そうかん日誌 ~Du 11eme arrondissement de Paris

タイトルを「りょうかん日誌」から「そうかん日誌」に変更しました。

添菜のこと

2013-01-27 | Weblog

2011年12月8日(この記事は一昨年のものです)

 

坊さんの世界では、修行僧の日常の食事のほかに、なにか外部から差し入れをすること、また差し入れする物のことを添菜(てんさい)といいます。物の代わりにお金を差し入れすることもあり、これを正式には添菜料といいますが、一般にはお金も含めて、差し入れのことを添菜と呼び習わしています。

 

おととい(12月6日)、私宛にB4大の厚紙の封筒(レターパックとかいうもの)が送られて来ました。差出人はある1年生のお師匠さんでした。さて、こんな大きな封筒になにが入っているのだろう、と思いつつハサミでジョキジョキと開封してみると、中身は可漏(かろ)という坊さんの世界で通用している特殊な封筒で、その中には大枚3万円も入っていました。同梱のお手紙に「息子達が大変お世話になっております。臘八摂心(12月1日から8日朝までの坐禅期間)にあたり、寮生の皆さんに添菜をさせて頂きたいと思います。使い道は寮監先生にお任せします。どうぞよろしくお願いします」といった意味のことが書いてある。可漏は、もうお一方、やはり1年生のお師匠さんとの連名になっていました。つまり、このお金はお二人からの添菜ということになる。

 

これは願ってもないありがたいこと。お師匠さん方が私達の坐禅のことを気にかけて下さるだけでもありがたいのに、諭吉翁が三人もこの寮にご来駕下さるとはなんたる僥倖か。早速、寮生たちのためになにか遣い道を考えなければならないが、さて、どうしよう。寮生は45人いるので、3万円を45で割ると、666.6・・円になるが、そんな半端な値段のものは滅多になさそうなので、一人あたま600円程度とし、残金は寮の会計に繰り入れさせて頂こう。600円で買えて、しかも45人同じもの。となると、あまり好き嫌いのあるような物は向かない。

 

菓子などが添菜には無難なところだが、いまどきの男子学生にくず餅だの大福だの出してもテンションが上がるとは思えない。連中はとんがりコーンだのじゃがりこだののジャンクフードが大好きだが、お師匠様方から拝領した金子を使わせて頂くのだから、スーパーで安直に買えるようなものでは格式に合わんだろう。菓子なら洋菓子、それも気の利いた老舗のものなら、あとでこれこれのものを添菜にさせて頂きました、と、お師匠様方に報告するにも外聞が良い。そうだ、この辺で手を打とう。そうと決まれば、あとは早い方が良い。摂心のための添菜ということなら、12月8日いっぱいに間に合わなければ格好がつかない。なんとか8日中に「よく頑張ったな」と、寮生たちに品物を手渡ししたい。

 

というわけで、昨日(12月7日)の昼前、自転車で駒沢交叉点にある文明堂に行って来ました。いい洋菓子を買うなら、渋谷か二子玉に出てもよかったが、自転車の前と後ろのカゴで45人分運べる距離の店で買えるものなら買おうと思ったのでした。

 

文明堂の店の中には中年の女性の店員さんが一人きり。客も私だけ。店内を見渡すと、文明堂だから、当然カステラや三笠山などがずらりと並んでいるが、私のお目当てはこういうものでない。なにかこう、ちょっとハイカラで、男子学生でも文句をいわなそうなものはないか・・と思いつつ、尚も店内を探索すると、「600円」という正札が目に入った。ほほう、価格はおあつらえ向きだ、どんな品だ、と思ってよく見ると、「ちーずまる」とある。さらによく見ると、かわいらしいデザインの小さな紙袋にマドレーヌ様の洋菓子が4個入って600円ということがわかった。どうやら文明堂の新製品らしい。

 

ふうむ、これにしてもいいが、こういうことは迂闊に決めるものでない。4個入りを45人分買うと180個にもなる。もしまずい物だったら、寮生から180個分苦情を言われねばならぬ勘定となる。それはかなわないから、シャイなオヤジには似つかわしくなく、珍しく店員さんに試食を願い出た。店員さんは快くこれに応じてくれた。一口やっつけると・・

 

これが案に相違して、ばかにうまい。表面は材質も味もマドレーヌに似るが、中身は淡い塩味のクリームチーズで、しっかりとボリュームもある。これはうまい。菓子として、コーヒー、紅茶にもよく合うだろうが、若い赤ワインなどとも大変相性が良いとみた。つまり、この「ちーずまる」は、甘党からも辛党からも文句が出ず、しかもボリュームがあって若者にも受けが良いに違いない、まさに私の目当ての物だったのだ。これがいい、これに決めた。

 

180個ともなると、とてもこの店に現在、在庫はあるまい。しかし、明日にはなんとかなるだろう、と思い、店員さんに「この『ちーずまる』の4個入りを45袋欲しいんですが、明日、用意してもらえますか?」と尋ねた。店員さんの答えは、「あ~、すみません、これは、毎日仕入れる数には限りがありまして、注文生産すると、数日後になってしまうんですよ。今、20個しかありません。申し訳ありません。」というものだった。これにはがっかり。念のために製造元にも問い合わせてもらったが、ちーずまるを寮生どもに渡せるのは、最大限頑張っても、8日から大幅にずれこんで来週の月曜、12日となるとのこと。それではあんまり遅すぎるが、一度、ちーずまるを口にしてしまった私には、どうしても代わりのものが思い浮かばない。(なにもそこまで文明堂に肩入れすることもありませんが)

 

さて、連中、食べてみてどんな顔するかな。今から少し楽しみです。いらない、といったら、私が全部もらってやる。あっ、自分の分を頼むのを忘れていた!

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