バークレーはただいま試験勉強ムード真っ盛り。天気が最高に良い中、悲しいことにみんな青白い顔をしながら図書館にこもって勉強しています。おれも金曜日に2つのファイナル(各3時間)と1つのファイナルペーパーがあるので、今はこれまで授業で扱った文献を読み直したり、ペーパーのアウトラインを練ったりしています。ただ、留学も最後になってきてようやく自分の学んでいる「開発学」の全容が垣間見えてきたり、自分の頭の中でこれまでいろいろと学んできた内容がlinkしてきている気がするので、それを楽しみながら試験の準備をしています。
今回は、バークレーの開発学メジャーのコア・コース、DS100“Development in Theory and History”でインスパイアされたことについて自分の解釈を*勝手に*加えて書いてみます。この授業は「開発学」といっても、伝統的な政治経済学の理論(Smith, Marx, Polanyi, Gramsci, Gunder Frank)に留まらず、「場所」「空間」「パワー」といったポストモダンの概念も使って開発学の歴史を紐解いていっていて、とてもchallengingだけど、おもしろいクラス(注:以下、長いです。):
Doreen Masseyというイギリスの学者は「場所(Space)」という概念について、現代のグローバル化が進んだ時代において、従来のように場所を“単一的かつ本質的なアイデンティティー”を持ったものとして捉える考え方には無理があると主張している。“Time-space compression”(時間と場所の圧縮化)という言葉が表すように、金融市場のグローバル化、情報伝達の速度の進化や、移動・輸送手段の発達によって人・モノ・サービスがこれまでにない速さで自由に地球上を行き来している現代(*もちろん、こうした世界の裏には全くこのようなサービスへのアクセスがない人たちがいるんだけれど)を理解するには、個々の“体験”に様々な影響を与えるジェンダーや人種といった要素を考慮にいれて、個別に考えていく必要性がある。
Massey自身の言葉を引用すると:“It is from that perspective that it is possible to envisage an alternative interpretation of place. In this interpretation, what gives a place its specificity is not some long internalized history but the fact that it is constructed out of a particular constellation of social relations, meeting and weaving together at a particular locus”(1994:p.154).
つまり彼女の主張を解釈すると、「場所」を「何か境界線によって定められていて、決まった形のある静的なもの」として捉えるのではなく、「社会に存在する様々な人々、勢力、ネットワークの関係性によって*造り上げられる*動的なもの」として捉えることが出来る。“[Places] are not motionless things, frozen in time. They are processes”と表現されているように、「場所」の持つ様々な事象と、それらの相互関係を彼女はより流動的に捉えようとしている。
僕がなぜ彼女のこうしたより自由な「場所」の考え方に興味を惹かれたのかというと、彼女のいう「場所」の概念をそのまま「アイデンティティー」の問題に応用できると感じたから。その人の「出身地」や「国籍」によってアイデンティティーを縛ってしまうのではなくて、ひとりひとりの経験やその人の人格形成に影響を与えた様々な要素を個別に考えていくことによって、個々にとってより自由なアイデンティティーを持つことが出来るのではないかと考えたから。
幼いころから引越しを繰り返しながら育ってきた僕にとって、自分自身の「根っ子の部分」が日本にも、今まで暮してきたヨーロッパのどの国にも(そして今いるアメリカにも)見出すことがなかなか出来なくて、「自分って結局何者なんだろう」と思ってきたけれど、Masseyの考え方に触れて、そもそも人を「○○人」というカテゴリーに分けるやり方で理解しなくても良いのかと思えて、すっと落ち着いた感じ。
果たしてこうした解釈が正しいのか分からないけれど、そもそも“正しい解釈”ってなんだ?という気がするので載せてしまいます。これも試験勉強の一環です!
* Massey, D. (1994). "A Global Sense of Place," in Space, Place and Gender. Minnesota:University of Minnesota Press.