蒼天在眼 (そうてんまなこにあり)ーベランダで星を見る

昔、昔、天文少年でした。そして、今は、ベランダから、星を見ています。
いろいろの忘備録

星の像はどこまで小さくなるのか の巻

2021-12-11 06:06:31 | 天体観測

ZWO社のEAFのオートフォーカスを使うようになって、星像の大きさに俄然興味が出てきました。FSQ85 ed のウリは、針で刺したような星像です。では、その針の太さはどのぐらいなんでしょうか。

星像というと、真っ先に思い浮かぶのはエアリーディスクです。サー・ジョージ・ビドル・エアリー(1801-1892)は、グリニッジ天体台長として位置天文学と光学分野に業績を残しました。位置天文学上の功績は、経度0°の本初子午線を決定し、星々の位置を測定したことでしょう。

OGPイメージ

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光学上の業績は、円形開口部持った無収差の対物レンズを通った光は、光の波の性質のため、回折が起こり、同心円状のパターン(エアリーパターン)を描くことを数学的に導きました。(On deflection of an Object glass with circular aperture; 1834年)エアリーパタンはこんな感じ。

Wikipedia public domain

 

中心の明るい円盤に、ほとんどの光のエネルギーは集中するので、この明るいディスクをエアリーディスクとよび、星像はこの円盤にほぼ一致します。

この円盤の半径はd=1.22・λ・f/D

で計算できることエアリーは、を示しました。

FSQ85edが、仮に無収差の光学系だつた場合は、光の波長λを可視光の中央の波長0.55μmとして、焦点距離(f=450mm)、口径(D=85mm)で 計算すると、d=3.6μmとなります。

収差含む実際の光学系の場合は、スポットダイアグラムから像の大きさを求めることになります。高橋製作所が公表しているFSQ85 edのスポットダイアグラムは、こんな感じ。

高橋製作所カタログ

 

高橋製作所は、視野の中心で、直径12μmに95%の光束が集中する設計であることを公称しています。

FSQ85の星像の大きさは、エアリーディスクの約3倍の大きさになります。

一般的に星像は点像分布関数 (Point Spread Function) で表され、ガウス分布(正規分布)を回転させた形として近似することが多いようです。正規分布では、FWHMと標準偏差は、次のような関係があります。

ここで、ストレールレーシオの95%のが入るディスク直径dは、ガウス分布の ±2・σ にあたり、 4・σの幅となります。

FWHMの幅の関係は、FWMH=2.35・σなので、FWMH=2.35・d/4=0.59・d

となり、12μmのスポットに対し、半値全幅、FWMHは7.05μmと見込まれます。

Balconのベランダで、オートフォーカスを使うと、最小の星像の大きさは、1.8から、3.0ぐらいのあいだで変動します。

この数字が、Balconの想像する半値幅全幅(はんちぜんはば、FWHM:full width half maximum)をピクセル単位で表示した値だとすると、FSQ85 ed の450mmの焦点での星像のFWHMの大きさは、センサーのピクセルサイズ(4.63μm)を掛けて8.3μmから13.9μmぐらいとなります。

光学的性能の7.05μmと実際の星像との差は、主に、追尾エラーとシーイング(大気の擾乱による星像の乱れ)に起因すると考えられます。

追尾エラーは 約1秒角前後で推移しているので、焦点面での長さに換算すると、2.18μmで、半値全幅に換算すると、1.28μmとなります。これを先ほどの7.05μmに加えて、半値全幅 8.33μm(1.8ピクセル;ASI294mcを使用時)が想定されるスポットの大きさで、これ以上、どのようにシーイングがよくても、星像を小さくすることは出来ません。Balconのベランダで、11月から現在までで、一番小さい星像は、FWHMで、1.77ピクセル(8.3μm)でしたから、計算とはよく一致すると思われます。

通常、バルコンのベランダでの星像は、FWHMで2.6ピクセル程度が多いです。これは、焦点面で12.0μmに相当します。これと8.3μmの差が、シーイングによるものだとすると、3.7μmがシーイングに由来する変動となります。これを視角に換算すると、1.70秒角になります。

FWHMで、1.70秒角が、本当にシーイング由来なのかは、今後の検討を必要としますが、参考になる観測値があります。

Balconのベランダから、西へ8kmほど離れた国立天文台の三鷹キャンパス内で、DIMMという2つの開口部の直下にビームスプリッタを備えた反射望遠鏡を使用して、シーイングを測定した報告が日本天文学会の抄録(2008年)にあります。

これによると、三鷹で2007年 11月からDIMMでシーイングのFWMHを測定したところ、シーイングの典型的値は、1-2秒角であったとのことで、Balconのベランダにおけるシーイングの推定値もこの範囲内なので、まったく見当はずれではないと思います。

まとめると、2021年11月に、FSQ85ed(f=450mm 口径 85mm)の屈折望遠鏡を、Losmandy GM8赤道儀に搭載して、都内のベランダで、オートガイドした場合、最小の星像の直径は、焦点面で、8.3μmでした。通常の使用時には、3.7μm(1.8秒角)程度のシーイングに由来すると考えられる像の悪化を伴うという結論になります。

今回の結果を模式図にすると、こんな感じになります。

ガイドエラーよりも、シーイングの影響が大きいことがわかります。(シーイングは、一刻一刻変化しますが、Balconのベランダでの典型的値を使用しました。)

あらら、小さくなる話が、いつのまにか肥大する話になってしまいました。天体観測に、シーイングが重要であることを再確認しました。また、今回、Balconの所有するFSQ85 edがカタログ値を満たすことが、間接的に示されたので、安心しました。

今回の記事をまとめるにあたりシーイングについて、色々調べました。20世紀天文少年には、意外だったり、驚いたりする報告が、いくつか見つかりました。これらについては、別の機会に記事にしたいと思います。

2021年12月12日に一部加筆しました。


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