占いcafe あさがお

タロット占いしています💗
占いで幸せになるお手伝いができたなら幸いです✨✨

小説・影返し④

2021-03-10 00:56:35 | 日記
翌日から、アカリは元気になった。

ママから、見守ってると思えばいいと言われたことが素直に浸透して、人影が怖くなくなってきたのだ。

あんなに怖がっていた事がウソのように晴れ晴れとしている。

「アカリ、元気になったみたいね

「もう大丈夫みたい、ありがとう、ママ」

暗がりには、やはり影が見える。
だというのに、怖いどころか嬉しく思える。

あんなに暗がりを見ないようにしていたのに、今度は暗がりの影を探している。

それは、日に日に強くなってゆき、ママは戸惑った。

(ここまで変わるなんて、おかしいとしか思えないわ)

アカリはニコニコしているが、どことなく、浮ついていて、現実感がない。接客中も、普段より明るくしているから喜ばれているが、どこを見ているのかわからない表情をするようになっていた。

「アカリ、最近ご機嫌だけど、どうかしたの?

尋ねると、アカリは屈託のない笑顔で

「前に怖がっていた人影ね、わたしの運命の人だったの!」

と笑顔で言う。
これには、人生経験を積んできたママですら度肝を抜かれてしまった。あまりにも突拍子もなく……つじつまが合わない。

「かれね、家で待ってるの。わたしのこと、愛してるって言ってくれるの」

まるで、小さい子供と話しているような気分になる。たどたどしく、しかし一片の疑いもない物言いに、なぜか苛立ちすら感じた。

そして、どこか、薄気味悪い。

『カラン』

お店のドアに下げられたベルが音を立てた。

「いらっしゃいませ」

アカリが弾む声で接客に向かう背中を、不安げに見つめるしかなかった。


その日の仕事が終わり、アカリはいそいそと帰り道を急いだ。

待っているヒトがいる。

それだけがアカリの心を支配している。

アカリの望みは叶った。

愛されたい。ただただ、それだけを願い続けていた。見ないようにしていた、自分の本心。

あの人影は、アカリの本心にある望みを叶えたのだ。

「ただいま!」

リビングの電気をつけると、おかえり、と聞こえてきた。

「今日も疲れちゃったけど、待っててくれると思うと元気になれるの」

ニコニコと話す。

店で賞味期限切れになってもらってきた惣菜をバッグから出し、お皿に盛り付ける間も、ひっきりなしに話している。

この前までは話し相手がなく、ずっと静かだった部屋の中が賑やかになって嬉しい。

それからアカリが眠りにつくまで、楽しげな笑い声が響いていた。

アカリは幸せだった。

(そう、あの人影は、わたしに幸せを運んでくれたのだ。きっと、きっとそうだ……。)


翌日、店に来たアカリを見て、ママはぎょっとしてしまった。

ニコニコと元気そうなのに、目の下のクマが隠しきれていない。
明るい声と裏腹に顔色が悪い。

「アカリ、ほんとに大丈夫なの…!? 顔色も悪いし、なんかフラフラしているじゃないの!」

アカリはへへ、と子供っぽく笑う。

「たくさん寝たし、心配しないで」

「心配するわよ、そんな状態で仕事なんかさせられないじゃない」

ママは眉間に皺を寄せた。

「大丈夫って言ったら大丈夫です!」

思いがけず強く反発され、ママはたじろいだ。言った本人も驚いた表情を一瞬見せて………すぐに引っ込んでしまった。

「大丈夫、かれと幸せなの、わたしは!」

見たこともない表情だった。怒り…、いや、憎しみのような表情。

「ママは、わたしの幸せを邪魔するの!?」

子供のように純粋な感情を見せる。
おかしい、どうしてしまったのだろう。

声を荒げたというのに、アカリはもうヘラヘラとしている。

アカリは、どうしてしまったのだろう。
アカリは、どうなるのだろう。

照明に照らされたアカリの足元に、漆黒のような影が揺らめいていた。

〘続く〙


最新の画像もっと見る

コメントを投稿