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続編2 三島由紀夫 「命売ります」 改変(悪)大幅短縮版

  改変(悪)大幅短縮版です。興味を持った方はぜひ文庫本を読んでください。

  ふたつの国が絡む命がけの仕事(割愛)が終わった後、羽仁男は中休みしようと考え、目的地も定めず引っ越すことにした。
  あてずっぽうに世田谷に来た羽仁男は、周旋屋と貸間を借りる相談をしていると、なんだか足もとがしっかりしていないスラックス姿のヘンな女がやってきた。女は周旋屋に部屋を貸す人探しを任せているが、部屋を借りる人がなかなか見つからず周旋屋ともめているようだ。(実は女は麻薬漬け)
  羽仁男は玲子というその女の部屋を借りることにした。周旋屋が彼女に説明すると、
 「私、いいわ。永いこと探していた人がみつかったわ」
  玲子の家は、木深い庭のある静かな家だった。

  羽仁男は簡素なアパートで、「命売ります」の商売をはじめて成功したあげく、贅沢な中休みの場所を探していたのだが、ここはまことにそれにふさわしく、低い天井からして、何か壮麗な墓のような印象がこの部屋にはあった。
 「僕はこの部屋で、しばらく心身の疲労を休めたいと思うんですよ」
 「人生に疲れた、生きることに疲れた、なんて平凡なことじゃないでしょう。あんたは、わかってるわ、あんたは死ぬことに疲れたんだ」

 「私、あなたに会えるのをずっと待ってたの。手紙も出したことあるわ。
  きっとあなたが家へ来るようになると思っていたの。やっぱり、あなた、あの人にちがいないわ。新聞に、へんな広告を出した人。『命売ります』って。そうでしょう?」
 「へえ、それでどうして、新聞広告を出した男が僕だって、はじめて会った時にわかったんですか」
 「写真をもっていたからよ」
 「僕の写真を? 誰からもらったの?」
  玲子はそれに答えなかった。いつのまにか、撮られた自分の写真が流布していることはたしからしかった。
  その後、玲子の父親が羽仁男と二人だけになった時話してくれた。玲子はかつて縁談があり、玲子も大変乗り気になった相手だったが、突然先方から断ってきました。玲子は自分が断られた理由をおしゃべりな仲人からきいてしまったのです。
  相手は、二十年前に私が船長の激務の過労でノイローゼになり精神病院に入院した事実をしらべ出し、船長商売のことだし、梅毒にちがいあるまい、入院前年に生まれた玲子は、先天性梅毒に犯されているにちがいない、とあらぬ疑いをかけてきたのです。

  これから玲子の性格は一変してしまいました。
  酒は飲む。煙草は吸う。あんな話は先方のつまらぬ空想だ。血液検査をすればわかることだし、父子で病院へ行って、先生からよく説明してもらおう、と言ってもききません。『私は今にきっと精神異常になる、それまでの命だから、結婚なんかしないし、まして子供なんか生んでやらない』と、あの子が一旦言い出したら、それこそ梃子でも動きません。

  羽仁男は玲子と夫婦のような生活を始めたが、このような生活が嫌で、自殺を考えたことのある自分には嫌悪でしかなかった。羽仁男は、自分がまたいつか、「命を売りだす」にちがいないと思った。
  ある夜玲子が言った。
 「寝酒を上がらない?」
 「いいね、チェリー・へリングがあったね」
  玲子は、銀盆に黒紅色の酒を満たしたグラスをのせてかえってきた。
 「乾杯」
  二人はグラスをとりあげて、ふちをカチ合わせると、唇へもって行った。
  そのとき、玲子の手が心もちふるえているのを見咎めた羽仁男は、玲子のグラスを奪い取って、銀盆の上へぶちまけた。銀盆がサアッと真黒に変色した。羽仁男のグラスも同じだった。
 「どうしてこんなことをするんだ」と羽仁男は怒鳴った。
 「だって、今一緒に死ぬのが一番幸せだと思ったからよ」と玲子は泣き出した。
 「俺の命は俺のものだよ。俺の意志で俺の命を売る分には、ちゃんと覚悟して売ってるつもりだ。しらない間に一服盛られるのなんかマッピラ御免だ」

  羽仁男は彼女の提供する飲食物に警戒心を働かさなければならなくなり、玲子も羽仁男の逃走を厳しく警戒しはじめた。
  羽仁男は、しばらく警戒しながら生活し、チャンスを掴んで逃走することに成功した。
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