7月13日約定分から、一般債および個人向け国債の決済が一日短縮され、3営業日目(T+2)になる。取引相手が経営破たんして契約不履行になるカウンターパーティリスクの低減につながるだろう。個人的には、個人向け国債が売れなくなっているのも気になるが(『個人向け国債、「現金還元」の中止相次ぐ』 2020/6/17日本経済新聞WEB版)。
27日には、東京商品取引所の一部商品が大阪取引所に移管される。今まで商品取引に馴染みのなかった人も、ゴムや小豆など投資対象が少し広がるのではないだろうか?
香港国家安全維持法制定に伴い、日本が香港の金融人材を受け入れる提言を自民党の経済成長戦略本部が提出した(「香港人材受け入れ論点に 自民、東京の金融強化を提言」 2020/6/13 日本経済新聞WEB版)。香港人材は、同じ英国の植民地だったシンガポールに移ると思う。植民地で出世したければ、宗主国の人々に認められるよう宗主国の価値観、嗜みを身につける必要があるだろう。シンガポールは華人系人口が圧倒的な国家でもある。一方、自民党が西欧の天賦人権説を外す「憲法改正」(「片山さつき氏 憲法の天賦人権説由来の規定改める必要指摘」 2013/1/19 NEWSポストセブン)を行おうとするなど、日本は西洋の制度をマネするだけで、その精神からはかけ離れた動きをしている。これでは東京をアジアの金融ハブへなど実現不可能だ。
外交官だった来栖三郎は著書「泡沫の三十五年 日米交渉秘史」(中公文庫 p249)で「われわれは西洋の民主主義とキリスト教の人道主義とが、切っても切れぬ連繋をもっていることをとうてい否定することは出来ないのである」と書いている。「敗北しつつある大日本帝国 - 敗戦7カ月前の英国王立研究所報告 - 」(刀水書房 坂井建朗訳 p224)では、「日本人は素朴で、情緒的には抑圧されている。彼らは何よりも自分たちの過去と悪質な教育制度によって教えこまれた教義の犠牲になっている。キリスト教を理解すれば、日本人はその道徳心を発達されるに相違ない」と述べられており、西洋社会で認められるにはキリスト教の価値観を共有する必要がある。ブッシュ(子)元大統領の回顧録「決断のとき 下」(伏見威蕃訳 日本経済新聞出版社 p257)でも、「日本は自分たちの流儀の民主主義を採用し」と、日本は米国流民主主義と異なることが示唆されている(追記:ファリード・ザカリア著「アメリカ後の世界」(楡井浩一訳、徳間書店、p150)には、2007年のピュー・リサーチセンターの「道徳的になるには神を信じる必要があるか?」の質問に、多くが「いいえ」と答えたのが日本人と中国人と書かれている。神への信仰のなさでは日中は似ている)。
米国は、パトリック・J・ブキャナン著「超大国の自殺 アメリカは2025年まで生き延びるか?」(河内隆弥訳、幻冬舎、p64)で『「わが国は、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ人、ヒンズー教徒、そして無信心の国である」。はじめて、アメリカにおけるキリスト教の優位を否定した大統領となった』と指摘されているオバマ大統領時代と異なり、福音派などに支持されるトランプ大統領の米国は実質的なキリスト教国家へ回帰しているように思われる。信仰の自由は認めても実生活ではプロテスタントの価値観に従わせることで、価値観の混乱、社会の混乱を治めようとしているように見える(追記:1892年最高裁判所は「ここはキリスト教国である」と宣言(同p64))。
1990年代後半にトルコの首相を務めたエルバカンは、ドイツで工学博士号をとるとともにイスラム神秘主義の一派であるナクシュバンディー教団員でもあった。エルバカン率いる福祉党はイスラム主義で、世俗主義を謳う憲法に違反するとして軍が関与して非合法化されたが、その後継政党のひとつはエルドアン大統領を支える公正発展党だ。ドイツで工学博士号をとったエルバカンに代表される、西洋の技術は受け入れても西洋の精神は受け入れないトルコは日本と似ている。ヒンズー教の多いインドはヒンズー至上主義を掲げるインド人民党が政権を握り、他の宗教、特にイスラム教徒を弾圧している(追記:一部の印僑は攻撃的なヒンズー至上主義を支持し、欧米受け入れ国などで分断や対立を生んでいるという「在外インド人、過激化防げ」 2020/6/21 日本経済新聞)。経済的に豊かになれば旧来の価値観に自信を持ち、西洋の技術は取り入れても、その精神は受け入れなくなるのだろう。
経済面で豊かになった中国本土では、「香港人は大陸の人間を下にみている」と香港人に対して嫌悪感が出ているようだ(『「嫌香港」中国で拡大 「大陸をばかに」対立深まる』 2019/9/22 日本経済新聞電子版)。共産党の下での安定を優先に思う人もいる(「共産党旗は中国国旗より高く 習主席が集めた権力映す」 2020/6/5 日本経済新聞電子版)。香港国家安全維持法の問題は、中国共産党と香港市民というより、中国本土の人々と香港の人々の問題と感じる。中国本土と香港は140年間別々の道を進んできたから急に統一はできないが、返還から20年以上たったのも事実である。それにしても、「ブレア回顧録 上」(トニー・ブレア著 石塚正彦訳 日本経済新聞出版社 p224)には、ブレア英国首相(当時)の香港返還は悲しいかとの問いに、イギリス贔屓でカトリック、イギリスで長く暮らした香港チャイニーズである義理の妹が、「いいえ、私は中国人だから。香港が中国の一部になるのは当然よ。」と即座に答えたと書かれている。ところが今では、香港の若者らは「自分たちは中国人でない」との主張を強め(『「嫌香港」中国で拡大 「大陸をばかに」対立深まる』 2019/9/22 日本経済新聞電子版)、抗議行動でユニオンジャックが入った旗が掲げられるなど自分たちが英国人であるかのように振る舞っている。時代は変わったものだ。
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