投資家の目線

投資家の目線968(「七三一部隊の生物兵器とアメリカ バイオテロの系譜」)

 「七三一部隊の生物兵器とアメリカ バイオテロの系譜」(ピーター・ウイリアムズ/デヴィド・ウォーレス著 西里扶甬子 かもがわ出版)には、七三一部隊の石井四郎がペストに関心を持っていたことが書かれている。ペストはアジアなどで風土病として知られており、自然に発生したかのように見せれば発生源を隠すことができるという利点があったという(p28)。確かに、昨今の新型コロナウイルスでも発生源がいまだに特定されていない。

 

 朝鮮戦争時には、中国や朝鮮北部で生物兵器が使われたという疑惑がある。英国人も含めたメンバーで結成された国際科学委員会は、「ペストにかかった膨大な数のハタネズミが、一九五二年四月四日から五日にかけて、甘南地区に飛行機によって運ばれたことは疑う余地がない。村人が音を聞いたその飛行機は、アメリカ軍のF-82型双胴夜間戦闘機であることが確認された」と結論づけ(p216)、「朝鮮と中国の人民は確かに生物兵器の攻撃対象となっている。これはアメリカ軍が使っているのであり、その目的に応じて様々な異なる方法が使われている。そのうちのいくつかは、第2次世界大戦中、日本陸軍によって使用された方法を発展させたものと見られる。」という報告書が発表されている(p225)。なお、石井の前副官の指導のもと、多数のネズミを大規模に飼育する施設が埼玉県にあるという報道も指摘されている(p216)。

 

 七三一部隊の最盛期には、世界中の全人口を何回かにわたって殺すことができるほど量の細菌を製造していたという(p29)。近年では核兵器の危険性を表す表現が、日中戦争時等の七三一部隊の製造した細菌の量にも使われている。後に、核兵器と生物兵器は大量破壊兵器として一つのカテゴリーにくくられることになるが、核兵器の使用と生物兵器の使用はつり合いがとれる。

 

追記:2024/2/20

一九四二年六月、ルーズベルトは化学兵器を使おうとした日本に対し厳しい警告を発した。「もし日本が、中国や他の連合国に対し、この残酷な兵器の使用に固執するのであれば、アメリカ合衆国政府は、これを同国に対する敵対行為とみなし、同様の報復措置が大規模に行われるということを明確にしておきたい」(p80)

米国で日本の生物兵器に関する意図と能力を探る任務を帯びたのは陸軍化学戦部(p80)。ルーズベルト大統領は中国での日本の生物兵器の使用に関して、大規模な報復措置を明言していたと言える。

 

 一九五二年六月一一日には、生物兵器を実際に使用する際の公式な軍事的原則を決めておく必要性が議論され、「報復にのみ」から「軍事的に有利ならばいつでも」使用できるよう変更を求める将軍もいたという。結論としては、この原則を公式に変更することなく生物兵器を使用できるようになったという(p257)。米国は、生物兵器の先制使用ができるようだ。

 

追記:2024/4/13

イスラエルがシリアのイラン大使館周辺を空爆したと報じられた(「イスラエルがイラン大使館空爆か シリア領内、革命防衛隊幹部死亡」 2024/4/2 日本経済新聞電子版)。大使館空爆といえば、1999年5月7日には、NATO所属の米軍B2爆撃機がベオグラードの在セルビア中華人民共和国大使館を空爆した。当時大統領だったビル・クリントン氏は回想録で、CIAの古い地図にセルビア政府庁舎と誤記されていたための「誤爆」と書いているが(「マイライフ クリントンの回想 アメリカンパワー 下巻」 ビル・クリントン著、楡井浩一訳、朝日新聞社p602)、『「誤爆」は、陰でセルビアを支援していると疑われていた中国への嫌がらせと直感する人は少なくなかったのが実情だ』(『露軍が作戦を転換、「ロシアを締め上げて中国を脅す」バイデン作戦が奏功か 経済制裁で干上がるロシアを目の当たりにしプーチン全面支援に回れぬ中国(3/5)』  JBpress 2022/3/27 木村正人)と、「誤爆」という発表に疑問が呈されていた。

 

 第2次世界大戦後の細菌戦の基礎研究のほとんどは英国で行われ、その後で米国に引き渡されたという(p254)。二〇〇一年、9.11の一週間後に発生した炭疽菌レター事件は、そのすべてが米国の生物戦関連の研究・開発に使用されている「エームズ株」だったことから、米軍の生物兵器防衛計画内部の人間が関与しているとFBIも認めざるを得なかった(p312)。なお二〇〇五年には、米国防総省はウクライナと生物兵器開発の協定を結んでおり、米国は生物兵器の研究を続けていると判断できる。また今年、日本には米疾病対策センター(CDC)の地域事務所が開設され(『米CDC所長「感染症対策で日米連携」、都内に事務所開設』 2024/2/5 日本経済新聞電子版)、フランスのパスツール研究所も拠点を持つことになった(『仏パスツール研所長「日本に拠点」、24年春に設立へ』 2023/11/30 日本経済新聞電子版)。

 

 米国防総省がアフリカの人々を生物学的実験の対象にしていると報じられている(『ロシア、アフリカで情報工作「米が人体実験」』 2024/2/9 ダウ・ジョーンズ配信)。同記事ではこれをロシアの情報機関の偽情報としているが、アフリカ連合諸国は以前からビル・ゲイツがアフリカで人体実験をしていると非難していたので、ロシアはそれを報じただけではないかと思う。途上国への新型コロナウイルスのワクチン供与という日本の功績が認められ、岸田首相がビル&メリンダ・ゲイツ財団から表彰された(「ゲイツ財団が岸田文雄首相を表彰 G7サミットの指導力評価」 2023/9/20 日本経済新聞電子版)。アフリカ諸国が非難する人物が関係する財団から表彰された日本は、グローバルサウスを味方につけることができるのだろうか?

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