「キューバ危機 ミラー・イメージングの罠」(ドン・マントン、デイヴィッド・A・ウェルチ著、田所昌幸/林晟一訳 中央公論新社)は、キューバ危機に至るまでの経緯からミサイル撤去の発表、そしてその後始末のことまで書かれた本である。
ケネディ政権はキューバへのミサイル配備を止めるために海上封鎖を検討した。ただし、海上封鎖(blockade)は厳密にいえば戦争行為なので「隔離」(quarantine)という呼び方が提案された。また、当時は見解が分かれたが現在では隔離の合法性には多くの法律専門家が否定的に答えるだろうとされている。なお、当初はフルシチョフの裏切りと怒りをあらわにしていたケネディ大統領も海上封鎖のときには冷静で、ソビエト連邦のフルシチョフ首相を追い詰めすぎないよう時間をかけて行っている。
長年隠されていたが、トルコのジュピター・ミサイルを撤去するという秘密取引があった。トルコは撤去に難色を示していたが、ポラリス潜水艦という代替案でイタリア、イギリスが自国に配備されたミサイル撤去に合意すると、結局はトルコも従った。また、ミサイル撤去の秘密取引についての騒動は、キューバ危機の最中のホワイトハウスの対応について書かれた記事がもとで鎮静化したという。その記事はケネディ大統領の友人の記者たちが、記事掲載前にチェックさせることを条件に大統領の取材協力を得て執筆したものである。
なお、10月22日の大統領演説で、米国はキューバ内にあるグアンタナモ基地を増強する一方、基地内の家族を引き揚げさせたことを発表している。軍事行動が近いとき、米国は自国の非戦闘員を退避させることがわかる。
米国政府では、不法移民への対処、米軍のシリア撤退やアフガン兵力削減を巡り、ケリー大統領首席補佐官やマティス国防長官が退任することとなった。米国人民の貴重な税金を有効に使うという観点からは正当化されるが、残ったのはイラク戦争も推進した強硬派のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)になった。
フォーリン・アフェアーズ日本語版2006年7月号の『北朝鮮の脅威と日米ミサイル防衛』によれば、マイケル・レビ 米外交問題評議会(CFR) 科学技術担当フェローが、「日本政府の閣僚が北朝鮮のミサイルサイトへの先制攻撃の可能性を示唆する発言をし、大きな話題となったが、これは現実には、日本の基地を利用して米軍が北朝鮮のミサイルを先制攻撃することを意味する」と言っている。
また、「対北朝鮮、先制攻撃の無意味」(Newsweek日本版 2017/5/30 フランツシュテファン・ガディ ディプロマット誌記者 イースト・ウエスト研究所 シニアフェロー)でも、北朝鮮が米国本土をICBM攻撃できない時点のみ、北朝鮮への軍事行動は可能とする逆デカップリングを指摘している。同記事によれば、レーガン政権のSDI構想では、ソ連にNATO同盟国を先制攻撃させるケースも想定されていたという。米朝関係は決定的な破局を迎えれば、日本は甚大な被害を受ける可能性が大きい。キューバ危機のおさらいは、朝鮮半島の非核化問題を見るうえで役立つと思う。
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