それは気まぐれ天使
風とともにやって来て
あなたに優しく語りかける
ささやくように
歌うように
微笑むように
それは森の泉のように
静かに湧き上がり
生まれてくる
美しい言葉の宝石が
あなたに見えるように
それは気まぐれ天使
風とともに消えていく
でも残っていたんだ
一つ一つの美しい言葉が
あなたの心の宝石箱に
美しい思いになって
それは気まぐれ天使
風とともにやって来て
あなたに優しく語りかける
ささやくように
歌うように
微笑むように
それは森の泉のように
静かに湧き上がり
生まれてくる
美しい言葉の宝石が
あなたに見えるように
それは気まぐれ天使
風とともに消えていく
でも残っていたんだ
一つ一つの美しい言葉が
あなたの心の宝石箱に
美しい思いになって
糸でんわが見つかった
でも途中で糸が切れている
片方の筒もない
子どものころよく遊んだのに
そっと呼びかけると
何か聴こえる
あなたは誰
もう一度話しかける
たしかに聴こえる子どもの声
それは子どもの時のあなた
糸はつながっていたんだ
時をつなぐ思い出の糸になって
さあ話してごらん
きっと応えてくれるよ
あなたの純粋で美しい心が
あなたの心の糸でんわが
江戸時代、一人の茶道家がいました。そのお茶が美味しいと、武家やお寺の評判も高く、その茶会はいつでも人気です。いつかは、その茶を口にしてみたいという、江戸っ子の憧れでもあります。その茶道家は、研究熱心で、常に自分のお茶を高めていこうと精進しているのです。ある時、おもしろいお茶を出す、茶人の噂が耳に入ってきました。早速、茶道家は、修行僧の姿で訪ねてみることにしました。自分が茶道家であることは隠して、その茶人を試してみたくなったのです。
その茶人の家は、ひっそりとした山里にありました。修行僧姿の茶道家は、裏庭に回り、「旅の僧だが、喉が渇いたので、茶を頂きたい」と所望しました。すると、中から、老人が出てきて、今、主人はいないとのこと。きっと、その茶人の弟子なのでしょう。茶人がいないのなら、また出直そうかとも思いましたが、その弟子の技量でも、試してやろうと考え、再度、茶を所望したのです。それなら、ここでお待ちをと、縁側に案内されました。腰掛けていると、どこからともなく、涼やかな風が心地よい。小鳥のさえずり、虫の音も聴こえてきます。ここにいるだけで、心が和んできます。ややしばらくした頃、先ほどの老人が一椀を運んで来て、勧めました。茶道家は、これを口にふくんでみて、驚きました。それは、茶ではなく、水だったのです。でも、なんて軟らかくて、美味しい水でしょう。茶道家は、できれば、茶室も見たいと、老人に頼みました。すると、老人は困った様子もみせず、茶室に案内したのです。その茶室は、2畳位で土壁の質素な造りです。床には、古い感じの書軸、床の柱には、花入れに、露に濡れた一輪の白い花。まるで、そこに亭主がいるかのようです。茶室へ向かう、飛び石の庭の打ち水、茶室の中の素晴らしい書や美しい花。それに、茶釜の湯も用意してあります。茶道家は、はっとしました。これは全て、あの老人が用意したに違いない。あの老人が、噂の茶人だったんだ。
「私は、今まで、立派なお茶、人々から賞賛されるような、美味しいお茶を目指して精進してきた。だから、道具も一流のものを揃え、茶室も大勢の人が楽しめるよう、大きくて立派なものを造った。でも、あの方は、道具も、茶室さえも、こだわっていない。このわずか2畳の空間に全てがある。この大きさで十分、しかも、最適だったんだ。客と亭主が過ごす空間としては。私が縁側でしばらく待っていた、その間に、客の好みを想い、野の花を活け、そのときに合う、書を選んで掛けていたんだ。なんという柔軟で、感性豊かな亭主の対応、そのもてなしの心。その心を、客は味わうんだ。試されていたのは、私自身、そして、私の感性だったのかもしれない。ここでは、客と亭主という関係だけでなく、お互いの身分さえも忘れ、一人の人間として、心の触れ合いを楽しむんだ。なんて、巣晴らい。私が、最初に茶を所望したとき、茶ではなく、出してくれた一椀の水。あれは、茶人が早朝の内に、名水の湧き出る泉まで出かけ、心を込めて汲んで来た水。それを茶釜で湯にしてから壺に入れ、家の井戸で冷やしていたんだ。いつ、客が訪ねて来ても対応できるようにと。ああ、あの一椀の水が、最高のもてなしだったんだ。あの茶人は、修行僧姿の私が、茶道家であることをすぐに見極め、あえて、自身も亭主であることを伏せていたんだ。あの方こそ、江戸一番の茶人、そして、「もてなしの達人」だったんだ。」
帰り際、お互いの身分を名乗ることもなく、修行僧と老人のまま別れたように。この家には、弟子も、使用人もいなく、全て、亭主一人で、もてなしていたように。
江戸へ帰る夕暮れの道。そこには、あの爽やかな風が。そう、茶道家の心の中で。いつまでも、いつまでも・・・