goo blog サービス終了のお知らせ 

gooブログのテーマ探し!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

高樹のぶ子氏著作「業平」について感じたこと

2021-08-23 09:11:57 | 本の書評など
  著者高樹のぶ子氏が「業平」の上梓理由を説明した記事によると、著作「業平」は、「伊勢物語」をそのまま現代語訳にしたものではなく、あくまでも業平の人生を時系列で追って改変された小説であるという。
  これまで誰もやっていないことだと著者が自負されていて、新しい試みに興味を感じて本作品を読んでみた。ただし、約百年後に書かれた「源氏物語」を時代背景の参考にされたらしいので、本来の「伊勢物語」にかなり脚色されているかもしれない。
  作品の読書感は、時系列の流れを整理された努力は上手く成功しており、各々の歌の意味もさり気ない理解し易い表現手法の解説が歌の後ろにさらりと違和感なく馴染んでいる気がする。

  参考に、著者によると今に残る「伊勢物語」の百二十五段を前から順番に読んでいっても、時間軸は通っていないし、あっちこっちへ話が飛んでいて、業平の歌は分かるが、業平の人生のどういう時に詠まれたのかも分からないそうである。著者は小説にするにあたって、「伊勢物語」の百二十五段の順番を大幅に並べ替え、誰が詠んだのかが判然としない歌の作者の特定から始め、業平の人生を通してみていって、その中に間違いなく業平が詠んだ歌を入れ込んでいき物語にしていったが、その作業はそれはそれは大変な作業だったと振り返っている。
  「源氏物語」のどの部分をどのように参考にされたのかは詳しい解説がなかった。

イギリスの黒歴史にも注目 「英国の闇チャーチル」

2021-05-18 09:45:02 | 本の書評など
  イギリスの良いところだけ書いてきましたが、ご存知のとおり、イギリスは現在世界中の国家間トラブルになっているいくつもの大きな問題の根本原因を作った国でもあります。イギリスを見る目が偏らないように、ここではその一例を紹介します。渡辺惣樹氏の著作「英国の闇チャーチル」です。
  前に投稿しました「マナーハウスとパブの文化」の中にもありましたが、「イギリス人の男女にとってスポーツである不倫が、長い間にわたって人々にとって主な活動」の事例にもなっています。

― 概要 ー
  著者は、チャーチルの人となりを描きだすためにチャーチル一族の歴史から説明を始める。また、チャーチルは「十九世紀末から二十世紀初頭の英国文化の中から生まれた申し子(モンスター)」であった。そのため必然的に当時の社会の諸相も明らかにする必要があったとし、本書を通じて一般的に「紳士の国」としてイメージされている英国の真の姿を理解できるようにした。これによって多くの読者はこれまで抱いていた英国のイメージとの間に相当な乖離があることに驚かれることであろうという著者の「はじめに」の説明は納得できるものであった。
  当時の知識人に大きなインパクトを与えた歴史書に「英国膨張史」があり、この書の特徴はイギリス興隆の理由をその民族(English race)の優秀性と卓越した政体に求めている点にあった。

  実は、チャーチルは「マールボロ家(公爵)」の家系の人だが、父親が第7代マールボロ公の長男ではなかったので、マールボロ家を引き継ぐことはできなかった。それでもチャーチルは貴族の家系の優位さが目立つ生活をしていた。爵位はないが貴族であり、普通の「一般人」ではない。
  当時の英国貴族の縁組は家同士の契約であり、自由恋愛による結婚はほとんどなかった。妻となった夫人の義務は世継ぎを生むことだった。その義務を果たし終えた女性は夫を愛していればそれでよいが、そうでなければ密かに愛せる男を求めた。そうした行為は不貞ではあったが、よくあることだった。英国の社交界では不貞関係の詮索がお楽しみの一つでもあった。
  
  チャーチルの父親は、イギリスの荒っぽい性格の象徴であった。彼には目上にしっかりと仕えるという「精神力」に欠けていた。 その彼が、チャーチルの学校での不良ぶりを嘆き、士官学校に合格が決まってからも厳しい態度をとった。父親は、1893年10月、士官学校に入学したばかりのチャーチルをロスチャイルド家の総帥ナサニエル・ロスチャイルド卿に紹介し、チャーチルとユダヤ系有力者との関係が始まった。父親自身は梅毒に感染してからチャーチルの母親との性交渉をやめている。
  そして、チャーチルの母親は米国ニューヨークの上流社会出身だが主流のニッカーボッカー系ではなかった。彼女は大勢の男性と付き合い、男なしで生きられる女ではなかった。情事が終わってもそれぞれの男性との「友情」は残り、大勢の「友情」で繋がった男性たちに、チャーチルの活動のいろいろな場面・状況に応じて援助を依頼し、チャーチルの出世・昇進に協力していた。

  若いときのチャーチルの本音は、軍への帰属心(忠誠心)などはなく、「とにかく戦いの現場にでること、そうすれば軍功を立てるチャンスに巡り会え、政治家への道が開ける」という「勲章だけが狙いの男(メダルハンター)」であった。

  第一次世界大戦は、反独の英国(チャーチルが主体)が、オーストリアとセルビアの間で生じたフェルディナンド暗殺事件を利用し、ドイツを悪役に仕立てて、世界市場で競合するヨーロッパ大陸諸国を破壊するタイミングを計って起こしたものだった。

参考:渡辺惣樹氏「英国の闇チャーチル」

カズオ・イシグロ 「クララとお日さま」 ケルト神話の太陽神ベルヌスが正体か?

2021-05-13 16:59:05 | 本の書評など
  前作「忘れられた巨人」はケルト神話を取り入れた「ファンタジー」ジャンルへの初挑戦でした。

  「クララとお日さま」も、どうやらケルト神話を取り入れ、太陽神ベルヌスのイメージと、近い未来の「人間への何かしらの知能改良施術」、「知性と人間との共生能力に優れたアンドロイド」、「太陽光利用の永久機関」、「太陽神のファンタジーな力」などを物語に仕上げたもののようです。
  「アンドロイド」は、それでも機械なので、旧式になると一緒に過ごした人たちに捨てられますが、「永久機関」で動いているのでゴミ捨て場でじっとして意識(?)を持ち続ける悲劇的な末路をたどることになります。
 この辺りが人間への警告のようです。

  ケルト神話におけるベレヌス (Belenus) は、光・火・「治癒」をつかさどる太陽神。その名は「輝くもの」の意。妻はベリサマで、湖・川・炎や工芸品をつかさどる神。

以下は、
サイト:識(し)るケルト から引用
  ケルトは古代より口承で独自の自然信仰や神話を語り継いできました。それが文字となって書き残されるのは中世に入ってからですが、キリスト教以前の、ギリシア神話とも異なる神話はその後のヨーロッパの様々な逸話に多大な影響を与え続けています。
  その幻想的でロマン溢れる世界観は、特にファンタジーの分野で途切れることなく創作者のインスピレーションを掻き立て続けており、有名な「アーサー王物語」をはじめ、現代になってからもJ・R・R・トールキンの「指輪物語」、J・K・ローリングの「ハリー・ポッター」、さらには日本のゲーム作品「ファイナル・ファンタジー」や「ドラゴン・クエスト」シリーズから近年の「Fate/Grand Order」(以下FGO)に至るまで様々なジャンルの作品に取り入れられ、今も人々のイマジネーションの源泉となっています。新書、1995年。ISBN 4-12-101254-2。

カズオ・イシグロ著作「クララとお日さま」の「お日さま」の役割を調べてみる

2021-05-12 18:40:24 | 本の書評など
  カズオ・イシグロ著作「クララとお日さま」の「お日さま」の役割がいまいちはっきりしませんので、イギリスの天気と国民性を調べてみることにしました。まだ調査途中です。何を調べれば良いのやら・・・

―― 引用 ――
 会話はまず、天気から

  天気・・・・イギリス人はいつも天気を気にしている。天気はイギリス人にとって会話の最大の武器だ。”イングリッシュ・ウェザー”(イギリスの天候)は、イギリスに独特なものだ。年がら年中、天気のことばかり話している。
  初夏にロンドンの郊外に住むイギリスの友人の屋敷に招かれたところ、例によって会話が、このような天候談義から始まった。
 「いやあ、春も終わるころに霜が降りたので、せっかくの花がやられてしまったよ」
  この友人は代々、ロンドンの鉱物取引所の仲買人をつとめてきたが、園芸と犬と馬を好んでいる典型的なイギリス人だ。園芸はイギリスの”ナショナル・スポーツ”の一つだといわれている。
  すると、夫人が慈善団体のパーティのために、村のどこかで「ティ・テント」を張ったのに、突然、にわか雨が降ったので台無しになった、と眉をひそめた。「ティ・テント」は、紅茶と軽食をだす天幕のことだ。

  イギリス人が天気の話をする場合は、このように苦情と決まっている。天気はいつも寒すぎるか暑すぎる。しかし、心の底では喜んでいるようだ。はにかみ屋だから、会話に取りかかるのにふさわしい話題がほかにないので、天気が格好の材料となるのを喜んでいるのだ。それに天気について話しているあいだに、相手を値踏みすることができる(投稿者注:イギリスは貴族社会であり、女王を頂点として、発声や発音、抑揚や語彙による言葉のピラミッドが存在している)。

  会話は不文律のように、かならず天気から入っていく。イギリスは地理的な条件から、天気が変化に富んでいる。私は天気の話になるたびに、イギリスにいるのだという実感が沸く。そういえば日本人もよく天気を話題にするから、こんなところも日本人に似ている。そのつぎに、イギリス人がいつも気にかけているのが、クラスー―階級だといわれる。

 以上、加藤英明氏著作「イギリス 衰亡しない伝統国家」からの抜粋引用です。加藤英明氏は「ブリタニカ国際大百科事典」初代編集長です。

カズオ・イシグロ 「クララとお日さま」最終 レビュー

2021-05-11 16:01:31 | 本の書評など
  読書途中にも書きましたが、作品の雰囲気は「わたしを離さないで」に似ています。例えば、複数のキーワードを説明のないまま、物語がずんずん先へ進んでいき、読者に不安を抱かせ続ける手法です。
  この作品は、読みながら、登場人物とそれぞれの人物の過去から現在までの繋がり、感情関係を簡単にメモ書きしながら読むようにしますと、少しは不安が解消されるかもしれません。
  しかし、ほとんどのキーワードの意味はかなり後半になるまでわかりません。そして「お日さま」の役割はファンタジー(宗教的?)が過ぎて、結局よくわかりません。

  同じ翻訳者のカズオ・イシグロ「日の名残り」という作品は、ほとんどの日本人とは縁がなさそうなイギリス貴族階級の執事が主人公の、上流階級の上品な表現を徹底した物語でしたが、それでも普通の日本人にも物語にすんなり入り込めるストーリ仕立てで、楽に読むことができた気がします。