海のように 空のように・・・

自分の趣味や、日常での感じたことを思いのままに留めてゆきたい。
ついでにお気に入りのアーティスト情報なども・・・

天使と悪魔 16章

2010-11-30 17:08:48 | ユウ
天使と悪魔 第16章 「不器用な優しさ」

朝、起きる。
目覚まし時計が鳴る時間はとっくに過ぎていた。
無理もない、夜遅くまで起きているのだから。

 (今日もまた遅刻か。)

通信簿に書かれるとかそういうことは気にしていない。
進路がどうあれたどり着く場所は同じだ。
しかし学校ぐらいはちゃんと行っておきたい。
長い人生でほんの少ししか経験できない生活なのだから。
そういえば今日は朝会があった。
体育館で校長の長い話と、部活等の長い表彰がある。
立ち上がる、眠い。
悪魔でも睡眠はとらなければならないのだと思った。
まず向かう先は洗面所。
顔をばしゃばしゃと洗い、寝癖を直す。
そのあと朝食、当然、何か食べ物が用意されてなんていない。
適当に食パンを一枚取り出し、焼く。
儀母と儀父はもう仕事に出かけているようだ、いつものことだが。
時計を見るととっくに8時20分を過ぎていたので少し急ぐ。
本当はニュースでも見たかったのだがこの状況、そういうわけにもいかない。
制服を疾風のごとき速さで着、必要な物をバックに詰め込む。
「チンッ」というトースターの音が鳴った。
パンを口に銜え、靴を履く。

(・・・・やべ、苦い・・・・・・・・・・・。)

しかしもう一枚焼く時間もないので学校へ。
ここから学校まで歩いて10分、走って5分、飛んで2分。
走るのも飛ぶのもしんどい、歩こう、遅刻は確実だが。
風が強い、季節の変わり目に吹くような風だ。
幸い、今日の風は俺の味方になってくれるようだ。(つまり追い風)
何度か俺の横を1年生が走っていった。
遅刻するぞと急かしてやりたいが俺が言える立場ではない。
道で見かける学生は皆走っている。
朝から元気なものだ。
・・・・・と思ったが走ってない一年を見かけた。
ショートカットで背の低い女子。
なんだか一人でトボトボと歩いている。
こういうシチュエーションは下校時のほうがしっくりくるのだが。
朝から元気なやつもいればドン底のやつもいるんだな。
まったく人間は個性豊かで本当に面白い・・・・・ん?
よく見たらあれは俺のクラスの天道空だ。
小さいから1年と間違える。

 ツバサ「おい、何トボトボ歩いてんだ、遅刻するぞ1年。」

 ソラ「あ、黒陽・・・・うん、そだね・・・遅刻しちゃうね。」

危機感がまったく感じられないのだが。
急ごうとする様子もない。
よく見たら・・・いや、よく見なくてもひどいクマが目の下にできている。
そしていつもなら「誰が1年だー!」とか反発するはずだがそれもない。

 ツバサ「・・・・・・・」

 ソラ「・・・・・・・」

何か気まずい・・・・どうしたんだこいつは。
結局無言のまま下駄箱に到着。
靴を上履きに履き替えながらそれとなく聞いてみた。

 ツバサ「お前なんかあった?」

 ソラ「・・え・・・べ、べつに!なんでもないよ!」

(・・・・・なんなんだ、どうしたんだ。)

こいつは感情を結構表に出すタイプだが本人はそれに気付いてない。
これで隠せているつもりなのだろう。

(・・・・なんか苛々してきた。)

 ツバサ「ちょっと来い。」

 ソラ「えっ、えぇ・・・・!?」

腕を引っ張り、体育館ではなく、階段を駆け上る。

 ソラ「こ、黒陽どこ行くの?朝会・・・・」

 ツバサ「サボリでいい。」

俺は自分でも何を考えているのかよくわからなかった。
ただ・・・・・・

 ソラ「・・・・なんで音楽室?」

そう、4階の音楽室に来ていた。
幸い、吹奏楽部が朝練で使っていたのか、鍵は開いていた。
ピアノの前に椅子を置き、きょとんとしている天道を座らせた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

黒陽は何を考えているんだろう。
いきなり音楽室に連れてきたりして・・・・・・

 ツバサ「好きな曲言え。」

 ソラ「はっ?」

 ツバサ「ピアノ聴かせるって、この前約束しただろ?皆いないし、ちょうど
いい。」

そういえばそんな約束もした。
だけどあれは黒陽があの悪魔かどうかを確かめるために提案したこと。
でもアポロンは今日はまだ家で寝てるし・・・・・・

 ツバサ「早くしないと勝手に弾くぞ?」

 ソラ「・・・・え!?あ、あ~っと・・・・・」

 ツバサ「ベートーヴェン・運命。」

 ソラ(時間切れ!?)

音楽室にいくつもの音律が響き渡る。
普通の“運命”よりもかなり速い。
黒陽の指はとても忙しそうに動いていた。
すごい・・・・・・けど。
今の私の心境にふさわしすぎて素直に感動することができなかった。
一通り弾き終わったところで黒陽が口を開いた。

 ツバサ「さぁて、何を悩んでいるんだ?話してみろ。」

な、なんでわかるのこいつ!?

 ソラ「だ、だからなんでもないって!」

 ツバサ「ふん、そうやって誰にも話さないでためこんでいくわけだ。」

 ソラ「・・・・・・」

 ツバサ「話すだけでも、誰かに相談するだけでもだいぶ違うんじゃないか?」

・・・・・・黒陽の言うとおりかもしれない・・・
ためこんでいたら・・・・・・辛い・・・

 ソラ「・・・なんか正しいこととかがわからなくなっちゃって、自分がこれ
でいいんだって思ってやったことがもしかしたら余計なことだったらどうしよ
うとか考えちゃって・・・・・・」

 ツバサ「・・・あぁ」

私が福原さんたちに関わらなかったらあの服屋だってなくならなかったかも
しれない。
そして昨日会った天使から聞いたこと。

ソラ「それに・・・私は大人のことが全然わからない。どうしてお金のため
に一つの家族が壊されそうになっちゃうの?どうしてそんなことをして平気なの?それが大人の人間なの?・・・そんなことを一人で考えていて昨日はほとんど眠れなくて、気がついてみたら朝だった。お母さんとその話がしたかったけど・・・・・・できなかった。」

あの天使が言った通りのことを言われたらって思うと・・・・・・怖かった。
アポロンにもこのことは言えなかった。
あの子は精霊だからわかるはずがない。
黒陽はずっと俯いたままだ。

 ソラ「なんかごめんねっ・・・ワケわかんない・・・・・・よね」

やば、涙声だ・・・・・・最悪。
なんで黒陽なんかに話しちゃったんだろう。
絶対変なやつって思われてる。

 ツバサ「そうだな、ワケわかんない」

 ソラ「・・・・・・だよね、こんなこと言われても・・・困るよね。」

 ツバサ「違う、お前がなんでそんなことで悩んでんのかわかんないって言ってんの。だって俺たちまだ14歳だ。大人が何考えて生きてるのかなんてわかんない。もしかしたらお前が言ったように自分のことしか考えてないのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でもそんなの実際大人になってみればわかることだ。お前は大人になったら自分がさっき言ったみたいなひどい人間になると思う?」

私は首を横に振った。
人を犠牲にして自分にお金が入っても全然うれしくなんかない。

 ツバサ「だったら大人は皆がそんなんじゃないってことだろ、俺だってそん
な大人には絶対にならない。自分でそのことを将来実証すればいい。だから・・・
もう悩むのやめろよ。」

私は黙って聞いていた。
黒陽はさらに「な?」と付け足した。

 ソラ「・・・・・・うん。」

自分で実証・・・か。
まだちょっと不安・・・だけど

 ソラ「・・・頑張る。」

人間はあの天使が言ってたような醜い生き物じゃないってことを証明してみせる。
そんな気になれた。

 ツバサ「それと最初にお前が言ってたことだけど・・・それが過ぎたことな
らしょうがない。終わったこと後悔するより先に進むこと考えろ。」

 ソラ「そんな・・・気にしなくていいのかな?」

 ツバサ「終わった後何が正しかっただなんて誰にもわからない。お前はいつ
も通りバカみたいに後先考えずに突っ走っていけばいいんだよ。」

 ソラ「ちょ・・・・・・何それ!」

 ツバサ「だいたいお前は思い込みとか激しいからな、もっと楽にしてれば
いいのに。」

 ソラ「黒陽が気楽すぎるんでしょ!」

・・・・・・・・・・・・

 ツバサ「・・・くく、ははははは」

一瞬の沈黙の後、急に黒陽が笑い出した。
私はなんだかつまらない冗談を言った後のように恥ずかしさがこみ上げてきた。
 ソラ「な、何がおかしいの!?」

 ツバサ「いやいや・・・やっといつものお前になったなって」

そういえば・・・・・・さっきまでの嫌な気持ちはいつの間にか消え、涙も止
まっていた。

 ツバサ「そろそろ教室行くか、朝会も終わる頃だし。」

 ソラ「うん、そうだね。」

朝会サボったなんて初めてだ。
ちょっと罪悪感があるけど・・・今日はいいかな。
黒陽と話せてちょっと元気出たし。

 ソラ「ねえ、黒陽」

階段を下りる途中、私は先に下りていく黒陽を呼び止めた。

 ツバサ「何?」

いつも私のことバカにして、からかってくるけど、朝会サボってまで励まして
くれた。
遅刻常習犯の黒陽にはどうってことないことかもしれないけど、私にとっては
そのことがうれしく感じた。
だから。

 ソラ「ありがとう。」

私、あなたのおかげでまたこうして笑うことができる。
今は素直な気持ちで感謝の気持ちを伝えることができる。

 ツバサ「・・・早く行かないと1限目始まるぞ。」

黒陽は少し驚いたような顔をしたけど、そう言うとすぐにまた階段を下り始め
た。

 ソラ「うん。」

もう迷わない。
これからはきっと自分が信じる道を歩いていける。

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