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一期一会の音楽家たち~ハンス・スワロフスキー

2019-03-23 16:32:14 | N響・ザ・レジェンド
「一期一会の音楽家たち~ハンス・スワロフスキー」 (2018年3月17日放送)


「フィルハーモニー」1973年11月号より

ベートーヴェン/交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
1973年10月17日 NHKホール


ハンス・スワロフスキー(1899~1975)が永眠した際、NHKFM「NHKシンフォニーホール」で氏を偲び、このベートーヴェン「英雄」が放送された。

番組では、スワロフスキーに指揮を学んだ大町陽一郎の話があった。

私が教授に習うためにウィーンに向けて出発したのは、昭和29年だったのですが、その時の入学願書の希望する教授には、主任教授がクレメンス・クラウスだったので、クレメンス・クラウスと書いた記憶があります。ところが、実際にアカデミーに着いてみたら、クレメンス・クラウスはメキシコで亡くなったということで、クレメンス・クラウスの助手だったスワロフスキー教授が今度正式な主任教授になったということで、先生には最初入学試験の時に初めて会ったわけですが、何か非常におっかない先生だという印象がありました。
先生の指揮法の授業というのは、非常にしゃべられることが多く、実際に腕を上げたり下ろしたりという、いわゆる棒の振り方はあまりなく、専ら理論から来る指揮法という感じの教え方でした。この指揮法の理論がただの机上論ではなくて、深い先生の体験から出ているものだということは、実によくわかりました。
私はウィーンは音楽の伝統の街だから、そこの音楽学校の先生というのはそういった伝統を非常によく教えてくれるのではないかという期待を持っていったわけですが、何しろレッスンが始まるとフルトヴェングラーの悪口が次から次へと出てきて、「ああいうディレッタント的な指揮は一番いけないのだ」と言うことをおっしゃるので、我々はキョトンとした記憶があります。何しろその頃はまだフルトヴェングラーが生きていて、盛んに活躍していたころですから、ずいぶん面白い先生がいるなあっていうのが私の第一印象でした。
先生は音楽院の指揮科の主任教授として活躍する一方、英国などに演奏旅行に行かれてましたし、後になってわかったのですが、オペラ劇場に入ってみたら先生の訳されたイタリアオペラのドイツ語訳が実に多いというのに気がついたんです、そういえば我々の学生仲間で、イタリア人がいると先生はいつもイタリア語で話しかけられていたのを思い出します。
先生はいつも自分の理論をオーケストラで実験しようと思っていたのですが、ウィーンは非常に習慣から来る伝統が強くてどうしてもそれができず、よく私に「これはウィーンではどうしてもできないのだ。だから日本に行ったらやりなさい、日本人だったらこういったくだらない伝統といったものはないから。」とよく言われてました。

(演奏後)
大変ユニークなエロイカシンフォニーでした。エロイカシンフォニーといえばたいてい50分かかるということに我々の間ではなっているのですが、今回のは45分とちょっと、フルトヴェングラーのエロイカは52分かかるそうですから、フルトヴェングラーの解釈とスワロフスキー教授の解釈とでは約6,7分の差があるということになります。
昔、私が先生に習っていた時に「ベートーヴェンのシンフォニーっていうのは、非常に遅く演奏されることが多い」と、常に口癖で言ってらしたのを思い出します。例えばこの第2楽章の葬送行進曲ですが、ベートーヴェンはこれにアダージョ・アッサイと書いてありますが、この第2楽章の演奏を聴いていると、いかにも先生が「ベートーヴェンのアダージョっていうのは、ゆっくりしたもんじゃないぞ。」ということを遺言のように我々に語りかけているようでなりません。
先生の冥福を謹んでお祈りしたいと思います。

「斜めから見たマエストロたち」(長谷恭男著:同成社刊)にも「英雄」のリハーサルの時のエピソードが載っている。

 「君たちは遅すぎる」
 天下のスワロフスキー。名指揮者たちの、その又、先生とあって、N響の楽員は緊張して練習所で待ち構えていた。最初の曲は「エロイカ」。ジャン---暫くジャン。あれれ、と思う中に第一楽章はゆっくり進行。マエストロは必死になってオーケストラについて行く形。テンポは益々おそくなり再現部が始まるころは、完全にスロー・ワルツになってしまった。どうなることかと思っていると、流石のマエストロも棒を止めて、曰く「君達は遅すぎる」。楽員一回ダアーッとなった。遅いのは指揮棒なのである。
 その時、ベテランのヴィオラ首席奥邦夫氏が立ち上って「いつものテンポでやろう。偉い先生なんだから」コンサートマスター田中千香士氏は「じゃ、僕について来て下さい」と云って初めから再開。今度は快速のテンポになった。マエスト口は汗を拭き拭きついて来て、曰く「結構。そのテンポだ。」


テレビ放映からの記憶だが、管は倍管、1番フルートは小出信也氏。1番オーボエは丸山盛三氏。トランペットは祖堅方正氏と来馬賢氏。1番ホルンは音色からして安原正幸氏と思われる。
また、1楽章コーダのトランペットを楽譜通りに演奏したのは当時としては大変珍しい。

モーツァルト/2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365
ピアノ:パウル・バドゥラ・スコダ
ピアノ:イェルク・デムス
1973年10月11日 NHKホール


「フィルハーモニー」1973年11月号より

Vn.Ⅰ 田中千香士 ?
Vn.Ⅱ 堀伝 竹内久文
Vla. 奥邦夫 嶋田英康
Vc. 小野崎純 ?
Cb. 窪田基 中博昭
Ob. 浜道晁 小島葉子
Fg. 菅原眸 山畑馨
Hr. 安原正幸 田村宏

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