彼は走る
次の塁に向かって
そしてホームに向かって
日の丸のユニフォームが躍っていた
日本中の人々が今、
自分の走りを見ている
でもそんなことは全く考えていなかった
無心の走り・・
彼は走る！
次の塁をめざして！
そしてホームをめざして！
何が彼をこれほどの激走へと
駆り立てるのか！
プライドだった
自分が今日本代表のユニフォームを着ている
そのプライドだった
そして野球選手としての本能が
彼を次の塁へ、そして
ホームへの激走へと駆り立てているのだ！
鳩が自分の鳩舎に帰るように
ミツバチがこれもまた自分の巣に帰るように
本能としての行為、活動！
野球選手の本能、
それが次の塁への、そしてホームへの激走！
勝ってやる！
返球よりも早く次の塁に到達すること、
それに勝ってやる！
このワンプレーが
勝敗を決めることにつながるかもしれない
レーザービーム恐るるに足らず！
「俺の走る速度、勢いを見ろ！」
それはものすごい速度だった
彼は走り続ける
そして走者は次の塁に到達し、
すべり込む！
ランナー、サードへの到達！
対戦国の三塁手が返球をキャッチし、
すばやく彼の足にタッチした
三塁塁審の両手が大きく広がった
「セーフ！」
日本ベンチから大歓声が上がった！
激走の報われ
それがセーフだった
彼はやったのだ！
彼はこのワンプレーに勝ったのだ
アウトにならず次のベースを奪う、
それが走塁！
自分は日本代表だ
これが日本代表の走塁だ
満ち満ちてくる自信！
彼は今サードベースに立っていた
彼は打者走者だった
ライナーで右中間を割り、快足を飛ばし、
一気に三塁を落とし入れたのだ
スリーベースヒット！
打つだけでもない 走るだけでもない
「打」と「走」の融合！
それが長打スリーベースヒットを生むのだ！
日本全国で野球ファンが
テレビを見ながら大拍手していた
「これだよ、これ！」
「打つだけで勝てるほど国際大会は甘くはない！
」
「打撃に積極的な走塁が加わってこそ、点が取れる！」
野球通を唸らせる
日本代表選手の豪快な走塁
彼はものの見事にサードを奪った！
それは次打者や、日本ベンチをも
勇気づける走塁だった
野球国際大会
打つだけじゃ出られない
厳しさを増した代表選考！
打つだけでなく走れる選手をベンチは求め、
代表に選んでいた
国際大会で日本代表が巧みな走塁で野球ファンの度肝を抜く！
日本代表の攻撃は続く！
状況は１アウトランナーサードとなった！
ここで打者が外野フライを打てば
ランナーはタッチアップからの本塁突入となる！
「よし、もう一丁行くぞ！」
サードランナーとなった彼が
今一度気合を入れ直した
打者が外野フライを打った！
フライはレフトに上がり、彼がタッチアップの体勢を取る
そして猛然とスタート！
外野手の捕球と同時にスタートを切ったサードランナー！
それは猛牛の突進を彷彿とさせる、
力感あふれる走塁だった
ウェイトのある彼がまっすぐにホームに向かっていく！
コリジョン・ルールができ、
ホームベース上でのランナーとプロテクターを着けた
キャッチャーとの激突はなくなった
安全に本塁に突入できる今、
その分走者は本塁突入の速度を増していた
日本代表選手が全力で堂々、本塁に突入していく！
野球選手の全力疾走！
レフトからの返球が背後からどんどん近づいてくる！
彼は返球がわずかに三塁よりにそれたのを見逃さなかった！
「ＧＯ！」
彼がホームベース一塁よりをめがけ、足からの力強い
フットスライディングを敢行する！
「ダーッ！」
それは白いホームベースの一角をよぎる正確なスライディングだった！
彼は本塁ベースタッチとほとんど同時にキャッチャーからの
タッチを受けたが、ここでも彼は「セーフ！」を勝ち取った！
「やったあ！」
スタンド、日本ベンチ、そしてお茶の間から沸き起こる大歓声と拍手！
日本代表、中盤での１点勝ち越し！
激走、返球に勝つ！
日本代表、好走塁連発！
まだこれからも激闘は続く！
この試合も次の試合もだ！
日本代表は選手とベンチが一丸となって対戦国に向かっていく！
