「うん。アメリカはひろちゃんの秘密兵器のことも知ってたよー。”私は本当に感じるトーレゼロエフが有効なことを今回の場合”って言ってたもん。」
石田のつぼにはまったらしく、けらけらと笑い出した。
石田「あきちゃんはー英語わ話せるよーだけど通訳はむりっぽいねぃ。今の台詞、英語原文を思い浮かべてから意訳しなおしてやっと理解できた。あはははは!」
立ち上がり隣の部屋から大きなスポーツバッグを持ってくる下野。
軟式甲冑を詰め込みながら愛生に最後の質問を投げる。
下野「僕はどこに行けばいい?」
スマフォで下野の写真を撮る愛生。
スマフォをムニムニと操作しながら答える。
愛生「羽田空港。相手のことは教えられないのね。写真メールしておくから、見つけてもらえることを祈っておいて頂戴。」
下野がバックパックを置いてゆこうとしているのに気づいて、バッグに入れようとする石田。
しかし腕をずおっと伸ばして拒否する下野。
下野「今回はバックパックは要りません。」
石田「銃はどうするんだい?米軍に借りるんだろう?」
富士鏡を差し出す下野。
下野「今回はこれで戦います。」
刀一本で、銃や爆弾を持ったテロリストと戦うだって?そんな侍魂、屁のツッパリにもならないだろう。
石田「冗談だろ?」
富士鏡を椅子に座っている石田の膝にそっと置き、また持ち上げる。
重かった、ぞっとするほど。
下野が片手で軽々と取り扱っているのが信じられない。
下野「米軍が用意してくれる歩兵用の兵装では破壊力に限界があります。この刀なら限界はありません。万が一のとき、この富士鏡なら事態を打破できます。」
石田「あ、あぁ、、そう、、なんだ。」
石田は凍り付いている。
まさか、この一年実験開発をともにした青年が、とんでもないバケモノだったなんて。
愛生がぽんぽんと下野の肩を叩く。
愛生「ねぇ、あと1、2時間くらいこの部屋使ってもいい?」
下野「いいけど…」
愛生「アメリカにね…”はい、我々はできるだろう、除いて、全ての日本要人達の一致?承認?がなされない”…なんか私のインチキ英語だとあやふやだけど、兎に角約束をしちゃったのよ。これから日本のあちこちに電話して話を通しておかなきゃいけないのよ。私のワンルーム壁が薄いから、他国語ならともかく日本語でめったなことは話せないのね。」
下野は一回うなづき、電話代の引き出しを開け合鍵を取り出す。
それを愛生に渡した。
下野「これを使ってくれ。エントランスもこの鍵で開けられる。」
そして大きなスポーツバッグを背負い、部屋を出てゆく。
石田がぶんぶんと腕を振って送り出す。
石田「いってこい!さっむらぁーーっいっ!!軟式甲冑の性能はボクが保証するよ~ン!!」
合鍵を上着のポケットにしまう愛生。
これはこのまま愛生の物となり、下野に返されることは無かった。