「アジアの動物記 韓国の最後の豹」紹介
(会報「ばっとぼっくす」No.30より転載)
「ヤンコフスキー家の人々」以来の遠藤公男先生の新刊です。今年8月に発行されました。「韓国の虎はなぜ消えたか」の続編とも言うべき内容です。遠藤先生の著作の中では名著として知られる「原生林のコウモリ」や「アリランの青い鳥」はもちろんですが、個人的には「韓国の虎はなぜ消えたか」が読み物として一番好きな作品です。それは遠藤先生自ら現場に乗り込んで各地を訪ね歩き、対象に迫っていく過程が臨場感に溢れて描かれ、迫真のルポルタージュとなっていたからです。今回の新刊も同様に、当時(1980年代)の社会情勢を考慮すると相当な逆風があったと思われる中、取材の積み重ねで真実が明らかになる展開に引き込まれました。

前半では韓国の最後の豹が捕獲された場所を突き止め、捕獲に関わった人々を追い、中盤では虎に魅せられたある人物の生い立ちが紹介されます。そこにはもう一つの「アリランの青い鳥」たる物語があり、南北分断の悲劇は多くの人に降りかかったことを再認識させられます。一転、終盤は途中で存在が明らかになった、もう1頭の「最後の豹」の顛末が描かれ、朝鮮半島の歴史が、そこに住む人々と野生動物にどのような影響を及ぼし、現在に至ったかが紡がれます。本の中である人物が述べる、「動物学の視点から虎や豹と人間の関係を見直したい」という言葉に遠藤先生がライフワークとされているテーマが集約されていると感じました。
(遠藤公男著 垂井日之出印刷所 240ページ ISBN-10: 4907915004 ISBN-13: 978-4907915001 定価1111円(税抜き)、Kindle版は549円)