真っ白なふわっふわの雲の上で、寝転がる少年がひとり。
両手を頬にあて、肘をついて、曲げた膝で足をばたつかせている。
『あーあ、これで最後かぁ・・・』
『何が!?』
肩に乗った小さな妖精が、不思議な顔をしてミナムを見ている。
『アレだよ!』
下を指差して、遥か下界に見えるテギョンの屋敷をみていた。
『ミニョが、お仕事に行ったところでしょ!』
『そうだよ!天使長様が教えてくれたんだ・・ . . . 本文を読む
『お帰りなさいませ!』
主を迎える為に玄関に揃った使用人たちは、腰を折って車から降りてくる
人々を出迎えていた。
カン執事が、先頭に立って、ギョンセに向かって腰を折る。
『お帰りなさいませ!旦那様!』
『ああ、シヌ!久しいな!』
カン執事の事をそう呼んでくれる両親はもう既にこの世には無くて、
長年、この屋敷に遣えている年若いカンにとっては兄に等しい存在だ。
『久しぶりね!カン執事! . . . 本文を読む
テギョンは、ピアノに向かって指を置くと、背筋を伸ばして深呼吸をした。
その後ろでテーブルに手を乗せ指を組ませたカン執事は、
見守るような表情で背中を見つめている。
ミニョは、ベッドの端に腰掛けてふたりを交互に見つめて微笑んでいた。
テギョンの指先が、音を紡ぎ始める。
今までと違って途中で止まることのないそれは、
風を渡るように部屋の中を流れていく。
暖かい音階と優しい音色。
母親の . . . 本文を読む
『失礼します』
ワゴンを押して、テギョンの部屋に入ってきたカン執事は、
いつもの様にテーブルにお茶とお菓子を並べ始め、
テギョンが弾くピアノをBGMに楽しそうに笑っていた。
『お前の分もあるんだろうな!』
テギョンが、自分の分だけかとカン執事に聞いた。
『お聞かせ頂けると窺いましたので、
僭越ながら、私の分も用意させていただきました』
そう言って、白いカップをテーブルに置いた。
. . . 本文を読む
廊下を歩き始めたテギョンは、何処へ向かうのか、
高い窓から降り注ぐ光を浴びながら、ツカツカと歩いていた。
ミニョは、その後を音も無く着いて行く。
(何処へ行くんだろう!?)
光の降り注ぐ窓を見たミニョは、小さくバサッと羽を振ると、宙へ浮かび、
テギョンの頭のすぐ上辺りを飛びながら、後を着いて行く。
廊下を曲がり、徐々に陽が当たらない暗い廊下へ入っていくテギョンは、
その廊下を通り抜け . . . 本文を読む
テギョンの後ろから楽譜を覗き込むミニョは、
手に持った紙とそれを見比べて顎に手を添えている。
(まったく一緒・・・です・・・よね・・・)
違うところを捜そうとするけれど、書かれた音符は同じ形をしていて、
同じフレーズを描いている。
『聞こえた歌と同じ物を書いてるだけだけどな』
テギョンが楽譜を見つめながら呟いた。
その言葉にミニョがビクッと震える。
(えっ・・・ああ、独 . . . 本文を読む
真っ直ぐに伸びる光は、空へと昇りパッと霧散するように弾けると、
まるで光のシャワーの様にテギョンの体に降ってきた。
強い光に目を閉じていたテギョンに、その光景は見えなくて、
前に立っていたミニョは、しっかりとそれがテギョンの体に
吸い込まれていくのを見ていた。
ゴクッと喉を鳴らしたミニョが、目を見開いて立っている。
(・・・吸い込まれちゃ・・・た・・・・・・)
手のひらを見ると、先程 . . . 本文を読む
『それは、遥か昔の欠片が持つ記憶です』
ミニョの頭の中に不思議な声が聞こえていた。
『あの子の魂が別れてしまった古い古い記憶。
母親の愛情を感じられないあの子が、
自分さえも拒否するように置き去りにした記憶です』
(それは、どうしてですか!?)
ミニョは、声に問いかけていた。
しかし、返事はない。
『あなたが見つけたあの曲を・・・もう一度あの子に届けて・・・』
最後は消え入るよう . . . 本文を読む
少し遅めの朝食を平らげたテギョンは、
カン執事が、片づけるのを横目で見ながら、
ピアノへと向かう。
譜面台に置かれた楽譜を手にとって、思案するように鉛筆を
持ち上げると、音符を口ずさんでいく。
頭の中に弾けていく音階が、昨夜のミニョの姿に重なっていく。
『あの声・・・』
小さく呟き始めると、ミニョの声を追い求めるように . . . 本文を読む
まだ暗い室内に足を踏み入れたカン執事は、
迷うことなく窓辺に歩み拠るとカーテンを開けた。
広い室内に光が差し込み、テギョンの眠るベッドへも
明るさがもたらされる。
『・・・っぅん・・・』
寝返りを打ったテギョンが、ゆっくりと瞼を開けると
明るい光に目を細めるように、顔に手を当てた。
『おはようございます』
カン執事が、テーブルに食事の用意をしながら、
テギョンへ声を掛けた。
『 . . . 本文を読む
ボーッとしながら、扉から出てきたミニョは、
ニ三歩、進んで立ち止まると、その場に膝から崩れるように
座り込んでしまった。
大天使の口から出た話を反芻しているようで、膝を抱えて
うずくまると敷石を見つめている。
『わたしが・・・原 . . . 本文を読む
扉の向こう側に入っていくと、
そこは、遠くに地平線が見えるような、
小さな扉の中とは思えない様なものが広がっていた。
まるで、宙と海と大地と全てを併せ持った様な場所は、
自分のいる所さえも見失ってしまいそうな空間だった。
『うっわっー!!』
初めて、その場所に足を踏み入れたミニョは、
驚きに上を見上げて、ゆっくりと見回している。
真上の空には、星が煌めくような夜が広がり、
少し遠 . . . 本文を読む
『ふーっ!!危なかったです。』
ミニョは、胸を押さえて、息を吐き出した。
くるっと後ろを向くと、翼を動かしながら、下を確認する。
広大な屋敷の森の上から、カン執事が窓を閉めている様子が見て取れた。
ミニョが、飛び立つのとカン執事が窓辺に近寄るのがほぼ同時だった為、
僅かに目の端に捉えられたかもしれない。
『あれは、シヌ-シですか!?あそこにいらっしゃるんですか!?』
首を肩に突くほど . . . 本文を読む
ミニョは、テギョンを抱きかかえたまま、
芝生の上ヘ置かれた丸テーブルの近くへと降り立った。
テギョンの部屋のテラスを目指し、草の根を踏み鳴らしていく。
窓は、開け放たれていて、吹き抜ける風がカーテンを揺らしていた。
そこから、そっと中に入る。
テギョンをベッドへと寝かせると、布団を掛け、髪を撫でた。
『どんな想いがあるのかわかりませんが、
もう、あそこに来ないことを祈ってますよ』
. . . 本文を読む
『本当か!?』
欠伸をしながらパジャマのボタンを留めていたテギョンの目が輝いた。
『いつも、本当のことしか言ってないつもりですが・・・!?』
ベッドをメイキングしながら、カン執事がクールに答える。
傍までやってきたテギョンは、カン執事を腕を組んで見上げた。
唇が少しだけ尖ってる。
『そうでもないだろ!?俺に色んな物食べさせようとするじゃないか!!』
カン執事の口角がゆっくり上がると、 . . . 本文を読む