汨羅の観察人日記(一介のリベラルから見た現代日本)

自称『リベラル』の視点から、その時々の出来事(主に政治)についてコメントします。

ロシア-ウクライナ紛争 情報戦に踊らされる日本

2022-04-19 13:28:00 | 国際情勢
ウクライナに侵攻したロシア軍について、ロシア軍は劣勢、ロシア軍は弱い云々の言質が飛び交っているが、本当にそうであろうか?
そもそもロシア軍が劣勢ならば、何故東部で攻勢を開始し、マリウポリを実質的に支配下に置き、更なる攻勢に出ようとしているのか全く説明できないであろうし、ロシア軍劣勢の裏返しであるウクライナ軍優勢ならば、東部の奪還やクリミヤの奪還くらい出来そうなものであろう。
ロシア軍は弱いに至っては噴飯もので、実際のロシア軍とウクライナ軍の損害は戦争が終わった後でないと正しい検証はできないと思うが、ロシア軍はアメリカ軍と戦争することを前提に戦力設計されている軍隊あり、グルジア、シリア等での実践経験もある軍隊である。その軍隊を弱い云々している評論家を見ると、正気かコイツと思ってしまう。
何故、上記のようなミスリードが生じるかといえば、アメリカ発の情報を鵜呑みにしているからであることに加え、従前アメリカが中東で行ってきた戦争と今回のロシアが行っている戦争の戦争目的がまるで違うことを理解していないからである。そもそもアメリカはアメリカで巧妙な情報戦を全世界に仕掛けており、それにまんまと引っかかっているのが日本のマスメディアと識者(恥ずかしいことに自衛隊の元高級幹部も含まれる)なのである。その上、アメリカの従前の戦争からの類推でするという思考放棄し、今回の戦争を推し測ろうとするので、頓珍漢な評価になるのである。
アメリカが中東で目指したのは、そのカウボーイ的な使命感を持って中東に民主的な政府を樹立し、もってアメリカに都合の良い秩序体系を中東に構築するというものであったと言える(もっとも、かえってイランの影響力が伸長し失敗したとしか言いようがないが)。このため、フセイン政権を打倒することを目的とし、イラクに戦争をふっかけたというところであろう。
しかし、ロシアについては事情が全く異なるのである。前回の本ブログで指摘したが、ロシアの戦争目的は、ウクライナという自国の喉元に突き刺さる地域への西欧勢力の伸長を防止するというのが、ロシアの戦争目的であり、キエフ確保により現ウクライナ政府にロシア側の要求を呑ませる又は、要求に応じる政権を樹立するというのは、目的達成の手段なのである。目的達成のための手段であるキエフの確保にコスト(時間と兵力)が極端にかかるということであれば、他にコスパの良い手段があるのであればそれに代替するのは当然であろう。ロシア軍がウクライナ東部での作戦に重点を変更したのはこれである。すなわち、戦後、仮のウクライナが親西欧のスタンスを変えなかった場合でも、ロシアと西欧のバッファーとなる地域を直接確保するという方針に変えたのであろう。ここから導き出される結論は、ウクライナは戦争を継続すればするほど、自国の領土が削られるということである。どこまで削られるかはどの段階で休戦するかによるのであろうが、私は、最低限ソ連・ポーランド戦争後の国境線まで戻したいというのが、ロシア政府首脳の本音ではないかと予想する。
次に、アメリカ・イギリスがウクライナ優勢的な情報戦をする目的については、ウクライナ支援の正当性を自国及び特に旧西側諸国に宣伝すること及び、当該情報のロシア流入によりロシア国内での厭戦機運醸成を狙っているのであろう。前者について、日本では相当効果を発揮しており、安倍政権時にロシアは親日等アホな事を喚いていた自称保守・愛国界隈が、今度はロシア膺懲のためウクライナ支援をすべしと喚きたて、これに懐疑的なことをいう評論家等をバッシングするところまできている。日本社会全般の空気感としてもウクライナ支援当然といったところであろう。
アメリカがウクライナを支援する理由として、現世界秩序の維持がアメリカの国益になるという側面が主たるものであろうが、他方でこの戦争でロシア産石油・天然ガスを国際市場から締め出すことにより、特に石油産業が潤うという構図は見事に隠されている。このように、アメリカの情報戦は対西側諸国という面では今のところ上手く行っていると見る。ロシア国内への影響は今のところ見えないが、そもそも戦時は愛国心が高揚する上、基本的にはロシア優勢なので、ロシアで厭戦機運を醸成するには、さらに手の込んだ情報戦を米英はロシア国内向けに行う必要があるのではないだろうか。
ただ、情報戦も程度の良し悪しがあり、米英主導で日本を含む旧西側諸国がウクライナを相当積極的の支援している姿をロシア政府首脳がどのように判断するかというと、特に米英は特殊部隊を送る、情報提供により相当程度ウクライナを支援している姿を見たロシア政府首脳は、ウクライナ侵攻は正しかったとの確信を益々強めているであろう。
以下、本題からややズレるが、本邦においてアゾフ大隊等のウクライナ非正規軍を称賛するような報道や声が聞こえるが、バカも休み休み言えと言いたい。これらの非軍事的組織が何を始めるかといえば、自らの勢力範囲内において「スパイ狩り」を行い戦争陰惨化の要因となるものである。パルチザンによる対独協力者の暗殺や処刑はその良い例であろう。ウクライナの非正規軍の精神的支柱はナショナリズムであり、その意味でもウクライナ非正規軍の成員による一般のウクライナ人に対する「スパイ狩り」や「ロシア軍捕虜への虐待」が暴走し易いことを踏まえると、昨今のアゾフ大隊等ウクライナ非正規軍礼賛は度が過ぎるというか愚かとしか言いようがない。まぁ、ウクライナ非正規軍の成員による残虐行為も全てロシア軍が行ったことにするという強弁が罷り通るのだろうが、少しでも知的誠実性が己にあると思っている者は、ウクライナ非正規軍礼賛を考え直すべきであろう。