
小学校の頃、外で遊んでて時間を忘れ、家に帰るのが遅くなってしまった時。
帰宅したら当然親は「こんな遅くまで、どこで何をやってたんだ?」と言って私を叱った。
ある時・・・私は親に叱られるのが嫌で・・・帰宅が遅くなった口実を作るために咄嗟に嘘をついてしまったことがあった。
で、どんな嘘をついたかというと・・。
「誘拐犯にさらわれそうになった」
と、出まかせを言ったのだった。
当人としては出まかせであっても、親にとっては一大事だったようで、叱る代わりに、誘拐されそうになった状況や犯人について真顔で聞いてきた。
誘拐事件というものは、今もそうだが、当時も一大事であったし、親が驚いて心配したのもむべなるかな。その時の時点で相当昔の事件であった吉展ちゃん誘拐事件などは、その時も語り継がれていたし。
その時なんと答えたかはよく覚えていないが、誘拐されそうになった現場に案内しなさい・・と親に言われたのは覚えている。
というのは、親を「架空の誘拐未遂現場」に私は連れていかねばならなくなったからだった。
その場所は大体覚えている。
家から5分くらいのところだ。
で・・うろ覚えだが、誘拐されそうになった時、見知らぬ人がその場に現れて自分を犯人から助けてくれた、そしてその恩人は名前も言わずどこかに立ち去った・・・そんな風に、苦し紛れに嘘をかさねてしまった・・・と思う。
何の気なしに出まかせでついた嘘を、次々と「嘘の上塗り」をしなくてはならなくなったのだ。
まず現場を見て、そのあとに、私を助けてくれた(ことになっている)恩人を探そうということになった。
ここまでいくと、次々と嘘の上塗りをしなければならなくなった展開に、我ながら疲れもし、また真剣に心配してくれてる親に対して申し訳なくなった。
本当は、帰宅した時に一瞬親に叱られるのを避けようと思ったばっかりに、こんなことになってしまったわけだ。
こんなんだったら、素直に叱られたほうがマシだったと思った。
おおごとになってしまって時間はかかるし、色々歩き回ることにもなったし・・で。
心配する親は、近くに住む幼馴染の家をまわろうともした。近くの住人たちに、犯人の心当たりについて聞こうと思ったのだろう。
私は・・このまま状況が展開して、警察でも呼ぶ騒ぎになったらどうしようか・・と気がかりやら不安やら・・になった覚えがある。
警察に、状況質問でも受けたら、あっという間に嘘はばれてしまうだろうし、第一警官がこの場に来ると、目立つことこの上なし。
まるで自分が重大犯罪人になってしまいそうな気がした。
私はそれだけは阻止しなければいけないと思い、必死で「もういい、こうして無事だったんだから」と何度もいい、なんとかその騒ぎは収まった。
だが、今思うと・・・私のその「捜査打ち切り」のための必死な様を見て、親は、私が嘘をついていることを見抜いたんじゃないかなあ。そんな気がしてならない。
そんな嘘をついてしまったばっかりに、こんなおおごとになってしまったということで、私にお灸をすえようとしたのかもしれない。
でも、一方で・・・本当に誘拐未遂がおきたんだとしたら、本当は親はその事件(?)を近所の人や警察に告げて再発防止につとめたかったのに、あまりに私が「もういいよ、こうして無事だったんだから」と何度も言うもんだから、しぶしぶその場を収めたのかもしれない。
そのことに関して、親にその時の親の心境を聞いてみたい気はしたが、そうなるとその一件を蒸し返すことになる。それも私的には気が進まない(笑)。
なので、その真相は、今もって分からない。
もっとも、親はそんなこと、もう忘れているかもしれないが。
ただひとつ言えることは・・・
一時的に叱られるのを避けたいばかりに、余計な嘘をつくと、かえって自分自身が困ることになるということ。
この時は、・・・・帰宅が遅くなったことを、素直に叱られておいたほうが得策だったということ。
怒られるだけなら、その場限りで済んだだろうし。
余計な嘘をついたばかりに・・・・。
とりあえず、警察沙汰にならなくてよかった。
警察沙汰になってしまうことを恐れて、あたりの夕暮れの暗さと共に私の心も重苦しく暗くなった・・あの暗さは今も忘れられない。
一時的に親に怒られるだけなのに、それを避けたくて、咄嗟に嘘をついて、そのせいでかえって窮地に陥ってしまった経験・・・・貴方にはありませんか?
ちなみに、その事件から何年も後。
私が中学生になった時・幼い頃に本当に誘拐未遂事件を味わった奴と友人になろうとは・・・、この「嘘の誘拐未遂」事件を体験した時の私は、夢にも思わなかった。