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鈍色宝物~喫茶ワット~

日記や詩。過去に書いた記録。

幻の花 1

2007年01月06日 14時49分59秒 | 小説
少女は幻と言われる花を捜し求めていた。
月光の下に咲くその花の露を飲めば
どんな病気でもたちどころに治るという
幻のその花を。
病身の母が長いこと床についたまま
生気のない青白い顔で死を待っているばかり
少女は母の病気をなんとしても治したかった

決心をした少女は隣人に母を頼み旅に出た
野を越え山を越え谷を越え
微かな噂を頼りにどんな土地へも足を運んだ
そして遂に辺境のとある村で
幻のその花が咲いているのを見たという話を聞いた
傷だらけの足をひきずりながら少女はその村へ向かった
そして その村の入り口に差し掛かったとき
少女は見た
既に灰になった村の姿を 
煙が立ち込める中少女は呆然と歩き回った
一人の村人が焼けた廃墟にうずくまっているのを見て
少女は駆け寄った 村人は言った
「二日前に山火事が起こってね・・・村はみんな焼けてしまったよ
 幻の花?・・それも焼けてしまったよ 少し咲いていたんだけれどね」
そう言って村人は丘の上を指差した
少女は夢中で走り出し その丘へ駆け上がった
丘は荒涼として風が吹き渡るだけ 花の影も形もない
少女はわッと 地面に突っ伏して泣いた

せっかくここまで来れたというのに 
やっと幻の花を見つけたというのに
こんなことならずっと母の元についていればよかった

ひとしきり泣いたあと少女は立ち上がると
一目散、家路についた ただ、母のことだけが心配だった

ユキノ ~プロローグ~

2006年04月27日 01時12分36秒 | 小説
俺が遠野健二の家に遊びに行ったのは、三月の末頃だったと思う。
自慢の彼女が作る手料理を是非食べに来い、と誘われたのだ。
四月から大学の二回生になる俺たちはその頃春休みで、
バイトに忙しい毎日を送っていた。
そんな遠野が少し前に、可愛い彼女ができたと言って
俺に自慢げに話してきたことを覚えている。

「実はさ、バイト先で知り合ったんだ。彼女、最近入って来てさ。
 最初、おッ可愛い子が入ってきたな、くらいにしか思ってなかったんだけど
 働く時間帯が一緒だったから、だんだん話すようになってきて・・・
 結構仲良くなっちゃってさ。
 で、、、なんとなく、、、その。付き合うようになったわけ」

遠野は日焼けした顔をほころばせながら、照れくさそうに白い歯を見せて笑った。
山岳部だった奴はしょっちゅう山に行っていたし、
冬の間はよく、スキーに出かけていた。
自然が好きで、アウトドア派なやつなのだが女性には奥手で・・・
積極的に声をかけるようなことは、しない。
そんなわけであまり女性に縁がなかった奴だけに、
彼女が出来たということがよほど嬉しかったに違いない。
なれそめから仲良くなるに至るまで、ノロケをさんざん聴かされた後、
遊びに来ないかということになったのだ。
まぁつまりは自分の彼女を、友人の俺に見せたかったのだろう。

小説 「白い壁」 12

2005年10月20日 13時10分48秒 | 小説

 薄墨を張った視界がひとつまばたきを繰り返すうちに鮮明になる・・・

 ・・・ここはどこ?
 あたしの部屋・・・?
 頭の鈍い痛みとこめかみの圧迫感が、もっと眠っていたい思いを妨げる。
 と・・・。

 見覚えのある顔が、私の視界にふと現れた。
 次第に深い記憶が呼び戻されるように、私はゆっくりと「彼」を認識した。

 「敬彦・・・」

 私はぼんやりとその名を口につぶやいた。

 「亜紀、大丈夫?」

 彼は静かに私に声をかけた。

 「・・・変な感じ・・・ここ、どこ・・・?」
 首をめぐらそうとして、途端にずきん!と、頭に痛みが走り、私は苦痛に顔をしかめた。

 「まだ頭を急に動かしちゃだめだ」
 静かに、諭すように敬彦は言う。
 しかし・痛みとともに私の意識は一気に覚醒した。
 ・・・見覚えのない簡素な部屋、真っ白いベッドに、服を着たまま寝かされている自分。
 悪い夢から目覚めたこの場所は、何か安心できない、違和感がある・・・なぜ?
 私の記憶は、大事なものをどこかにしまわれてしまったみたいに、混沌としている。

 そんな私の表情をじっと見ていた彼は、ぽつりと言った。

 「ここは病院だよ。199×年の、ね」

 「きみは、異次元からタイムワープしてここへ来た。
 そして偶然・・・
 事故に遭いそうになった子供を助けて頭を打ち、
 ここに運び込まれたんだ」

 フラッシュバックするみたいに、敬彦の言葉が私の記憶を呼び覚ましてゆく。

 ・・・そうだ。そうだ・ソ・ウ・ダ・・・
 私は。美奈と一緒にここに来て。彼女と別れて、そして。

 すべての記憶が合わさった時、・・・私は頭の痛みを忘れ、敬彦をまじまじと見つめた。
 ・・・そして、囁くように言った。

 「敬彦・・・どうして・・・どうしてあなたがここにいるの?」



*突然ですが、作者急逝により絶筆です(核爆)

小説 「白い壁」 11

2005年09月27日 21時33分40秒 | 小説
ここまで無事に戻ってこれたことに安心して初めて、美奈は十年後の「私」のことに心配が思い至ったようだ。

 「・・・あ・私は、」
 私は一瞬、言葉を詰まらせた。でも、すぐに
 「私はだいじょぶよ」
 美奈に笑ってみせた。
 「ちゃんと、考えてあるの」

 「・・・よかった。亜紀、本当にありがとう!!」
 美奈は最後に私の手をぎゅっと握ると、ぱっときびすを返して走り去っていった。
 駆けてゆく美奈の後姿を見送りながら、私の心はつぶやいた。
 ・・・ウソだ。
 もとの時代に確実に帰れる方法なんて、ない・・・。
 私は片道切符しか持たずに、この時代に来たの・・・。
 ただ・自分のやったことに終止符を打つために・・・!


 初詣に参じようと歩く人々で、街は新年が明けた賑わいを見せていた。
 私も、まばらに歩く人々を眺めながら、のんびり歩を進めていた。。
 すべてが十年前の景色。なんて懐かしいのだろう。
 今ごろ十年前の私は、暗い自分の部屋に一人でうずくまっているのだ。
 まさか・美奈がとっくに家に帰っているとは知らずに。
 ・・・そして・十年後の私が、のんびりこの道を歩いているなんて、露ほども思わずに。・・・

 前を行く家族連れの子供が、小さな犬を連れていた。
 犬は、夢中で道端の紙くずや軒下のくぼみを嗅ぎ回りながら、勝手気ままに進んでゆく。
 子供がそれを追いかける――
 突然、すぐ近くの交差点から、車がこちらへ曲がってくるのが見えた。
 暗い通りにいきなりヘッドライトが光る。
 子犬を追いかけるのに夢中だった子供は、いきなり通りの真中で立ちすくんだ。
 「あぶなっ・・・!!」
 車のブレーキの音が、狭い通り一杯に響く

 瞬間、私は子供を抱いて・道のそちら側に転がっていた。
 「きゃああ!!」
 「事故だッ」
 「救急車、早く・・・!!」

 転がった反動で頭をどこかに激しく打ち付けたのか、私の意識は朦朧としていた。
 ずきん・ずきんと、側頭部が激しく痛む・・・立ち上がれない。
 「子供は無事だぞ!!」
 「あの人が助けて・・・」
 人々の声が、近く・遠く響いていた。
 耳鳴りみたいに・潮騒みたいに・・・私は耐えられなくなって目を閉じた
 体の下に冷たいコンクリートを感じながら、私の意識は途絶えた。

~つづく~

小説 「白い壁」 10

2005年09月22日 01時20分53秒 | 小説
私と美奈は、もやのかかった白い異次元空間から、一瞬にして吐き出された。
 足元に地面を感じた時、私も美奈もぐらりとよろめいて互いを支え合った。
 あたりを見回す。月のない暗い空。数メートル先にある外灯。
 後ろを振り返ると、白い壁・・・。
 「・・・!!」
 美奈が突然、私との手をほどいて何歩か駆け出した。
 「戻ってきた!!」
 顔をほころばせ、興奮そのままの声で叫ぶ。

 しかし、私にはまだ簡単には信じられなかった。
 ゆっくりと慎重にあたりを見回しながら歩き出し、言った。
 「本当に”あの日”に戻ってきたのかしら・・・?」
 「見て!!この看板!!・・・同じだよ!!」
 「ほんと?!」
 何かしら証拠たるものを見ずには、確信が持てない。
 私は美奈の言葉に、急いでビルの説明が書いてある看板の前へ回り込んだ。
 「199○年オープン!」
 と書かれたあの時の看板が、そこに・・・そう、あのときのままでそこにある!!
 美奈は、広い通りに駆け出した。私も急いで後を追う。
 見覚えのある懐かしい文房具屋、シャッターの下りたその表の張り紙に、
「謹賀新年」の文字と一緒に描かれた、新年の干支。
 それを見た瞬間、私達の戻ってきた時代が、十年前のあの時に間違いないことを私は確信した!!

 「すみません、今何時ですか?」
 私は、道行くひとを一人捕まえて訊ねた。
 「午前一時半ちょっと過ぎですね」
 子連れの夫人は、にこやかに腕時計を見て私に答える。
 「ね、本当に戻ってこれたんだよ!!」
 その辺りを走り回って様子を見ていた美奈が、息をきって戻ってきて言った。
 私は顔をほころばせ、うなづいた。

 「・・・ごめん、私、家に帰らなきゃ」
 美奈がもじもじしながら、落ちつかなげに言った。
 「亜紀は・・・もう帰っちゃったのかな」
 美奈は、十年前の私のことが気になっているのだ。私は言った。
 「そうね。もう帰ってるわ」
 「明日、朝一番に訪ねてみる、私」
 私の口元がぴくりと痙攣した・・・美奈はそれには気づかず、ふと目を上げて私の顔を見つめる。
 「・・・亜紀は、・・・これから、どうするの?」

~つづく~