小説「離しません!」&スピンオフ「オミとカイ-少女の霊と俺達と-」

YouTuber達のソフトなBL小説です。男の方もどうぞ。更新情報などはブログ1P目又はツイッター(X)にて🌹

17.いけない関係。

2023-12-19 22:42:00 | 小説
 するとオミさんは、似合わない、作り笑顔らしい表情を浮かべ、

「…そうだけど…それが何か…? 」

「YouTubeでオミさんを見て…その、華島さんのことを思い出して会いたくなったんです 」

「会ってどうするの? 」

「あ…」
「…」

「笹本君 、そういうのはやめたほうがいいと思うよ。もうあの人は ステージを降りてるんでしょ? 人前に立つ立場でもないらしいでしょ? 俺でさえミオだった頃のことは忘れたいよ 」

 オミさんはみんなに好かれている落ち着いた声でそう言ってくれた。

「あの人も、君みたいに札幌出身じゃなかった? そっちを探った方がいいんじゃない? 」

「そうですけど、デビューの頃にはもう家族は亡くなったりして実家はなかったそうなんです 」

「…詳しいな…」

でもオミさんは、たしなめるように優しく、
「それでは言葉は悪いけど まるでストーカーみたいに見えるじゃない? 

悪いけど、僕は何も手伝えないよ。俺はツアーでは使い走りみたいなものだったから。華島さんとも親しくはなかったし、何の情報も持ってはいないよ 」

「でも僕は… 」

「でも、何? 」

「俺は…華島さんとは…特別な関係でした…」

 それを聞いたオミさんは、信じられないような意地悪な笑みを浮かべ、

「ああじゃあ俺も白状する。俺はツアー前から華島とはそういう関係だった。東京の自宅に帰るとずっとベタベタしてた 」

 俺は目の前が真っ暗になった。



16.オミとミオ

2023-12-16 22:33:07 | 小説
 オミさんのプライベートを探ってるように思われても嫌だったので、俺は手短に自分のことを話した。

動画制作の専門学校を出て、その関係の会社で働き始めたのに、営業にまわされてブラックのように働いてること。

 それでいつも休みはYouTube ばかり見ていて、偶然出会った礼霊ずにはまったということ。

「ふーん、そうだったんだ…。じゃあ、せっかくの休日なのにごめんね」

「いえ、俺の方こそ…」

 アイスコーヒーを飲んでいるオミさんの笑顔は動画と変わりなく、本当にさわやかで優しかった。

 でもそれは…やっぱりあの夜のススキノのバーにいたベーシスト・ミオと同じようだった…

 そう気がつくと華島さんのことを、いつ切り出そうか悩んだ。

 でも…

「ん? どうかした? 」

「あの…オミさん 、昔、ミオ、だったですよね? 」

 オミさんは驚き、言葉に詰まったようだった。そして、

「え…? どうしたの?」

 俺の方も言葉に困ってしまった。それで何とか…

「…華島さんの…」



15.オミさんを独り占め。

2023-12-15 22:44:00 | 小説
 オミさんはもの凄く嬉しそうな表情になって、

「時間ある? もしよかったら コーヒーでもどう? 奢るよ 」
 
 「初見の視聴者をもあっという間にファンにしてしまう」とも言われるオミさんの落ち着いた声とさわやかな笑顔が、

俺1人に向けられているのが、信じられなかった。

 おそれおおいとも思ったけれど 、オミさんと少しでも長く一緒にいたいと思って、俺はついて行った。

おしゃれなカフェに入り、席に着くと、オミさんはお茶目っぽく、

「女性のリスナーだとこんなことできないけど。それにせっかく北海道から来てくれたんだし 」

と言って笑い、それから、

「えー、改めて、礼霊ずのオミです」
と 自己紹介してくれた。

それで慌てて 俺も、

「笹本大輝といいます。よろしくお願いします 」

と、会社の名刺を差し出した。

 オミさんは、会社のなんていいの?と、一瞬ためらっていたが、結局受け取ってくれた。



14.吸い込まれそうな瞳

2023-12-13 22:17:00 | 小説
 俺は、とにかくびっくりした。

 〈礼霊ず〉のオミさんの実物が目の前を歩いているのだから…

 いったいどうすれば…

 勇気を振り絞って、俺は一歩踏み出した。

「あ、あのっ、〈礼霊ず〉のオミさんですよね? 」

「あ、は、はい。あれ、もしかしてリスナーさん? 」

「はい。礼霊ずが一番好きで…」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん」

と、オミさんは笑って俺の肩を叩いてくれた。なんとなく立ち話になっている。

「今日はどこから来たの? 」

「北海道です。札幌で…」

 動画と同じように、オミさんの目は大きく見開かれた。

 もともと大きくてぱっちりした目なのでこちらまで吸い込まれてしまいそうになる。

「出張のついでとか? 」

「いえ、オミさんに会うために 」


 

13.都心でオーラ。

2023-12-12 21:57:00 | 小説
 結局俺は、東京に行く事にした。

 一応連休明けに戻って来るようにしてはいたけれど、何だか札幌での日常から出ること、自由になれることが嬉しかった。

 
この解放感は二度と手放したくない気がした。



 新千歳空港で、羽田行きの出発を待つ間、俺はまたつらいことを思い出した。

 高校生の頃、華島さんが輝いていた頃、東京、いや大阪とか福岡とかも、全国ツアーを追いかけていきたかったことを。


…初めて来た空港で、痛切に感じたのだ。
 
 でも、見ていると一番気が紛れるので、礼霊ずの動画を見ていた。



 いよいよ東京に着いても、何が何だかわからず、迷うばかりだった。


 東京の一等地に、礼霊ずのオフィスはあるらしいのだが、その住所にどうにかたどり着いても、全然わからなかった。


 困ってそのオフィスビルから目を転じると、前から元気そうに歩いてくる、ミュージシャン風の革ジャンの男性の姿に気付いた。


 大きなキラキラした瞳…そして、人気者のオーラ…

 間違いなくオミさんだ…。